高嶺の花と   作:haze

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オレだよ。オレオレ。えっ?誰かって?だからオレだって。

前回から4年だよ?かなりお久ぶりですね。
4年間色々あったね

自分も過去何書いてたっけ?って感じだったので、みんなもそうだよね?



有名人

 パンフレットを片手に持った高垣さんが楽しそうに前を歩く。科学博は展示物のジャンルとその種類が非常に多い。少し歩くだけでも目まぐるしく展示物が変化する。高垣さんはそんな展示物を興味深そうに眺め、時折足を止めて鑑賞している。

 そんな高垣さんの様子を眺めながら、ぐるりと周りを見渡す。相変わらずの動線計画に少し苦笑いを浮かべつつ、どことなく何時もと違う印象を受ける。

 その違和感はすぐに分かる。

 

 「あら、小暮さん。この展示物綺麗ですね。ほら、これです」

 

 ガラスの展示ケースに囲まれた展示物を指さしながら微笑む高垣さんが自分の名前を呼ぶ。

 

 普段は一人で訪れることしかない場所で誰かに話しかけられることもなくので、名前を呼ばれるだけでも新鮮に感じる。

 

 普段一人で博物館や美術館に行くときは、入り口で目録にざっと目を通して興味のある展示物に直行する。常設の展示物は粗方一度は見たこともあり基本スルーしている。企画展や特別展でのみ展示される展示物だけ見ているのだ。見る人が見ればああ、あいつは同業だなと思われる。これが学芸員竜である(偏見)

 

 そんな中、誰かと一緒に見て回るというのは、非常に貴重な機会である。誰かと博物館に行ったことがないわけではない。行く奴らが同業者ばかりなのだ。つまり何が言いたいかといえば、集団で博物館内を突っ切る変人集団ということになる。

 

 今回は、そんな変人共ではなく、普通の人と来ているのだ。一般的に彼女を普通の人というには語弊があるだろうが、ここ博物館・美術館という領域においては紛れもなく普通の人なのだ。

 

 普段と違う感覚に心地よい違和感を感じながら高垣さんの隣に歩み寄った。

 

 「あら、どうかされました?何だか、楽しそうですけど?」

 

 展示ケースの脇のキャプションから目を離して俺と目を合わせた彼女は、少し不思議そうに俺に問いかける。

 俺が、普通の人と博物館に来るという貴重な体験に感動を覚えていたのが、どうやら表に出ていたようだ。

 

 「いや、何と言いうか、普通の人とこうしてゆっくり見て回るのは新鮮で楽しいなぁと思って」

 

 問いかけに対して、直前まで考えていたことをポロリと口に出す。

 

 「…普通…ですか」

 

 そう呟くように答えた彼女は、すっと視線を遠くへ向ける。彼女のつぶやきに対して、今人気絶頂のアイドルに対して「普通」という言葉は失礼だったかと思い至る。

 

 『アイドル』つまりは偶像である。

 誰かのあこがれであったり、なりたいと願う理想像を体現した存在。

 

 それが『アイドル』

 

 そして、今俺の目の前にいる彼女はアイドルの高垣楓という存在を持つ。

 

 俺は、そんな人に向かって普通の人という彼女の存在を否定するような言葉を言ってしまったのだ。俺のほうが十分普通で平凡な人間である。

 

 「いや、申し訳ない。普通というのは言葉の綾というか、決して高垣さんを否定しようとか…」

 

 申し訳ないといいつつも、言い訳を口にする自分に辟易とする。

 そんな俺を前にした高垣さんは少し考えるようなそぶりをした後、ニコリと微笑み応える。

 

 「ふふっ、大丈夫ですよ。怒ってなんていませんから」

 

 そう言う彼女の寛容さに安堵し胸を撫で下ろしそうなる。

 

 「ありがとう。とはいえ、今後は気を付けるよ」

 

 「いぃえ。小暮さんが気を付けることなんかありません。むしろ、私はもっとお話ししたいです。駄目でしょうか?」

 

 そう言って上目遣いになる彼女にドキリとする。

 

 「あの、もしご迷惑でなければでいいのですが」

 

 彼女の姿にどぎまぎとして言葉に詰まった俺を見て、俺が嫌がっていると感じたのか。上目遣いで見上げてくる彼女の表情が不安そうになる。

 

 「いやいや、俺なんかでいいなら何でも聞いてくれ」

 

 咄嗟にそう答えると、不安そうな表情から花開くようにはにかんだ。

 

 

 

 

 

 

 残りの順路を二人でゆっくりと話しながら歩く。

 普段は一人でいることのほうが多い俺は、知らず知らずのうちに展示物を眺めながら考え事をしているように見えて少し声を掛けるのを遠慮していたというのを後になって聞いた。

 

 「いやいや、遠慮しなくていいよ。大体そういう時は碌な事考えてないから」

 

 「本当ですか?じゃあ先ほどの恐竜の化石を見てた時は何を考えてたんですか?」

 

 そう言って先ほど通り過ぎたフタバスズキリュウのという首長竜の復元骨格を彼女は指さす。白魚のような彼女の指先をちらりと見やり、

 

 「首長竜って上見ると首痛いんじゃないかなぁっと」

 

 「……じゃあ、あれは?」

 

 そう言って次に指さしたのは、洪積層の地層の断面図だった。

 

 「ミルクレープみたいだなぁって」

 

 俺は、そう答える。

 

 「………っ、ふふっふふふふ」

 

 俺の答えにぽかんとした表情をしたかと思うと、如何にも可笑しそうに彼女は笑う。笑いを堪えようとしていたようだが、全く我慢できていなかった。

 

 「ほら、しょうもないことしか考えてないだろ?だから、聞きたいことがあったら遠慮せずに声をかけてくれ」

 

 「はい。分かりました。それでは遠慮なく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは高垣さんの見たいものを中心に館内を二人でゆっくりと見て退館する。

 外にでて、差し込んだ日差しに目を窄めつつ、手で影を作る。その時に腕時計が目に入り、針の位置を確かめるとお昼時を少し過ぎていた。

 

 「高垣さん、すみません。お昼時過ぎてしまいましたね」

 

 隣を歩く高垣さんも眩しそうにしながら微笑む。

 

 「いえ、こちらこそ。ごめんなさい。ゆっくり見ていたら時間を忘れちゃいました」

 

  そう言ってお互いに謝り、顔を上げると視線が合った。

 

 「ふふっ二人して何してるんでしょうね。小暮さん、少し遅れましたがお昼にしませんか?」

 

 「そうですね。少し遅れましたが行きましょう。今からの時間の方が店も空いてるだろうし」

 

 「そうです。ここはポジティブに考えましょうか」

 

 そう言うと彼女は日の差し込む道へと歩き出した。午後の木漏れ日の中気持ちよさそうに歩きだした彼女の隣に並ぶように俺も歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 博物館を出た後、近くで昼食をとろうと二人で歩く。

 

 休日の街は、老若男女問わず多くの人で賑わっている。休日はもっぱら家で寝ている俺からすると少々騒がしいと感じてしまう。そんな事を考えていた俺の視界にキャスケット帽のつばを摘み、目深に被りなおした高垣さんが目に入った。

 その瞬間、如何に自分が能天気な事を考えているかを感じる。自分の至らなさを痛感しながら、一歩歩み寄り、視線を少し下げて歩く高垣さんに呟く。

 

 「少し人が多いですね。一本横の脇道で食事のできる場所を探しましょうか」

 

 「ええ、そうですね」

 

 高垣さんはキャスケット帽の下から見上げるようにして微笑みながら頷いた。それから、彼女を先導するように前を歩き脇道へと入る。眉間にしわが寄るのを感じながら己の馬鹿さ加減を呪う。

 

 高垣さんは、アイドルなのだ。多くの人間が彼女の事を知っている。そんな彼女が白昼堂々人通りの多い街中を歩いている分かればどうなるかは一目瞭然だ。彼女のサインを貰おう、一緒に写真を撮ってもらおう、一目見ようと多く人が集まるだろう。

 

 彼女は、人通りの多い場所に出るとそういった騒ぎに発展する事は分かっていただろう。モデルとしても有名で、アイドルになってからより知名度の上がっているのだ。

 

 では、何故リスクを冒してまで人通りの多い場所に来たかというと恐らくだが、俺に気を使って言わなかったのだろう。そして、俺が気が付かなければあのままだっただろう。リスクを冒してまで能天気に歩く馬鹿に気を使わせてしまった。

 

 

 眉間の皺を消すように指でぐりぐりと伸ばした後、高垣さんは後ろにいるか確認するために後ろを振り返った。そんな俺に対して、視線を合わせた彼女がニコリと微笑むのに微笑み返す。

 

 それから、視線を前に戻すと路地の角にひっそりと佇むカフェが目に入る。ランチもしているようだ。窓から中を覗く。店内は、シートごとに区切られ、個室とまではいかないが、外からも見えづらい内装のようだ。

 なかなかにいい条件の店舗のようだ。

 

 「高垣さん、ここで食べていきませんか」

 

 

 「ええ、いいですね。ここにしましょう」

 

 外に出された看板に書かれたメニューを見た後にそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日が沈み、長い影が落ちる帰り道を歩く。

 

 朝食の後は、高垣さんが行ってみたいと言っていた雑貨屋に寄り、喫茶店で休み夕食の前に別れた。

 

 レストランを探す道中で彼女が有名人であるということを再確認してから、彼女の細々とした所作から周囲の人にばれていないか、そして、一緒にいる俺にそうした所作を気づかれないようしていたということに気が付いた。

 一度気が付いてからは、そんな事に気が付かずに呑気にしていた過去の自分を殴りたくなった。

 

 道端に転がる小石を過去の自分を殴る代わりに蹴り飛ばす。勢いよく飛んで行った小石は何度か跳ね飛んだ後側溝の中に飛び込み消える。

 小石の消えた辺りをぼんやりと眺めつつ歩く。

 

 それから、改めて今日の事をもう一度振り返る。

 ランチの後から俺は、彼女に出来るだけ気を使わないように過ごせてもらえただろうか?

 

 彼女としっかりと話が出来ていただろうか?

 

 

 

 分からない。

 

 

 

 「ふぅ、難しいな」

 

 短く息を吐いた後、頭をかきむしる様に前髪をかき上げる。仕事以外じゃ人と話すことをしない自分には非常に難易度が高い。

 彼女と過ごすのは楽しかった。だが、彼女が楽しめたかどうかは分からない。思い返してみれば、ずっと気を使ってもらったいたのだろうと思う。

 鬱陶しいくらいの自己嫌悪のスパイラルに陥っていると、内ポケットに入れたスマホが震える。プライベートの携帯に着信が来るのは滅多にない。何の通知だろうかと思いながら画面を眺めると高垣さんからだった。足を止めて内容を確認する。

 

 『先ほど帰宅しました。今日は楽しかったです。小暮さんと一緒にお話ししながら博物館を回るのはとても楽しかったです。ランチの後は一緒に雑貨屋さんやカフェにも付き合っていただき、ありがとうございました』

 

 お礼の言葉の後に緑の謎の生き物がお礼を言っているスタンプが押されていた。

 

 お礼の言葉を何度か目で見返した後返信をする。

 

 『こちらこそ、今日は楽しかったです。中々誰かと一緒に博物館に行ったりすることがなかったので新鮮でした。また機会があれば…』

 

 ここまで文字を打った後、最後の一文を消す。

 

 

 『こちらこそ、今日は楽しかったです。中々誰かと一緒に博物館に行ったりすることがなかったので新鮮でした』

 

 少し、というかかなり質素な文面になってしまったが、あまりこうした連絡を取ったりしない俺にはこれが限界だ。

 質素克無難な文章に自分の文才の無さを感じつつ、返信ボタンをタップする。

 

 「ふぅ」

 

 大した事をしたわけでもないが、大きく深呼吸を一つして、再び歩き出そうとした瞬間、内ポケットにしまったスマホが再び着信を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




4年の間に色々ありました。

本当に色々ありましたよ。ええぇ言葉では言い表せないくらい色々あって色んな社会の闇も知りました。

そういえば、近所に某有名声優の方が引っ越してきましたよ。
その方の話聞いたりしてたらこんな感じの話になっちゃいました。
今とても忙しいようで一度会ったきりですが、有名になるのも大変ですね。

さて、実は今回続きを書くためにキーボードを叩いたのは感想欄に「待ってるでー」と感想が来たのをきっかけにキーボードを叩きました。
金が全てが信条ですが、待っている人がいるなら書こうと思いました。

今後としては、書けるとき、書きたいときに少しずつ書いて消して書いて消して進めていきたいと思ってます。

最後に
再開から4年経ってることもあり、色々と私自身の考えなどが変わっていますので、色々違和感を感じるかと思います。そこは、どうかご容赦を

ではまた

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