ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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Merry Christmas!

クリスマス――――イエス・キリストの降誕祭であり、旧世紀の日本ではプレゼントと共に愛を送る最大のイベントデーでもある。宗教が形骸化したC.E.であってもかつては世界三大宗教として数えられてきたキリスト教最大のイベントであるこの日は特別であり、多くのプラントでも雪を降らせ樅ノ木を模倣して用意された知恵の樹を飾り付けてプラントの各所に飾られていた。

 

「さあ、ステラ!今日はクリスマスだよ。皆にプレゼントを配りに行こうじゃないか!」

 

「おー!」

 

この日の為にサンタクロースのコスチューム(ステラは当然ミニスカサンタ)とプレゼントを用意したクラウは今宵プレゼントを周りに配るという使命が存在していた。

 

「でもクラウ?またギルに叱られないの?」

 

「フフフ、今回は抜かりなし。議長には既に機体を用意しているし、有給も取った。その際、もうお前に有給はないとか言われたけど、これまで有給取った記憶が無いから大丈夫な筈。ついでにレイを買収したから問題ない」

 

そう言って不気味な哂い声を上げるクラウ。端的に見て犯罪者とその被害者の構図に見えるぐらいには怪しい二人組。現場を見られ、彼らがサンタコスをしていなければ今頃通報されていたことは確実だろう。ちなみにレイの買収の為に使ったのは議長写真コレクションC.E.73年限定版だ。正直誰に需要があるのかとクラウは問いたくなるが、これが意外と人気があるらしい。池田ボイスだからだろうか?

 

「では、行くとしようか!」

 

「ちょっと待ってもらおうか」

 

「何!?」

 

そう言って目の前に現れたのはサングラスを掛け、普段とは違うかつてのアレックス・ディノの服装でやってきたザフトのエースパイロット――――アスラン・ザラだった。

 

「俺も連れて行ってもらおう。お前達だけでは不安だ」

 

「……どうせそんなこと言って、アスランはハロウィンの時にはぶられて一人でハロウィンだけにハロ(ウィンの)チョコとかでも作って体育座りでもしてたんじゃないの?だから今回ははぶられないために先手を打ちにきたとか?」

 

「クラウ、お前は言ってはならんことを言ったな!」

 

「逆切れなの!?俺は思ったことを言っただけだよ!」

 

アスランは強烈な蹴りを放つ優秀な技術者兼パイロットではあっても戦士としては一流とは言い難いクラウはあっさりとアスランの渾身の蹴りをもろに受ける。

 

「……ヅラが……ガクッ」

 

「ヅラじゃない!ザラだ!!」

 

そう言って気絶した相手に追撃を掛ける程度には今日の彼は容赦がなかった。余程ハロウィンの時にはぶられたことが堪えたのだろう。その様子を影から見て、いつ介入しようかワクワクしていたギルバート・デュランダル(サンタコスチューム)は愕然としていた。

 

「一回はぶられるだけで人類はここまで愚かに成れるというのか……やはり人は遺伝子によって導かれるべきか」

 

ギルバート・デュランダルはこの現状を確認し、後にこのことがデスティニープラン実行を決める最大の要因となった……なんというか、こんな理由でデスティニープランが決められてしまうあたり、今日もプラントは平和である。

 

「ギル、用意しておいた荷物は如何するおつもりで?」

 

ソリとプレゼントを用意し、トナカイコスチュームをしたレイはサンタの姿をしている議長に対してそう尋ねる。買収されたとはいえ、議長に頼まれればあっさりと手の平を返すあたり、レイは平常運転である。

 

「止む得ないな。決行は中止だ。ただちにこのカメラに収めたステラのサンタコスの現像に移る事にしよう」

 

そう言って持っていたカメラを片手に上機嫌な様子で帰っていく議長。彼にとってはクラウが痛い目にあったこととステラの写真が撮れたことで満足したのだろう。

 

(……ステラ・ルーシェ……やはり貴様が俺にとって最大の障害か?)

 

その議長の様子を見て、レイがそう思ったのはある意味当たり前のことだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「メリークリスマス!」

 

「「「いえーい!!」」」

 

ミネルバクルーの中でも同期を中心に開かれたシン達のクリスマス会は店を貸切にして行われていた。持っているジュースの類は様々であるが一番多かったのはクラウが貸切の手続きをしてくれた際に発注していたという炭酸飲料だ。サンタクロースの赤と白を定着させた例のコーラ飲料である。何本かマメッコーラと書かれたコーラが紛れ込んで置いてあるが、それに対しては誰も手を出していない。

 

「しかし、まあ今年も色々とありましたな~」

 

「ちょっとヨウラン。年寄臭いわよ」

 

「マジで!?」

 

ヨウランとルナマリアが軽口を叩きあい、周りも同じように和気藹々と盛り上がる。

 

「じゃあビンゴゲームしようぜ!ビンゴゲーム!」

 

「いいや、プレゼント交換が先だろ?」

 

「何でもいいから早く始めろよ!」

 

イベントデーという事もあり、テンションがおかしな方向に向いていたりする者も多く、普段よりも騒々しい。結局、多数決で多い順から順番に行っていく事になった。

 

「こんのぉぉぉ、裏切り者がぁぁぁ!?」

 

「調子に乗ってくれちゃって!」

 

人生ゲームで呆気なく手を結んでいた相手に裏切られるシン。他のメンバーにあっさりと追い抜かれるルナマリア。二人は思わず、叫んでしまう。

 

「当たらなければ、どうという事はない!」

 

「それってつまりビンゴのルールではあがれないって事ですよね?」

 

「え、そうなの!?」

 

ビンゴのルールをはき違えていたのかショーンはリーチにすらなっていないビンゴを眺め、それをメイリンに指摘される。そうやってクリスマスパーティーを楽しんでいると、二人の人物が現れる。

 

「メリークリスマス!さあ、お前たちにプレゼントを持ってきたぞ!」

 

「あ、アスラン!それにステラも!?」

 

登場したのはアレックス・ディノの頃の服装から着替えてサンタクロースの格好をしたアスランとステラの二人だ。背中には白い袋を背負っていた。

 

「今はサンタであってアスランではない。さあ、プレゼントだ」

 

そうしてアスランはハロウィンの時とは違い、はぶられることなくクリスマスのイベントに参加することが出来た。

 

「アスラン達も参加しますよね?どうです、これからダーツゲームでもしますか?」

 

「ああ、なら折角だしやってみようかな」

 

その後もクリスマスパーティーは盛り上がりを見せ、熱気が渦巻いていく。ちなみにアスランは501ルールであっさりとクリアしていた。彼の射撃の腕はダーツにも反映されているらしい。

 

「ふう、のどが渇いてきたな……ん、ふたの開いてないコーラがあるな、これでいいか」

 

「あ!?それは!」

 

アスランが手に取ったコーラの銘柄を見てシンが止めようとしたが少しばかり遅かった。アスランは既にマメッコーラと書かれたジュースのふたを開け一気に呷いだのだ。一瞬の静寂、そしてアスランの頭の中で何かが弾ける。まるでSEEDが覚醒したかのような錯覚を覚えるほど、このコーラは味の革命(レボリューション)(もちろん悪い意味で)を巻き起こした。

 

「ヌボォォォォ――――!?」

 

まさに覚醒落ちである(先落ち2500はツライ)。アスランは頭の中が爆発したような衝撃を受け、そのまま撃墜された。

 

「あ、アスラァァァン!!??」

 

誰もが心の中でこう思った。恐るべし、マメッコーラ――――

 

 

 

 

 

 

「いや~、やっぱ冬は鍋だよな~」

 

「宇宙に季節などないぞ」

 

「ていうか、地球でも今は北半球だけだっての」

 

エミリオとダナがネオに対してツッコミをしつつ、月基地の一角でファントムペインの部隊は現在鍋パーティーを開いていた。流石に宇宙という事もあってか闇鍋などは自重しているものの、それでも十分贅沢な食事だと言えるだろう。

 

「おらー、呑め呑め。今日は朝まで呑んでパーっといこうじゃないの!アウル、出汁を取らないといけないんだから肉と魚を最初に入れろ!」

 

「だから、宇宙に朝夜の時間もないと……その酒は一体なんだ?」

 

「しかも鍋奉行かよ……」

 

どこから持ってきたのかネオがジャパニーズサケこと日本酒を取り出してコップに注いでいる。エミリオは冷静にツッコミを続け、ダナは呆れるが誰も気にしない。こういうものはノリが重要なのである。

 

――――一時間後――――

 

「まったく、マニュアル通りにやっていますというのは阿呆の言う事だって言ってるだろうに!」

 

「アハハ、アハハ――――なんだよ、それ!馬鹿ばっかじゃん!」

 

「マニュアルが悪いというわけではないと思うが……」

 

「日本酒って結構きついのな」

 

ネオが部下たちに対して文句を言い、それに対してアウルが笑い、エミリオは酒をチビチビと飲みながらツッコミをする。ダナは一人話に加わらず少し離れた所で酒を飲んでいた。

 

――――三時間後――――

 

「俺だってよ……誰も死なせたくなんかないんだよ……何で先にいなくなっちまったんだよ。スティング、ステラ~」

 

「汚名卍解!なんちゃって、アハハハッハ――――」

 

「名誉挽回の間違い……いや、それ以前に挽回の字も……ウプ……」

 

「お前ら、確実に酔ってるよな……もうやめた方が良くねえか?というか、エミリオ……吐きそうならもう止めとけ」

 

酔いも回ってきたのだろう。ネオは泣き上戸の状態でエクステンデットの二人が居なくなったことを悲しむ。それに対してアウルは最早笑い上戸と化しており、話を聞いていたエミリオも変わらずツッコミをするが吐きそうになっていた。

 

――――五時間後――――

 

「我が世の春が来たァァァ――――――!!!」

 

「アハハ、誰かゾオン系の幻獣種でも持って来いよ!アハハハハハ――――」

 

「この気持ち悪さは……ウェ……コーディネーターのせいだ……だからコーディネーターは、殺す」

 

「…………」

 

一人離れた所でダナは様子を眺めながらこう思った。駄目だこいつ等、と――――これが原因で、ダナはファントムペインの部隊を裏切り、議長につくことを選ぶのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

こじゃれたバーでフロートのカクテルを飲みながら一人でいることを楽しんでいたマーレは、ハイネが偶々同じバーに来たので話しかける。そうやって雑談を交わしながら彼らは酒を楽しんでいた。

 

「――――そう言えばお前は何かクリスマスプレゼント貰ったのか?」

 

「俺達は大人だって割り切れよ、出ないと――――死ぬぞ?」

 

妙に煤けた様子を見せながらハイネは痛ましげな表情で虚空を見つめる。スライスオレンジをのせたスクリュー・ドライバーを飲みながらである為、非常に絵になる構図であり、事実周りの女性客の目を惹いているのだが話している内容が虚しいだけにマーレは微妙な表情をする。

 

「ハイネ……お前、プレゼントもらえなかった事がそんなに悲しかったのか……」

 

「プレゼントもらえなかったから言い訳してるわけじゃねえさ……こ、子供とは違うんだよ…子供とは……」

 

「いや、無理すんなって」

 

(誰に対してかは知らないが)やはり少しはプレゼントが来ることを期待していたのだろう。ハイネはプレゼントを無かった事にショックを受けていた。マーレは落ち込んだハイネにおかわりを持ってくるようマスターに告げた。

ちなみにマーレは元々プレゼントなど貰う気もない為、あまり気にした様子はなかった。

 

 

 

 

 

 

「うん、やはりコーラはマメッコーラのこの味でなくては」

 

「お前のその味のセンスに対して理解できる日は一生来ないだろうな……」

 

そう言ってルドルフは優雅にマメッコーラを飲み続ける。アレックはその様子を見ながらうんざりとした溜息を吐いた。

 

「そうか、残念だ。しかし、今回はミネルバのクリスマスパーティーに幾つか持って行ったからな。僕の共感者が増えてくれるといいのだが――――」

 

「オイ、馬鹿止めろ!?」

 

アスランをマメッコーラで撃墜した犯人はルドルフであった。後日、ルドルフはフェイス殺害未遂で逮捕されることになるが、それは完全に余談である。

 




Frohe Weihnachten!と何となく習ったドイツ語で挨拶。

今回の話は多分どこか別次元の本編少し前のお話。
お酒とマメッコーラは二十歳を過ぎてから飲んでください(笑)
あと、ルドルフは証拠不十分なので釈放されました。もしこんな理由でデスティニープランや裏切りが本当に決められていたなら、ある意味世界は平和だったと思います。

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