すばらしきこのアインクラッド   作:アキラニトロ

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当作品は「ソードアート・オンライン」と「すばらしきこのせかい」のクロスssです。
「すばらしきこのせかい」はスクウェア・エニックスより2007年に発売されたニンテンドーDS専用ソフトです。また、iOSでも現在配信中です。
このssはソードアート・オンライン原作既読者を対象に構成しています。
浮遊城アインクラッドを舞台に、「すばらしきこのせかい」よりキャラクターが参入した結果、SAO原作より少しずつ変化していく様子をお楽しみください。
「すばらしきこのせかい」を知らない方でも楽しめるように構成していますが、両作品のネタバレを多いに含んでいます。ご了承頂きますお願い申し上げます。


第1話 思わぬ利益

 第1層ボス攻略会議が行われた夜。

 

 明くる日の第1層ボス、≪イルファング・ザ・コボルド・ロード≫の攻略を控えて、プレイヤー≪キリト≫は拠点で夜を過ごしていた。

 

「いよいよ明日が攻略か。明日は大丈夫だろうか」

 

 キリトは心配していた。初めてのボス攻略は全プレイヤーにとって、特別な意味を持つ。

 

 はたしてこのゲームは、本当にクリアできるのか?

 

 最初の階層からゲーム攻略は停滞しており、犠牲者の数はプレイヤーの心に暗い影を落とす衝撃だった。

 

 しかし、このボス攻略を犠牲者無しで乗り越えれば、ゲームクリアは全プレイヤーの夢想ではなく、達成できる現実的な目標なのだと証明することができる。

 

 攻略参加者としては気を引き締めてかからねばならない。

 

 ……なのだが、キリトはボスの襲撃パーティーからあぶれてしまった。

 

 同じようにあぶれた()()のプレイヤーと余り者同士で組む事となったのだ。

 

 このパーティー人数の少なさから、キリト達の役割はボスへの攻撃ではなく、その取り巻きである小型モンスター≪ルイン・コボルド・センチネル≫の対処を任されてしまった。

 

 ボス攻略に息巻いていたキリトが担当から外れてしまったが、その事にキリトは仕方ないという気持ちで納得していた。

 

 彼の心配は、パーティーを組んだ他の3人を、戦力として本当に頼りにしていいのか不安なのだ。

 

 というのも、パーティーメンバーは3人ともネットゲーム初心者だった。

 

 その内1人はパーティーを組む事が初めてで、3人とも()()()()を知らないという事が判明したのだ。

 

 ちなみにスイッチとは、ソードスキル発動直後の硬直時に仲間が入れ替わに攻撃する技術である。パーティーの戦闘においては必須だ。

 

 当面の標的が取り巻きモンスターだとはいえ、スイッチが出来ないままで務まるほど、楽な役割では決してない。

 

 経験者として、キリトは1日かけてレクチャーしたが、うまくいかないで死亡すれば笑い話で済まされるものか。

 

 繰り返すようだが、ことデスゲームにおいて、ゲームオーバーは現実の命を落とすことである。

 

 実はキリトは、パーティーを組むのが初めてだというプレイヤー≪アスナ≫と、この拠点で相部屋で過ごす事になり、今は施設の機能を貸し出しているのだが、キリトの頭を悩ます要因は、別れた2人にある。

 

 2人のプレイヤーネームは≪ネク≫と≪ビィト≫。

 

 この2人、ボス攻略会議において発生した()()()()の当事者なのだ。

 

 ≪キバオウ≫というプレイヤーが端を発したベータテスター批判に対して激高し、言い争って攻略組の中から浮いてしまっている2人組だった。

 

 会議では明かさなかったが、キリトはベータテスターだ。キリトの心情はキバオウと対立したネクとビィトの2人に気持ちが寄っているのだが、素直に協力するには体がこわばってしまっていた。

 

「あの2人は、始まりの街からの付き合いらしいけど……4人でうまく連携し合えるだろうか」

 

 スイッチを知らないビギナーを3人、キリトは経験者として、命を預かる責任を感じてしまう。

 

 コミュニケーションを取り合う意味でも、キリトは自信がなかった。ボス担当から外れたのは伊達ではない。

 

 良くない夜の静寂に、ふと玄関の扉を叩く音が響く。キリトに、ノックする来客の心当たりは無かった。

 

 だが命の危険が無い()()であれば。キリトは来客を迎えた。

 

「ヨォ」

 

「アルゴ……ここがよく分かったな」

 

「情報屋のオレっちに、キー坊がどこにいるかなんて手に取るように分かるサ」

 

 来客は、≪鼠のアルゴ≫という通り名を持つ少女だ。

 

 女だてらに確かな腕を持ち、SAOでは有名な情報屋として広く知られている。

 

 キリトとは、同じベータテスターとして交友を持っていた。

 

「何か用か? 明日はボス攻略だから、もう寝るつもりなんだけど」

 

「ボス攻略の激励に来てやったんだヨ。上がらせてもらうぜ、ひょいっと」

 

 キリトの脇をすり抜けて、アルゴは部屋に入っていた。相部屋の相手が異性であるというのに、キリトは悲鳴を上げそうになるのを抑えた。悟られないようにしなければ、アルゴに弱みを握られてしまっては、ネタにされ散々弄られるのは明らかだ。

 

「勝手に上がるなよ。さあ、帰った帰った。そうだ、お前に言ってやりたい事があったんだ。あの攻略ガイドブック、無料配布だって? 俺からは金を取ったくせに」

 

「ニャハハ。ベータテスターのキー坊が細かいことを気にするナ。いい男になれないヨ」

 

「よ、余計なお世話だ」

 

「まぁ、そのお詫びって訳じゃないが。話があるんダ。ちょっと付き合ってくれヨ」

 

 キリトは突き刺すような目でアルゴを見つめた。

 

「なんだよ、前に言ってた、俺の剣を買い取りたいって奴が誰か教えてくれるのか?」

 

「いやぁ、それはダメだね。オレっちが受け取った口止め料よりも多く金を出すって言うなら考えてやるけど」

 

 ふざけるな、とキリトは野次を飛ばした。以前よりアルゴを通じて、キリトは自分の剣を買い取りたいという交渉を持ちかけられていた。その相手は自分の素性を明かそうとしない、かなり胡散臭い話である。いくら金を積まれても、ボス攻略を控えた身でうなずける訳がない。

 

「今日はその話をしに来たんじゃないんだヨ。もっとキー坊に身近な相手の情報をくれてやろうと思ってナ」

 

 キリトはギクッとした!! まさか、アスナの事は既に筒抜けなのだろうか!?

 

「明日のボス部屋の情報を持ち帰った、本当のプレイヤーの事を教えてやるヨ」

 

「……なんだって? それはどういう事だ」

 

 本当のプレイヤー、とアルゴは言った。キリトの記憶では、ボス部屋を発見したのは、今日の攻略会議の司会を務めたプレイヤー≪ディアベル≫ではなかったか。

 

(確か、ディアベルが言っていたはずだ。"俺のパーティが迷宮区でボス部屋を発見した"と)

 

 それは間違いだったのだろうか。キリトの印象では、ディアベルは情報を騙る人物だと思わなかった。しかしそれが間違いだったとして、このアルゴが無償で正しい情報を提供するというのは腑に落ちない。

 

「後になって、お代を請求されても払わないぞ」

 

「そんな事はしないって。あの会議で言われた事は、実はちょっと事情が違うんだ。キー坊が組んだ2人組の男たち。あの2人が最初にボス部屋を張本人なのさ」

 

「なんだって?」

 

 アルゴの言葉は、キリトの意表を突いていた。

 

「つまり、このアインクラッドを攻略する最前線に立っていたのはオイラたちベータテスターじゃない。およそオンラインゲームの経験を持たないビギナーだったのさ」

 

「それがあの、ネクとビィトだっていうのか!」

 

「ああ、間違いない。オレっちはベータテスターたちとコンタクトを取って、ベータテスターとは変わってしまっていたこの第1層迷宮区の情報を集めたんだ。そして直接、迷宮に突撃した先には、あの2人の姿があったのさ。ビックリしたヨ」

 

 アルゴの話は、キリトを続けて驚かせた。戦闘する姿を見せないアルゴ自身も、その身を削っているということではないか。しかしそのアルゴよりも先を越していた2人は、いったい何者なのだ。

 

「2人の戦闘はオレっちも見ていて冷や冷やものだったヨ。信じられる? ボス部屋の見当をつけて進んだ先で2人は戦っていたんだけど、その時のアイツらは当たり前のようにモンスターを倒してるのに、ソードスキルは使ってなかったんだヨ。見覚えの無いパーティーだったから、悟られないようにこっそりと後をついて行ったんだけど、ボス部屋にたどり着いたらすぐさま入りこむんだから、思わず悲鳴を上げちゃったヨ」

 

「なんて無茶な!!」

 

「オレっちにはボスと戦える自信は無かった。すぐさま引き返して、後続の連中をかき集めたヨ。即興じゃあ、両手の指の数にも満たなかったけどね。だが連中はベータテスターだった。ヤツらはニュービ―のくせに生意気だと唸って、ボス部屋に特攻したのさ」

 

 キリトは飛び上がってしまった。

 

「連中は2人を引っ張り出したんじゃないのか!?」

 

「2人はその頃には、もうボス部屋から引き返していたんだ。引き際を弁えていたって言うのかな。思いのほか、冷静だったのかもしれないが、ボス部屋の前で荒れていたよ。"力が足りない""だけど死ぬ訳にはいかない"って悔しがっていた」

 

「じゃあ、ベータテスターの連中は……」

 

 救出の目的は、2人が自発的に撤退したことで完了していた。ならば特攻する意味は無いだろう。しかしアルゴは首を横に振った。

 

「入れ替わるように入っていった。嘲笑っていたよ。ベータテスターの力を見せてやるって。どれだけ止まれと呼びかけても止まらなかった。引き返せと叫んでもヤツらは帰ってこなかった。しまいには、あのネクとビィトが助け出そうとして再度、入り込もうとしていたよ。オレっちもどうしたらいいのか分からなかったが、流石にそれだけはさせなかった……」

 

 アルゴはしばらく黙っていたが、悔やんでいるようだとキリトは気付いた。アルゴは助ける筈だった2人に、ベータテスターが破れる所をむざむざと見せつけてしまったのではないか。なんという事だろう。

 

 だが、ネクとビィトはボス攻略に参加している。それがキリトには不思議だった。始まりの街に引き返して、ふさぎ込んだって仕方ないのではないか。

 彼らは命の危機に遭ったのだ。

 

「彼らは、なぜ戦うんだ」

 

「……今までの話は、他言無用で頼むヨ。ボス攻略の指揮に、関わりかねない」

 

 今更だ、とキリトは促した。

 

「"オレはこのゲームに絶対に勝たなきゃいけない。現実(リアル)の大切な友達とまた会いたい。だからこんなデスゲームを作ったを絶対に許せない" ネクがそう言っていたよ。ビィトも強く頷いていた。このゲームを攻略したい気持ちが1番強いのは、きっとあの2人だ。クリアした先の事を考えている」

 

 2人の気持ちに、当時のアルゴは胸を打たれた。このデスゲームをクリアする理由としては、まるで当然の事だったのに。しかしキリトたちはどうだ。ベータテスターは、ゲームの最前線から置いて行かれたくないと、焦るように意地を張ってボスに挑んだ。キリトも、負けるつもりはない。しかし、あの2人に対して、荷物のように疎ましく思う気持ちが、全くなかったと言えるだろうか?

 

「オレっちは、ベータテスターたちを死なせてしまったんだ。これ以上、プレイヤーに死んでほしくない。でもオレっちには力が無い。あの2人を説得するつもりだった。だけど2人は、絶対に引かないんだって分かったんだ。せめて、情けなかったが、せめて正しいボス攻略をして欲しいと訴えた。そうしてボス攻略会議は開かれたのさ」

 

「ディアベルのことか」

 

「ディアベルは幸いにも、救出に遅れてきたベータテスターだったんだ。ネクとビィトから得たボス部屋の情報を、オレっちはアイツに渡して、攻略会議を開かせたんだ。ディアベルは快く請け負ってくれたヨ。だけど、ネクとビィトの事までは、話していない」

 

 キリトの中で得心がいった。これだけの話を聞いて振り返ってみれば、それでも攻略会議のムードは明るく行われていた。あの2人がキバオウに激高した理由も、分かった気がする。

 

「正直、ネクとビィトが直接ボスと戦わないと聞いて、ホッとしたんだ。あの2人とパーティーを組むキー坊にお願いだ。どうか、あの2人を死なせないでほしい」

 

 アルゴは頭を下げた。切実な思いをこめて、低く頭を垂れた。

 

「ディアベルの他に、この話は?」

 

「話していない。準備不足とはいえすでに1度、ベータテスター中心のボス攻略が行われて失敗している事が知られたら、今日の会議がどうなるかなんて分からなかった」

 

「そうだな。同情するよりもざまあみろなんて声が上がったりでもしたら、プレイヤー同士が協力出来なくなるかもしれない」

 

 会議でキバオウが、ベータテスターをつるし上げると言い出した時、はたして2人はどんな思いだったのだろうか。

 

 キリトはしばらくして、ためらいながらも頷いた。

 

「分かった。俺も1度、始まりの街で見捨ててしまったヤツがいる。だから、アルゴの気持ちは分かる気がする。明日は犠牲者無しで、ボスに勝ってみせるよ」

 

 そしてもう1つ、あてずっぽうだがキリトは、自分に剣の商談を持ち掛けた相手のイメージが掴めていた。

 

 こうなる事をアルゴが分かっていて話したのかは分からないが、顔を上げたアルゴは申し訳なさそうな表情をしながらも、微笑んでいた。




原作に存在しなかった2人のチームメイトと「ディアベルはベータテスターである」という情報を、思いがけず手に入れたキリト。
この違いがボス攻略でどんな波紋を生むのでしょうか。
また、原作のトッププレイヤーたちの動機は、現実に帰りたい気持ちではない、とあります。現実に帰りたい2人の気持ちは、キリトよりもアスナ寄りですが、果たして生き残れるか。
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