──デルタと〈ワルキューレ〉の合同演習から遡ること7日前。
ハヤテはグリムリーパー隊と格闘訓練所で始めて顔を合わせた。
新型パワードスーツ《フェンサー》隊の中でも、ヴァールへの耐性と実力を認められた者だけが配属される第3戦闘航空団第1飛行隊司令部付き『グリムリーパー中隊』。
VFやPTの火器が直撃すれば即死確実であり、脱出装置もなくパイロット以上の死亡率がある《フェンサー》隊に身を置く命知らずの豪傑たちの中でも、さらに精鋭と呼ばれる彼らに認められのはそう簡単ではない。
現に、彼らに
けれども──
「・・・・どうしてですか?」
ハヤテは既に彼らに認められていた。
その事にミラージュが疑問に思っても、他のデルタ小隊の面々はそうは思わなかったようだ。
「まっ、ハヤテならこうなると思ってたぜ」
チャック・マスタングが笑い混じりで陽気に。
「ああ。 ヤツならばグリムリーパーの連中も気に入るだろうさ」
アラド・メルダースは何でもないとばかりに。
「彼の実力を加味すればあり十分にあり得る事だ」
メッサー・イーレフェルトは冷静に。
「ハヤテさんなら納得」
ノエル・マリファスは納得げに。
「まぁ、私も
《フェンサー》は、身体能力が優れているウィンダミア人や純粋なゼントラルがヴァール化したとしても制圧できるように設計されているのだ。
対人戦で《フェンサー》はまさに無敵とも言える、圧倒的なまでの性能を持つ。
何せ戦いようによっては《VF》さえも倒すことも可能である。
グリムリーパー隊は数で勝っているとはいえ、ヴァール化したパイロットが操る《VF》や《デストロイド》を撃破した実績を数多く残している。
「しかも平地の、何の遮蔽物も無いところで・・・・時間切れで引き分けだったけど。 それってもはや勝ちも同然の結果だよね? それだけの事をやってしまえるんだから、仕方ないよ」
「・・・・完全に納得はしかねますが、ノエルさんの言う事は分かります」
ミラージュの目線がハヤテに向いた。
グリムリーパー隊の1人と激しい剣戟の響きを奏でいるハヤテの
ハヤテは衣服を除き、《ケイオス》に入隊する時に唯一と言っても良い持ち込んだ私物が刀だった。
ミラージュは刀剣には詳しくないのだが、それがただの安物で無いことははっきりと分かる。
芸術品といわれても疑いを一切抱かない美しい銀の刃。
刀独特の反りは、美しさと斬れ味を兼ね揃えた絶妙な角度。
超振動ブレードを受けても刃こぼれ1つ起こさなかった強度。
銘を──
「ハヤテ・インメルマンの持つ武器・・・・刀でしたよね。 あれは光の反射以上に
「気のせいじゃないぜ。 あの刀というより、ハヤテ本人に起因するがな」
ミラージュの疑問に、アラドが答えた。
「どういう事ですか?」
「
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グリムリーパー中隊第2小隊の指揮官であるグリムリーパー02──マイク・ソルダニスは、良い意味でも悪い意味でもお調子者である。
だからこそ、直属の部下である第2小隊員と生身で良い勝負を演じたハヤテに、部下たちにおだてられて勝負することになった。
左手に小型で取り回しが良い盾──《イオンミラーシールド》。
右手に機械式の鉄槌(ハンマー)──《ジャックハンマー》。
それぞれ選択した。
どれも訓練用であるが盾は実際の物と強度に変わりはない。
また、鉄槌は先端部を衝撃緩和剤で覆っているがその威力はプロボクサーの全力ストレートよりも大きく、直撃すれば骨折は免れないだろう。
そんな物を──ヴァール化して肉体強度が限界突破している者ならいざ知らず──生身相手に使うのはさすがにお調子者とはいえ躊躇するところもある。
だが《ケイオス》の医療技術ならば、死亡さえ免れれば外傷による死亡はあり得ないとさえ言われている。
何かあれば《ケイオス》の最先端医療を直ぐに受けられる環境にあることで、ハヤテとの勝負を受け入れた。
(油断なんねぇ!!)
マイクは速攻で決着が着くだろうと、高をくくって戦闘をまともに見ていなかった。
最初と最後だけだ。
だからこそ、ハヤテの驚異的な身体能力を戦闘で思い知る事になった。
霊式斬艦刀を振るうハヤテは正に武神が如く。
信じがたい事だが、新型パワードスーツの《フェンサー》が力も、疾さも負けていた。
「おおおおおおおぉぉぉぉっ!!!」
ハヤテが吼える。
無表情に近かった冷徹そうな男はそこにはいない。
冷静という名の仮面を被った熱き魂を解放し、闘志を剥き出しにして刀を振るう。
闘志を、筋力を、疾さを、技術を、念動力を──持てる
ハヤテの修めている示現流は──弐の太刀入らず、とまで言われた剛剣の技であり、
示現流が生まれた人対人、生身対生身、刀が主力の戦いであった戦国の世ならば一撃必殺も出来た。
だが、時代が進むにつれて戦は銃が、戦車や戦闘機が、VFやPTが戦での主力となって行くにつれて
剣術が廃れていく中、示現流は連撃と剛撃を組み合わせた剣へと姿を変え、一部のPTに剣撃モーションとして組み込まれて現代にも生きている。
示現流──終の太刀こそ真髄成り。
弐の太刀入らずを顕現する──それこそが現代の示現流剣士の目指す
「マジかっ!!」
霊式斬艦刀の横凪ぎの一撃を《フェンサー》がイオンミラーシールドで受けると、小型とはいえライフル弾を易々と防ぐ複合合金にわずかだが亀裂が走った。
「おいおいおいっ!! ピンポイントバリアが発生しなかったぞ!!」
『いえ、正常に作動しました。
グリムリーパー03──レイニー・ミルメントの知的さを感じさせる美しい声で、通信によりマイクを訂正した。
『あの刀もさる事ながら、扱う者の技量も凄まじい・・・・あれが
ハヤテの猛攻は止まらない。
「何を呑気に言ってやがる! チームのピンチだぞ!! アドバイスの1つでもくれてもいいじゃねえか!!」
霊式斬艦刀の重く疾い斬撃を、イオンミラーシールドで防ぐのが精一杯の《フェンサー》。
『がんばれー』
何とかジャックハンマーを放ち、ハヤテの勢いを殺した。
《フェンサー》は直ぐ様追撃をかけようとするも、体勢を崩したところからのハヤテの回し蹴りが顔面を襲う。
それを咄嗟にシールドで防御するも、かなりの距離を吹き飛ばされた。
「ぐっ!! なんつー馬鹿力だ!! ──レイニー!! そんな棒読みの応援があるかぁ!! それに、何のアドバイスにもなってねぇぇぇぇぇ!!!」
『うるさいですよ、マイク』
レイニーは面倒臭そうに言った。
『使えばいいじゃないですか、
「・・・・それしかねぇか」
マイクは苦々しい口調で、ハヤテに向かって言った。
「まさか生身相手に使わされるとはな。 ハヤテ・インメルマン、お前は対した奴・・・・いや、スゲー奴だよ。 ただな──」
マイクの雰囲気が変わった。
先ほどまでのふざけた雰囲気が無くなった。
「
《フェンサー》はシールドを前方に構え、ハヤテに一直線に突っ込んで来た。
ハヤテにして見れば、最小限の動きで躱しての絶好のカウンターのタイミング。
けれども、ハヤテは自らのカンに従い、先ほどより早く回避行動をとった。
瞬間──
「──っ!!」
ハヤテの頬を機械鉄槌が掠めた。
吹き上がる鮮血。
致命傷には至らなかったが、完璧に回避出来ていた攻撃を回避し損ねた。
その原因は《フェンサー》の踏み込み速度にある、とハヤテは直ぐに気が付いた。
「その加速・・・・まさに脅威的だな」
《フェンサー》には加速のためのサイドスラスターユニット及び跳躍のためのジャンプブースターユニットが背部に搭載されている。
これにより、《フェンサー》ユニットによる身体能力拡張だけでなく、スラスターによる
さらに《フェンサー》ユニットの恩恵により、明らかに歩兵装備として高火力だが超過重量の兵器や盾を問題なく運用することを可能とするパワーを獲得している。
「・・・・恐れ入ったぜ。 スラスターで加速しても回避しやがるか! なら、これはどうだ!!」
一度距離をとった《フェンサー》は、スラスター使用による高速戦闘に移行した。
ハヤテが尋常離れの身体能力を有していても結局は生身であり、前後左右に
武器にしても霊式斬艦刀が刀としては大型である太刀と言えど、現代の最高峰技術により
さらに重量による速度低下はほぼ無い。
速度も射程も負けていれば、ハヤテが追い込まれるのは必然だった。
霊式斬艦刀でジャックハンマーを辛くも弾くのがやっとであり、身体中にキズを増やしていくばかり。
防戦一方。
勝負はまもなく決する。
誰もが──ハヤテ以外は──そう思っていた。
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フレイヤ・ヴィオンは〈ワルキューレ〉に加入して1週間。
彼女は
〈ワルキューレ〉はただ歌って踊れれば良い、ただのアイドルユニットではないからだ。
戦術音楽ユニットと公表しているだけあって、戦場に立つ上で身を守るための最低限の護身術、戦場ライブで必要な各種機器の操作法等。
また、表に公表していない活動──潜入・諜報──に必須の技術の修得等。
フレイヤはウィンダミア人としての恵まれた身体能力を持って、身体を使った事は飲み込みが早かった。
逆に、物覚えは悪くはないがかと言って知力が突出している訳でもないことや、軍や中央を除いて科学レベルが低いウィンダミア出身であるために見たこともない機器が多く取り扱いに苦労していた。
その影響のためか、得意の歌も精彩を欠いているようだった。
(重要な事はフタイテンなんよね!)
フレイヤが何とか踏ん張れているのも、ハヤテの助言のおかげであろう。
彼女はハヤテの言葉から
ハヤテの風は──停まることを許さない叱責のようである。
ハヤテの風は──進むための力をくれる鼓舞のようである。
ハヤテの声は厳しくも、暖かい。
昨日浜辺で、不退転の覚悟を教えてくれた時にもそう感じた。
(なんで何かね?)
周りの者がそう思わない事が、フレイヤは不思議でならなかった。
声量は普通。
それでも、フレイヤの耳には
同時に胸の奥が温かくなるような、苦しくなるような感覚も覚えたが──
(気のせい・・・・やと思う)
その正体には自覚がないため、フレイヤは
「うひゃ~!」
「激しすぎ・・・・」
「凄い、わね」
マキナ・中島、レイナ・プラウラー、カナメ・バッカニアがそれぞれ感嘆の声を洩らした。
フレイヤが居る 〈ワルキューレ〉専属スタジオには、彼女だけでなく〈ワルキューレ〉全員がダンスの練習を行っていた。
今は休憩時間であり、部屋全体がモニターとなる専属スタジオの部屋一杯にハヤテとマイクの訓練模様が映し出されていた。
戦闘の専門家(スペシャリスト)ではない者が見ても、ハヤテの技量が並外れているのが理解できる。
ハヤテの剣撃からは苛烈さと同時に、洗練された独特の雰囲気を醸し出していた。
まさに──努力により誰もが修得できる
ハヤテの術は、《フェンサー》を圧倒的しているように見えた。
それでも──
「足りないわ」
美雲・ギンヌメールは言った。
その顔は何処と無くつまらなそうだった。
「きっとあれでは届かない」
〈ワルキューレ〉だけでなく、《ケイオス》内で見てもその高い身体能力の高さに定評のある美雲。
他の〈ワルキューレ〉には見えていない、捉えられていない何かを彼女は見えているのか。
「クモクモ、どういう事?」
マキナが聞いた。
「さあ? 私は専門家ではないもの。
「カン、って・・・・まあ、クモクモらしいね」
美雲は時々こういう物言いをする。
彼女の持つミステリアスな雰囲気もあり、そういう個性だと〈ワルキューレ〉メンバーは特に気にする様子は無い。
「さあ、休憩はもういいかしら? 練習再開よ」
「了解~」
「了解・・・・」
「ええ」
「・・・・」
カナメはモニターに釘付けになっているフレイヤに、改めて声をかけた。
「フレイヤ、聞こえた?」
「は、はいな! すんません!!」
フレイヤは慌てて頭を下げると、名残惜しそうにモニターから目線を外そうとした。
その時──ビックリするほど真っ赤な鮮血がモニターに映し出された。
その光景は驚くほど鮮明にフレイヤの脳裏に焼き付いた。
「ハ、ハヤテッ!!!」
そこには、血だけで壁に叩きつけられたハヤテが映っていた。