ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第四十六話 狂瀾を既倒に廻らす

放たれた凶弾は運命を狂わせる――――――

ジブリールは何故自分の視界が歪み重力に惹かれるように落ちていくのか理解できなかった。地面にぶつかる自分の姿と周りに溢れていく赤い液体―――血が自分の服を染め上げる。音に驚いて飛び跳ね距離を取っていたジブリールの猫が近づき、顔を覗き込んだ所でジブリールは息絶えることとなった。

 

「流石に慣れないようなことをするものではないな……」

 

ジブリールを撃ち殺した張本人であるブルーノ・アズラエルはそう呟く。単純な話、彼がこのような凶行に出たのは例の諜報部に唆されたからだ。ジブリールは自分を駒として使い捨てる気だと。だからこそ、彼の持つ情報を得たなら始末をするべきだと。事実、ジブリールは彼を駒として見ていた為にその判断は間違っていないとは言えない。

そして結果、実に彼は良いように踊らされた。護衛の人間をジブリール側ではない人間にし、オーブに来てから策を施したりと、彼の行動は以前の彼を知っている人がいたなら、まるで別人のようだと思える程に積極的に動いていた。

 

「それで、NダガーN隊は用意が完了したのだな?」

 

そう尋ねるアズラエルに護衛の兵士は首を縦に振る。

 

「よし、シャトルに乗り込むぞ。早い所脱出せねばオーブが先に落ちてしまう。そうなっては我々には逃げ場はないのだからな」

 

そう言ってアズラエルはジブリールの遺体とその猫を放置したままシャトルへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

『クッ、これほどのパイロットだとは……!』

 

キサカは目の前で相対する敵に思わずうなり声を上げてしまう。敵の改造されている薄紫のゲルググは、こちらの最新鋭機であるリゼルを持ってしてもまともに戦うには厳しい相手だった。まるでこちらの動きを読んでいるかのように動き、そして攻撃を確実に当ててくる。正直言って成すすべがないとすら思えた。

 

「フッ、これで終わりだナチュラル」

 

ナギナタによって腕を切り裂かれ、距離を取った際にビームバズーカを正面に構えられる。完全に躱すことが出来るような位置ではない―――詰みだ。

 

『カガリ―――すまん。どうやら先に逝くことになるようだ……』

 

キサカは最後まで諦める気はなかったが、最早無理だろうとも思っていた。それほどまでに明確な実力差が見て取れる。そうしてビームバズーカが放たれようとした直前、ゲルググは突然構えを解き、後ろに下がった。そして、それと同時に横合いからビームがすり抜ける。

 

「来るとは思っていた……正直、そんな感覚に頼るのは自分でもナンセンスだとは思うがなァッ!」

 

放たれる直前だったビームバズーカをビームが襲ってきた方向に向けて撃つ。その先に居たのは―――

 

『誰も討たせない―――それが、僕の覚悟だから!』

 

「フリーダムッ!!」

 

目の前に居たのは碧い機体。その蒼天の翼と白の象徴。明らかに機体の様相は変わっているが、それはフリーダムそのものだった。フリーダムはマーレの放ったバズーカをビームシールドを展開することで防ぎ、その姿を露わにする。

 

『キサカさん、下がってください!ここは僕が―――』

 

『すまない。助かったぞ!』

 

「あの時の屈辱、そして貴様に討たれた仲間の仇―――いつだって貴様はそうやって余裕を見せる!貴様は自分が上だといつも驕っている!神にでもなったつもりだという気か!」

 

フリーダムの登場。この場において彼らが現れることに不思議などない。かつてのフリーダムそのものが現れれば、彼らを社会的に追い詰めることが出来ただろう。だが、様相の違う機体に乗っていれば、それを追求しようともいくらでも言い逃れができる。故に奴は来たのだ。そう、来ると確信していた。

 

「だからこそ、俺が相手してやる―――来なッ」

 

パイロットのキラにその言葉は届かないだろうが、その意思は態度で理解できる。キラの新たな剣―――ストライクフリーダムはマーレのゲルググを撃墜する為に攻撃を開始した。

二挺のビームライフルによって連続して放たれる攻撃。無論、マーレはその攻撃を受けることなどない。スラスターを利用し、躱し、時には反撃する。その反撃も当然フリーダムに防がれるが、お互いにその攻撃は拮抗している様には見えた。

 

『当たれェ―――!!』

 

マルチロックオンシステムを作動し、一気にマーレだけでなく周りのザフトの機体を撃ち落とす。

 

「チッ、始めから俺は眼中にないってか?舐めてるんじゃねえぞッ!」

 

総ての弾丸を回避したマーレはストライクフリーダムの軌道を読んでビームバズーカを命中させる。キラはそれをビームシールドで防ぐが相手の予想以上の実力に思わず意識を割かざる得ない。

 

『このパイロット―――!』

 

前回よりも明らかに動きが良い。いや、そうではない。確実にマーレがフリーダムの動きを読んでいるのだ。

 

『一体、何なんだ!?』

 

NT―――SEEDとはまた別の因子による世界の革新者。彼―――マーレは既にその一端に最も早く触れている人間の一人だ。空間認識能力の高さ、先読みとすら思える機動、そして他者の意思の把握。あらゆる面での覚醒が存在する。だが、一端に触れただけでしかないマーレはそれを戦闘技術に生かすことは出来ても、それ以上の何かを成し遂げる事も、そもそもその気もない。第一、NT論などといった新人類としての可能性の示唆すら(ジョージ・グレンのコーディネーターの存在意義の際に説いた話を除いて)一般ではされていないのだから。

 

「まだだッ!」

 

フリーダムはレール砲を放ち、ゲルググはシールドによってそれを防ぐが、その衝撃を殺しきることは出来ず、吹き飛ばされる。だが、追撃を行わんとしたフリーダムに向かって体勢が崩れる直前にミサイルを放つことで、その追撃を抑え込む。

一見すればお互いに良い勝負をしていると言ってもいい。だが、実際にはキラは彼の相手をしながら他のザフト兵に対して牽制を怠らない。しかし、マーレにはその余裕はない。

 

「性能差が……ここまであるなんざッ…聞いてねえぞッ!!」

 

性能で見ればセカンドシリーズにも劣らないであろう機体であるマーレのカスタマイズされたゲルググをもってしても、今のキラの乗るフリーダムを相手にするには届かない。

こちらが攻撃を当ててもPS装甲系統やビームシールドであっさりと防がれる。しかし、こちらの防御手段は片手に持っている実体シールド一つであり、攻撃を受ければ受けるほど脆く削られていく。ライフルを腰に付け直したフリーダムはその腰の部分に差し込まれていたビームサーベルを二本抜出、そのまま二刀流で斬りかかって来る。

 

「それで見かけ倒しじゃないってのが……クソッ!?」

 

片方の持ち手を反対にしているビームサーベルの明らかに格好良さを重視したかのような構えでありながら、全く動きに隙は無い。早い話がその構えで十全の戦い方を行っているのだ。ゲルググのナギナタも十分実用性はないという輩もいようがアレは自分で片刃、両刃を決めれる分、自分であの構えをしているフリーダムに比べればまだましだ。

ともかく、相手の攻撃を防ぐ手段は左側のシールドと構えていない対ビームコーティングがされているヒート・ランス位である。ともかく一瞬でも早くヒート・ランスを取り出す為にナギナタを展開したままフリーダムに投げつける。そのまま捨てても同じなら時間を稼ぐ手段として投げつけたのだ。流石にビームブーメランのようにやって来るナギナタをフリーダムは受けるわけにもいかず、しかしながらビームが展開していない持ち手の部分を狙ってサーベルで弾く(ナギナタは持ち手も対ビームコーティングが成されているため斬るではなく弾く事になる)のは相当の反射神経をしている。

本当に僅かな時間しか稼ぐことは出来なかったがヒート・ランスを取り出すには十分だった。多少大きいせいで取り回しは面倒だが、フリーダムのPS装甲すらも容易く貫いた武装である。その威力は目の前にいるフリーダムのパイロット本人も分かっていることだろう。

 

『今度は、やらせない!』

 

「舐めるなッ!」

 

シールドとビームサーベルがぶつかり、ヒート・ランスで貫こうとするのをビームサーベルで受け流すように弾く。ゲルググが蹴りを入れようとするが、それを後ろに下がってフリーダムは躱し、カリドゥス複相ビーム砲がゲルググを狙う。だが、マーレはそれを読んでいたかのごとくビームキャノンを構えてほぼ同時に放った。

お互いにすれ違うビームの射線―――フリーダムは翼の一部が熔解し、ゲルググは後ろにマウントしていたビームバズーカを貫かれる。

 

『「グッ!?」』

 

互いに吹き飛ばされ、同時に衝撃から体勢を立て直す。しかし、追撃はフリーダムの方が一瞬早い。いかにマーレが優れたパイロットであろうとも、サードシリーズといっても過言ではないフリーダムとセカンドシリーズと同等レベルのゲルググでは性能差があり過ぎる。技量では現状五分程度―――しかし、だからこそ機体の性能が勝敗を顕著に分ける。

 

『これでッ―――!』

 

ビームサーベルが左腕を切り裂く。ヒート・ランスを器用に回して追撃を防御するが、このままでは落とされる。そう思った瞬間―――

 

『―――横からッ!?』

 

ほぼ密着していた状態で動き回っていた二機に、横から正確にフリーダムのみを狙ってビームが飛んでくる。一体誰が?そう思って横に居た先に居たのは黒のMS。クラウ・ハーケンの搭乗機、リゲルグだった。

 

「クラウか―――助かった。だが技術者がエース対決に割り込む気か?」

 

笑って助けられたことに礼を言うマーレ。そして、この戦いに割り込むのかと冗談めかして言ってみる。

 

『いや、そろそろ主張しないと忘れちゃいそうじゃない、君ら?俺の実力をさ』

 

忘れてたなんて言わない。そういえば機体の操作に関して異常に巧い使い方をしていたな、なんて言うはずが無かろう。クラウはリゲルグの機動力を生かしてフリーダムに真っ向からぶつかる。リゲルグは一応ではあるもののストライクフリーダムと同世代機だ。デスティニーやレジェンドと同等の機体。そういった面で見ればフリーダムとリゲルグは五分の性能を保持していた。

 

『さあ、始めようじゃない。狂想曲(capriccio)ってやつをさ!』

 

 

 

 

 

 

宇宙から降り立ったポッドから三機の機体が現れる。ザフトとオーブの両軍には既に未確認(Unknown)のMSが現れているという情報は聞いていた為、彼らは警戒を強める。

 

『ふう、やはりうっとうしいな。地球の重力は―――』

 

『やれやれ、こいつは地上で使っておいて宇宙じゃ乗り換える予定だとか、余裕あるなウチは』

 

『逆だろ―――ウチにはパイロットに余裕がないんだ』

 

『ごちゃごちゃとおしゃべりしてる暇はないんだ。行くよ、野郎ども!ラクス様の為に!』

 

その三機はドム・トルーパーだった。一瞬、そのMSの系統から誰もがザフトの増援かと思ってしまう。しかし、それならば何故降りてきた降下ポッドは一つしかないのだ?

その答えは簡単だ。彼らという存在はザフトの戦力ではく、オーブを手助けするために少数の意志で介入してきた存在なのだから。

 

『『『ジェットストリームアタック!!』』』

 

三機のドムがホバリング移動をする。クライン派の手によって強奪した設計図から三機をファクトリーで生産した特注品。ゲルググの現物も存在していたが、開発途中で取りやめるのもどうかという結果となり、パイロットが足りていないことから、設計上地上での方が性能を発揮するドムを地上用へと、そして奪取した三機のゲルググを宇宙用に用意させていた。

 

『クッ、敵だったか!』

 

『迎撃しろ!!』

 

『オーブとは関係ないのか!ロゴスの強奪機なんじゃあないのか!?』

 

やや楽観的な方向へと予想していたザフト兵はすぐさま迎撃に取り掛かる。スラッシュザクファントムのガトリングビーム砲とゲルググF型がビームマシンガンがドムに襲い掛かるが、縦列に並びスクリーミングニンバスを展開したドムにはその攻撃が届かず、それに驚き動きが止まった一瞬を狙われ撃たれ、切り裂かれる。

 

『オラオラ、邪魔だよ!死にたくなかったら退きな!』

 

『そう言うんなら脚を撃つなよ』

 

「全くだな、貴様ら!」

 

突如、通信に割り込むと同時に上からミサイルが降ってくる。

 

『散開!』

 

それぞれ別方向に別れる三機。そして先程までいた位置にミサイルとビームが放たれていた。

 

『おやおや、奴さん―――かなりの手練れみたいですぜ』

 

空中でミサイルを放ったのはアレックのガルバルディαだ。彼のその白い機体とドムの黒い塗装はまるで喜悲劇における善悪の区別を付けるかのような色合いである。勿論、善悪がはっきりと別れるような事は現実でそうそうあるはずもなく、ただの色合いに過ぎないのだが。

 

「三機で戦うという事は文句は言わんが、いたずらに味方を撃たれるのを黙ってい見ているわけにはいかないのでな。何より、倒した後の敵を嬲り倒すようなその戦い方は気に入らん!」

 

『だったらどうしようってんだい?』

 

「貴様等はここで倒させてもらおう!」

 

そうしてオーブの海岸線でも一つの戦いが巻き起こる。

 




タイトルの諺は悪くなった状況を元通りに戻すって意味です。悪くなった状況にオーブが当てはまるのか、ザフトのエース組の不利な状況なのか、それともここの所すっかり残念キャラに定着しつつあるクラウの事なのか?まあどれが当てはまっているかについては想像にお任せします。

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