ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第七十五話 恐怖劇の始動

マーレの乗っている機体はフォルムこそ以前乗っていたゲルググC型の面影を残しているが、中身は全くの別物といってもよかった。

 

――――RFゲルググ――――

 

転生者であるクラウ・ハーケンが知るゲルググの中で最も性能が高く、事実この世界においてもトップクラスの性能を誇る機体。マーレの要求に応えるほどの反応速度、シンプルに纏められた武装、あらゆるスペックが基本的に高水準となっている最高の機体といえた。

武装はビームライフル、ビームサーベル二本、ビームシールド、マーレが要求したビームナギナタ。条件によってはバズーカやマシンガン系統の武装も当然装備できる。さらに言えばリゲルグなどと違い、B型やC型などの背面武装を装備させることも可能というまさにゲルググの頂点に立つ機体といってもいい。

 

『撃ち落とせ、ドラグーン!』

 

「舐めるなッ!」

 

展開してきた大量のドラグーンだが、時間差を置いて攻撃してくる。ドラグーン単体が稼働する限界時間がある以上、一度にすべてのドラグーンを稼働させるのは自殺行為でしかない。いや、短期での決着を望めるというのならばその選択も有効なのだが、少なくともマーレに通じる選択肢ではないとレイは考え、ドラグーンは数基ごとに連携して攻撃してきた。

 

「速いな……だが!」

 

だが、いかにドラグーンが全方位からの攻撃が可能とはいえ、マーレの反応速度は容易くそれを上回る。ドラグーンの軌道を予測し、その攻撃を躱す事ぐらいならばいくらでも出来た。

 

『クッ、しかしこの軌道が読めるか!』

 

マーレのRFゲルググにドラグーンのビームはかすめもしない。だが、逆にマーレの攻撃もドラグーンに届かずにいた。ドラグーンの動きは一見すればワンパターンに見える。量子インターフェイスが特定のパターンを組むことによって軌道をパターン化させ、多数の人間が使えるようにしているからだ。

しかし、そういった有象無象のパイロットとは違いレイは空間認識能力を保有している。レイはわざと一定のタイミングで一部のドラグーンの動きをマニュアル化させることによってドラグーンの軌道を本来の軌道よりも不規則なものにしているのだ。

 

「まあ、そう簡単には撃ち落とさせないか――――」

 

ドラグーンの厄介とも言えるビームの弾幕は嵐のように勢いを衰わせず、マーレに対して猛攻が続く。マーレは殆ど感覚で動いていくのだが攻めに転じるには場所が悪かった。

 

「邪魔だ、退けッ!」

 

メサイアのすぐそばであるここには味方のザフトのMSや艦隊が存在しているのだ。迂闊に攻撃をすれば味方ごと巻き込む。レイもそれは同条件の筈なのだが空間認識能力の広さや精確さはレイの方が上なのだろう。全く巻き込むことなくビームを発射し続けている。

マーレも撃っても味方を巻き込まないといった場所では撃つのだが、マーレのその動きはレイも理解している。あえて味方のいる位置にドラグーンを配置したり、撃たれる位置に配置させたドラグーンはそのまま射撃を行わず素通りさせたりとかなり変則的にドラグーンを操作している。

 

「後ろかッ!」

 

直感的に攻撃を悟ったマーレが機体を半回転させ、左腕のビームシールドを展開させる。それと同時に襲い掛かるレジェンドの腰部の実体剣を展開可能なブレードがビームシールドに突き刺さった。

 

「ハッ、甘いんだよ!」

 

『残念ながら、甘いのは貴方の方ですよ――――』

 

ドラグーンの突撃を予想しマーレのRFゲルググがビームシールドで防いでいるにもかかわらず、勢いは衰えないままにビームシールドを突破をしようとする。受け止めれば勢いを殺せると思っていたのだがドラグーンにその考えは通用しない。寧ろスラスターが勢いよく噴いて押し込んでいく。そして周りのドラグーンとレジェンド自身の攻撃がそれに続いた。

 

「なッ、アンチビームの類か!」

 

ドラグーン一つに拘束されたと言ってもいい。ビームシールドの防御力の高さからそうそう容易く突破されることはないが、マーレが目の前で防いでいるのは対ビームコーティングが施されているのであろうドラグーンの実体剣。下手に動けばシールドを貫通するかもしれない。マーレは迂闊に機体を動かして回避するわけにもいかず、襲い掛かってきた他のドラグーンのビームを右手のビームシールドを展開させることで何とか防ぐ。

 

『これで終わらせる』

 

真後ろを取るレジェンド。ビームライフルを構え、マーレに止めを刺そうとする。先に動いたのは果たしてどちらか。マーレはレイの殺気を受け、そのままドラグーンを受け止めた状態で後ろにスラスターを噴かせて突撃した。レイは嫌な予感を感じ取って構えを解いて回避行動に移った。

 

『「グゥッ――――!?」』

 

互いの機体が衝突を起こす。マーレの捨て身の体当たりとも言える攻撃によってレイのレジェンドも体勢を崩した。実体剣のドラグーンでこのままマーレのRFゲルググを貫くことは可能だろう。しかし、それを行えば確実にレイのレジェンドも巻き込まれる。

 

『やってくれるッ……』

 

ぶつかったタイミングでドラグーンを弾いたことでマーレのゲルググは自由を取り戻す。同じ手は二度も通用しないだろう。レイは手札を曝され消費してしまったと言ってもいい。

 

「舐めるなよ……そっちの位置ぐらいなら俺だって把握できる」

 

レイの空間認識能力同様、マーレも相手の位置を認識している。しかし、それは空間認識能力とは違い、彼のニュータイプの素質によるものだ。レイの空間認識能力には劣るが予知のような超直感は彼の方が圧倒的に上である。

 

『これでッ!』

 

「やらせるか!!」

 

レジェンドの連結させたビームジャベリンがRFゲルググを貫こうとし、それをマーレはビームナギナタを抜いて持ち手の部分で受け止める。そのまま持ち手を交差させることで回転させるようにビームナギナタでレジェンドを切り裂こうとしたのだがレジェンドはそれをビームシールドで受け止めた。

状況は五分――――若干レイの方が有利だが油断しなければマーレも落とされることはない。しかし、時間の経過はどちらにとっても苦しいものがあった。レイはアスランを逃してしまうということに。マーレは状況を完全に把握できていないこの状況で向こうから撃ってきたとはいえ味方と争っている現状に。

 

「早いとこ終わって欲しいもんだな……」

 

レジェンドは再びドラグーンを起動させる。どうやらまだ戦いは続くようだと溜息をつきながらマーレもRFゲルググの武装を構え直した。

 

 

 

 

 

 

「こちらはアスラン・ザラだ。ミネルバ、着艦の許可を」

 

『一体どうしたんですか、アスランさん?それにあの戦闘は!』

 

「訳は後で話す。とにかくグラディス艦長に知らせてくれ!」

 

マーレとレイの戦闘から逃れ、無事ミネルバまでたどり着いたアスランは通信回線を開いてミネルバに連絡を入れる。その通信を受け取ったオペレーターのメイリンは何があったのかと事情を尋ねるが、アスランは取り合わずタリアと話せるように連絡をした。

 

「アスラン、どうなってるのアレは!?」

 

「何でレイが味方と戦ってるんだよ!」

 

セイバーのコックピットから降りたアスランにルナマリアとショーンが駆け寄りそう話しかけてくる。マーレが乗っているRFゲルググの事を知らない彼らはアレがマーレの機体だという事に気が付いていないのだ。

 

「悪いが説明は後だ!今は事情を艦長に話さないとならない、そうしないとマーレもレイも……」

 

最後の言葉は無意識のうちに零れてしまったものだが、目聡く聞きつけたルナマリアは驚愕する。

 

「まさかレイと戦ってるのはマーレさんなんですか!何で!?」

 

アスランはしまったと思うもののルナマリアが叫んだことで周りのクルーも知ってしまい格納庫は騒然とする。

 

「とにかくどいてくれ!味方同士で戦うなんて馬鹿げたことだっていうのはわかってるだろ!」

 

そう一喝することでようやく周りも一旦落ち付きアスランはそのまま艦長室まで向かって走っていく。

 

「失礼します」

 

精神的な焦りも出ているのだろう。落ち着かない様子を見せながらもアスランは艦長室に入室する。

 

「メイリンから聞いたわ。私に話があるみたいね――――予想はついているけど、説明してくれる?」

 

 

 

 

 

 

シンとハイネ――――二人の答えを聞き、ギルバート・デュランダルはその答えに対してなんら言葉を掛けるわけでも行動を起こすわけでもなく、ただ彼らに部屋を退室する様に促した。その後、彼は指令を下す為に私室へと戻ってきていた。そうして私室に戻ってすぐに一つの通信が届く。彼の予想通り、それはミネルバからの通信だった。

 

『アスランから話は聞いたわ。ギル――――あなた一体どういうつもりなの?返答次第では私としても貴方に従うわけにはいかなくなるわ。それとも、今回の件はレイの勝手な独断行動とでもいうつもり?』

 

「いや、おそらくは君の予想している通りだよ、タリア。アレ(・・)は私の、ともすれば私の友の代弁者なのだからね。そして、君ならば私の意図は既に読めていると思うのだが?」

 

普段通りの余裕の笑みは消えることがない。まるで人形のようだと自嘲気味に内心で己を嗤う。

 

『冗談言わないで……いつまでも恋人ごっこを続けれる関係じゃないのはわかるでしょう……あの時、貴方がオーブを選んでいてくれたなら、状況はまた違っていたかもしれないけど』

 

恋人ごっこ……事実ではある。コーディネーターは遺伝子の可能性を根絶やしにしてしまう進化の少ない存在だ。故にタリアとギルバートでは子をなすことは出来なかった。しかし、肉体的な関係は未だに続いていたことも事実だ。

互いが互いを愛していたのも事実だ。オーブに行けば結婚することも出来るとタリアに誘われもした。共にオーブへと向かう道も彼には存在していただろう。だが、彼はその彼女の手を取ることはなかった。

 

「私が成そうとしていることに最早オーブの理念は邪魔なだけなのだよ――――それで、君は一体どうしたいのだね?」

 

『すぐに戦闘を止めさせて。貴方だって味方と争いたいわけじゃないのでしょ?』

 

「――――残念ながらそれは受け入れられないな。君たちは政治というものをもっとよく知るべきだったかもしれない」

 

最早道は違えた。思えば、あの時から既にギルバート・デュランダルの向かう道とタリア・グラディスの望んだ道は違っていたのだ。

 

『お生憎様、貴方のおかげで私は軍人で、プラントにおいて軍人は政治を語れる様な立場の人間ではないわ』

 

やや皮肉を込めた返しに思わず議長も苦笑いをしてしまう。これで彼女とまともに話す機会が失われるだろうと思うと尚更その笑みは苦いものとなっていった。

 

「そうか……残念だよ、タリア。君たちミネルバはこれまで多大な成果を生み出してきた英雄と言える存在なのにね――――それも今日で終わることとなってしまう」

 

『ギル……あなたまさか!?』

 

「さよならだ、タリア。君と道を共にすることはもうないだろう。それはたとえ君が敵だとしても、味方だとしても……」

 

通信を全周波数に合わせて開放する。彼にとってこれまでの総てが予定調和だったのだ。タリアの叫びを無視してそのまま開いた回線から己の言葉を発信する。

 

「――――皆さん、これまで平和の為に共に戦って来てくれたことを私は今一度感謝したい。そして、今まさに戦争の歴史に終止符を打つべき時が来たのだ。しかし、諸君らの多くも思っていることだろう。この計画によって本当に人類に平和が訪れるのかと。約束しよう――――私は戦争を終わらせるために全力を尽くすことを!」

 

突然開いた回線であるが、これは予め仕組んであった茶番に過ぎない。クラウとはまた別口のミーアの護衛についていた秘書官のような役割を持つ人物によって仕掛けた寸劇のようなものでしかない。一人が議長の言葉に感動したかのようにふるまう事で次々と多くの人々は彼の言葉に感動し、歓声が沸き起こる。

 

「今まさに、我々は最後の戦いに挑むために敵を討たねばばならないのです!たとえそれが昨日まで共にした隣人であろうとも、かつての英雄であったとしても!自由の無い世界だと問いかけ、争いの火種を持ちこむものに今、我々は人類の成す鉄槌を下さなくてはならない!!」

 

演説というものにおいて重要なのは演説の内容にあるわけではない。ファシズムのヒトラーは言葉を多様にそして重ねることで大衆に印象を大きく残した。レーガンは体の動かし方を工夫していた。結局、演説というものはそれを聞き入れる人にもよるが詳細な内容、中身などは二の次に近いのだ。

必要なのは過剰とも言える演出。語り方一つで相手は大きく受ける印象を変える。大層なことを言わずともその言葉の伝え方が上手ければ人はその言葉に感動するのだ。

 

(本気で変えようというのだ……戦争のない世界を彼なら実現してくれるに違いない)

 

多くの人がそう思う。言葉は何よりも大きな武器だ。人を殺すのはその手に持つ武器でもその引き金を引く指でもない。人が人を殺す最も大きな要因は他者や己を煽動する言葉なのだ。

そうして、一方的とも言える演説によって湧き上がる歓声。演説を終了し、士気の高まりや議長への信仰心とも言える信頼を高めて戦争の準備を整える。しかし、議長は思わずその人々の単純な愚かしさに溜息すらついた。

 

「君が人を滅ぼしたかったというのも理解できてしまうよ、ラウ。人はあまりにも視野が狭い――――」

 

デュランダルのその言葉は誰にも届くことなく、自分の私室に響き渡るだけであった。

 




マーレと新型RFゲルググの大活躍!クラウなんていなかった(笑)
次回から遂に最終決戦に……入れるのだろうか?というかクラウもそろそろ真面目に戦闘に参加しないとMSに乗ることすらなく死んでしまうことになりそうな気がします。

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