ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第八十四話 失うモノ

ザフト同士の戦端が開かれ、敵味方の区別がつきにくくも互いに銃口を向け合う中、その消極的な戦線を前に我先にと突破しようとしたのは黄金色に染め上げられた騎士のMS――――そう、ルドルフが搭乗していたギャンクリーガーであった!

 

『ハァッハッハハハ――――ッ!どうした、己の信念を懸けているというのだろう!かつての味方であっても討つという決意のもとに戦場へと降り立ったのであろう!ならば臆せずして掛かって来るがいい!!

――――この僕を斃せずして君達に勝利はないぞ!!!』

 

そのルドルフの叫びにデュランダル側についている一部のMS隊は気圧される。残りの部隊は攻撃を仕掛けるがギャンクリーガーはその攻撃を躱してランスで敵のゲルググを貫いた。

 

『油断するな、元は同じ所属の相手だ――――こちらの機体の性能は把握されていると思っておけ!』

 

アレックはそうルドルフの独断専行に対して注意を促しながらフォローする。最初の攻撃から立ち直り始めた相手の部隊は囲い込む様に先行した彼らに攻撃を仕掛けようとする。

 

『ルドルフ!』

 

『分かっているさ、我が戦友(とも)よ!』

 

しかし、相手が悪かった。彼らはすぐさま互いのフォローに回れるように立ち回りを変える。ルドルフが囮になってはアレックが撃ち抜き、アレックを落とそうとすればルドルフが突撃する。そして入れ替わり立ち代わり、時に背中合わせにお互いの動きをカバーしていた。

 

『全く……貴様とも長い付き合いだ。おかげで貴様のその言葉を否定しようにも出来んではないか!』

 

『照れるな、戦友(とも)よ。この僕と共にいるのだ。この『白金の双騎士』の美しさというものを魅せつけてやろうではないか!』

 

『……やはり先程の言葉は撤回させてもらおう……なんだその称号は?』

 

知らない間によくわからない称号をルドルフから与えられていたことに頭を押さえそうになるアレック。彼らはそうやって戦線を突破しつつ、敵戦力を削っていく。

所変わり、彼らよりも後方でミネルバと行動を共にしていた彼らの母艦、ラー・カイラムの艦長であるグラスゴーも流されるままにミネルバ側につくことになってしまっていた。勿論、嫌々ミネルバ側についたというわけではないのだが、それでもどちらかと言えば安定した出世と円満な退職が欲しい保守派に近いグラスゴーにとって、現在の状況はどちらについても面倒な状況という事は変わらずアレック以上に頭を抱えたくなってもおかしくない。

 

「戦いの定石を無視しおって……!?」

 

更に言えばグラスゴーは戦線を無視して突撃していったルドルフとそのフォローに回っていたアレックに対しても文句を言いたい。敵の戦線を崩したのはいいが、こちらの部隊もそのせいで逆に浮き足立ってしまっているのだ。こういった場面では始めは艦隊による砲撃戦を中心とすべきであろうとグラスゴーは思っているのだが、足並みを崩したせいで味方への誤射の危険性などを含めて迂闊に討つことも出来ない。

 

「右翼からの展開はミネルバに戦線を任せるように連絡するのだ。メサイアからの砲撃がある以上、戦力を集中させるのは下策だぞ」

 

それでも艦隊の指揮官としての務めを果たさなくてならない。グラスゴーは冷静に敵の戦力を把握して二つ以上に戦力を分けるように命令を下し、そのまま崩れた敵を畳みかけるように攻撃するよう指示する。浮き足立った味方部隊もまともな命令が出されれば動けるものだ。

しかし、敵もそう甘くはない。何せ元は同じザフトなのだ。士気や個人レベルでの技能の差はあれど、少なくとも軍としての質は同等レベルである。寧ろ機体はデュランダル側の方が最新鋭の機体も多く、メサイアという要塞が存在している以上、向こうの方が有利だと言っても過言ではない。

 

「敵艦、砲撃来ます!」

 

「下手な回避はするんじゃない!こちらの横腹を曝すな!正面に向かって回避しろ!!」

 

敵もこちらの動きを阻止する為だろう。敵は艦隊からの艦砲射撃を放つ事でこちらのMS部隊と艦隊を分断し、戦列を乱しに来た。グラスゴーの的確な指揮によって何とか艦隊の被害は最小限に抑えられるが、敵の攻撃にグラスゴーは声を荒げる。

 

「なんて奴等だ!射線上に味方もいるだろうに!?」

 

確かに互いに敵味方で同じ機体に乗っている者が多い以上、見分けがつきにくい。それでも敵味方識別信号が有視界戦が常の艦砲射撃が届くこの距離で全く機能していないという事はないはずである。

少なくともMSを下げる事ぐらいは出来たはずだ。にも拘らず、MSを引き下げないままに敵の艦隊は砲撃を仕掛けてきた。おそらくこちらの部隊の被害を少しでも増やすためなのだろう。一方でグラスゴー等の艦隊は味方に被害を出すわけにもいかず、艦隊からの射撃は制限されてしまい、敵の攻撃を前に耐え忍ばなくてはならない。

 

「このままでは味方が散り散りになってしまう!ラー・カイラムを前面に押し出せ!分断された部隊の中継点にするんだ!」

 

グラスゴーは自らの艦隊を進撃させることで味方の被害を最小限に止めようとする。だが敵もさるもの引っ掻くもの。ラー・カイラムの動きを逆に封じ込めて孤立させようとしてくる。

 

『いかん、ルドルフ!母艦が攻撃を受けているぞ!』

 

ミネルバとラー・カイラムによって戦力を二分し(分断されたと考えてもいいが)、ラー・カイラム側の方ではルドルフやアレック達が何とかしようと奮起するのだが戦線はデュランダル側の有利に傾いていった。今の状況を打開するには賭けに出るか、或いは外部の状況が変わらなくてはならない。

グラスゴーにしてみればここで何も変わらない状況にしびれを切らせて賭けてに出ても勝つ見込みが薄いと考える。しかし、逆に向こうが先に動けば無理に切り崩そうとしたことで生まれる隙があるはずだ。そうなればこちらに戦況は傾く。

 

「この戦い、先に動いた方が負ける――――」

 

そう呟きながらグラスゴーは味方部隊を防衛に専念させるようにするのであった。

 

 

 

 

 

 

「バルトフェルドさんッ――――!!」

 

キラがアークエンジェルを視認できる距離にまで来た時、バルトフェルドがリゼルでハイネのデスティニーに特攻を仕掛けていたタイミングだった。爆発が巻き起こり、バルトフェルドが命を散らす。その爆発の規模から考えるに、たとえ脱出を図ったとしても助かるようには見えない。

何故間に合わなかったのか――――あと十秒でも早くこの場に辿り着けば救えたはずだというのに。

 

『あぶねえッ……デスティニーじゃなかったらお陀仏だったぜ』

 

一方でハイネはコックピットの中で冷や汗を流しつつも、爆発による攻撃を受けたデスティニーは全身をVPS装甲によって変色させており、その色を元のハイネに合わせたデスティニーのオレンジカラーに戻す。VPS装甲をあらかじめ用意しておいた限界まで防御力を高めるOSパターンに切り替えることで、全身の防御力を一気に高めたのだ。デスティニーの中で最も脆いであろう関節部の内部骨格もVPS装甲を応用した特殊素材であり、関節部の稼働を制限する代わりに関節部の被害も最小限に抑えていた。

 

「貴方達はアアァァァ――――!!」

 

『ぐッ、このタイミングでフリーダムだと!』

 

両手で二本のビームサーベルを引き抜き、そのまま腕を頭を超える位置まで振り上げてからデスティニーに振り下ろす。アンチビームシールドもアロンダイトも爆発で破壊されている。反撃するには武器が足りない。それだけでなく機体の方もいくら被害を抑えたとはいえ、いつ不具合が起きてもおかしくない。ハイネは一度撤退すべきだと思い、デスティニーのビームシールドを展開してストライクフリーダムの攻撃を受け止め、そのまま引き下がる。

 

「逃がすわけにはッ!」

 

キラとしてもバルトフェルドが命を犠牲にしてでも止めようとした敵をそう簡単に捨て置くわけにはいかないと考える。しかし、一方でアークエンジェルを中心としている少数の味方の艦隊に残された戦力が減っていることも理解していた。バルトフェルドが居なくなった今、キラがこの場を離れてしまえば次に敵のエースが現れた時に耐えれるとは思えない。

その逡巡によってキラはデスティニーに向かって射撃での追撃という消極的な判断を下す事となる。無論、ハイネも後ろから放たれたその程度の攻撃に落とされる様な軟なパイロットではない。

 

『追ってはこないか……ま、当然の判断だな』

 

戦線離脱したハイネのデスティニーが居なくなり、逆にアークエンジェル側の戦力として参戦したキラのストライクフリーダムによって戦局は傾く。押し込まれて膠着していたアークエンジェルやクサナギなどの艦隊は前進する。

その様子を見て不利を悟ったのだろう。敵のザフト艦隊はこれまで頑なに攻勢を続けていたが一度攻め直す為に艦やMSをある程度引かせ、これ以上の戦線突破を許さないように防衛中心にするよう指示した。

 

「マリューさん……どうしますか?」

 

『こちらも一度体勢を立て直すべきね。悪いけれどMSを交代で補給と修理を受けるようにしてくれる?キラ君も』

 

アークエンジェルのクルーは目の前で起きたバルトフェルドの死に沈んだ様子を見せるが、マリューをはじめとしたアークエンジェルのクルーは歴戦の人間である。例えその死に悲しみ暮れても、続く戦いの為に指示を怠るわけにはいかない。

 

「僕は大丈夫です。フリーダムならまだやれます」

 

『いいえ、キラ君から先に補給を受けて頂戴。いつ敵の攻撃が再開されるか分からない以上早い段階で補給を受けて欲しいの……』

 

「――――わかりました」

 

そう言われては確かにそうせざる得ないとキラも思い、アークエンジェルの破壊されていない方の艦首へと帰還する。しかし、そこでも慌ただしく艦内では人が動いていた。常に戦闘となっている中で整備や補給をするために動いていた中、ローエングリンを発射しようとして逆に破壊されたのだ。負傷者の応急処置や部品の移動、回収など慌ただしいのも当然である。

 

「すいません!整備と補給を……!マードックさんッ!?」

 

近くに来た整備兵の一人に頼もうとした所で、ドック内の隔壁されている一ヶ所に負傷した者が集められ応急手当てを受けていた様子を見る。その中の運ばれている一人にアークエンジェルの整備士であるコジロー・マードックがいた。その様子を見たキラはストライクフリーダムの近くにあった足場を蹴ってそこまで飛ぶように移動する。

 

「よう……悪いな、坊主……お前さんの機体を見れそうになくてよ……」

 

「今は喋らないでください!」

 

腹部や頭部などから血を流し、明らかに重傷を負っている。おそらくローエングリンを撃たれた時に起こった爆発に巻き込まれたのだ。考えてみれば当然である。彼は整備士の中でも中心的な人物だ。キラの難しい要求に応えたり、時間が短い中で自分の仕事や他の整備士の仕事も終わらせる。その彼がローエングリン発射の際に艦首から果たして離れていただろうか?

答えは否であり、だからこそ彼はここで負傷した様子を見せている。手当をしている医者はこちらに目を向ける手間もないと必死にコジロー・マードックや他の怪我人を施術しているが、明らかに機材が足りていないのだろう。最低限の施術を済ませた後は医務室に運んで医務室にいる医者に治療するよう命じている。

 

「クソッ、血が足りていない!輸血パックをもっと持ってくるんだ!」

 

「もういいさ。自分の事は、自分が一番良く知ってる……他の、助かりそうな奴らに、使ってやれ……」

 

医者としてもここで見捨てるのはつらいのだろう。しかし、現実は非情であり、助かる見込みは薄いと医者も判断していた。本人も助からないと言ってしまっては、普段であればともかく物資が不足している今の状況を見て切り捨てる事を選択する。

 

「………分かった」

 

「そんなことは言わないでください!マードックさん!まだ助かりますよ!!」

 

キラは自分の力が無いことを嘆く。何故こうなってしまうのか。誰だってそうやって悔やむ。今ここでキラに医療の心得があれば何かできたかもしれない。だが、キラにはそんな技術は無い。もとより、アークエンジェルにいる医者が無理だと判断しているのだ。キラに医療の心得があったとしても無理だった可能性の方が高い。

だが、そんなことは関係ない。今のキラに何もすることが無いという。戦う事しか出来ない自分がどうしようもなく遣る瀬無いものとなるのだ――――後悔というものは後から悔やむことになるから後悔という。手に持っていない技術を何故取ろうとしなかったのか。そんな風に悔やんでしまうのだ。

 

「泣くんじゃねえ、坊主……俺にはお前さんの涙は勿体ねえよ……いいか、俺には艦や機体を直すことが出来ても、この艦を守ることは出来ねえ……誰だってな、自分で決めた、自分の役目っていうのがあるんだ……」

 

虚ろな目でそう言いつつも、はっきりとした意思を感じるその言葉をキラは一字一句聞き逃さないようにその場でじっと話を聞く。

 

「俺は、整備士としてやれることをやるって決めた……そういう、自分の意思が、大事なんだろ?坊主が、自分で決めたことは何だ…?その力で、守る事だろ……だったら、守ってやれよ……俺は…整備士として、しっかり坊主や他の奴等を……全力で、手伝って…やる、から……」

 

「マードックさん……マードックさん!!」

 

ぼんやりと目を開いたまま息を引き取るマードック。最後まで整備士としての矜持を持っていたのか、彼はそんな事を言いながら息を引き取った。涙を零しながらもすぐに顔を上げる。ストライクフリーダムの所にまで戻り、キラは整備士に告げた。

 

「ッ……整備と補給に取り掛かってください。それがすぐに終わったら出ます」

 

キラ・ヤマトはアークエンジェルのクルーを守り切ることが出来ず、コジロー・マードックやアンドリュー・バルトフェルドを死なせてしまった。だがそのことを今、後悔してもどうしようもない。キラはこれ以上守るべき存在を失わせないために、そして、その先に信じる未来の為にこの戦いに勝つことを誓った。

 




普通に考えれば艦首にいた人たちはどうなる?という事考えたらこうなった。タンホイザーの時も死傷者が出たんだからアークエンジェル側にも当然出るよね。
後ついでにルドルフは相変わらずノリノリである。

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