ソードアート・オンラインの興奮を、当ssで少しでも感じていただければ幸いです。
第1層のボス攻略戦の間取りは、幅20m、奥行き100m。高さは、5mの巨漢をもってして尚、遠い所へある。
5mの巨漢の正体は、人間ではない。赤銅色の肌を持つコボルドだ。斧とバックラーを装備し、背中にもう1つ武器を携えている。
第1層のボス<イルファング・ザ・コボルド・ロード>だ。この部屋に玉座を持ち、配下を従え、赤い眼光で攻略組を睨みつけるその貫禄は、lord(王)の称号に相応しい。
大きい。ロードの装備は、サイズ比に合致している。2m? 3m? 人間には目測で詳しく見定める事ができない。だが5人は纏めて薙ぎ払ってみせるだろう。
配下は3体、武器はメイス、兜(ヘルム)で顔を隠した<ルイン・コボルド・センチネル>は、王に仕える兵士として並んでいる。
『グオオオォォォォォォォ――――――!!』
獰猛なコボルドの咆哮が轟く。人型ではあるが、モンスターとして当然、知性は感じられない。唸り声を上げて、巨大モンスターが攻略組に肉薄する。
現実世界ではあり得ない怪物だ。殺意をたぎらせて攻略組に襲い掛かる。あくまでもモンスターは、ヴァーチャルゲームのNPCだ。コンピューターによって動かされているデータだが。
攻略組の命を奪うために設定されたデータから感じる脅威を、プレイヤー<ネク>と<ビィト>は感じていた。
命を掛けたデスゲーム。現実ではあり得ない怪物との戦闘。武器と舞台こそ違えど、仲間の数が違えど、この状況を2人は、懐かしいと感じた。決して心地よいものではないが。
この攻略組を率いるプレイヤー<ディアベル>が、鼓舞を上げたその凛々しさに、攻略組の全員が勇ましい瞳と熱意で応えたからこそ、2人は埋もれてしまっていた……。
ネクとビィトは過去に、都市1つを舞台に繰り広げられる非現実世界で、命がけのゲームを経験しているのだ。
迫りくるボスとの1合目を交わした攻略組のプレイヤーは、人混みを縫って群れの正面に躍り出たネクだ。続いてビィトが得物を振り被る。
1ヶ月を経てついに、ソードアート・オンライン第1層のボス攻略の火ぶたを切った。
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オレンジ色の前髪と後頭部が爆発しているのが特徴的なネクが、センチネルとぶつかった。ネクの武器はダガ―。普通の剣より軽い短剣だが、センチネルのメイスを
「スイッチ!」
「おう!」
弾き合って硬直したネクの隙を、ニット帽がトレードマークの大柄なビィトが埋める。ビィトの武器は戦斧。重い一撃を、センチネルに叩き込む!
『グアァァァァ――――!!』
鎧の上から胴体を袈裟切りにされたセンチネルが悲鳴を上げる。しかし2人の力では、必殺にまだ届かない。
「アスナ、一緒に頼む!」
「……ええ!」
ダメ押しにキリトとアスナが畳みかける。センチネルの討伐は、消耗戦と化している。
オンラインゲームのボス攻略は、最大48人で行われる。最初の階層とはいえ、4体でボスを張るモンスター1個体の体力が、1撃で尽きることはまず無い。
ソードアート・オンラインはレベル制のゲームだ。理屈で言えば、1撃必殺もステータスの数値を上げれば可能だろうが、この現状がF隊の怠慢だと野次を飛ばす者はいない。
ネクとビィト、キリトとアスナはあぶれ組のF隊、ボスの直接討伐からあぶれてしまった4人のパーティーだが、この戦闘で最もプレイヤーの注目を集める戦果を上げている。F隊を除いたボス討伐の本隊が、ロードの討伐に集中できる。
F隊の役割は、本隊がロードを攻め込む横やりを入れさせないように、センチネルの対処だ。
このセンチネル、出現していた3体を駆除した側から補充されていた。最初にロードに付き従っていたセンチネルは全滅したが、3体揃っている。F隊が今、1体討伐したが、どうやらこのボス攻略においてセンチネルは、最大3体までポップし続けるようだ。この無限に出現し続ける状態は、ロードがいる限り解除されないだろう。
キリトはもう2体のセンチネルを倒した。驚くほど順調だ。アスナも1体倒している。このF隊、強力だ。キリトにとって嬉しい誤算だった。センチネルが無限に湧くからこその、主導権を取れないF隊だが、安全さは保たれていた。
「お前らぬるいよ!」
「油断するなよビィト、ポーション飲んで回復してろ。キリトとアスナも、体力は大丈夫か?」
「ああ。ただし休むなら1人ずつだ。ビィトが回復するなら、俺たち3人でセンチネルから守って戦おう」
「私は構わないわ」
「待った! 俺はまだ戦えるぜ! お前らに戦わせて、休んでる訳にはいかねぇ!」
「ビィト、ローテーションだ。お前の回復が済んでから、交代で1人ずつ休むさ。それでいいよなキリト?」
「あ、ああ。それで大丈夫だ」
現在、出現しているセンチネルの数は2体。部屋の奥から向かってくるが、2体は固まっていない。F隊を挟む反対側で本隊がロードを削っている。
「キリトとアスナ、手前の奴を任せていいか。奥の奴を、俺が足止めする」
「えっ?」
「そんな、1人で戦うつもりか! それは流石に無茶だ!」
「俺も、1人で倒せるとは思ってないさ。でも、2人でセンチネルは倒すのは難しくないだろ。2人で素早く倒して、俺を助けてくれればそれでいい」
ネクは淡々と言ってのけた。顔色1つ変えていない。センチネルの力量はもう図れているはずだ。キリトは考える。
(正直、3人がこれだけ手練れだとは思わなかった。アスナの剣先は早くて見えないし、ネクもパリングを容易くやってのけている。俺とアスナで1体片付けて、それからネクを助けるのは……余裕だ!)
「よし、それでいこう!」
ネクと、キリトとアスナが飛び出した。キリトとアスナは当然のように片割れを片付けた。打ち合わせ通り交戦するネクの助太刀に入ろうとする。
そして2人は、ネクの戦いを見た。まるで旋風だ。ひらりと反撃を躱して縦横無尽に短剣を振り回すネクが、敵の体力の半分を削っている。
「……すごいな」
「……うん、すごい」
キリトはベータテスターとして驚いた。アスナはネクの苛烈さから思わず声に出していた。彼の剣閃に青いエフェクトは付いていない。ソードスキルを控えて、見事にセンチネルのヘイトを稼いでいる。
ネクの装備は軽装だ。速度を活かすためだと思われるが、盾を装備していないキリトと似た格好をしている。しかしステータスはおそらく異なるだろう。キリトは力に振っているが、ネクは?
(多分、ネクは鋭敏性にステータスを振っているんだ。でも、それにしたって立ち回りが俺より上手い!)
装備は似ている、そして戦闘スタイルも似ているとキリトは思った。もしかしたらステータスは、隣のアスナ寄りかもしれない。閃光のような刺突を繰り出すのがアスナなら、弧を描くような剣閃を重ねて手数で畳みかけるネクはさながら――――。
「ディアベルはん!!」
「何だ!?」
悲鳴のような叫びがキリトとアスナの足を止めた。振り返った2人が見たのは、攻略組を率いていたディアベルが吹き飛ばされる姿だった。
「何があった!?」
思わぬ功績に注意が逸れたキリトの隙を突くように、問題が発生しました。
果たして、悲劇は防げないのでしょうか?