ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第四十九話 時間との戦い

シャトルでアズラエルが脱出している最中、イライジャはシンのデスティニーに突撃を仕掛けて零距離斉射を行った。巻き起こる爆発。イライジャは自機が落ちていく中で意識を失いつつも、一矢報いたことで不敵に笑う。

 

『流石に…劾みたいに巧くはいかないな……』

 

しかし、デスティニーも無傷とは言い難かったが、致命的というほどのダメージを受けたわけではなかった。元々、VPS装甲のデスティニーにストライクルージュのI.W.S.P.は相性が悪かったことも原因の一つだ。だが、逆に言えば、今イライジャが生きているのもストライクルージュに施されたPS装甲のおかげでもあった。仮にビーム兵器が大半を占めていたならデスティニーを撃破出来たとしても、同時にイライジャの乗るストライクルージュも爆発していたことだろう。

尤も、ビーム兵器だった場合、シンのデスティニーはまず接近すら許さなかっただろうが。

 

『そんな……何でッ!』

 

傭兵が行った無謀な行動に思わずシンは敵でありながら、疑念を投げかける。傭兵なんて、自分自身の為に戦争を利用して金を稼ぐような、シンにとってはロゴスと同じように憎むべきような対象だ。

 

(その力を手にしたときから、今度は自分が誰かを泣かせるものとなる。それを忘れるな―――)

 

前にアスランが言ったその言葉が思い出される。違う、でも俺は間違ったことをしたわけじゃない。そう思っても、目の前で自殺行為に近い行動を取ってでも止めようとした敵を見るとその言葉を思い出してしまう。

 

「クッ、イライジャ!!」

 

劾のジャスティスがイライジャを救う為に突破を図る。レジェンドもシンが攻撃を受けたことでそちらに意識が割かれており、レイはジャスティスを捉えていた射線からの突破を許してしまう。

 

『ッ、逃がすか!』

 

レイがレジェンドのドラグーンの角度を調節し、脱出しようとしている劾に狙いを定める。だが、劾はシールドを投げつけることによってレジェンドの行動を一瞬遅らせ、そのまま重力に従うように下に落下していきながらイライジャのストライクルージュを掴んだ。

 

『やってくれる……だが、その状態では回避しきれまい!』

 

『―――レイッ!』

 

レイがレジェンドの一斉射撃で止めを刺そうとしたとき、後ろから迫ってきたものをシンが見つけ、警告した。

 

『グッ―――!何だッ!?』

 

シンの警告を受け、本能的にビームシールドを展開しながら咄嗟に機体を動かすレイ。その瞬間、レジェンドに向かって衝突してきたのはジャスティスのリフターだった。

 

『馬鹿なッ!今更何故!?』

 

リフターは先程ストライクルージュを援護するために外した筈だと、そう思っていた。しかし、リフターは遠隔操作が可能であり、外したとはいえこの場に戻すことは可能であった。だが、下手に戻そうとすれば、レジェンドやデスティニーによってリフターが撃ち落とされただろうと思い、だからこそ隙を見せたこの一瞬しかないと、そう判断して呼び寄せたのだ。

そうしてレジェンドの動きはリフターによって遮られ、シンは先程の動揺から立ち直り切れず一瞬の躊躇を見せる。それが命運を分けた。

 

「任務はここまでだ―――撤退するぞ。イライジャ、聞こえるか!」

 

『痛ッ……すまない、劾……俺のせいで』

 

痛みを堪えながら、接触回線で劾に謝る。イライジャは自分が余計なことをしたせいで逆に劾を危機に曝してしまった事に惨めさを覚える。

 

「いや、良くやってくれた……お前がいなければ俺は助からなかっただろうさ」

 

気休めではない感謝の言葉を劾は口にし、その言葉を聞くと同時にイライジャはそのままコックピットの中で意識を失った。

 

 

 

 

 

 

『我々は今頃シャトルで脱出していることでしょう。感謝していますよ、ウナト殿』

 

『そうとも、これだけ大きな手助けをしてもらったのです。今すぐにでもお礼をしようと思いましてね』

 

一つの録音された音声機器から流れる声はアズラエルとジブリールの声だった。始めはウナトも一体どんな厄介事なのかと思いつつ、この後のザフトとの交渉時に少しでも有利に話を進めれる要素が無いかと確認する為に聞いていた。しかし、その話の内容が進むたびにウナトは顔を真っ青にする。

 

『今、貴国に纏わりついているザフト軍、邪魔であろう?それでだな、手っ取り早く片付ける方法を思いついたのだよ』

 

せめてウナト自身がいま思いついているようなものではないことを祈るが、その期待はあっけなく裏切られる事となった。

 

『核だよ、このオーブの国内にダガー部隊を使ってコンテナを仕掛けておいた。三つほどね―――何、安心するといい。これでこれから先の国の行方を憂う心配はないであろう?』

 

ウナトは理解していなかった。相手は連合を裏から操る組織の人間なのだ。あのアラスカ基地やエンデュミオン基地でサイクロプスを起動させるような輩なのだ。

 

『どちらにしても我々が本当に脱出したかなどザフトには確かめようがない。ならば引かぬであろうザフトを核爆発で巻き込んでしまえばいいのだよ』

 

ジブリールはこういう人物だった。これほどの危険人物だからこそ受け入れざる得なかったウナトだが、自分に甘さがあり過ぎたのだ。その危険性は重々承知していたはずだったにも拘らずこの失態。何たる無様と自分を罵る。

 

「た、大変なことになった……誰か!すぐに国防本部に連絡を回すのだ!核が!?」

 

すぐさまオーブの国防本部へと連絡を取り次ぎ、ザフトにも知らせように指示する。核などと言われてしまえば、どうしようない。ザフトに敗北する事となろうとも、国の人間を守るために動かなければならない。そうして、オーブはさらに混乱の渦中に漂うことになる。

 

 

 

 

 

 

「核ですって!?」

 

『はい、既にオーブに居ないことを証明するためにロゴスが仕掛けたらしく、今すぐザフトとの戦闘を停止したいとの願いでが……』

 

ミネルバの艦橋ではラー・カイラム、セントヘレンズとの連絡でオーブから入った緊急通信から連絡が伝えられていた。

 

『ブラフに決まっておろう!どうせオーブの苦し紛れの策だ!!』

 

シャトルによる脱出を許してしまった不手際を認められない、或いはこれだけの被害を出したのにもかかわらず成果なく撤退する事を良しとしない為かセントへレンズの艦長は戦闘を続けるために、これがオーブによるハッタリだと断言する。

 

「しかし、このタイミングで、ですか?」

 

『確かに、牽制目的の嘘だというならもっと他にタイミングもあるだろうな……仮にハッタリだとしても、オーブ自身は本当だと信じているのではないか?』

 

タリアとグラスゴーはそれが本当ではないのかと考える。

 

『ど、どちらにせよ全軍の指揮を預かっているのはこの私だ!いかにフェイスや最新鋭艦の艦長といえども、私の指揮には従ってもらうぞ!』

 

そうして戦闘継続の指示が下され、核による爆発が起こる可能性を孕みながらオーブとの戦闘が続けられる。タリアやグラスゴーは憎々しげな目を向けながらも、指示に従わざる得なかった。ここで言い争いを続けようとも状況が好転する事だけはないのだから。

 

 

 

 

 

 

「オーブに、核だって……!?」

 

『でも、ザフトではブラフだって……』

 

その報告を聞き、アスランはこちらの指揮官が現場の様子まるで見れていないことに歯噛みする。

 

(明らかにオーブ軍の方でも動揺が起こっているじゃないか!嘘だとしても自軍を混乱させるようなことはしないこと位わかるだろうに、グラディス艦長は何を!?)

 

指揮権限を有しているのがグラディス艦長でないことは理解しているが、それでも止めれなかったのかと思ってしまうアスラン。ともかく、このままではザフトはおろか、オーブ軍やオーブ国民までも核爆発に曝されることになる可能性が高い。

 

「シン、レイ―――聞こえるか!俺達は核を搭載した爆薬を探すぞ!」

 

『え、でも……戦闘は継続だって…』

 

指令によってシンも迷いがあるのだろう。しかし、アスランはそれを構っている暇はない。

 

「このままだとザフトだけじゃない、オーブも核爆発に巻き込まれるんだぞ!お前はそれでいいのか!お前は何のために力を手に入れた!こういった時に力無き誰かを救う為じゃなかったのか!!」

 

『―――!』

 

シンがハッとした顔をする。その言葉を聞いて決断したようだ。

 

『……わかりました。フェイスの権限を使い、我々は核を止めに行きます。オーブからの情報では三つとのことです。我々は三手に分かれて行動を―――』

 

レイも賛同を示し、核を止めるためにどうすればいいのかという考えを報告する。

 

「すまない、レイ。ルナマリア―――インパルスのナイフを!」

 

『そんなものでどうする気なんですか?』

 

ルナマリアが疑問を尋ねる。確かに、普通なら牽制目的か緊急用の武装にしか成り得ない対装甲ナイフなど必要としないだろう。だが、アスランの目的は別にある。

 

「ニュートロンジャマーキャンセラーの装置を直接貫く。誘爆の可能性もあるからな、発見次第、全軍に下がるように通達する。ルナマリア達も下がれ!」

 

『そんな、危険すぎますよ!?』

 

ショーンがあまりの危険性にアスランに訴えかける。

 

「そんな事は分かっているさ……それでも他に止めれる人間がいないっていうなら、やるしかない」

 

対装甲ナイフを受け取り、MAに変形して核を探す。

 

『虱潰しに探すには場所が広すぎます。推測ですが、置くことによってこちらに確実に被害を与えれるであろうポイントを計算しました、これでも有効範囲は広いですが―――』

 

「いや、十分だ。シンはポイントSから、レイはポイントU、俺はポイントIから調べるぞ。おそらく残されている時間はそう多くないはずだ。急げ!」

 

少しでも、僅かでも戦いを止めるために動くべきなんだと、そう信じてアスランは突き進む。

 

 

 

 

 

 

『ポイントT―07にてそれらしきものを発見!』

 

「レイ!解除は―――間に合うか!」

 

『いや、タイマーの時間があまり残っていません!このまま貫きます。いけッ、ドラグーン!』

 

数少ない地上用ドラグーンの実体剣を使い、キャンセラー装置を貫く。一歩間違えればそのまま誘爆の可能性のある一撃。緊張で冷や汗をかきつつ、操縦桿を握りしめて操作する。

 

『そこだッ!!』

 

貫き、一瞬―――まるで時が止まったかのような錯覚に陥る。だが、結果は成功だった。レイの攻撃は見事にキャンセラーの装置だけを破壊したのだ。そして、ほぼ同時刻にシンも核を発見し、アロンダイトで貫いて破壊した。

そしてキャンセラー装置を破壊した二機はデスティニーとレジェンドには範囲が狭いとはいえ自機にもニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されているため、万が一反応したら危険だと判断し、すぐに距離を置く。

 

「―――見つけた!ポイントF―19、コイツか!!」

 

最後の一基もアスランは発見し、破壊しようとする。だが、ナイフを刺してもキャンセラーが機能を停止しない。

 

「クソッ、ここまで来て―――!?」

 

おそらく理由としては確実にキャンセラーを破壊しきれなかったのだろう。或いはキャンセラーの要因が一つだけでないのかもしれない。ともかくこのままでは核爆発が起こってしまう。何か手はないのかとそうやって手段を考えると一つ手段が思い浮かぶ。

 

「だが、キラみたいにやれるのか、俺が?でも―――やるしかないだろう!」

 

SEEDを覚醒させ、核爆弾の回線を開きセイバーとつなげる。そして、データをコックピット内で展開させ、キーボードを取り出して打ち込む。アスランは直接データを打ち込んで核を止める気だった。

 

「自由中性子の運動の阻害率24%―――重粒子、ヴァレンス・クォーク、熱規格の減少―――クソッ!」

 

上手くいかない―――このままでは間に合わないのか?そう思いつつも手は止めない。タイマーは進み続ける。カウントまで一桁を切った。

 

「まだだ、諦めるわけにはいかない……」

 

オーブが、カガリが、そして仲間がこのままでは死んでしまう。そんな事、絶対にさせるわけにはいかない。タイマーが五秒を切る。四秒、三秒―――

 

「間に合えっ、間に合えッ!!」

 

―――残り二秒―――

 

「クッ!無理なのか!?」

 

『コンソール七、十二、二十!そこだけ繋げろ!』

 

クラウが通信をいきなり行い、咄嗟にアスランはそれにあわせる。言われた通りにキーボードを一瞬で打ち込むアスラン。そしてタイマーは一秒となったところで、止まった。

 

「や、ったのか……」

 

一瞬起こる沈黙―――今この時だけは核爆発が起こらなかったことによる喜びが胸を満たしていた。

 




一瞬で決着がついたアズラエルとジブリールの秘策(笑)
ちょっと案的には安直すぎたかなと思いつつ反省。やっぱりなんにも考えずにこういったの投入しちゃだめだね。うまくいかないや……。

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