ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第六十九話 止まぬ戦火の咆哮

「デスティニープラン、ねえ……?」

 

ある施設にて複数人で集まり、デュランダル議長が提唱していたデスティニープランという政策について話し合っていた。

 

「悪くない政策だとは思うけど、実際どうなんだろうね?」

 

「ソル、本気で言ってんの?自分のやりたいことをやれないなんて冗談じゃないわ!私は宇宙を目指したいの!なのに適性が無かったら止めさせられるっていうのよ!」

 

ここDSSD、深宇宙探査開発機構だ。そこでソルはデスティニープランに対してどうなのかと疑問を口にするが、セレーネはお断りだと声を大にして否定する。

 

「フム、まあ確かにこの政策は不躾なものだと思えるわい」

 

「そうかの?効率的と言われてしまえばそれまでだぞ。そこまで悪く無い策だと儂は思うんじゃが?」

 

トロヤステーションにてセガワやホアキン等研究者も話に加わり、政策に対する評価をそれぞれ言い合う。正直に言ってしまえば彼らにとってそこまですぐに影響することがないのも理由なのだろう。DSSDは中立かつ特別の権限を持っている組織である上に宇宙に対する専門知識が必要な以上、すぐさまデスティニープランが強要されることなどそうそうないはずだ。

そういった事もあり、彼らにとってはデスティニープランについて話し合うとはいっても話のネタとして扱われているような状態なのだ。

 

「セレーネ姉さんはああ言ってるけど、スウェンはどう思ってるの?ザフトの部隊と一緒にいた時期もあったみたいだし、そのあたり参考にならない?」

 

「……ああ、どうだろうな」

 

スウェン・カル・バヤン――――ラー・カイラムに攻撃を仕掛け、その後も、紆余曲折と色々あったものの結果的に彼はザフトではなく、このDSSDに所属する事となった。ファントムペインの別部隊がトロヤステーションに襲撃を仕掛けたこともあり新入りとして入った彼は最初こそ風当たりが強かったが、ソルや周りのご老人に気に入られたこと、星を目指したいという真っ直ぐな気概、高いMSの操縦技能もあってか所属して僅かな期間でありながらも彼は周囲に認められていた。

 

「スウェンに聞いたってそんなの応えるわけないじゃん。いい加減学習したら?」

 

といっても彼の性格が根本的に短期間で変わるはずもなく、口数が少ない人間だという評価は変わっていない。ソルは年齢が近い上に同じMS乗りという事もあってかよく話しかけるものの、セレーネの方はスターゲイザーのテストパイロットをスウェンによって降板させられたこともあってか彼に対して棘のある言い方をすることが多い。

尤も、セレーネ自身も彼を認めている節があるからこそ、その程度で済んでいる。おそらく認めていなければ意志の強い彼女は今頃殴りかかってでも自分が乗ると言ってきかないだろう。

 

『――――もうじきそんな小さな枠組みなんてなくなる。宇宙(そら)は広い。そして時代は流れる。明日にでもその常識は変わり、ナチュラルとコーディネーターが腕を組む日が来るかもしれない』

 

「奴がさしていたのはロゴス討伐の事じゃなくこっちの方のことだったのか?」

 

「え?奴がさしていた、ってどういうこと?」

 

クラウがスウェンを勧誘する際に言っていた言葉を思い出し、その言葉が指し示していた本当の理由と思われるものはこのデスティニープランの事を指していたのかと考える。その言葉にソルが何の事なのかと尋ねるが、口下手な彼は上手く説明できない。

 

「でも結局私達には大して関係ないんだからいつも通りの研究に専念した方が良いわね。さ、戻りましょ――――あの子(スターゲイザー)をもっと成長させないといけないんだから」

 

セレーネがそう言って締めくくる。彼らは今日もフロンティアを目指すために働き続ける。

 

 

 

 

 

 

「私じゃ……あの人の理想にはなれないのかな?」

 

プラントにある私室で彼女――――ミーア・キャンベルは一人物哀しんでいた。議長にとっては自分という存在は都合のいいラクス。デスティニープランという計画を聞いた時点でそれを始めて理解した。でも、それでも構わない。与えられた役割でもいい。

 

「結局、アスランは私の事を愛してくれるわけじゃないんだし……」

 

婚約者、などといってもそれは本物のラクス・クラインとの関係であり、代役に過ぎないミーアにとってはごっこ遊びの延長でしかない。だが、ミーアにとってはそれでも嬉しかったのだ。幸せだったのだ。

デスティニープランが提唱された現時点でミーア・キャンベルのラクス・クラインとしての仕事は殆ど終了していた。元々、彼女の役割は戦争でこちらの支持と士気を高めるためのプロパガンダだ。政治的な難しい話を彼女がしたところであまり意味はない。無論、賛同者が増えるといった効果は上がるだろうが、一部の彼女の正体を知っている人間などからすれば疑惑を強めるだけだと議長が判断したのだろう。

結果、彼女は表舞台に立つ機会は大幅に減った。元々デュランダル議長の支持はロゴス討伐のころから高まりを見せていたのだ。議長が欲しかったのは支持であり、それを自らが得た時点でミーアの存在価値は下がっている。

 

「でも、ちょっとだけなら期待しちゃってもいいのかなぁ――――」

 

無意識のうちに涙がこぼれる。彼女にとってラクス・クラインを演じるという事はある意味全てだったのだ。その役割を演じる必要が無いと言われてしまえば、自身の存在理由も失われたように感じてしまう。ミーア・キャンベルだった頃の自分は消え去った。だから、偽者でもラクス・クラインという立場に縋りつくのだ。

でもアスランだけは違う。アスランは始めから自分をラクスとしてではなくミーアとして見てくれていた。それが彼女にとってはかけがえのないものであると同時に自分のミーア・キャンベルという存在を繋ぎとめている人でもあった。

 

「私がもし本物のラクス様だったなら――――そんな夢みたいな現実を見ても良かった……そう思えたかもしれない」

 

彼女の存在は、そしてその役割は最早議長にとって不要の存在。彼女は薄々ながらもそれを感じていたからこそ、涙を流していたのだし、自分が自分でなくなるような恐怖を同時に感じ取っていた。

 

(今すぐアスランに会いたい。あって、何でもいいから話がしたいな)

 

そんな彼女の小さな願いと共に、戦闘が少しでも早く終わることを願い続けていた。

 

 

 

 

 

 

レクイエムの砲撃は撤退しつつも、残存戦力を集結させようとしていた連合部隊を完全に焼き尽くしていた。ただでさえ戦力比が目に見えて大きく広がっており、最早彼らにまともな抵抗など不可能に近いと思えるほど戦力はなかったにもかかわらず、追い打ちをかけるように砲撃が彼らを消し去ったのだ。

皮肉な光景だといえる。連合がザフトやプラント市民を殺す為に造った兵器によって自分たちが焼き尽くされていくのだ。アスランにとってこの光景は二年前を彷彿させるものとなっていた。そして、僅かな葛藤と疑惑を胸に彼は苦々しい顔つきで目の前の連合部隊が撃墜されていく様子を見つめる。

 

「これで連合は壊滅したも同然か……プラントが狙われることがなくなったと考えれば、確かにこの争いは無意味ではないが――――」

 

やはりアスランにとって思い浮かんだ疑問は議長の政策の発表のやり方だと思っていた。何故あんな風に連合や他の組織を煽るかのような、急進的な方法で政策を公表をしたのか。決して政治に詳しい訳ではない彼はそのあたりの機微を理解できるわけではないが、議長ならばもっと上手くやれたのではないかという思いは存在していた。

 

『あの兵器って……レクイエムよね?何で、アレって私達が破壊したのに?』

 

『議長のご意志だ。連合艦隊に対して警告はしたはずだ。それに逆らってまで抵抗しようとしていた残存戦力。残していれば何をしでかすか――――これまでの経験から分からないわけではないだろう?』

 

ルナマリアはレクイエムが発射されたことに対して疑問を放ち、レイがそれに対して回答する。確かに事前に投降する様に呼びかけはあった。だが、それでもレクイエムという兵器を使う必要性などないのではないかという思いがある。

 

「――――停戦信号だ。どうやら残存の連合勢力もどうしようもないみたいだな。これよりコンディションオレンジに移行する。各自、交代で警戒に当たるぞ。シンとレイ、ショーンの三人は一旦艦に戻って休憩に入れ」

 

『いえ、自分は大丈夫です。ドラグーンも殆ど使っていないので整備や補給は必要ないかと。それよりもエネルギー残量を考慮してルナマリアのブラストインパルスを帰投させるべきだと思います』

 

アスランは交代で敵を警戒するために指示を出すが、レイの乗るレジェンドはそれほど消費しておらず、ブラストインパルスで遠距離から敵を迎撃していたルナマリアの方を一度下がらせるべきだと進言する。進言とはいっても立場的には同じフェイスなのでレイ自身が断った時点でアスランに無理矢理命じる権利はない。

 

「そうか……ならレイにはしばらく防衛を任せるぞ。とはいっても執拗に敵を落とす必要はない。攻撃を仕掛けてくる敵がいるならそいつらに対して迎撃してくれ。それ以外の対応は俺とハイネで取るようにする」

 

正直な話、アスランとしてはレイに戦線に残って欲しくはない。彼はおそらくそのまま敵部隊を追撃するだろう。彼の性格から、というよりも議長の為に自身の手を汚すことを躊躇わない彼は非戦闘員すらも虐殺することも引き金を引くことを躊躇う理由にすらならないはずだ。

だったら、撤退させて少しでも犠牲を減らすべきだと思っていたのだが、彼はそれを拒否したため戦線に残る事となった。確かに執拗な追撃をしないという自分が甘いのだという事は重々承知している。だが、だからといって抵抗の意志のないものすら殺す必要はないはずだ。

 

『相変わらず背負い込んでるな。あんましそうやって何でもかんでもやろうとしてたら潰れるぜ?』

 

「ああ、だが今はまだ大丈夫さ。ハイネも敵の迎撃、任せるぞ」

 

ハイネがアスランの意図を理解してか、多少なりとも心配の言葉を掛けるが、アスランは大丈夫だと苦笑しながら言う。

 

『議長も高遠な理想を掲げちゃいるが、手段は結局こうやって争うことでしか得られないんだ。線引きははっきりさせろよ』

 

「警告はありがたいが……通信のログは残るんだぞ。そんなこと言って後で文句言われても知らないからな」

 

『おっと、そりゃ堪らねえぜ――――というか庇ってくれないなんて酷いじゃねえか』

 

ハイネの忠告にアスランは意趣返しとばかりに反論した。わざとらしく大げさな反応を返すようにハイネもそれに応える。レジェンドはドラグーンの特性を考慮してミネルバや味方部隊の掩護の為に後方での警戒に、ハイネのデスティニーとアスランのセイバーが前に出ての警戒にあたることになった。

 

 

 

 

 

 

「いやー、流石はデュランダル議長!御見それしましたよ。敵の旗艦を落とした上にこれ程の戦果――――ネビュラ勲章ものの戦果ではないですか!」

 

「ありがとう。しかし、私はザフトではないのだから勲章など得ることはないし、ましてや戦争の戦果を喜ぶような人間でもない。総ては戦争を終わらせる為にやむを得ずしていることだ。あまり人死にに対してそういった考えを持って欲しくはないな」

 

出撃前には不安な様子を見せていた艦の司令の人達も、帰還したデュランダル議長の戦果を前にして諸手を上げて喜ぶ様子を見せるが、デュランダル議長自身がそれを諌めるように言う。

 

「とはいえ、これは総ての戦争を終わらせるための大きな前進だ。そのことについては皆、喜ぼうではないか」

 

諌める言葉だけを言えば場の空気は重くなるだろうが、同時に勝利に対して喜ぶべきことを上げることで雰囲気が盛り下がる事もなかった。ザフト全体の士気は高く、少数ではあるがデスティニープランに対する疑念を持つものも目の前の勝利に浮き足立つ様子を見せる。

しかし、一つの緊急入電によってその浮き足立っていたザフトは騒然とする。

 

「議長、大変です!コロニーレーザーが照射準備を始めているとの報告が!?」

 

「何だと!?それは一体どういうことだ!ジュール隊の独断行動なのか!?」

 

通信兵の一人が言った情報に艦長が説明を要求する。通信兵はすぐさま詳細の要求を受け取った連絡の内容を確認した。

 

「いえ、それが……連合の少数部隊が奇襲による強行突破を図ったらしく、ウイルスによってシステムの防壁が突破され、照準を定めているようで……」

 

「何とかならないのか!それにコロニーレーザーはどこを狙っている!」

 

プラントを直接狙うには角度の関係上ありえないだろうが、だとしたら一体どこを狙うというのかという点で艦長は叫ぶように説明を要求していた。

 

「そ、それが……月の中立都市であるコペルニクスでして……」

 

騒然とする最中、デュランダル議長はそれらの報告を聞いて、誰にもばれない程度に笑みを浮かべていた。

 




友人たちが「私のスウェンをどこにやったー!」「ミーアたんハァハァ」というので何の脈絡もなく突然の登場。文句があるなら友人に言ってくれたまえ(笑)
スウェンがDSSDに配属されたおかげでセレーネはスターゲイザーのパイロットから降ろされました(笑)
多分適性的にスウェン>ソル>セレーネとなっていたのでしょう。セレーネが来る前からソルはパイロットやってたわけですし。

レポート終わらせたら次のレポートをさも当然のごとく出された……オ・ノーレ

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