32、6、3若干内容変更しました
ステージ06「ラグナでの日常」
ハヤテ・インメルマンが行動する時には、大義や名誉、金や権力を理由にしていない。
たった1つにして、絶対なる誓いに基づいて動く。
それは──自らの心に従う、という事である。
だからこそ、人から後ろ指をさされようとも行動に躊躇うことは無い。
「な、何でなん!?」
ハヤテは搭乗した《VFー1EX》のコックピットのモニターには、必死に逃げ回る所々が
それだけではない。
美雲だから・ギンヌメールが、カナメ・バッカニアが、マキナ・中島が、レイナ・プラウラーが──全身が赤く染まり倒れており、彼女たちを守るマルチドローンプレートも電力不足のためか機能していない。
さらに、バトロイドの《ジークフリード》2機も沈黙していた。
「何でこんな酷い事をするんね!!」
悲痛な声にも、ハヤテは顔色1つ変えずにガンポッドを彼女に突き付けていた。
淀み無い動作での照準。
ロックオン。
以下にウィンダミア人で優れた身体能力を持つフレイヤとて、所詮は
全てのVFシリーズの基礎となる機体であり、開発されて50年以上経過した《VFー1》を現代技術でアップデートさせ、EXギアを組み込んだ《VFー1EX》は練習機の域を出ることは出来ない機体とはいえ、その機動性は人を軽く凌駕する。
崩れた建物等の遮蔽物があっても、フレイヤが不利なのは明らかだ。
だから──壁際にフレイヤが追い込まれるの時間は掛からなかった。
「笑止。 フレイヤ、分かっている筈だ。 これは──」
最後の情けであろう。
ハヤテはご丁寧にフレイヤの問いに答えた。
「修練だからだ」
《VFー1EX》が握るガンポッドから
容赦なく発射された。
「ふぎゃああ!!」
身体中にペイント弾を浴び、尻餅をついた。
フレイヤは、頭の先から足元まで真っ赤に染まっていた。
『お疲れさん。 各人に言いたい事はあるが、まずは熱いシャワーでも浴びて来てくれ』
デルタ小隊隊長──アラド・メルダースの声が訓練場に響いた。
ラグナ星にある《ケイオス》の私有地である10㎞の屋外訓練場は、戦場と化した街をリアルに再現している。
瓦礫や壊れ欠けた建物、破壊された《リガード》や《ナイトメアプラス》等の残骸も転がっている。
「・・・・」
「キツかったわね・・・・」
「最悪・・・・」
「もうベトベト・・・・」
〈ワルキューレ〉の面々がそれぞれペイントだらけになった身体を見て、げんなりしていた。
「はぁ~、また良いところなかった・・・・」
〈ワルキューレ〉の
『そんな事は無いぞ、フレイヤ。 身のこなしは確実に上達している。 素人目だが、歌も良くなっているような・・・・気はする』
デルタ小隊の
「ほ、本当かね!」
フレイヤのテンションの低下で光彩と光度が無くなっていたルンが、彼女のテンションを表すように瞬時に輝きを取り戻していた。
「ああ。 反省は構わんが、己を卑下するのは止めておけ。そんな事をする前に──」
「努力やね! うん! あんがと、ハヤテ!」
元気よく立ち上がると、他の〈ワルキューレ〉と合流した。
彼女たちが移動用航空機に乗り込むと、それを見計らってペイント弾をコックピット付近につけられている《ジークフリード》が近づいて来た。
『ハヤテ・インメルマン! もう1度勝負です!』
デルタ小隊のミラージュ・ファリーナ・ジーナスが通信を入れた。
『止めようよ、ミラージュちゃん』
デルタ小隊の
『何を言っているんですか、ノエルさん! 貴方の大切なフレイヤさんがメチャクチャにされたんですよ! ここでカリを返さずしてどうするんですか!!』
『えー、ペイント弾くらっただけじゃん~。 それに、いくら《ケイオス》の技術でアップデートした機体だからって半世紀前の旧式機に・・・・最新鋭の《ジークフリード》でフルボッコにされたんだよ? 空戦はともかく、バトロイド戦では作戦もなく敵わないって。 時間の無駄。 帰ってシャワー浴びようよ』
ノエルのやる気は限りなく低い。
彼女は
『うっ! で、ですが!! このまま引いては──』
『ちょっと待ちなさい』
ミラージュを遮り、ハヤテたちに司令塔から通信が入った。
声の主は
彼女は旧姓である
そこで《ジークフリード》のベースとなった──高性能試作機《YFー30 クロノス》を開発した若き天才。
また、《ジークフリード》の主任開発者で《ケイオス》ラグナ支部技術部長でもある。
SMS時代に
『ミラージュとノエルには、
格納庫のシャッターが開き、そこから
よく知る機体だ。
その機体を見馴れているにも関わらず、ミラージュは違う印象を抱いた。
『VFー31X《ジークフリード》──近接剣戟戦特化型。 近接戦闘に合わせて各フレームを大型化したからバランスも悪いし、大型化したブースターの加速はISC(慣性蓄積コンバーター)を使っても殺人的なGがかかる──
「承知!」
ハヤテは《ジークフリードX》に近接して、《VFー1EX》から即座に乗り換えた。
パイロットシートにしろ、操縦桿にしろ驚くほどに身体に馴染む。
各機器も見易い位置にある。
それらは全て、ハヤテに合うようにオーダーメイドで造られ、設置しているためだ。
これまで感じていたもどかしさ──枷をはめられているような感覚が無い。
本能で理解する。
この機体なら──遠慮はいらない。
「試させてもらうぞ。 我が新たなる剣を!」
『『──っ!!』』
ハヤテから、《ジークフリードX》から放たれる気迫に、二人は否応なしに緊張を強いられた。
《ジークフリードX》は鞘に納められ、腰に差してある刀──
示現流──蜻蛉の構えである。
「いざ、尋常に勝負!」
《ジークフリードX》は爆発的な加速を持って、二機に肉薄する。
『望むところです!!』
『ちょっ、待って下さい! そういうのは、ミラージュさんだけ──うあああぁぁぁぁん!!』
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
──デルタと〈ワルキューレ〉の合同演習から遡ること2週間前。
アラド・メルダースからの誘いを受けたハヤテは、わずかな戸惑いがあったもののデルタ小隊へのスカウトを受け入れた。
それに伴って親方に職を辞する事を伝えると、なんと《ナイトメア改》をハヤテに譲渡すると言ってきた。
なんでも《ワークロイド》を護ってくれた礼とデルタ小隊入隊の餞別、との事だった。
ハヤテとしては、戦場で勝手に戦った事で罪に問われなかったことだけで十分に良くしてもらったという思いがあり、頑として《ナイトメア改》を受けとることを拒否した。
頑固さでいえば親方も譲らない。
話が平行線となり進まなくなったところで、その場に居合わせていたアラドが仲介役として折衷案を出し、《ナイトメア改》にかかった金額をハヤテが半分支払うという事で両者は納得した。
こうして、ハヤテはデルタ小隊の本拠地であるラグナ星へと渡った。
そこでデルタ小隊及び〈ワルキューレ〉の母艦であり、《ケイオス》ラグナ支部そのものであるマクロス級戦艦──《マクロス・エリシオン》で身体検査、運動能力、操縦技能等の様々なテストを受けた。
アラドのカンは当たり、ハヤテはどの項目でも高い数値を叩きだし、プロフェッショナルとして過大評価も過小評価もしないデルタ小隊エース──メッサー・イーレフェルトがまったく反対もしなかった事からもその能力の高さが窺い知れる。
特にバトロイドによる近接戦闘では、《VFー1EX》同士で戦ったメッサーやアラドでさえ倒しきれなかった腕であった。
そのかわり、ファイターでの空中戦では二人に撃墜されていたが・・・・それでも一流であることは変わりなく、超一流の二人に及ばなかっただけ、と記しておく。
「う~ん、やっぱり厳しいんじゃない?」
「確かにな、こればっかりはな・・・・」
医療衣を着たハヤテがバイオスキャナーに掛けられ、身体の隅々まで検査されている。
彼の詳しい生体情報が、技術部部長であるアイシャの研究室のモニターに逐次転送されている。
アイシャとアラドは、ハヤテの検査結果を見て浮かない顔つきをしていた。
「パイロットとしてチャックやミラージュ、ノエルより優っている。 デルタ小隊に入れるのは
デルタ小隊は戦闘ももちろん大事だが、〈ワルキューレ〉の歌の効果を最大限に発揮出来るようにライブを盛り上げるパフォーマーとしての役割も大切である。
そのため、求められるのは戦闘技能だけにあらず。
「リズム感ゼロ。 試しに歌わせても超音痴。 しかも本人がそれを気がついていないという、もう致命的なやつね・・・・」
「・・・・博士でも何とか出来ないのか?」
「・・・・AIサポートを使っても
「・・・・致命傷だな、こりぁ。 ──だが幸いな事に、腕はハヤテに劣るがリズム感とセンスは目を見張るものがあるノエルをデルタに引っ張れた。 パフォーマーとしては、デルタは5機編成でバランスはとれている。 ハヤテには戦闘で気張ってもらうとするさ」
「そうね。 それが1番よ」
そう結論付けると、アイシャはアラドの持っている携帯端末にハヤテのバイオスキャナーの結果を表示した。
「彼が記憶喪失なのは間違いないわ。 脳に電気信号を無理やり流せば取り戻せる事はできるけど、後遺症は間違いなく残る。 それに死亡する可能性も結構あるし、自然と記憶が戻ることをオススメするわ。 本人の意向に沿って、集めた身元に関わる情報を教えていって脳に自然な刺激を与えるのがベストね」
「わかった。 ハヤテにはそう伝えておく」
「頼むわ。──そして、彼が
「こいつは・・・・マジか?」
「ええ。 もしかして、と思って
アイシャは先ほどまでの苦い顔がウソのように、とびっきりの笑顔を浮かべていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
──デルタと〈ワルキューレ〉の演習から遡ること10日前。
ハヤテはパフォーマーとしては失格だが、戦闘要員として文句無しにデルタ小隊入りを果たした。
同時にアイシャから
結果、デルタ小隊の契約金と
金は持っているが特に住居に関する拘りは無く、家を購入したり、高級借家を選ぶことはなく、デルタ小隊の宿舎に指定してある──中華料理店『裸喰娘娘(らぐにゃんにゃん)』の2階に住むことになった。
そこには、実家であるためデルタ3のチャック・マスタング、ハヤテと同じく住居に拘りのなかったメッサーの3人のデルタ小隊員が住んでいた。
なお、隊長のアラドは
ミラージュとノエルは、カナメとマキナ、レイナと一緒に護衛を兼ねて女子寮に住んでいる。
ちなみに、〈ワルキューレ〉で美雲だけが別の場所に住んでいる。
「チャーハン、5番テーブルに2つ、7番テーブルに1つ、上がったぞ」
ハヤテは、チャックと共に『裸喰娘娘』の厨房に立っていた。
無論、金に困っての事ではない。
彼はデルタ小隊としての給料だけで、生きるどころか贅沢しても十分に余裕がある生活をできる高額を手に入れているからだ。
その理由は──
「はいよ!」
「りょうかい!」
働くウェイターたちの存在にあった。
ハヤテの作ったチャーハンを受け取ったのは、ラグナ人のマスタング家5兄弟の10代前半の次男──ハック・マスタング。
ハックの2つ下の三男──ザック・マスタングであった。
他にも店内で働いているのは、5兄弟の20歳の長女──マリアンヌ・マスタングである。
「チャック兄ちゃん! 4番テーブルにマーボーを2つお願い!」
「あいよ!」
チャックは手を止めず、横で料理するハヤテに話し掛けた。
「ほんとわりーな。 慣れない訓練やら検査で疲れてるだろう?」
「構わん。 俺が言い出した事だ」
初日にここに来て店を守るために懸命に働く彼らを見て、生来の気質である
チャックはタダでは悪いと、働く分は食費代に充てられることになった。
それでも格安の労働力には変わり無い。
「それにしてもチャックの兄弟はよく働く。 特に、ザックやハックは遊びたい盛りだろうに。 よほどこの店が好きなのだな」
取り方によれば嫌味に聞こえる内容だ。
だが、わずか1日程度の短い付き合いであるが、ハヤテの心根の真っ直ぐさを知るチャックは、その言葉に裏が無いことを理解していた。
「そうだな」
チャックは応えると、複雑な顔をしながら昔の事を語った。
「オヤジとオフクロが揃ってが事故で死んでからは二人で話し合って、俺とマリアンヌだけでやっていたんだが・・・・やっぱ上手くいかなくてな」
チャックの話は続いた。
悪いことは重なり、店を改築したばかりのタイミングでもあったのだ。
そのため、店には結構な借金が残っていた。
「ザックとハックには幼いながらにここの経営がやべぇ事に気がつかせてしまってたよ。──言い訳になっちまうが、見習い程度の料理の腕しかなかったし、飛び抜けた学もなかった10代のガキ二人には限界があったみたいだ」
「・・・・志だけでは商売は上手くいかん、という事か」
「そうだな。 まっ、そんな事少し考えれば分かるもんだが、それも分からない程にガキだったて事だな。 ──けど、悪いことばっかりじゃなかったぜ」
チャックは嬉しそうに、誇らしさそうに笑った。
「ある日、ザックがな──『父ちゃんと母ちゃんの店を潰したくないから手伝わせてくれ』って、そう言われちまったらもう何にも言えなかったよ。 ほんとあの時は弟に迷惑かけちまう不甲斐なさと、店の事を思っていてくれた嬉しさでみっともないけど、思わず泣いちまったよ」
「そんな事はあるまい。 人は感情を出すべき時には出すべきだ。 恥ずべき事は無い。 それに、感情を無理に殺せば人は笑えなくなるぞ──俺のようにな」
ハヤテは無理に笑おうとしたのだろう。
口角がわずかに上がるも、唇がひきつっていた。
「・・・・笑っていいところか?」
「笑うところだ」
ハヤテはとても冗談を言っているとは思えない、感情がほとんどうかがえない唐変木のような表情だ。
「ははは! メッサーばりに目付きは鋭いは、顔は無表情ぽいくせに見た目に反して随分と面白い奴だよな、ハヤテは!」
「そうか?」
「そうだよ。 まっ、これからデルタでも、こっちでもよろしく頼むぜ!」
「こちらこそ、よろしく頼む」
「よっしゃあ! 話も途中で切るのもあれだしな。 マスタング家の話を続けるぜ! BGM程度に聞いてくれ」
「承知した。
ザックが家の手伝いをするようになって少しは売り上げが上がったものの、根本的に借金を減らす事には繋がらなかった。
そのためチャックは、高級取りのパイロットを目指すようになり、店主代理をマリアンヌに任せた。
チャックは指の間に水かき、首のエラから分かるようにラグナの先住民──水棲人類のラグナ人であり、ハンデを抱えているにも関わらず猛勉強して見事パイロットとなったのだ。
その後は紆余曲折あり、新統合軍から《ケイオス》に鞍替えをした。
それからは割りと時間はできるようになったが、それでも二足のわらじは難しく、正式に《ケイオス》の所属となってからは店主をマリアンヌに譲り、自身はコックとして店を手伝う事にした。
店の借金はチャックがパイロットとして稼いだ金で、数年で返済は終了した。
『裸喰娘娘』は結構な数の常連客がついたおかげで経営が軌道にのり、一番下の弟のハックが手伝うようになった頃には黒字経営となっていた。
今では営業時間を短くすることもできるようになり、5兄弟の末っ子──次女エリザベスは店の事を考えずにのびのびと遊ばせてあげられる程の余裕も出来た。
「──という感じだな」
「ふむ、君たちが幸せそうで何よりだ。ところでつかぬ事を聞くが、この店は本家『娘娘』のライセンスはとっているのか?」
「ん? 何の事だ? 『娘娘』とは何の関係も無いぞ?」
「・・・・理解した。 触れない方が良い話題ということだな」
豪快に笑うチャックに、ハヤテはどこか疲れたような表情をしていた。