ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第七十九話 アンタレスの劫火

アメノミハシラから出航するアークエンジェルを含める数隻の艦。現在、キラ達が保有している最大限の戦力と言ってもいい。

 

「でも、大丈夫かしら。カガリさんは……今の情勢でプラントに行っても交渉は難しいと思うのだけど……」

 

「僕たちに出来ることは信じる事だけです。それに、カガリならきっと大丈夫だと思います。向こうにはアスランだっていますし」

 

自身の意思による辞退と行方不明の期間によって現在は元国家元首となったカガリは、それでも今持ち得る権力を使って戦闘以外での別の方向からアプローチを試みると言い、彼女とその護衛だけで小型の非戦闘用の船を使いプラントに向かっていった。

マリューの危惧する様にプラントとの交渉は難しいだろう。それどころか行った先で安全が保障されるのかも分からない。しかし、カガリは言葉を交わすこともなくお互いに銃を突きつけ合い、従わないものに対して強制的に従わせようという議長の考えを放置するわけにはいかないと言って向かっていったのだ。

 

「アスラン君を信じているのかね?しかし、キラ君……だとしてもそれは……」

 

バルトフェルドとしては敵として相対することになった今のアスランを信用するのはどうかと問いかける。

 

「確かに、そうかもしれません。でも、僕はアスランを信じます。彼と僕たちの道は今は違えているかもしれない。けれど、共に平和を望む気持ちは同じなんだと信じていますから」

 

二年前も敵として戦ったが、最後には分かり合えた。自分たちは――――人は分かり合えるのだとそう思うからこそキラはアスランとカガリを信じると口にする。

 

「そうね、それにこう言ってしまうのはどうかと思うけど、今の私達にカガリさんの事を考えてあげれる余裕はないわ。この少ない戦力でどうやってあの要塞を止めるべきかしら?」

 

以前にも言ったようにロゴスという母体を失い、連合のトップと言えたジョセフもザフトに討たれた連合は、既に組織として瓦解しており、その力は地上ですら維持、継続を困難なものとさせていた。代理的にトップに立つことになった連合の上層部の人間もザフト、プラントに対して停戦の協和と、降伏を申し出ている者は少なくない。

最早ザフトのデスティニープランを止める術を持つほどの勢力は殆ど存在しないと言ってもいい。ロゴス反発によって高まった多くのデュランダル支持者によって新プラント派の殆どは受け入れ態勢を整えている。

即座に反対を提唱したスカンジナビア王国と沈黙を決め込んだ南アメリカ、残党の親ロゴス派連合などは表立った反発を示しているが、他はどちらかと言えば賛成寄りの保留としている所が多い。そして、仮に保留している国を含めたそれらすべての勢力が敵対したところで烏合の衆に過ぎないそれらに今のザフトに勝つ見込みは薄いと言える。

 

「だが、だからと言って俺達に打つ手がないというわけでもない」

 

しかし、バルトフェルドはそんな状況下にありながらも勝算が無いわけではないと口にする。確かに一見すればザフトに――――否、デュランダル議長の提示する政策に正面から対立することは無謀だと思える。

だが、そんな中、デスティニープランに対して反対を示したのはなにも地上の勢力だけではない。プラントの内部でも不安を覚えた者らによって派閥の様に勢力が分かれたのである。とはいえ、その確執がすぐに表立つという事もなく、互いに撃つことを躊躇っているため未だに大きな戦端が開かれることはない。

現状、確執が生まれたことによる最も大きな戦闘は、互いの最新鋭機同士でメサイア付近に起きたマーレとレイの戦闘だ。そして、その情報もザフト内ではともかく、外側には広がっていない為、彼らも詳しく知っているわけではない。だが、現在のザフトが内部で問題が起こっているという事は確認できた。

 

「そういった面から考慮すれば……もしかしたら、彼もそちら側についているかもしれない」

 

無論、それはあくまでも予想に過ぎない為、本当にそうなっているかどうかは分からない。だが、彼らは止まるわけにはいかないと、議長の考えに賛同するわけにはいかないと判断して突き進むのである。

 

「敵艦、敵MS多数接近、来ます!」

 

「各員、第一戦闘配置!ここからは一瞬も気を抜けないわよ!」

 

遂にアークエンジェルを先陣にメサイア攻防戦が開始される。未だ敵と味方が入り乱れ、誰が誰を味方すべきなのかを迷う状況の最中、彼らの戦いが遂に始まった。

 

 

 

 

 

 

「デュランダル議長――――今回は以前の戦闘と違い護衛はいません。くれぐれも撃墜されないようにしてください!」

 

「ああ、分かっている。発進させるぞ――――各員、出撃後は指定されたポイントで防衛する様にしろ。指揮権は一時的にメサイアの司令部に一部の部隊を除いて完全に手渡す」

 

ノーマルスーツを着込み、デュランダル議長はノイエ・ジールⅡに乗り込む。その様子を確認しながらノイエ・ジールⅡを整備していた技術者や議長の関係者が乗り込む様子を見ながら注意すべき点を確認する。

 

「ハッ、了解いたしました!」

 

「ギルバート・デュランダル――――ノイエ・ジールⅡ、出るぞ!」

 

エンジンに熱を入れ、スラスターを噴かせ始める。機体を固定するために取り付けられていたワイヤーが取り外され、ノイエ・ジールⅡは始動する。

 

「さて、いの一番に飛び込んできたのはアークエンジェルか……予定通り、いや寧ろ予測とは外れたとみるべきかね」

 

ヘルメットのバイザーを閉じ、OSを起動させ射出されメサイア内部から宇宙空間に出ると同時にノイエ・ジールⅡを大きく開かせる。演出として機体を魅せることで議長と機体の印象を強く結びつけた。味方の近くにいたザフトの軍人の多くはその操縦技術や機体の魅せ方の上手さに見惚れ、状況によっては味方を撃つかもしれないという緊張を自然とほぐれさせる行為となる。

 

「まさに道化だな――――しかし、だからこそ、こういった演出(パフォーマンス)は有用だ」

 

自身すらも利用して計画を実行する。当然の行動であり、それはあっさりと成功していた。そして、この過剰とも言える演出には他の役割も果たされる。

 

「精々、私とこの機体に皆惹きつけられていたまえ。君たちが私という存在に注意すればするほど、影は目立たなく、そしてより強大なものとなる」

 

猛禽のように鋭い目つきをして議長は獲物に狙いを定める。最初の狙いは白亜の不沈艦――――アークエンジェルとそのMS。

 

「さあ、キラ・ヤマト――――まずは君の可能性を見せてもらおう!」

 

 

 

 

 

 

「グラディス艦長!戦闘が始まったというのは本当ですか!?」

 

アスランが焦った様子でミネルバの艦橋に立ち入る。現在ミネルバ側の陣営は立場が非常に危うい所にあり、一触即発とまではいかないが状況次第では同じザフトで争うことになるような状態であった。しかし、それもまだ先の話であり今はあくまでも両者の立場は組織内の右翼と左翼に近いようなものであった筈だ。

にもかかわらず戦闘が始まった。それが意味するところは非常に大きな混乱が生まれ、互いの戦闘は血で血を洗う泥沼の戦いになる可能性を秘めている。クラウ・ハーケンなどは『このまま事態が悪化すればまさにエゥーゴとティターンズになるね』などとメサイア内部で一人そう発言していることから現状の危うさは理解できるだろう。

 

「そうね……でも、戦闘を始めたのは私達ではないわ」

 

「では、地球軍かロゴスの残党が?」

 

少しだけ安堵した様子を見せながらアスランは可能性としてありえる地球連合関係なのかを尋ねる。しかし、これに対してもタリア・グラディスは首を横に振った。

 

「貴方には言い辛いけど、アークエンジェルとそれに属した部隊みたい……全く、彼らはまた正義の味方とでも言いたいのかしら?」

 

タリアとしても苦々しい思い出もある為、少々皮肉を込めたようにアスランに棘のある言い方をする。アスランは苦虫を噛み潰したような表情となり、何を話せばよいのか迷う。

 

「……援護は、無理ですよね」

 

「一応、どちらに対して――――と返してあげるわ。貴方も現状を理解できていないわけではないでしょう?私達の方から動くのは無謀よ。私達は軍人で、彼らの様に正義の味方をしてるわけでも、味方殺しをしたいわけでもないの。わかるでしょう?」

 

アスランも理解は出来ている。今の情勢でどちらに加勢するにも不安定な状況だ。だが、それを眺めていることでしか出来ない現状にアスランは歯痒さを感じる。

 

「でも、いざというときの為に準備はしておいて頂戴。こちらに飛び火しないなんて楽観は出来ないわ」

 

「わかりました。マーレ達にも伝えておきます」

 

そう言ってアスランは自分の無力さを痛感しながらも、いつでも対応できるようにするべく艦橋から退出していった。

 

 

 

 

 

 

「――――来るッ!」

 

直感が働き、襲い掛かってきたビームの射線をキラは機体を横に回転させることで回避する。

 

『ほう、ミーティアか……そのような骨董品はもうないと思っていたのだがな』

 

ストライクフリーダムに取り付けられた巨大な装備――――ミーティア。メサイアを落とす為に有効だと判断してキラがストライクフリーダムに装備させた兵器だ。だが、エターナルが沈んだ事を把握していた議長はそのエターナルの附属品とも言えるミーティアが残っているとは思っていなかった。実際、エターナルのミーティアは既に存在していない。

しかし、今キラがストライクフリーダムに装備させているミーティアはアメノミハシラでジャンク屋から提供されたものであり、エターナルにあるものとは別のものである。かつてサーペントテールがジャンク屋によって渡されたミーティアがあったようにアメノミハシラにもミーティアが存在しており、それを経由して渡されたのだ。

 

『いきなりトップのご登場というわけか。それは流石に我々を軽んじすぎではないかね?』

 

『逆に高く評価しているとは考えてくれないのかい?』

 

機動力の高いリゼルに乗ったバルトフェルドはビームサーベルを抜いて斬りかかるが、議長は後ろに目でもあるかのようにずらす程度でその攻撃を避け、そのまま腕を反転させて掴もうと反撃する。だが、掴まれそうになりつつもリゼルのスラスターを全開にし、距離を取ることで何とか届かせずに済んだ。

 

「下がってください、バルトフェルドさん!あの人は僕が抑えます!だから、アークエンジェルと一緒に!」

 

『分かった。しかし、キラ君――――くれぐれも落とされないでくれよ!』

 

デュランダル議長一人を相手にこちらが足止めを食らうわけにはいかないとキラは一人で止めるという。バルトフェルドやオーブのMS部隊もそれに同意して艦と共に先に進む。

 

「どうして貴方は!」

 

ノイエ・ジールⅡの二門のビーム砲からの攻撃によって再びキラを襲う。その攻撃をキラは回避してビームを放つがノイエ・ジールⅡの高機動によってあっさりと躱される。

 

『君たちが誰もが分かり合える世界という理想を求める中、私は私なりの結論を導いたに過ぎない。今ここで私を斃すという事は、君達という存在が新たな混迷を生み出すという事になる。本当に良いのかね、それは?』

 

「違う!確かに僕たちが止めようとしたことでそうなってしまうかもしれない。でも、今諦めてしまったらそこで総てが終わってしまう!争いによって生み出した平和はやがて新たな争いを生み出すことになってしまうんだ!!」

 

ミーティアが装備する多数の対艦ミサイルが放たれ、ノイエ・ジールⅡの移動ルートを狭めようとする。

 

『傲慢だね、流石は最高のコーディネーターだ』

 

議長はそのミサイルの大群に対してドラグーンを展開させ、次々と誘爆させていった。正面から襲い掛かってきたミサイルに関しては八十mmバルカンによって迎撃されていく。

 

「人を遺伝子で束縛しようとしている貴方も十分に傲慢だろうにッ!」

 

議長のドラグーンを撃ち落とためにキラもストライクフリーダムのドラグーンを起動させる。

 

『なら私を斃してそれを証明をして見せるがいい。聞こえの良い言葉だけならば子供でも言えることだよ』

 

一気に接近するノイエ・ジールⅡ。それと同時に互いのドラグーンがお互いに撃ち落とそうと交差する。そのドラグーン同士の合戦は交差していくたびにあからさまなものとなっていった。ノイエ・ジールⅡのドラグーンがビームを放つのだが、その攻撃はミーティア本体とドラグーンに撃ち抜かれていく。

議長はノイエ・ジールⅡのドラグーンでキラが操るドラグーンを撃ち落とそうとしたが、逆にストライクフリーダムのドラグーンは突撃し、ビームソードのように砲口前方に固定することでノイエ・ジールⅡのドラグーンを切り裂いた。

 

『チッ、流石に性能差があるか……!?』

 

ストライクフリーダムの使用者の空間認識能力に依存しない第2世代ドラグーンをベースとしているが、キラ・ヤマトが使用することを前提に更なる高性能化がなされた結果、特異な空間認識能力が必要とされる兵装である。その性能はドラグーンの中でもトップクラスと言っても過言ではない。

一方で議長の操るドラグーンも性能が決して低いわけではないが、元々連合のデータをベースにして造られた兵器であるためドラグーンの性能はカオスのポッドと同等、或いはそれ以下のスペックしか持たなかった。そういった面での性能差が結果として表れた。

 

『しかし――――』

 

ドラグーンがいくら撃ち落とされようとも議長の乗るノイエ・ジールⅡ本体に被害がいく筈もなく、議長はミーティアに対して距離を詰め、右手にビームサーベルを構える。

 

「やらせないッ!」

 

ミーティアも大型のビームソードを展開してノイエ・ジールⅡを切り裂こうとする。最大出力で廃棄コロニーをも切断することが出来るビームソードはノイエ・ジールⅡを切り裂いた――――かに見えた。

 

「何ッ!?」

 

『パワーではこちらの方が上のようだな!』

 

ミーティアが振り下ろした右のビームソードのアーム先端部をノイエ・ジールⅡの左手が握る事によって防ぎ、そのままノイエ・ジールⅡの右手のビームサーベルはミーティアの左のアームの中ほどを貫く。

所詮ミーティアはMSが動かしている道具であり、そのアームはストライクフリーダムが連動して無理矢理動かしているに過ぎない。しかし、ノイエ・ジールⅡの腕は当然その機体に元から存在する腕であり、クローアームとして使える位の硬度も存在している。

 

「でも、動きは止まった!」

 

そう叫んでキラはドラグーンと正面腹部のカリドゥスでノイエ・ジールⅡを狙い撃ちにする。だが、放たれたビームはその総てがノイエ・ジールⅡに命中する前に霧散する事となった。

 

「これは、あの時の!ザフトもこれを!?」

 

デストロイと戦った時の事を思い出し、ビームが霧散した原因がIフィールドであると理解する。しかし、理解しても攻略方法はそう多くない。実弾兵器か、接近戦での近接武装でなくては致命打は与えられない。

 

『さあ、これをどう突破する、キラ・ヤマト?』

 

大型兵器同士における決戦は続いていく。

 




ノイエ・ジールvsデンドロ……じゃなくてノイエ・ジールⅡvsミーティアです!エターナルが沈んでもミーティアの予備はあるんです(笑)
第一SEEDの頃に既にぶっ壊れてそれがナンバー変えて復活したんだから新しいのが他にあってもおかしくないはず……多分。

没シーン
キラ「議長、満足なんでしょうね。でも、ラクスを討たれた僕たちにとっては屈辱なんだ!」
議長「戦いの全ては怨恨に根ざしている、当然のこと。しかし怨恨のみで戦いを支えるものに私は倒せん! 私は義によって立っているからな!!歯車となって戦う男には解るまいっ!」

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