楓さんをもっと出したいのですが、ほかのキャラがなかなかによく喋るのでまだ出番が少なめですね
「どうも、社会報道部でディレクターをしています。小橋です。今日はよろしくお願いします」
「初めまして、本日担当を務めさせていただきます小暮です」
取材当日になり、テレビ局からはディレクターの小橋さんを始め音声とカメラマンの三人が来ていた。慣れたように三人で名刺交換を行う。小橋さんの名刺には、自分の受け持つ番組名が書いてある。まだ三十代に見えるがなかなかのやり手のようだ。取材開始はあと一時間ほど後だが小橋さん達とは取材時の動きについて打ち合わせをする為にもう集まっていた。まだ博物館も開館前なので閑散とした館内の受付前にあるテーブルで四人で車座になって座る。予め今回の取材の動きについては冊子で送られてきたので確認行う。放送は大体30分ほどになるようだ。とはいえ、取材自体は10時ごろから午後まで行うことになるだろうと言われた。俺の仕事はもうすぐ来るであろう高垣さんを案内しつつ質問に答えていればいいだろう。あとは、編集だ編集。あちらさんが上手いことやってくれるだろう。
確認が終われば、もうそろそろ到着する高垣さんを待つだけで四人して椅子に座り入り口のガラス越しに外を眺める。
いい年した男たちがぼけぇっと外を眺めているのはなかなかにシュールな光景だ。ガラスに反射する自分たちの姿が笑えてくる。しかし、流石にここで不意に笑うのも変な人だと思われるので堪える。
そうこうしているうちにゲートから一台の車が入ってくる。どうやら、今日の主役がご登場したようだ。四人揃って腰を上げて停車した車の元に集まる。
俺たちが車のそばに着くと同時に後部座席から高垣さんが下りてくる。
「おはようございます。皆さん、今日はよろしくお願いしますね。あら、小暮さん二日ぶりですね」
「そうですね。今日はお願いします」
ニコリと微笑みつつ挨拶をしてくる高垣さんに答える。
小橋さんたちが機材の最終調整をし、高垣さんがメイクをしに行っている間に付き添いのプロデューサーを交えて雑談をすることになった。名刺ケースから名刺を取り出しつつ恒例の名刺交換タイムである。
「どうも、プロデューサーの武内です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、学芸員の小暮です。よろしくお願いします」
互いに会釈しながら交換する。そして、名刺交換するなり二人して黙ってしまった。特にすることもないので交換したところの名刺に視線を落として間を稼ぐことにする。そうしているとメイクを終えた高垣さんが戻ってくる。
「お待たせしました。お二人とも。おや?どうかしましたか?」
そろそろ気まずくなって来た頃なのでタイミングよく表れた高垣さんマジ女神。
「何でもないですよ。では、小橋さんたちの準備も終わるころだと思うので合流しましょうか」
俺は二人にそう言って小橋さんたちのいる場所に向かって歩き出した。高垣さんは、そんな俺の横に並ぶように歩き声を掛けてくる。
「小暮さん、今日はあまり緊張されていないみたいですね」
「そうですかね。まぁテレビの取材なんかは今までに何度かありますからね。でも緊張してないわけではないです。むしろ今までで一番緊張してます」
「あら、そうなのですか?」
そういうと彼女は俺の顔を覗き込むように見上げてくる。
「まぁ隣にあなたがいれば男性ならだれでも緊張しますって。今こうして一緒に歩いてるだけでも緊張で足がすくみそうです」
とおどけながら答えると彼女は、くすりと笑って
「それはいけませんね。早く慣れてくださいね」
そう言った。
さて、取材については特にこれといった出来事や問題は起きなかった。カメラが回ることについては今までも何度かあったのでもう慣れてはいる。慣れないことと言えば隣で様々な表情を見せてくれる高垣さんだろう。そんな彼女の表情に不意にドキッとすることがあったくらいだ。
「はーい、オッケーでーす」
小橋さんたちと俺と高垣さん、そして彼女のプロデューサーだけの企画展示室に小橋さんの声が響いて撮影が終わったことを告げる。いつの間にか肩に力が入っていたようでほぐす様に肩を回す。
「小暮さんお疲れ様です。今日もとても楽しかったですよ」
そう言って彼女も疲れているであろうに俺のことを労ってくれる。
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
「それとなのですけれど小暮さん今晩空いていますか」
不意に彼女が俺にそう問う。突然の事であまり頭が回っていなかったがとりあえず空いていることだけを伝える。すると彼女の表情が花開いたかのように明るくなった。
「よかった。でしたら今晩またあの居酒屋に行きませんか?」
彼女はそう言った。
「え?ええ。自分でよければ」
「では、今日の8時ごろにまたあの場所でお会いしましょう」
俺はそう答えるので精一杯であった。まさかまた彼女と会うことができるとは思ってもいなかった。元々住む世界が違うのだ。初めて会ったあの日も本当に偶然で、今回の取材に関してもそうである。俺の夢のような時間はもう少しだけ続くようだ。
テレビ局の小橋さんたちはこれから編集作業に入るとの事でそそくさと帰っていった。その後に続くように高垣さんとプロデューサーも事務所に帰らないといけないという事で見送った。何時ぞやのように車の後部座席から手を振る彼女の姿が印象に強く残った。
それから誰もいなくなった企画展示室へと戻る。先ほどまで人がいた様子が全く感じられないほどがらんとしている。まるで今日の取材自体が嘘であったかのようだ。大きく息を吐いて改めて肩の力を抜く。
それから、俺は取材の終わりを知らせるために俺は事務室へと戻った。
「取材終わったぞー」
事務室の扉を開けるなり俺はそう言った。
「ういーお疲れー」
そう答えたのは、目録印刷の検品に出かけているはずのゴリちゃんである。なんでいるんだよお前。
「おい、ゴリラ。お前今日外じゃねーのか?」
「や、やだなー。航の勘違いじゃないか?」
そう言いつつ俺から目を逸らす。そんなゴリラの頭を片手で上から握り無理やりこちらを向かせる。
「ほら、正直に言えや」
「……検品の日にち間違えてました」
こいつにはもれなく目録アタックを食らわせた。
さて、取材対応以外の仕事は今日の分はもう無いので定時を過ぎたころには暇になったしまった。残業がないのは素晴らしい。明日の準備をしつつ自分の椅子にどっかりと座りこむ。待ち合わせは今日の八時である。しかも相手はあの高垣楓である。今になっても信じられない。こんな一学芸員が有名アイドルと居酒屋で待ち合わせとか実際に自分の身のこうして起こるとは思ってもみなかった。事務室の壁に掛けられたアナログ時計を見つつ時間が過ぎるのを待つ。周りの同僚も仕事が終わり帰り支度をし始めた。俺も何時までもここにいても意味がないので鞄をもち腕時計を付ける。仕事中は、文化財を扱うこともあるので何も身に着けないようにしている。そして、この時計を付けるかつけないかで俺は仕事モードとプライベートを完全に分けている。もうここに来るまえからの習慣になっている。
「んじゃ、お疲れーっす」
鞄を肩に掛けなおして俺は事務室を出る。最後に館内をぐるりと見回り職員出入口に向かう。今からゆっくり歩いていけば八時前には居酒屋に着くだろう。久しぶりに足取り軽く外を歩けそうだ。
居酒屋に到着し、店主の髭面を拝む。
「おう。よく来たな。カウンター空いてるぜ」
「うっす。いや、今日は待ち合わせしてるからテーブル借りていいですか」
「おう。いいぞ」
店主に許可を取りテーブル席に向かう。幸い彼女と以前相席になった場所が空いているのでそこにする。
「んで。注文は?」
厨房から店主が声を掛けてくる。
「あー、とりあえず、なんか軽いので。あとアルコールは相手が来てからで」
「はいよ」
店主につまみはお任せし彼女を待つ。ちらっと腕に付けた時計を確認するとあと十五分ほどで八時になる。
八時になった。彼女はまだ来ていない。店主にお任せしたつまみをちまちま食いながら待つことにする。
九時になった。彼女はまだ来ていない。店主には追加でつまみを頼む。
十時である。女々しくもまだ俺は一人で店にいる。店主は何も言わないが注文もそこそこで一人で二時間も居座るのが申し訳なってくる。とはいえ、連絡先を交換などしていない。この約束も口約束だったのだ。恐らく彼女は何か用事が入ったのだろう。
「店長、ビールくれ」
「いいのか?待たなくて」
「ああ、もういいや。元々ただの口約束だったんだ」
「そうか。……ほらよ」
最後に時計を確認したのは何時だっただろうか?久しぶりに酔いつぶれそうになるまで酒を煽った。ヤケ酒をしたのはいつぶりだろうか。店主に金を払って店から出たのは覚えている。酩酊する意識の中で明日も仕事があるのでどうにか家に向かってよたよたと歩く。
アイドルと飯とか笑えてくる。やはり夢だったのだ。そうだ。んな忙しいアイドルが俺なんかと行くわけねぇ。ハハッ笑えてくる。何を馬鹿正直にこんな時間まで居酒屋に居座っていたんだか、まるでサンタを信じているガキのようだ。
一人で乾いた笑い声をあげながら進む。本来なら関わることもない人なのだ。ここらで忘れて明日から仕事を頑張ろう。明日は、慣れ親しんだ古文書の調書作成だな。そこまで考えて重くなった頭に掌を当てて冷やしながら歩く。周りの喧騒も何時しかアルコールの回り切った頭では聞き取れなくなってきた。そんな意識の中、最後に誰かが俺の名前を呼んだ気がした。
どうやら俺は夢を見ているようだ。酒の回り切った頭で見る夢の中ではどうやら俺は自分の家で高垣さんとお酒を呑んでいる。部屋に据え置きのビールを二人で飲んでいるようだ。今日の俺が居酒屋で会えなかったから夢を無るとは我ながら女々しいな。まぁ、夢でならそれはそれでいいや。そう思いなおして缶ビールを煽る。居酒屋で一人で煽った生ビールよりも美味しく感じた。
夢の中での俺は彼女に今まで仕事中だったので言えなかったことを言っておこうと思った。あの時の高垣さん表情が可愛かったとか髪が綺麗とか何の脈絡もなく言っていた。彼女の瞳は近くで見ると色彩が違うようだ。俺は、横に座る彼女の近く寄りその瞳を覗き込む。綺麗な瞳をしている。
そこから、もう一つビールを開けたあたりで夢の中で俺はまた眠ってしまったようだ。
目が覚めた。見慣れた天井である。どうやら昨日は酔っぱらいながらも家に帰ってこれたようだ。少し頭が痛む。かなり飲んだようだが二日酔いはそこまでひどくなさそうだ。なんだかとても愉快な夢を見ていた気がする。痛む頭を抱えながら視線を横に向けると机の上にはビールの缶が散乱している。誰だこんなに飲んだのはっ!って俺しかいねぇよな。どうやら帰った後にまた一人で飲んでいたようだ。それにしても数が多い。まるで二人いたかのようだ。そんなわけないよなと一人で苦笑する。
いつまでもベッドの上にいるわけにもいかない。今日もまた仕事だ。そう思い立ち上がろうとすると右手が柔らかいものに触れる。不思議に思いとなりを見ると……
昨日、博物館で別れ、居酒屋で会えなかったはずの彼女がいた。
そう、高垣 楓である。
………why
皆さんもお酒には気を付けましょう。
作者は、アルコールに強く比較的なんでも飲みますが専ら自宅での宅飲みが中心です。一人でのんびり飲むのもいいものです。まぁ友人と居酒屋でわいわいしながら飲むのも好きです!(どっちやねん!)