ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第九十二話 戦線突破

「敵の攻撃が激しい……艦長!艦隊はまだ立て直らないんですか!」

 

『こっちも必死でやってるわ!』

 

アスラン達ミネルバの部隊は必死に崩れた味方部隊の立て直しを行っていた。ネオ・ジェネシスの一発目と二発目の発射のサイクルから逆算するに、まだ時間はあるが、かといって余裕があると言える程残っているわけではない。

 

「このッ、そんな攻撃で!」

 

襲い掛かるグフの部隊をアスランはセイバーの翼のビームブレイドや足のビームサーベルで迎撃していく。グフのスペックは確かに高い。スレイヤーウィップは柔軟性に長け、威力自体も申し分ないものであるし、ビームソードも実体剣、ビームソードとして切り替え可能な優秀な兵器だ。

 

「だが、こんな所でミネルバを落とされるわけにはいかない!」

 

しかし、そのグフも目の前のエースを相手には荷が重い。スレイヤーウィップを次々と切り裂いていくアスラン。元々セイバーは改良を施されたことで近接武装を大量に装備しているため、同じ近接戦向きの機体であるグフの迎撃にそこまで手こずることはなかった。

 

『こんのぉ、当たれえ!』

 

そしてグフよりも汎用性という面で長けているゲルググやザクの部隊もルナマリアやショーンによって撃墜されていく。ブラストシルエットのインパルスから放たれる二門のレールガンと四連装ミサイルによって敵は命中こそしないものの、迂闊に近づくことが出来ない。

そうやって動きを止めた所を狙い、ショーンがビームマシンガンで敵を次々と蜂の巣にしていった。

 

『あぶねえ、ルナマリア!ちゃんと狙えよ!』

 

『ちょっとショーン、貴方の方が前に出過ぎてるのよ!』

 

それでも、たった三機でミネルバとその周囲という広い範囲をカバーしている為、中々に辛いものがある。広い戦場を動き回るともなれば連携も上手く取ることは出来ないだろう。苦戦は続いていた。

 

「そういつまでも持つわけじゃないぞ……」

 

尚且つ、彼らは疲労が蓄積している。戦闘が始まってから彼らも何度かはミネルバに戻って、補給に合わせて休憩を取っているがそんな短時間に大きく疲労は解消される筈もない。結果、数の面でも劣っている彼らは少しずつ追い詰められつつあった。

 

『艦長、もう限界です!後退するにしても、進軍するにしても、ここでこれ以上消耗してしまえば確実に落とされますよ!?』

 

副官のアーサーが艦長であるタリアに、先程と似たような意見を言う。だが、事実アーサーのいう事は間違ってはいない。これ以上味方を立て直す為にここで敵の目を惹きつけていては何時落とされてもおかしくないのだ。

だが、一方で今ここでそれを止めてしまえば多くの味方を見捨てることになる。分水嶺を見極めることが求められる。

 

『分かったわ……どのみちこのままここにいるわけにはいかないわね。現時点で立て直した味方部隊と合流し、このままメサイアに向けて艦を進軍させます!いいわね、アーサー?』

 

『え、ええ?あ…ハッ、了解しました。イゾルテ、ミサイル発射管一番から三番、正面敵MS隊に照準!トリスタン一番二番、目標前方のローラシア級!撃てえ!!』

 

賛同されるとは思っていなかったのか一瞬呆けるアーサー。だが、すぐにタリアの決断にアーサーも同意を示し、そのまま艦隊の砲門を全方位への防衛から前方に向けての攻撃に切り替える。タリアとしては立て直しきれていない味方を切り捨てるわけではない。自分たちが先に進軍することで戦線から出来る限り切り離すつもりなのだろう。

 

「よし、なら俺達も攻撃に回るぞ!だからと言って迂闊に前に出てミネルバの護衛をおろそかにするなよ!」

 

『わかってます。シンじゃないんですからそんなことはしませんよ!』

 

ルナマリアがそう言いつつブラストインパルスのビームジャベリンで敵を貫く。そして、そのまま攻勢に出ると判断してフォースシルエットへと変更した。

 

「ヘァー!」

 

アスランは敵に接近してそのままビームサーベルによって敵を切り裂いていく。そのまま前進しようとした所で懐かしい顔ぶれとようやく出会った。

 

『貴様、そんなに突出したところで何をしている!探すのに手間取ったではないか!』

 

「イザークか!」

 

『よッ、アスラン。俺もいるぜ』

 

ジュール隊の面々と合流するアスラン。ミネルバは味方を救援するためにかなり突出していたのだが、イザーク達は態々戦線を突破して此処まで来たようだ。

 

「話は後だ。イザーク、味方部隊の支援をしてくれ!」

 

『俺に命令するな!今は別の部隊だぞ!!』

 

そんな事を言いつつも、それが最善だと理解しているため言われた通り周りの味方部隊を援護するイザーク。ジュール隊の面々はザフトではミネルバと同じように有名なエース部隊であることが知られており、メサイアを防衛している敵部隊は思わず、恐怖して動きが鈍くなっていた。

 

『戦う気のない者は失せろォ!』

 

イザークのリゲルグが次々と敵を狙い撃ちながら、そう声高に叫ぶ。それに気圧された敵部隊は下がれば敵前逃亡となってしまうが故に逃げれず、かと言って攻めるには度胸が足らず、消極的な攻撃を仕掛けざるえない。

 

「よし、今なら戦域を突破できる!イザーク、ディアッカ、頼めるか!」

 

『フン、この程度の奴等!』

 

『おうよ、任せとけって』

 

そう言ってアスランはセイバーで進軍していくのだった。

 

 

 

 

 

 

アークエンジェルの左舷から狙い撃ってきた艦、ザンジバル級。艦の性能としてはミネルバや改良されている目の前のアークエンジェルとほぼ同等の、少なくともローラシア級やナスカ級といった量産されている艦よりは上の性能を誇っている。

 

「左舷、弾幕を張りなさい!敵を近づけさせないで!」

 

艦としての性能が互角であるならば艦の近くで行われるMS戦と艦同士の戦いが明暗を分ける。そして、彼らの横腹をつくという戦術は非常に有効な手段だった。接近を許してしまったアークエンジェルやクサナギは不利な状況を余儀なくされる。

 

『落とせ!あの不沈艦を我々が沈める絶好の機会だ!絶対に逃すな!』

 

ザンジバル級に搭載されていたMS隊も発進させて何としても沈めようとする。実際これまでザフトがどれほどあの艦に辛酸をなめさせられてきたかを考えれば、そうやすやすと落とせる筈ではないと思えるのだが、彼らは寧ろ積極的に攻勢を仕掛けていた。

例のアークエンジェルの主力であるフリーダムタイプの機体が居なことも彼らに勢いを付けさせている理由の一端なのだろう。

 

『Jミサイル発射の準備させろ!あれならばいかにあの不沈艦であっても落とせる!』

 

アークエンジェルやクサナギの艦隊は横から攻撃を続けるザンジバル級によってまともに動けずにいる。正面にいるナスカ級の存在も彼らにとっては非常に厄介な存在だった。前進すればまず間違いなくナスカ級から集中砲火を受けることになるからだ。

 

「右に行くわよ!後ろと左にアンチビーム爆雷を発射して!!」

 

左と正面に敵がいる以上、戦線を突破するには後ろに下がるのは当然下策であり、右に行くのが妥当だろうと判断して艦隊を動かす。だが、マリューはそれでそのまま背を向けて逃げる気はない。そのような凡庸な手段ばかりでこれまで彼らは厳しい戦場を突破していったわけではないのだ。

 

「キサカ一佐、他の艦も連れて先に行ってください。我々があの敵艦を引きつけます」

 

『しかし、ラミアス艦長。それではアークエンジェルが孤立する事に――――』

 

「構わないわ。敵を出来る限り引きつけた後はそのまま正面から私達は突破を図るつもりです。その場合、強行突破になるでしょうから数は最小限にすべきでしょうし、火力が高く、足の速い本艦が最も適役だと思っています」

 

マリューがそういった事でキサカ一佐は考え込むが、結果的にその判断を尊重することにする。

 

『分かりました。ですが、くれぐれもお気を付けてください……』

 

「ええ、分かっているわ。ローエングリンの用意を!艦百八十度回頭!大丈夫よ、慣性で速度は落ちないわ。距離は詰められるでしょうけどそこで狙いを付けて落とします!」

 

狙いは回頭直後のローエングリンによる一撃。敵も何か仕掛けてくるであろうことは予測しており、こちらが先か、向こうが先かの勝負になる。

 

『まさか正面から仕掛ける気か!?生意気な!構わん、連装砲も撃て、Jミサイルを使う前に決着をつけるつもりで落としてしまえ!』

 

ザンジバル級の艦長は無謀にもこちらに向けて回頭してくるアークエンジェルに舐められていると苛立ちを募らせ接近させつつ砲撃を続ける。回頭している以上、アークエンジェルの砲はまともに狙いを定めることなどできないだろう。

その間に距離を詰めつつ、砲撃で落とそうとザンジバル級の艦長は考えていた。しかし、誘いに乗ったザンジバル級はこれが罠だという事に気付かされる。

 

『正面からローエングリンだと!?ええい、誘い込まれたか!Jミサイルの発射は!?』

 

『間に合いそうにありません!』

 

そう叫んだ瞬間、ゴットフリートがザンジバル級の翼部や砲を破壊する。流石というべきか、二年前の大戦でも生き延びたアークエンジェルは砲の狙いも正確らしい。余程腕前の良い人材がそろっているのかと艦長は思ってしまうほどだ(尤も、実際に優れた人材こそいるがアークエンジェルはその操作の多くがオートメーション化されている為、その人数は少なく、当然ゴットフリートで狙っている砲手など居ないのだが)。

 

『このまま艦をぶつけるつもりで突っ込め!』

 

『しかし艦長――――!?』

 

このままではローエングリンに撃たれてしまうと判断した艦長は下手に逃げ回るよりも、より接近して撃たれる前に落とそうと判断する。

 

『うろうろ逃げるより当たらんものだ。私が保証する!』

 

艦長がそのように断言した事でクルーも腹括ったのかそのまま前進させつつ砲撃を続ける。慣性でアークエンジェルが移動していると言っても前方に向けて推進を続けているザンジバル級と比べれば遅い。追い付くのは時間の問題と言えた。

 

「敵艦、回避行動を取りません!接近してきます!?」

 

真正面から突撃してきた敵に、アークエンジェルのクルーは息をのむ。だが、これまでも同じようなピンチを潜り抜けてきたアークエンジェルのクルーはそれで怯むような弱者ではなかった。

 

「ローエングリン発射、それと同時に回避を!」

 

「わかっています!!」

 

艦の操舵を握るノイマンがマリューの命令に同意しつつ回避行動に移る。そのまま避けようとしたのと同時にデスティニーによって破壊されていなかったもう一門のローエングリンがザンジバル級を捉えた。

 

『ぐぅ――――艦の被害はどうなっている!』

 

『エンジン推力低下、右舷の機能が殆ど停止……このままでは艦が落ちます』

 

幸い艦橋には被害が及ばなかったものの、このままでは確実に沈むことを避けられないだろう。Jミサイルを発射できるような状況でもなく、いつ誘爆してもおかしくない。

 

『脱出は間に合わんか……こうなればせめて道ずれにしてくれる……!』

 

ザンジバル級がそのまま特攻を仕掛けアークエンジェルに突撃していく。しかし、ノイマンの操舵によってアークエンジェルはバレルロールで回避して見せた。宇宙に上下はないが、だとしても巨大な艦でこの様に急な三百六十度回転などまともな動作ではない。

 

『な、なんて奴等だ……』

 

艦長のその言葉を最後にザンジバル級は艦橋をアークエンジェルのバリアントによって撃ち抜かれ、ザンジバル級は沈んでいった。

 

「まだよ、ナスカ級の艦隊がまだ残っているわ!気を緩めないで、このまま突破を図ります」

 

横腹をついてきたザンジバル級こそ落としたものの、まだ正面にいた主力艦隊であるナスカ級やローラシア級が残っている。それを撃ち落とす為にアークエンジェルは再び九十度の回頭をしつつ、攻撃を加えていく。

そもそも艦こそ落とせたが敵は未だ多数残っているのだ。状況は振り出しに戻っただけ。いや、時間を稼がされてしまった以上、先程より苦しいものとなっている。

それでも彼らは、自分たちの未来を守るためにこの苦しい状況の中でも戦域の突破を図っていった。

 




特に何事もなくザンジバル撃沈……いや、うん。まあ、議長が「私からの手向けだ」とかいって落とすよりはマシだったんじゃないかな~と思いつつ。
正直レウルーラやザンジバルはラー・カイラムとどこで差がついたというのか?かつての投票ですね、はい(笑)

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