ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第八十話 事を成す為に

キラとデュランダル議長がザフトの本隊から離れた所で戦っている最中、ザフト本隊が駐在するメサイア周辺でも戦闘が行われていた。

 

「ゴットフリート、一番二番照準!てぇ――――!」

 

アークエンジェルとクサナギといった複数の艦隊は密集陣形を取り持ちながら砲撃を行う。既に戦闘開始から多少の時間が経過しているが、未だ両者の戦線は膠着状態である。ザフト側は防衛が主なので当然であり、アークエンジェル側は正面から向かえば集中砲火を受けることは確実であり、それを避けるため、未だに両者は距離を詰めておらず、現在はMSの射程距離が届かない艦隊同士の砲撃戦となり、その結果、戦線は膠着していた。

 

「敵MS、多数――――来ます!」

 

『MSの迎撃は任せたまえ!それよりもアークエンジェルはメサイアへの突破口を!』

 

先にしびれを切らしたザフト側の部隊はMSを出撃させて艦を直接叩こうとする。だが、接近してきたザフトのMS部隊に対してリゼルに乗ったバルトフェルドや他のパイロットたちは反撃を開始しだした。リゼルはスペックの関係上、その性能はピーキーなものだがムラサメやザク、グフ果てはゲルググといった量産機のシリーズの中でも上位の潜在能力を持っている機体だ。

無論、その性能を引き出すことは非情に難しく、そういった意味では本来量産には向かない機体なのだが、バルトフェルドのようなエースパイロットが乗るに相応しい機体ではあることは間違いなかった。

 

『さあ、かかって来るがいい。この砂漠の虎が直々に相手をしてやるぞ!』

 

専用カラーのバルトフェルドのリゼルはザフトのMSをビームランチャーで次々と貫く。その様子からバルトフェルドの機体が隊長機だと判断し、ザフトの部隊は集中砲火を仕掛けてきた。

 

『おっと、狙いをこちらに絞ってきたかね?だが、ただ単純に攻撃を仕掛けに来たのでは俺は落とせれんぞ!』

 

バルトフェルドはリゼルの限界性能を引き出しいる。高機動によって敵を攪乱し、エースパイロットの名に恥じない活躍を見せ、そのまま敵部隊を前にしても引かずに、寧ろ突き進んでいく様はまさに勇往邁進と言った所だろう。

 

『邪魔だよ、死にたくなかったら退きな!』

 

『奴さん、数だけは一丁前に揃っているんだな』

 

バルトフェルドに続いて後続のMS隊もザフトのMSを迎撃していく。ヒルダとマーズもドムのギガランチャーで次々と敵を撃ち落とす。そうした中で一機のグフがヒルダのドムの懐に入り込むが、切り裂こうとビームソードを振り上げると同時にヒルダはスクリーミングニンバスを発動させ、グフを一瞬吹き飛ばして逆にビームサーベルで切り裂いた。

 

『俺は余裕があるわけでも、殺さないでおくほど技量が高いわけでもないんでね。立ち塞がるというのなら、それ相応の覚悟を持ちたまえよ!』

 

リゼルのビームランチャーの威力は相当なものであり、正面にシールドを構えたMSですらあっさりと貫かれてしまう。ガナーザクウォーリア―がオルトロスを構えて収束ビームを放つが、リゼルの機動力を前にそれが当たるはずもなく、シールドランチャーを放たれそのまま砲身の誘爆によって撃破する。

 

『一度味方を後退させろ、こちらからの砲撃の邪魔だ!』

 

「敵の陣営を少しでも崩すわよ!ローエングリン照準!目標、前面十一時の方向にいるナスカ級!!」

 

しかし、いかに彼らが獅子奮迅の活躍をしようとも、いかんせん敵の数は文字通り桁違いに多い。それを打破するために、或いは自分たちが流れを掴むためにアークエンジェルの艦長であるマリュー・ラミアスはローエングリンによる攻撃を行おうとする。その様子に気付いたザフトの部隊は止めようと、或いは躱そうと行動するがバルトフェルド達の乗るMSやアークエンジェルの迎撃によって迂闊に近づけずにいた。

 

『ま、不味い!?こちらを狙っているのか!か、回避しろ!』

 

『無理です、間に合いません!?』

 

「ローエングリン、てェ――――!!」

 

狙われたことを察知したナスカ級だが、回避できるほどの余裕はなく、収束されていく粒子の光によって誰もがナスカ級が轟沈する未来を描いた。事実、そうなってもおかしくなかっただろう。しかし、それは予想だにしない形で覆された。

 

『あの時の借り、返させて貰うぜ』

 

ローエングリンが発射されようとした直前、その斜め上から一筋の閃光がローエングリンを撃ち貫いた。砲身が爆発を起こし、アークエンジェルはその爆発の衝撃によって大きく傾く。

 

「いったい……何が……!?」

 

発射直前にローエングリンを撃たれたことを驚きながらもマリュー達アークエンジェルのクルーは状況を確認しようとする。そして、アークエンジェルの上方に位置する場所に一機のMSが存在しており、それがローエングリンを撃ち抜いた敵だという事を理解した。

 

『ダーダネルス海峡の時に同じ目にあったんだからな。恨みっこはなしだ』

 

その機体の右手に構えられたビームライフルによってローエングリンは撃ち抜かれたのだろう。翼を持つ特徴的なシルエット、そこから展開している光の翼、そして何よりパイロットが誰なのかを証明するオレンジカラー。

 

『さあ、今日こそお前らの年貢の納め時だ!叩き切ってやるぜ、徹底的にな!!』

 

右肩に装着されているアロンダイトを引きぬいて正面に構えながら――――フェイス所属のパイロット、ハイネ・ヴェステンフルスはアークエンジェルに剣先を向けて討ち落してみせると叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「手に入ったのは、この程度の機体か……しょうがないと言えばそうなってしまうが、だとしても正直きついな」

 

メンデルでファントムペインが持つ数少ないルートからの補給を依頼し、そこまでして手に入ったのは多いとは言えない補給物資と、性能的には満足できないシビリアンアストレイ程度の機体しか手に入らなかった(本来は戦闘での使用は禁止されているのだがファントムペインにとってはそんな規則はあってないようなものであり、売りに来た側もそのことを重々承知している)。

とはいえ、シビリアンアストレイは背面が規格化されているため、バックパックに様々な装備を取り付けることが出来るという利点も存在している。カスタムタイプに至ってはかなりの高性能を引き出せる機体にすることも可能であり、大きな可能性を秘めている機体だと言えるだろう。マーシャンの機体などがその最たる例だ。尤も、物資の乏しい今の状況ではガーティ・ルーに元々あったガンバレルパックの進化系であるエグザスパックを取り付ける位しか改造の余地はないのだが。

 

「ま、元々使い捨てる気だから問題はないか……」

 

そもそもいくら数多くの機体があったところで残っているパイロットがごく少数である。操作するだけならともかく、戦闘を行える程のパイロットは最早ネオとアウル、エミリオの三人ぐらいしか居ないだろう。そして、エミリオにはロッソイージスが、アウルにも中破していたとはいえシビリアンアストレイなどのパーツを流用することで一応の補修を済ませたG‐Vがあり、実質操縦するのはネオの一機だけである。

 

「使い捨てるとはどういうことだ?」

 

「エミリオか……どうもこうも、そうでもしなけりゃ俺らに勝ち目はないって事さ」

 

「死ぬ気か?」

 

使い捨てるという事はつまりパイロットであるネオは死ぬ気なのかと尋ねる。地上でならまだしも、宇宙で機体を捨てるなどというのはただの自殺行為だ。生き延びる可能性など殆どない。しかし、ネオはその疑問に対して否定した。

 

「死ぬ気はないさ。そもそも使い捨てるって言い方が悪かったかね?最終的にはこいつを捨てるってだけの話だ」

 

そう言われてエミリオもネオの狙いが何なのかようやくある程度の察しがつく。

 

「まさか……機体を奪取するというのか!だが、出来るのか?アーモリーワン以上に難しいだろう?」

 

「オイオイ、流石に狙うのはそっちじゃないって。俺達が向かうのは廃棄済みだろうあっちの方だ。お目当ての代物にもこっちの情報網で見当はつけてる。ま、今もあるかどうかに関しては賭けになるだろうがな」

 

情報に関してはそれなりに信頼できる筋からのものだが、問題はその情報が今も正しい情報なのか否かだ。ダナが裏切ったことも含めて、現在はどの情報が正しく、どれが間違っているのかは分からない。さらに言えば情報が正しくともそれは既に過去のものであり、今もなおそこにあるかどうかに関する保証はないのだ。

 

「ま、こればっかりは行ってみない事には分からないからな……」

 

メンデルで補給を済ませ、出撃の準備を終えるガーティ・ルー。結局、メンデルを使った質量兵器としての攻撃を仕掛ける作戦は無しとなった。移動させようにも加速させるための物資も足りず、無理があり過るためだ。そもそもブレイク・ザ・ワールドの時の様に地球の重力に引かれるという事自体が無い為、単独ではまともに移動させるのも困難である。

そうしてメンデルから出る直前にネオはガーティ・ルーにいる乗員全員を集めた。いつでも出航は可能であり、多くのクルーは出航前に集まったこの状況に何が行われるのか大体察しがついているようだ。

 

「よく集まってくれた。態々こうやって全員一斉に集めた理由なんだが……あー、何から話そうか?

何だ、まあ……俺達はもうファントムペインという組織の人間じゃない。ロゴスが滅び、ジブリールも死んだことで責任も、義務も、それどころか権利や立場だって失った。今じゃ俺達はただの根無し草ってやつだ――――そして、俺達がこれから行うのはただの私怨だ。自分勝手な行動に過ぎないし、それどころか勝ったところで何が得られるっていうわけでもない」

 

ネオの発言にクルーの全員は沈黙する。それが現状の嘆きからなのか、それとも同意からなのか、様々な意味合いでの沈黙だが、誰もがネオの話に口出しせず、ただじっと話を聞き続ける。

 

「寧ろ、世界が変わっていくこの世の中で俺達のやってる事は何一つ意味のない事だろう。価値も名誉も、存在理由もない今の俺達のこれから行う行動は徒爾に終わる結果が待ち受けている。ならどうする?引き下がって身を隠しながら、影に潜みながら生きていくか……それとも、諦めて投降するか?」

 

それもまた一つの人生だろう。生き恥を、そして死に恥を曝してでも生き残りたい人間というものはいるのだ。ネオとしてもそれを根本から否定する気はない。

 

「それを望むというのなら俺は止めない。別に責めたりもしないさ。故郷に家族が待っている奴だっているだろう?別に、これから行う無意味ともいえる闘争から逃げることは悪い事じゃねえ。というか、そっちの方が絶対正しいんだよ……だけどな、俺は、戦う――――最後まで俺は戦って生きていくって道を選ぶことにした!お前たちは満足か?今の状況に、こうなっちまった世界によ?もし違うっていうなら――――お前達もこの俺に手を貸してくれ!!」

 

答えは聞くまでもなかった。元々、ファントムペインに所属し、彼の部隊にいたクルー達は最後までついて行くつもりだったのだ。全員が一斉に敬礼し、彼らは戦う事を改めて決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

「では、公式的な会談は不可能と?」

 

「申し訳ございません。我々としても少しでも早く戦争を終結させたいとは思っているのですが……やはり会談を開くには無理があるかと」

 

プラントに到着したカガリはプラント政府の関係者と会談を開けないかと外交官に尋ねるが、カガリの現状の立場の弱さとオーブとプラントの関係性もあり、やはりそう都合よく対話をするなどというのは難しい事だった。

 

「――――非公式でも構わない。とにかく、プラント側の正確な意思を私としても把握したいんだ」

 

食い下がると言うには些か要求が弱いが、せめて話だけでもと交渉を続ける。

 

「そうは言われましても……正直な話、我々としても意思決定は複雑なものとなっておりまして……」

 

「やはりデスティニープランに対してプラントも賛同者だけではないという事か?」

 

公式での来客ではないとはいえ大使であるカガリに対して、外交官も言葉を選びつつ話す。

 

「それはまあ、いきなりの改革ですからね。誰だって少なからず不安もあるでしょうし……ここだけの話、デスティニープランに懐疑的な意見を持っているのは割合的には地上よりもプラントの方が多いって噂ですよ」

 

プラントも一枚岩ではない。穏便派よりの中立派であるルイーズ・ライトナーやごく少数ではあるが市民の反発、そしてザフト内での派閥の分裂など、ブレイク・ザ・ワールドや戦争によって疲弊した地球よりも余裕のあるプラントの方が問題が発生していた。

 

「そうなのか……今すぐには無理でも時間を掛ければ会談を開くことは可能か?」

 

その話を聞いてカガリは今の状況が想像していたものよりも危険であると判断する。実際、ザフトと連合が意見を喰い違えて戦争が続くことになるというのであれば、まだましだと言える。敵と味方、勝利と敗北の条件がはっきりとしているからだ。

しかし、ザフトが内部分裂によって争うというのであれば何が勝利条件となり、誰が敵で誰が味方なのかが混乱することになるだろう。デュランダル議長を斃せば終わりか?敵の敵は味方という理屈で連合とザフトの反対派が手を組むというのか?間違ってはいない。しかし、果たして本当にそうなるだろうか。

議長を斃してもデスティニープランというある種の解決策を提示されてしまった以上、他の人間がそれを引き継ごうとすることだろう。手を組んだ両軍が勝ったとしても、今度は両者の利権による諍いが起こるだろう。そういった意味ではデュランダル議長はこれまでこの上なく上手く両軍を纏めていたと言ってもいい。共通の敵を生み出し、その大義を分かりやすく提示し、それが終われば考える猶予を与える間もなく新たな解決策を魅せる。そして、自らが討たれたとしても後を引き継ぐものがいる状態を整えていると言える状況なのだ。

 

「思った以上に厄介な……いや、危険な相手だ」

 

「は?何かおっしゃられましたか?」

 

心の中で呟いていたつもりだったが、どうやら最後の言葉を口に出していたらしい。外交官に尋ねられ、カガリは慌てて誤魔化す。

 

「いや、何でもない。それよりもどうだ?やはり、長期的に見ても会談を成立させるのは難しいのか?無理だというのであれば、せめてこちらの意思を伝える手立てが欲しいのだが――――」

 

とにかく彼女は少しでも早く解決する手立てがないかを模索するために外交官との交渉を続けていった。

 




シンではなくハイネの方が先にデスティニーで登場。まあ、主役は遅れてくるっていうしね!

後、今年の更新はもうないかもしれないです。実家に帰ったら流石に書く時間もあまりないような気がしますし。

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