ステージ01「ハヤテ・インメルマン」
「休め」
西暦2067年。
春のある日、銀髪に蒼の瞳の青年──ハヤテ・インメルマンが最初に聞いた言葉だった。
「休め?」
その言葉にわずかに──表情にはわずかにしか出ていないが──驚いていた。
「・・・・当たり前だ。 このアル・シャハルにはなぁ、銀河中から出稼ぎがわんさか集まってきてんだが・・・・お前さんのように2日徹夜して半日休み、また2日徹夜して半日休み、さらに2日徹夜して半日休むだけで働き続けられる
港湾整理の会社社長であり、現場監督でもある屈強な巨人族──皆から“親方”と呼ばれている大男──は呆れた様子だ。
「ってか、組合のお偉方に
アル・シャハルの首都であるシャハルシティーで1番大きなシャハル宇宙港に親方の豪快な笑い声が響く。
毎回ではないが、荷物が搬入が異常に多いと作業が遅れる時がある。
そんな時、急な呼び出しにも文句の1つも言わずに黙々と、しかも誰よりも効率的に、迅速に仕事をこなすハヤテを親方は非常に気に入っていた。
「承知。 では、21番の《ナイトホース》を使用し、コンテナを25番倉庫に収納を。 その後、休息を頂きます」
「おう! お前さんの頑張りに感謝して、ちっとばかしだが給料に色をつけさせてもらった。 旨い酒でも呑んで休んでくれや。 次の出勤は明後日の12時から頼むわ!」
「承知」
ハヤテは応えると、格納庫にズラリと並ぶ、人間に数倍する大きさの頭部を持たない鋼の巨人、軍用ではない人型機械の総称──《ワークロイド》の《ナイトホース》に乗り込んだ。
《ナイトホース》は軍用人型戦車《シャイアンⅡ》を小型化した作業用モデルの《ワークロイド》である。
視界の開けた強化ガラスの操縦席。
ハイパワーと、外観に見合わない軽快さを併せ持つ《ナイトホース》は、どんな現場でも人気の作業用機体だ。
「起動シーケンス作動完了。 ──各種ステータスオールグリーン」
ハヤテは手慣れた動作で、停止状態から起動状態まで《ナイトホース》を立ち上げた。
座るように待機させてあった《ナイトホース》がスムーズに立ち上がる。
人型を模しているとはいえ、軍用の高価な機体──《バトロイド》とは違い、何処か動作に
そうであるはずだが、ハヤテの操る《ナイトホース》にはそういった
彼はAIによる操縦補佐を最低限とし、ほぼマニュアル操縦を行っているからだ。
理由は簡単でも、操るのは簡単ではない。
決して、真っ平とは言えない道での加速や減速の出力の細かな設定。
方向転換時に、荷物と機体に負荷が掛からないような重心移動。
操縦者が、マニュアルでやらなければならない事を挙げればきりはない。
マニュアル操縦は円滑な操縦を可能とするが、AIが行っていることを自らやらなければならないのは操縦者にはとんでもない負担だ。
多少のロスを考えても、わずかな知識があれば万人が操れるようにAIの補助があるのだ。
それをわざわざカットして操縦するのは、否──可能なのはここではハヤテ以外に存在しない。
「おっ、あいつかぁ」
「やっぱり違うなー」
ハヤテの乗る《ナイトホース》が荷物を軽々と持ち上げ、運んでいた。
ハヤテは、どんな熟練作業者よりも巧みに操る。
港湾の安全速度時速40㎞を必ず守りつつも、搭載AIの自動補助機能では不可能なロスが全くないマニュアル操作による荷物の上げ下ろし、通行──他の《ワークロイド》や作業用《ドロイド》を最小限の動作で回避する──ルート選定により、実際の速度よりも早く動いているような錯覚を起こす。
「すげぇな」
「ああ」
派手なパフォーマンスを行わず、やっている事は周りと変わらない。
それでも、否──それだからこそ、多くの作業員たちが思わずその動きに魅了される。
長らく《ワークロイド》に携わってきた者たちだからこそ、ハヤテの
──ハヤテ・インスメルマンの一時間あたりの作業量は同じ作業員の実に3倍以上。
アル・シャハルで働き出して1ヶ月。
ハヤテは図らずしも、その優れた仕事ぶりで港湾関係者たちの間では知らぬ者はいないほどの有名人となっていた。
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「休暇、か・・・・」
ハヤテ・インメルマンは街で食料品の買い物を済ませ、港内のある一人暮らし専用の下宿先に戻ろうとしていた。
彼にこれといった趣味は無い。
それがハヤテ・インメルマンが
半年前、気がついた時にはある惑星の病院のベッドで眠っていた。
その時に理解した。
──自分の名前が分からない。
意識を失っていたハヤテが発見された時に、これといった所持品も無かったために身元も分からず、惑星の事もまるで初見のように何一つ見覚えがなかった。
幸いなのは、日常生活の知識を忘れていなかったこと。
それに身体に染み込んだ思われる武術と、機械全般の操縦技術のおかげで、生活に困らなかった事と概ねどのような仕事をやっていたかを推測できたことだろう。
──傭兵、軍人、ボディーガード。 最悪、テロリスト。
どれにしろ、危険な事をやっていたという事だろう。
もはやルーティンである武術の鍛練を行うことに、一切の疑問も持つことも無く、身体もそれに応えて動いてくれる。
こと武術や銃器の扱いに関しての記憶は、意識が覚醒してほんの2日後には
(誰に師事されたのかは覚えていない。 全く、我ながらの事だが、難儀だ・・・・)
ハヤテの覚えていた武術は無手だけでなく、
と言うより、剣術こそが本命だと頭ではなく、身体が、心が訴えていた。
ハヤテもそれに異論はなかった。 試しに木刀を握ってみた所、恐ろしいまでにしっくりきたのだ。
新統合軍ではナイフによる戦闘術は教えても、時代遅れの剣術を教えている所は無い。
携帯端末で調べても、剣術を学べる所を探すのは無理だった。
だからこそ、誰かに師事されたとハヤテは考えたのだ。
ハヤテが丁度、下宿のあるAエリアのゲートを越えた時、慌ただしく駆け回る男たちを目にした。
「居たか!?」
「いや、こっちにはいねぇ!」
男たちは、港湾セキュリティの者たちだった。
纏う警備服が走り回ったせいか、所々乱れている。
「よし! じゃあお前たちはCエリアに行ってくれ! 俺たちはBエリアに行く!」
「おう! 逃がさねぇぞ、密航者!!」
男たちは鼻息荒く、Aエリアから左右に別れていった。
(密航者、か)
ブリージンガル球状星団の外れににあるアル・シャハルは、いわゆる新開惑星である。
資源や気候に恵まれない砂漠だけの星だが、惑星航路の中継点として発展し、さまざまな人や物が流れ込んでくるようになったのだ。
この星は、地球のようなEOTや最新科学技術による完全自動化が成されておらず、作業だけでなく警備にも人の手に頼る場合がほとんどである。
そのため、時たま密航者が紛れていることがあり、さして珍しい出来事ではない。
警備の者たちに任せておけば、いつものように時期に捕まるだろう。
その証拠に、作業員たちは特に気にした様子もなく、それぞれの作業に従事している。 精々、暇潰しの話のネタになる程度だろう。 ハヤテも特に興味もなく、下宿を目指した。
(走りにでも行くか)
暇を持て余しているが、時間を無為にするような惰眠やギャンブルに興じようとはしない。
そのいう発想が出てこないこと事態が、生来のハヤテの生真面目さなのだろう。
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「えええぇぇぇ!? な、なんで何のっ!?」
「何でって・・・・これ証明期間が“過ぎて”ますよ?」
「デ、デカルチャーーー!!?」
「残念ですが、これでは──」
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第六感。
直感──五感とは違い定かではない感覚。 時にそれが働くのが人だ。
でもそれが“五感に近い感覚”を持っており、ふと意識して感じれるならばそれは何と呼ぶべきか。
──風を感じた。
ランニングが終わり、夕食を取るために市街地へと繰り出したハヤテ。
突如として感じた“己の中にある感覚”に居てもたってもおれず、感覚のする方向へ駆け出した。
向かう先は──
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「ふ~、今回の密航者は手強かったな」
「ああ。 ホント、猫みたいに素早い奴だったぜ」
「・・・・で、捕まえた密航者はどうするんだ?」
「ちょっとした説教付きの強制送還だな。 入国期限切れのパスポートでは入国出来ないってことで無理矢理ゲートを突破して入国しようとしたけど、まだ
「そりぁ良かったぜ。 捕まってムショにぶち込まれたともなれば、夜の酒も不味くなるってもんだしな!」
「そうだな! そんじゃ、遠慮なく夜の街へとくり出そうぜ!」
「ああ!」
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銀河の様々な惑星で活動している、星間複合企業体──ケイオス。
フォールド関連のベンチャー企業で、設立10年ほどで大きく規模を拡げ、傘下に芸能部門や軍事部門などさまざまな事業を有している。
民間企業でありながら、最新鋭マクロス級戦艦──《マクロス・エリシオン》や、最新鋭VFである──VFー31《ジークフリード》を初めとして強力な軍事兵器を多数保有している。
ただし、独自の軍事行動は行わず、契約先の依頼に応じる範囲で活動している。
ケイオスで最も有名なのは芸能部門の戦術音楽ユニット《ワルキューレ》であることは誰もが認めることだろう。
否、それを認めない“熱苦しい男たち”も中にはいる。
それはともかく──
「──そっちはどう?」
《マクロス・エリシオン》艦橋で、赤毛の美女がインカムで通信連絡を送った。
『異常ないわ。 ──たちはどう?』
空港に居る──紫色の髪で神秘的な容姿の美女。
『こちら──。 ん~~~、こっちも同じく。 ──はどう?』
レジャー施設に居る──桃色の髪で童顔気味の美少女。
『こちら──。 複合センサーにも
機体の操縦席に居る──緑色の髪で物静かな印象を与える美少女。
「待ち人来ず、だな」
落ち着いた雰囲気を持つ髭を蓄えた三十代前半の男が、彼女たちの報告を聞いて言った。
艦橋のモニターにはブリージンガル球状星団が映されており、そこには過去に起こった
「この1月(ひとつき)で“ヴァールシンドローム”が10件も発生している」
──ヴァールシンドローム。
ある日突然、精神に変調をきたし、狂暴化する症候群(シンドローム)である。
これが厄介なことは、ただ狂暴化するだけなら未だしも、身体能力が大幅に増幅すると共に痛みに対して無頓着になり、兵器を操る最低限の知性が残ってしまうという事だ。
そのため、殺さずに鎮圧するために多大な労力を費やすこととなり、被害が時間経過に伴い増すという恐るべき症候群である。
「今までなら
「そうですね。 だからこそ、
── レディ・M。
ケイオスの創設者にして謎の人物。 名前からして女性である、ということ以外は誰もその正体を知らない。
「15時間前にも微弱ではありますが・・・・シャハルシティーで3件の生体フォールド波異常を感知しました。 これまでのデータから推測すると9時間以内にヴァールシンドロームが発生する可能性は81.21%です」
「やれやれ・・・・オアシスでバカンス、とはいかないようだな」
歴戦の男は、最新鋭センサーでも感知できない“確かな戦闘の予兆”を感じとり、口に加えた干しクラゲを苦笑混じりに噛みちぎった。
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様々な人種が行き交う宇宙港ターミナル。
ミラージュ・ファリーナ・ジーナスは通信機をかたてに慌ただしく人を探していた。
「美雲さん! 美雲さん、応答して下さい!!」
まるで炎のような濃い赤色の長髪を後ろで束ねた美女だ。
ミラージュは地球人とゼントラーディのクォーターであるためわずかに尖った妖精のような耳と、“超美形の祖父母”譲りの整った顔立ちをしている。
「もう! ・・・・いつもこれだから」
生真面目な性格な彼女では、公私で単独行動を好む美雲とは相性が悪い。
美雲は《マクロス・エリシオン》からの通信で異常の有無の確認の後に、ミラージュの様子を訪ねられた時にこう応えている。
──さあ? 知らないわ。 あの子と一緒じゃ潜入調査なんて出来ないもの。
美雲もミラージュとは相性が悪いことを理解している。
だからこその単独行動、ということである。
それを言ったらさらに面倒な事になるのは容易に察することができ、美雲は何も言わずにふらりとミラージュの前から姿を消したのだ。
それにしても──
(とりあえず《エリシオン》に連絡を入れないと)
ミラージュは、《マクロス・エリシオン》に通信を入れた。
そこから返された情報は、
しかし──それを彼女が知ることは無い。
生真面目な彼女は、一切上司の言葉を疑うことなく美雲の捜索を続ける。
うんざりするような人混み。
どちらかといえば人混みが苦手なミラージュの集中力は途切れそうになり、意識が漫然としてきた。
そんな時──
「え?」
何気無く人混みを眺めていたミラージュの意識を一気に覚醒させる出来事が起きた。
「銀の・・・・風・・・・」
そう表現するのが最も相応しい。 目の前で起こっている現実場馴れした光景に、ミラージュは思わず呟いていた。
うんざりする人混みをかき分け──人が走っているのだ。
決して 誰にも接触することなく、常人より明かに疾く
人々が気がつけばその神業に驚くだろうが、生憎と人混みが壁となりそれを隠し、またそれを行っている彼が認識されにくい位置を巧妙に選んでいることも合わさり、一部の者にしか認識されていない。
「待って下さ──」
手を伸ばせば触れられる位置に彼が来た。 刹那──
「「────」」
互いに目が合う。
その瞬間──ミラージュは
「あっ・・・・」
あっさりと避けられた。
彼の意識の中にミラージュが入り込むことはなかった。
わずか停滞も無く、彼は人混みの海へと消えていった。
「彼はいったい・・・・」
ミラージュは追いかけようとは思わなかった。
何故なら彼とはそう遠くない未来に再会する。
そんな何の根拠もない予感がしたからだった。