ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第八十五話 我劣らじと

「まずいな……押されている」

 

セイバーに乗り、ミネルバと共に戦闘を開始したアスランは不利な現状に嘆いていた。アスランとマーレの二人を中心にして戦線に穴を空けながら突破を図ろうとしているのだが、数や戦略によって押し切られているのだ。元々策もなしに要塞攻略を成そうとなれば敵の三倍の戦力が必要となると言われている。そして戦争である以上、どれほど個人の実力が計り知れないものであっても戦局を決定づけるのは数だ。

 

「マーレ、あの艦を落とすぞ!」

 

『チッ、突破口になりそうなのはその位しかねえか――――』

 

だが、戦局を決定づけるのが数であっても、戦局の流れを持って行くのは質だ。いくら数があっても、目の前で味方が討たれれば士気は下がる。逆に敵の首級を討ち取れば味方の士気は上がる。例えるなら複数人で行うスポーツに似ている。野球もサッカーもバスケも、一人で出来るものはないが、流れを作り出すのは一人のプレーによるものであることなどざらにある。

アスランとマーレはその流れを得るために敵の新設されたのであろう朱い旗艦クラスの艦に狙いを定めた。

 

「グッ、落ちろ!」

 

先陣を切っているアスランとマーレには当然向かってくる敵も多い。ザクやグフ、ゲルググといった量産機が大量に迫って来る。アスランはそれを右手に持っているビームライフルで撃ち抜きつつ、敵の攻撃をシールドで防ぐ。だが、一つしかないビームライフルの攻撃に当然突破してくる者もおり、一機のグフがアスランのセイバーに向かってビームソードを振り抜いた。

 

「ハァッ!」

 

アスランはその攻撃に対して焦ることなくセイバーのシールドで受け止め、それどころかシールドを持っているセイバーの左手で隠すように持っていたビームサーベルで向かってきたグフを横薙ぎに切り裂く。

 

「マーレッ!」

 

『ッ、分かっている!!』

 

MSをアスランが出来る限り派手に撃墜することで敵の気を少しでも多く引きつける。その間隙を狙い、マーレは一気に加速することで敵艦に接近した。咄嗟の行動に敵部隊もしまったと言わんばかりの驚愕を露わにし、機体によっては動きを止めるものまで出てくる。当然、不利な戦力差があることを理解しているアスランはそういった機体を優先的に狙ってビームライフルで撃ち貫いた。

 

『ガンガン新型やら新兵器やらが出やがって!いい加減、艦の種類位落ち着けろや!』

 

朱い新型艦――――ラー・カイラムと同じような役割を求められて建造されたレウルーラの懐に入り込んだマーレは次々と機関砲の銃座や副砲を撃ち抜いていく。流れるように艦のギリギリの所を滑りながら移動していって砲塔を破壊していくので、敵のMSも艦への誤射を気にして撃つことが出来ず、艦の方の砲塔もそこまで近いと狙いなど当然定めることが出来ない。

 

『近づいて落とそうってか?一々考えが甘いんだよォ!』

 

射撃で誤射の危険性があるのであれば接近して叩く。当然の帰結だがマーレの言うように甘いと言わざる得ない。敵のゲルググは後ろからマーレのRFゲルググを追いかけつつ、ナギナタを回転させながら振り下ろしたが、マーレは艦の表面に滑りながら着地する様に足を置くことで急激に移動の勢いを落とす。

そして、削いだ勢いのまま後ろに振り返り、迫ってきたゲルググに対して逆にビームシールドを剣のように展開することで、槍のようにコックピットに向かって突き刺した。そのままコックピットを貫かれたゲルググをマーレのゲルググは空いている左手で掴み艦に叩き付ける。

 

『こいつでどうだッ!』

 

艦を地面がわりにして跳躍する様に反作用を利用して離れ、それと同時に艦に叩き付けられたゲルググにビームを浴びせる。そして、撃ち抜かれたゲルググは爆発を起こして敵艦を巻き込んだ。艦は明らかに損傷しており、この調子であれば撃沈は容易いとマーレは判断する。しかし、一機の敵によってそのまま仕掛けようとした追撃を止められた。

 

『オレ達も艦を落とされるわけにはいかない。止めさせてもらう』

 

『青いデスティニー……いや、インパルスか?』

 

マーレの追撃を遮ったのは青紫色のデスティニーインパルス三号機だった。インパルスの万能性を高めるために造られた機体であり、その性能は本来のデスティニーに迫るほどのものである。

欠点としてエネルギーにハイパーデュートリオンエンジンを使用していないというものがあるが、単純なスペックだけならばザフトのトップクラスの機体の一機だろう。とはいえ、そのエネルギーの消費量は出力の消費が全体的に上がっているアスランのセイバーすらも上回るという事から推して知るべきだ。

 

『残念ながら、これは最早インパルスではない。マーレ・ストロード、お前の噂は聞いている。ナチュラル嫌いであるという事も含めてだ――――その上で聞きたい。何故、これ以上戦禍を広げようとする。今、ここでオレ達コーディネーター同士の人間が撃ち合う。それが不毛だと感じないのか?』

 

デスティニーインパルスのパイロット、コートニー・ヒエロニムスは敵であるマーレに対して疑念を問いかける。確かに、こうやって内輪揉めのような戦闘を行うのは非常に不合理的なものだ。MS開発者関係者でありパイロットでもあるコートニーにとっては元とはいえ味方を撃つことに対して疑念を持つのは当然と言えた。だからこそ、同じエースパイロットと言えるマーレにその自分が思っている疑念を問いかけたのだ。

 

『……お前馬鹿か?不毛か否かで戦争が終わるっていうならとっくに世の中戦争なんざなくなってるだろうが』

 

それに対してマーレは鬱陶し気にコートニーの問いかけをバッサリと切り捨てる。軍人でもない技術屋風情にそんな事を問われるのが苛立たしい。クラウは軍属と技術屋の両方に所属していたが(というより軍属の技術者と言った所である)、奴はそうではない。テストパイロットだろうが何であろうが、遠くから覗いて自分の都合のいい部分だけで解釈しているかのようでマーレにとっては煩わしく感じる。そして何より――――感情的なものでしかないが気に入らない。理由はそれだけあれば十分だと、そんな風に思う。

 

『そうか……なら仕方ない。マーレ・ストロード、お前達ミネルバの英雄を止めてこの戦争を少しでも早く終わらせる!』

 

『気に入らねぇな、テメエがシンの奴等と似たような機体に乗って、そんな下らねえこと語ってんじゃねえぞ!』

 

エクスカリバーを構え、光の翼によって残像を描きながら接敵するデスティニーインパルス。莫大なエネルギーの消費がされるが、コートニーは相手が優秀なパイロットであることをそれなりに(・・・・・)理解している。そんな相手にエネルギー効率の悪いデスティニーインパルスで様子見などするわけにはいかないと判断して速攻を仕掛けた。

更に言えば本来、デスティニーインパルスは光の翼の展開にはリスクを伴うのだが、コートニーはOS面などでの修正によってごく短時間の展開を可能としていた。

 

『その程度で……こっちが見失うとでも思ってんのかッ!』

 

エクスカリバーの振り下ろしを後ろに下がってビームシールドで受け流すように防ぐ。一方で攻撃を躱されたコートニーも焦りはしない。そのまま流れるような動作でエクスカリバーを左手だけで持ち、空いた右手で左腕に取り付けられたビームブーメランを引き抜いて投げつけた。

 

『しゃらくせえッ!!』

 

そのビームブーメランを躱して、RFゲルググはそのままビームライフルをデスティニーインパルスに向けて連射する。その攻撃を躱しつつ、エクスカリバーを一度背面に戻し、ビームライフルを構えて同様に連射し返してきた。更に、コートニーはデスティニーインパルスのもう一方の右腕に残っているビームブーメランを取り出して投げつける。

続けるようにテレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔で狙いを定めて追撃に移る構えを取る。ビームブーメランを一度躱し、デスティニーインパルスの動きを見たマーレは逆に好機ではないかと考える。

 

(その攻撃を躱した所で一気に叩き潰して――――ッ!?)

 

隙の大きいであろう収束ビーム砲での攻撃を躱せば落とせる。そう判断して接近するために動こうとしたのだが、マーレはその寸前に直感めいたものでそれを取りやめてビームシールドを展開しながら避ける動作に入った。

 

――――次の瞬間、収束ビームが発射されると同時に先程までマーレが移動しようとした位置にビームブーメランが通り過ぎたのだ。

 

『読まれたか――――』

 

『チッ、危ねえ……性質の悪い攻撃だぜ。仕掛けてくること前提で攻撃を仕込むなんて良い度胸じゃねえか……』

 

ビームブーメランの攻撃はあくまでも仕込み、わざと回避させるような軌道を描く様に移動させ、ビームライフルでの攻撃は牽制かつ誘導。そして、一見本命と思わせる収束ビームによる攻撃こそ最大の囮――――ビームブーメランの孤を描く軌道がマーレを切り裂こうとしたのだ。

間一髪でそれを直感的に察知したマーレは回避行動に移ったが、本来であればそれはそれで囮となる収束ビームで狙えるという非常に厄介な攻撃だった。マーレがその二つの攻撃を躱せたのは、ひとえにその直感によるものだ。だがもし、彼の乗っている機体が、マーレの求める要求に至らず反応速度が追いつかなかったり、彼に合わせた専用チューンでなければ間に合わず、落とされていたかもしれない。

 

『だが、本命も囮も防がれるとはな……』

 

『技術屋風情の正規の軍人ですらない人間が……一々癇に障るんだよ』

 

確かに今の攻撃は熟練のパイロットであっても落とされる様な攻撃だったのは事実だ。だが、その攻撃でマーレが落とされなかったことが予想外と言った様子を見せるのはマーレとしては腹立たしい事この上ない。

実際、コートニーが相手を軽んじていたのは事実である。プラントのコーディネーターで高い空間認識能力を持っていることを確認されている数少ないパイロットであり、それが彼の実力に高い保証を与えているのだ。はっきり言ってしまえば、彼は自分より強者となる敵がいることを理解していても、テストパイロットであることが多い彼は、そういった敵と真剣に命を懸けて戦った回数自体はそう多くない。故に、本人が自覚しているかどうかはさておき、彼がマーレを侮っている部分は確かにあった。

 

『鬱陶しいんだよ!羽虫風情がッ!』

 

ビームサーベルを抜いてマーレは接近戦を仕掛けようと動く。コートニーはそれに応じるかのようにエクスカリバーを再び抜いて構えた。サーベルとエクスカリバーが衝突する。否、マーレが両者の武器を衝突させた。

デスティニーインパルスのエクスカリバーはシン達の特注されたアロンダイトなどと違い対ビームコーティングが施されていない。そしてマーレのRFゲルググのビームサーベルの出力は、通常の機体が持つビームサーベルよりも威力が高かった。結果、ビームサーベルはまるでバターを斬るかのようにエクスカリバーを断ち切る。

 

『――――なッ!?』

 

これに驚いたのはコートニーの方だ。対艦刀は一撃で敵を仕留める威力の高さを誇っていることを含めて、一部の優秀なパイロットにとってはオプションや幾つかの武装の一つとしては有用である。だからコートニーは敵の攻撃を受け流す、或いは躱すことでそのまま一閃の元に断とうとしたのだ。

だが、同等レベル以上の相手と接近戦で戦う場合であったなら、ビームサーベルに対して対艦刀は不利な武装であることは否めない。彼自身、ビームサーベルと対艦等である自分の剣の相性が悪いことは理解していた。しかし、彼の無意識の慢心とも言える侮りが、ビームブーメランやビームシールドを使うという選択ではなくエクスカリバーによる攻撃を選択させたのだ。

――――故に、この結果は必然のものである。

 

『ぐうゥッ……!』

 

それでも寸での所でビームシールドを展開して防ぐコートニー。そこから一度距離を取り直そうとするが、マーレは懐に入り込んだまま攻撃を続けようとする。シン達の乗るデスティニーであれば逆にカウンターで掌のパルマフィオキーナによる反撃を行えただろうが、デスティニーインパルスにはその装備は取り付けられていない。

コートニーは何時までもビームシールドで防御していたのではエネルギーがもたないと判断して(事実、ビームシールドは過剰な威力である相手のビームサーベルを前に既に限界寸前であった)対装甲ナイフを抜き、それを盾代わりとして構える。だが、コートニーは高い空間認識を有していることからわかる様に元々射撃に向いているパイロットだ。マーレの方が近接戦の資質は高く、武装の面でもビームサーベルと対装甲ナイフと明らかな差が存在している。

 

『テメエが侮るからこうなる!敵の実力を、見誤ったな!!』

 

結果、コートニーの防戦も虚しくあっさりとサーベルによって腕を切り裂いた。ご丁寧に腕のビームシールド発生装置も破壊している。

 

『オレの負けか……』

 

元は同じプラントの人間であっても今は容赦する義理などない。マーレはこれで終わりだとばかりにもう一本ビームサーベルを引き抜いてデスティニーインパルスを斬った。

同時に別の方向からも爆発が起こる。敵の旗艦クラスの一隻であるレウルーラの一部が爆発を起こしたのだ。

 

『忘れてた?私も赤なのよ!』

 

ルナマリアの乗るインパルスがブラストシルエットを装備することでレウルーラにケルベロス収束ビーム砲で有効打を与えたのだ。ショーンはルナマリアの護衛を兼任し、アスランも敵MS隊を引きつける。ブラストインパルスによって損傷を受けたレウルーラは移動する分には難しいが、それでも普通に艦としての役割を果たす分には支障は大きくないらしい。数が減っているとはいえ主砲や副砲で敵MSを牽制し、味方の部隊と連携を取る。

 

『トリスタン照準!撃てェ――――!!』

 

しかし、それもミネルバによって撃ち抜かれるまでだった。機動力を失った艦はミネルバにとっても恰好の的である。後々の脅威になるかもしれない艦は多少無茶してでも今のうちに落とす。そうタリアは判断して、すぐさま距離を詰めて撃ち抜いたのだ。敵の旗艦クラスの艦が落とされたことによって敵の指揮系統は乱れを起こす。アスランはその様子を見て、攻勢に出ようとする。

 

「よし、このまま戦線を推し進めるぞ!ミネルバ、デュートリオンビームを!」

 

敵の混乱はこちらに補給を受けさせる隙も生み出す。アスランはセイバーのエネルギー補充の為にミネルバにデュートリオンビームでのチャージを要請し、補給を終わらせる。一瞬だけ無防備になるとはいえ、そもそも補給時は隙を曝させることになる以上、リスクが多少上がっても一瞬で補給できるデュートリオンビームは非常に便利な代物だ。

 

「一気にメサイアを攻略する!」

 

『ギルの創る未来の為に、そうはさせない!』

 

アスランがメサイアに向かおうとしたのとほぼ同時に、ドラグーンが現れアスランやマーレ、ミネルバ側のMS隊を次々と撃ち抜く。ミネルバのパイロットはともかく、豪雨のように降り注いだビームの大群は何機ものMSを一斉に破壊した。

 

「レイか!」

 

『今度こそ、終わらせる!ギルの正しい世界を創るために――――戦争も、悲劇も……俺のような存在も生み出さない平和な世界を得るために!!』

 

かつての戦友が牙を剥く。レジェンドがメサイアを守るために彼らの前に立ちふさがった。

 




なお、ルナマリアさんのブラストインパルスによる活躍はカットされました(笑)
レウルーラの登場。でも一瞬で退場。作者も忘れてた過去の投票で多かったのを思い出したので出しました。え、ザンジバル級はどうしたって……どうしよ?出せるなんて場面あるかな?

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