高嶺の花と   作:haze

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来週なんて来なくていい


ワイン

高垣さんとまた少し距離が近づいた日から一週間ほど過ぎた。やはり人気アイドルという事もあり、最近はまた忙しくなっているようだ。俺の元には時折ロケで何があったとか、どこそこのお酒が料理と合うといった内容のメールが届く。仕事の休み時間には見ながら頬が緩む。時折添付されることのある料理や酒と共に写る彼女の姿を見るに仕事をとても楽しんでいる様子がよく分かる。

 合わない日は何時しかそうして互いに連絡を取るようになった。

 

 「おう。最近は何だか機嫌がよさそうだな」

 

 「館長、お久しぶりですね。出張お疲れ様でした」

 

 「おう。本当に面倒だったぞ。全くだ。それよりも小暮は雰囲気が変わったな」

 

 スマホを見ていた俺に声を掛けてきたのは出張を終えて帰ってきた我らが博物館の館長である。スキンヘッドにボクサーのような体型のマッチョである。なぜ俺の周りには筋肉達磨しかいないのだろうか。

 

 「変わってますか?」

 

 「ああ、前は面白みのない仕事人間だったが今はましになったな。少しは面白そうな面になってるぞ」

 

 不意に告げられる俺の印象が散々である。とはいえ、少し前までは確かにゴリちゃんとぐらいしか会話もしなかったし休憩時間も大抵は事務室には戻らずに収蔵庫などで過ごしていた。

 

 「女でも出来たか?俺の知らない内に堅物人間の小暮にも春が到来か?」

 

 「そんなんじゃありませんよ。ただ、最近は少し呑みに出るようになったくらいです」

 

 「本当にか?」

 

 ニヤリと笑いながら疑うような目線を向けてくる。

 

 「それだけです」

 

 「けっつまらんぞ。小暮よ。もっとこう面白そうなことをしてくれ。俺は話題に飢えているのだ!前もここにアイドルの高垣楓が来たというのに俺は出張でハゲ共の相手しなきゃならんかったしな!」

 

 そう叫びつつ俺の両肩を掴み揺らしてくる。

 

 「それはご愁傷さまでした」

 

 「ま、俺のことはいいか。それよりも小暮が呑みに出るとはな。知らなかったぞ」

 

 「大学の頃はよく行ってましたが、また行くようになったのは最近ですよ」

 

 「一人で行ってるのか」

 

 「一人の時もありますが、最近は二人でとかですね」

 

 「二人というとゴリラか?あいつは酒に弱いんじゃなかったか?」

 

 「ゴリちゃんじゃありませんよ。まぁ、最近知り合った方とです」

 

 「女か?!」

 

 むさ苦しいおっさんが目をキラキラさせながら俺に迫る。ちけぇよ!あと暑苦しい!

 迫ってくる館長を押し返しつつ

 

 「まぁそうです。飲み友達ですよ」

 

 「そうか。楽しそうでよかった。そいつのお陰でお前も険が取れてきたからな。それで、結婚式は何時かな?」

 

 険が取れてきたという館長は俺の成長を見守る親のような優し気な目をしていたが、すぐに悪戯気な目に変わってふざけてくる。

 

 「だから、ただの飲み友達ですって。とはいえ、少しは今までより肩の力を抜きながら仕事をするようになりましたよ」

 

 「そうか。これならお前に新しい仕事を任せるのもいいかもしれんな」

 

 「新しい仕事ですか?」

 

 「ああ、そうだ。今までのお前では、少々向いていなかったが険も取れてきたしもう少し表での仕事もしてもらおうかと思ってな。まぁまだ先の話だろうから気楽にしていてくれ」

 

 「はぁ、了解です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新しい仕事か。館長は、見た目が全く博物館の館長には見えないしふざけたような事しかしないが仕事には真剣で人を見る目もある。まだ先の事だとは言っていたが何かまた新しい仕事を任せてくれるのかもしない。出来るのならば期待には応えられるようにしたいと思う。

 

 

 

 今日の業務を終えて博物館を出る。夏に向かって少し暖かくなってきたが日が落ちるとまだまだ肌寒い日が多い。そんな帰り道にスマホの着信を確認する。メールの着信があり高垣さんだと分かる。メールを開くと来週の金曜日は、午後の仕事が少し早く終わるらしいので夕食はどうですか?とのお誘いである。鞄からメモ帳を取り出して予定を確認する。一ヵ月前から始まっていた企画展も梅雨入り前に時期には終わらせるのが通例で俺の勤務する場所も例外ではない。その為、通常展示だけなのでその日は早く終わりそうだ。

 俺は彼女からのメールに了承の返信を送ってから歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、小暮さん。こっちです。」

 

 夕食を一緒に食べる約束をした彼女と駅で待ち合わせをした。仕事を早く切り上げて小走りで待ち合わせ場所に急ぐと彼女は先に待っていた。

 

 「すいません。遅れました」

 

 「いえ、私が少し早く来すぎただけですから、気にしないでください」

 

 という彼女は、ふんわりとしたスカートに白のカーディガンという上品な出で立ちである。対する俺はというと仕事帰りのスーツにコートといった服装で申し訳ない。

 

 「ふふっ、それでは行きましょうか」

 

 「そうですね」

 

 今日は高垣さんが一度ロケで行った店に行くらしい。前に写真でも送られてきたことのある店で小洒落た雰囲気の店だった。俺一人では全く縁のない場所だろうと思う。

 

 「今日行くお店はお料理も美味しいですけど、お酒にも合うんです」

 

 「へぇ、楽しみですね」

 

 「前にロケで行ったときにここはぜひ小暮さんとも来たいと思ったんです。今日は一緒に来れて嬉しいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 店に到着すると彼女は予約をしていたのか受付で店員に声を掛けるとすぐに案内してもらった。そのまま、店内の奥の個室に案内された。というかこういった段取りは普通は俺がやるべきだったんじゃないか?

 

 

 

 

 

 この店の料理は彼女の言う通りとても美味しいものだった。また、料理とワインの相性が素晴らしい。ここの店にはワイン好きがいるのかメニューに書かれているワインの種類が豊富である。注文の際には、料理に合ったワインを店員の方に教えてもらって注文した。

 料理は、肉がメインのコース料理で一緒に出された赤ワインとよく合う。肉のうまみと赤ワインの酸味が舌を楽しませる。

 二人で料理を楽しみつつ会話をする。美味しそうにワインを飲む彼女を見ながらナイフを置く。

 

 「まさか、高垣さんとこうして出掛けるようになるなんて初めて会った時には思ってもいなかった」

 

 「ふふ。そうですね。私は初めて会った時にまたどこかでお会いしたいと思いました」

 

 「それは、俺も同じです。ただ実際に会った時は驚きました」

 

 「そうですね。私も一度会っただけで名前も知りませんでしたからロケであえて良かったです。そのおかげで今こうして一緒に居られるのですから」

 

 出会った時の話をしながら個室から見える外の風景に目をやる。日が山の稜線に沈んでいく様子が綺麗に見える。今までこうしてゆっくり外を眺めようとはしなかった。山の稜線の向こう側に身を隠したことで外は一気に暗くなった。そして、外とは対照的に店内の明かりが輝いて見える。ふと視線を前に戻すと高垣さんが俺を見ていた。アルコールが入って少し目がトロリとなり、俺を見つめる彼女は柔らかな微笑みを浮かべている。

 

 「どうかしましたか?」

 

 「そうですね。最近は小暮さんが色んな表情を見せてくれるようになったと思いました。それより、ここのお料理はいかがでした?」

 

 「え?ああ、今日は誘ってくれてありがとう。こうやって食事を楽しみながら摂るというのもいいですね」

 

 「そうでしょ?私も何だか暖かい気持ちになります。それに前に小暮さんのお家に行った時にカップ麺しかなかったのでちゃんと食事をしてもらおうと思ったので」

 

 「ああ、そういえば見られてましたね。ありがとうございます。あの日からは意識して食事するようにしましたよ」

 

 「そうですか。それなら良かったです」

 

 

 

 

 それから二人でゆっくりとした時間を過ごした。会計の時には、彼女も自分の分を出そうとしたがどうにか押し切って俺が全額出させてもらった。楽しい時間を過ごさせてもらったお礼と俺の食生活を気にかけてもらっていたお礼でも含めてこれくらいはさせてもらいたい。

 

 「もう、小暮さんって強情なんですね」

 

 渋々といった様子で彼女は財布をしまう。

 

 「高垣さんも同じくらい強情ですよ。こんかいは俺に出させてくださいよ」

 

 「次は私も出しますからね」

 

 「了解です。行くならどこがいいですか?」

 

 どこに行きたいか聞くと彼女は頬に指を当てて考え込む。それから、顔を上げてこちらを見る。

 

 「そうですね……博物館に行きたいです」

 

 「博物館ですか?」

 

 「はい。博物館に行きたいです。小暮さんのいる世界を私はもっと見てみたいです」

 

 「分かりました。それじゃあ、今度休みが合えば行きますか」

 

 「はい。今日から楽しみです」

 

 

 

 それから帰りに駅まで彼女を送りながら次回の予定について話しながら歩いた。

 駅のホームに着くと彼女と向き合う。

 

 「それじゃあまた」

 

 「ええ。高垣さん今日はありがとうございました」

 

 「こちらこそありがとうございました。次にお会いする時が楽しみです。また、エスコート、お願いしますね」

 

 そう言うと彼女は手に持ったスマホをこちらに向けて見送る俺に向けた。シャッター音が鳴り彼女が笑う。呆気にとられた俺を尻目に彼女は改札を抜ける。

 改札を抜けた彼女は一度振り返り小悪魔のような笑みを浮かべてこちらに小さく手を振ると再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




赤より白ワインのほうが好き
でも、ビールのほうが好き
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