ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第七十三話 狂いだす歯車

コロニーレーザー、レクイエム――――二つの強大な大量破壊兵器の崩壊は一見してみればザフトにとって不利益を被るものと見ることが出来る。しかし、実際には彼らにとって痛手にすらない程度の被害といえた。元はどちらの戦略兵器も連合の物であり、ザフトにはあって得することはあっても、失って損するというわけではない。

結果、彼らにとってこの二つを失ったことで受けた実質的な損害はファントムペインの奇襲によって撃墜されたMSや艦の被害とレクイエムの防衛で迎撃された量産機のMSやデスティニーインパルス位でしかなかった。

 

「それにしても、一体誰がコロニーレーザーを破壊したっていうんだ?」

 

イザークやディアッカ達はジュール隊等の受けた被害報告を確認しながらコロニーレーザー自壊の原因を探る。直前まで何一つ異常なしに動いていたことを考慮するに何らかの外的要因があるはずだと少ない時間の中で多少は調べたのだが、特に進展もなく、誰が破壊したのかはディアッカには皆目見当もつかなかった。

 

「わからん……しかし、映像を確認する限り外部からの攻撃による破壊ではなく、内部――あるいはそれに準ずる場所からの攻撃だとしか思えん」

 

「本当かよ?じゃあ誰かが態々危険を冒してまであのタイミングで内部に侵入して破壊したっていうのか?」

 

事実、彼らの予想通りネオのライゴウが内部まで侵入して破壊したのだが、そもそもコロニーレーザーを発射させようとしたのがネオ等ファントムペイン自身が行った事なので、止めたのもファントムペインだという発想は流石に出てこない。

二機以上突破したMSが居たのなら何らかの仲間割れが発生したのやもしれないと推測することも出来ただろうが――――生憎、確認できた中で突破されたMSは二機しかいなかった。ミラージュコロイドも警戒していたので突破したのは一機だけの筈である(ダナはこの時点でザフトの識別信号を使っていたので認識されていない)。

 

「ディアッカ、向こうの方はどうなっている?」

 

「メサイアっていうデスティニープランの基盤になるらしい要塞施設がでたらしいぜ。いよいよ本気で動き出すって感じだな」

 

イザーク達もデスティニープランに対する不信感が一切ないというわけではない。だからこそ、自分たちにとって後悔だけはしないように選択したい。

 

「俺達もメサイアの防衛につくのかね?」

 

「まだわからん――――戦場になるのはメサイアだけとは限らんからな……まだ戦争が続くことは確かだろうさ」

 

新たな機体の申請もあっさりと受け入れられており、まだ届いたわけではないがおそらく次の命令と共に何らかの情報が送られてくることは確実だとイザークは思っている。

 

「それにしても、貴様は本当に機体の申請をしなくて良かったのか?」

 

「オイオイ、まだ俺の乗ってたザクはぶっ壊れちゃいねえぜ。そりゃまあ損傷こそしたけど修理が利くんだからまだまだ現役だろうよ」

 

「まあいい、貴様がそういうのならそのままにしておいてやる。後で泣きを見ても知らんぞ」

 

ジュール隊の彼らも決戦に臨むべく準備を整えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「痛ッ……クソ!機体がいかれちまってやがる……」

 

コロニーレーザーを破壊した張本人であるネオはコロニーレーザーの爆発から難を逃れたが、別の問題に突き当たっていた。

 

「センサーもモニターも……チッ、通信や信号も駄目か」

 

流石にVPS装甲を装備したライゴウであってもすぐそばと言える距離で爆発を受けたことによる被害は大きかった。すぐに脱出しようとしたのだが、それでもコロニーレーザーの爆発は大きい。そもそも砲口が一方向に向いているため、爆発が発生すればエネルギーが逃げようとするために一方にしか存在しない砲口の出口へと向かってしまう。

ネオはそこから脱出する際、迫りくる爆発に巻き込まれることを覚悟し、シールドを爆発する方向へと構えて爆発を利用し、反作用で距離を稼いだ。無論、その代償は大きく、ライゴウの機能は今やほとんど機能しておらず、スペキュラムパックなどは起動は愚か、接続部に不具合が出たのか外すことすら出来ない。

 

「補助バッテリーは稼働するが、こりゃ核エンジンの方は動かした瞬間に爆発するな……」

 

ライゴウがまともに稼働しているのはいくつかのサブカメラとスラスター位だろう。酸素もあまり残っておらず、センサーが機能しない以上、彼は現在地も分からず帰還することも絶望的だ。

 

「――――って、普通なら思うんだろうけどな……」

 

しかし、ネオには何故か確信めいた感覚のようなものがあり、それに従って幾つかの動くスラスターで姿勢を制御して軌道をずらす。勢いそのものは爆発で吹き飛ばされた際に受けた反作用の分でついている。逆に言ってしまえば今動かせるスラスターを全て噴かせても軌道を変えるだけで止めることは出来ないのだが。

 

「自分の直感ぐらい信じていかなきゃやってられねえぜ」

 

そう言ってライゴウはある方角に向かって進むのだった。

 

 

 

 

 

 

予め定めていた集合地点でガーティ・ルーは粘り強く一人のパイロットの帰還を待ち続けていた。既にエミリオとアウルは帰還しており、他の部隊の反応は混戦の最中で死亡確認を出来ていないのはネオのライゴウだけである。

 

「リー少佐……こちらが発見される危険性を高めるだけです。撤退を――――二人帰還しただけでも十分すぎますよ」

 

「まだだ、もう少しだけ……大佐なら……」

 

ガーティ・ルーにミラージュコロイドが搭載されていると言っても無敵の万能兵器というわけではない。ザフトとてミラージュコロイドの使用に勘付いているはずである。であればミラージュコロイドを感知することの出来るカメラやセンサー類を使われれば、後方で待機していると言えども、その内確実に見つかることになるだろう。

 

「これ以上は危険ですよ、船員全員を危機に曝させる気ですか!」

 

イアンに対して意見を申し立てるクルーの言っていることは正しい。これ以上この場にとどまれば見つかることが無くとも敵の警戒範囲に含まれてしまう。そうなれば逃げることもままならないだろう。

 

「リー少佐、撤退のご決断をッ!」

 

「……止むを得ないか」

 

流石にイアン・リーとしてもこれ以上は待つことが出来ないかと判断し、ネオの帰還を諦め撤退を決断しようとしたその時、

 

「待ってください!艦前方、熱源確認!これは――――味方機です!」

 

「何ッ!機体は何だ!」

 

「ロアノーク大佐の搭乗機であるライゴウです!」

 

艦橋内のクルーは一斉に歓声を上げる。

 

「迎えの部隊をすぐに出すように伝えろ!回収後は全速でこの戦域から離脱する!」

 

ガーティ・ルーへと向かいライゴウが軌道を調整するが、逆噴射を行っても速度はあまり変わらず、まともな着艦は無理があると判断して回収するための部隊を送り出す。核爆発の危険性があるライゴウを流石に艦内に入れるのにはネオも躊躇ったのか、回収に来た部隊の方へと乗り込み、艦に帰還した。

 

「よく無事で……正直な所、もう無理かと思っていましたよ」

 

『言っただろ?俺は不可能を可能にする男だって――――それよりも話すことがいくつかある。疲れてる悪いが、戦域の離脱後に話せるか?』

 

「疲れているのは貴方の方でしょうに……わかりました。部下に準備させるよう伝えておきます」

 

ひとまず、ファントムペインとしての最後の戦いはこれで終わったとも言える。何せファントムペインの母体である連合やロゴスの上層は完全に壊滅し、彼らに指示を出来る人間も、彼らを支援する人間もいなくなってしまったのだ。しかし、彼らの戦いはまだ続くことになる。私怨、プライド、矜持、様々な理由で彼らはファントムペインとしてではなく、連合の敗残兵として戦うつもりだ。

これからも色々と苦難は待ち受けているだろう。しかし、それでも今の彼らは戦いを終えたことに喜びを分かち合っていた。。

 

 

 

 

 

 

「ミネルバの部隊がメサイアへの入港を求めていますが?」

 

「構わん、私が呼んだものだ。許可してくれたまえ」

 

メサイアへと到着し、ミネルバのフェイス所属のMSパイロットが一時的なメサイアへの入港を求めたことを報告する。当然、そうする様に命じていたのは議長本人であるため受け入れを許可し、彼らはメサイアに入庫した。

 

「やあ、よく来てくれたね。皆、この長い戦いによく頑張ってくれた。君たちのおかげでようやくここまで来れたよ」

 

入港し、議長の所までクラウが案内してきたシン、アスラン、レイ、ハイネの四人がやって来る。ルナマリアやショーンはフェイスではない為ここに来ておらず、マーレやルドルフ、アレックはラー・カイラムの方が所属である為、こちらに来てはいない。

 

「本当に感謝しているよ。考えてみれば、君たちはアーモリーワンでの強奪事件からユニウスセブン、ロゴスとの戦い、随分と大変な思いをさせてしまったからね。

だが、そんな世界ももう終わる。後ほんの少しでね……」

 

デスティニープランが始動すれば戦争が終わる。議長は労いの言葉と共に四人に対してそう言葉を掛ける。

 

「議長……しかし、デスティニープランによって、人は本当に争いを止めるでしょうか?」

 

ハイネは率直な意見として議長に直接問いかける。この戦争が終わるのは間違いないかもしれない。だが、それで未来永劫の戦争まで終わるというのか?ハイネにとっても、また問いかけてはいないもののアスランにとっても疑問だった。

 

「君たちの懸念は尤もな話だ。しかし、では事実としてこれならば確実に争いを止めることが出来るという名案を他の誰かが出せるかね?それを多数が支持し、私自身も納得できる意見だというのなら私もその提案を受け入れよう」

 

そう、結局は戦争が終わるか否かの質問など無意味なのだ。世界の未来など、ましてや人類の行きつく末など見えようはずもない。一寸先は闇でしかない。

 

「ですが、戦争を終わらせたその世界で果たして本当の幸せというものを得られるのですか?」

 

アスランもまた、自身が疑念に思っていたことを口にする。

 

「そもそも、議長なら分かっている筈です。こうも急進的な革命を起こせば、世界が混乱する事ぐらい。少しずつ変えていく事も出来たはずでは!」

 

「本当にそう思っているのかね?」

 

議長は笑みを絶やすことなく、問いかけてきたアスランに対して逆に問いかける。その微動だにしない様子にアスランは思わずたじろいだ。

 

「確かに、君の言う通り穏便に事を進めることも出来ただろう。だが、大衆は変化を嫌う――――仮に穏便に事を行ったとしても、いつかは争わねばらない。そして、それはまた大きな波乱を剥き出しにする。君とて旧世紀に起こった冷戦の経緯を知らないわけではないだろう?」

 

何事も中途半端を招くような選択は良くない。議長からしてみれば最終的な被害を考慮して今争うという選択を取ったのだ。そして、アスランはそれを許容しきれていない。政治家と軍人故に起こる視点の違い。

アスランの考えは近視眼的であり、また議長の考え方は皮算用が過ぎる。どちらが正しいというわけではないが、その差異がみせる最終的な意見の相違は大きい。

 

「それぞれが、各々の役割を与えられて、有効的にその力を使っていく。これが完全平和を成し遂げるものであり、幸福な人生とは言えないか?あるはずもない可能性を信じ、報われるはずのない努力を行い―――それでも、それでもなおと縋り付いて届かぬ夢に手を伸ばす。

そして、それが人々の不満となり、その不満の捌け口として戦争がおこる。結局は負の連鎖なのだ。私はロゴスを討つというでその負の連鎖を一度払拭した。その上で私はデスティニープランを使い、それを完全に断ち切ろうというのだ。時機は今しかないのだよ」

 

「確かに戦争のない世界は望むべきものです。ですが、私には―――それが幸福だとは思えません」

 

「ほう、何故だね?」

 

周りにとっては予想外の言葉に驚愕するシンとハイネ。レイは眉を顰めるが議長とクラウは大して気にした様子を見せず、それどころか先を促すように言う。

 

「人が生きていく上で、まるで役目だとか役割だとか、彼ら自身の意志を全く考慮していていない。それは人のあるべき姿ではないはずです」

 

「ああ、そうだろうね。だが、その意志こそが戦争の引き金となるものだ。人は他人を信じないからね。信じないから疑い、疑うから他人を悪いと思い始める。故に、それを廃するのは当然の事だろう?」

 

「人の心を大事にしない世界を創って、なんになるっていうのですか!」

 

結局は水掛け論だ。互いに見ている景色が違う。かつてキラが言ったように平和へと導くビジョンが違うのだ。しかし、アスランもそれは理解しており、少なくとも現時点では認めるつもりではいた。今回の戦争が終わるのは少なくとも確定した事実だ。

ならばアスランとしてもそれを受け入れるべきだとは思う。どちらにせよ、デスティニープラン自体は発令されたのだから。その上で戦争が終わった後に変えていくべきだ。デスティニープランは未だ草案に近いものであり遺伝子によって運命を定める方法は強制だと発言している。付け入るべき部分はそこであり、内政からの変化を促せば止められるのではないか?

 

「今は受け入れてくれないかね?君のような人材が求められているのだから」

 

それでも喰ってかかったのは彼ならば理解してくれると、そう思っていた部分があったからだ。理解し、自身の力不足に苦悩を洩らしたのならばアスランは彼と共に歩めると思っていた。

アスランは自身が考えているような平和は理想論に近いという事は理解している。それでも、遺伝子による強制的な世界は認められない。とはいえ、今反抗したところで何かが解決するというわけでもなく、アスランも渋々ではあるが了承しようとした。しかし、そういった意見の食い違いによる疑心暗鬼が一人の人間を突き動かす。

 

「今の貴方ならギルの主張を理解してくれると思ったんですがね。そうやって逃げ口上ばかり上手くても、生きてはいけませんよ」

 

「レイ!?」

 

シンの叫びと同時に、レイが腰に取り付けたホルスターから銃を抜いて突如発砲した。突然の攻撃ではあったがアスランはシンの叫び声と、レイがホルスターに手を掛けた瞬間を見て咄嗟に体を転がすように躱し、何とか避けきる。

 

「後々に脅威となるものは徹底的に排除すべきだ。貴方のような内側に巣食うに人間は特に」

 

「オイッ、レイ!ちょっと待て!?」

 

ハイネがレイを止めようとするが、レイは気にした様子もなくそのままアスランに向けて数発発砲する。

 

「グッ……これが狙いか!」

 

議長の方を向いた瞬間、彼が嗤っていたのが見えた。シンやハイネはレイの方を向いているので議長の方に向いておらず気づいてはいない。ともかくこの場にいては危険だとアスランは判断して部屋から逃げる。

 

「レイ、何で!?」

 

後を追っていったレイに向けてシンが疑問を投げかけるが、それを諌めたのはその場で一人座ったままの議長だった。

 

「止めておきたまえ、シン。使えなくなった部品は、その錆を落とすよりも取り換える方が早く済む。彼は駒として今まで良くやってくれた。だが、そろそろ退場させるべきなのだよ」

 

以前の議長であったならばもっと念を入れて彼らのいないうちに処理しようとしたかもしれない。レイが動こうとするのを今は時機ではないと止めたかもしれない。しかし、彼はそれをあえてしなかった。彼らにも不信感を植え付ける(・・・・・・・・・)ために――――既に運命の歯車は狂い始めていた。

 




レイ暴発!議長嗤う!?一体どうなるのか!作者はもう勝手に動く登場人物たちの相手に首を吊りたい!?
最近思うんだよ……議長一人勝ちで物語終わらせたら簡単に完結すんじゃね?って……もちろんそんな結末はありえないんだが、でもありえないなんてことはありえないってわけで……ガガガ

おまけ
クラウ「…………(登場したのに台詞が無い……)」
議長「君はそういう役割なのだよ」

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