鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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イベの合間に色々な作品を見ていたら妄想があふれてきてしまいました。
とりあえず初回はプロローグであるMenu-0(【前】【中】【後】)と一章のMenu-1から一話(一皿目1~3)をまとめて投稿いたします。それでは、はじまりはじまり~


Menu-0:プロローグ
【前】


 都内のとある料亭。そこで俺はある人を待っていた。

 

「ひさしぶりね、秀人」

 

 その変わらない声に懐かしさを感じながら振り返ると、そこに立っていたのはかつての面影を残しながらも立派な女性に成長し、徽章や階級章のついた濃紺の軍服に身を包んだ幼馴染と、同じく濃紺のスーツ姿の茶髪の女性だった。

 

「おう、久しぶりさくら。お前、自衛軍に入るのが夢って言っていたけど、その格好ってことは……」

 

「ふふ、まぁねー。この格好を見てもらってもわかるように、今日はその辺に関係したお仕事の話もしようと思ってね。とりあえず座りましょ?」

 

 そうして俺たちは席につき、用意されていたビールをお互いに注ぐ。

 

「じゃぁ、久しぶりの再会にってことでいいかしらね?」

 

「そうだな、五・六年ぶりか?」

 

「そうね、島を出てからも何度かやり取りはしていたけど、直接顔を合わせるのはそれくらいかしらね……お互いいろいろあったと思うけど、再会に乾杯」

 

 軍服の幼馴染と乾杯か……こいつがこの格好で来たということは、まぁアレに関係した話なんだろうな。

 

――深海棲艦――

 

 それは突然の出来事だった。とはいっても俺が知ってるのは当時ニュースで語られていたことだけで、もしかしたら日本政府としては知っていたのかもしれないが……少なくとも俺たち一般市民にとっては突然で、まさに青天の霹靂ってやつだった。

 

 日本周辺海域に突如として現れた謎の敵性体『深海棲艦』と呼ばれるそれは、なぜか現代兵器では歯が立たずその版図を瞬く間に広げ、数か月後には太平洋全域に及んだと言われる。それらは版図を広げていくと同時にシーレーンの封鎖を行い、人々を陸へと封じ込めた。

 

民間船に対する攻撃は少なかったとされているが、無理やり押し通ろうとする船や、軍艦の護衛を受けて航行する船に対しては容赦ない攻撃がなされたということで、日本政府は早い段階で民間船の航行を規制した。

 

 それに伴って、島しょ部に住む人たちは避難を余儀なくされた。当時あの島に住んでいた俺たちも例外ではなく、東京へと引っ越してきた。

 

 当然ながらその後の日本は大混乱を極めたのだが、政府政策によって少しずつ安定を取り戻していくこととなるのだが、様々な報道がなされる中で一般市民はと言えば「こうなった以上、どうにかやっていくしかない」「不便にはなったものの、何とか生きていける」という考えが大半でそれほど悲観はしていなかった。

 

むしろ日本人の気質というか、みんなで力を合わせて乗り切ろうという機運が盛り上がり、以前よりも国内は活気に満ちていたようにさえ思う。

 

 そんな中で俺はとある居酒屋で和食を中心に料理の修行をしていた。高校半ばで引っ越してきて、今一つ気乗りせずに編入もしなかった俺だったが、親父の紹介でその店で働くようになり、おぼろげながら夢みたいなものも考えるようになっていた。

 

 そんなある日、食材の値段もある程度落ち着いてきたころ大将からある話を持ち掛けられた。それは、食料の供給が安定してきたので店を再開したいという知り合いの洋食屋がいるのだが、その店でスタッフを募集しているのでどうかという話だった。

 

 今の店にも愛着があったし大将にも恩を感じていたので一瞬ためらったが、以前から和食以外にも興味があった俺は、大将の後押しもあってその話を受けることにした。

 

 その後はその洋食屋で修業をしたり、やはりそこの店主の紹介で中華を勉強したり、そば打ちを習ったりといろいろな料理に手を出してきた。あちこちを渡り歩くことに罪悪感もないわけではなかったが、店を出るときには皆笑って送り出してくれたので師匠たちにはほんとに感謝してもしきれない。

 

 そんな感じでこれまで過ごしてきたわけだけれど、先日ある料理屋での修業が終わり、そろそろ自分の店でもと考えていたところにさくらからメールが来たという訳だ。

 

「……と……秀人!聞いてる!?」

 

 っと、さくらが呼んでいたみたいだ。ついつい回想にふけってしまっていた。

 

「あぁ、ごめんごめん、もっかい頼むわ」

 

 そう言ってちょっと大げさに手を合わせて頼み込む。するとさくらは一枚の名刺を渡してきた。

 

「なになに?『海上自衛軍 特殊試験鎮守府司令官 三等海佐 大橋さくら』ってやたら長ったらしい肩書だな。つか、三等海佐っ!?その歳で!?」

 

「ふっふーん、どうよ。まぁ、実際のところ階級は形式的なもので、艦長になれるのが三等海佐以上だったからそうせざるを得なかったってだけなのよね」

 

 まだ防大をでて何年かしか経っていないにも関わらずこの階級ってことは、いくら本人が優秀で今の国防事情を鑑みたとしてもありえないだろう。なんかウラがあんのか?

 

「そうなのよ。『特殊試験鎮守府』ってところがまぁ大人の事情ってやつね。んで、いきなりなんだけど、あたしたちの育ったあの島に帰れるとしたら……帰りたい?」

 

「帰れる……のか?」

 

 料理を初めてからいつの間にか考えるようになっていた夢……今はこっちに居たとしても、いつの日かあの島に戻って店をやりたいと、そう思っていた。

 

 あの青く透き通った海で獲れた魚、緑豊かな山で採れる山菜やキノコ、島の人たちが丹精込めて作った野菜……そんな食材を使って料理を作って、みんなを笑顔にしたい……そう思ってきた。だから……

 

「もちろん!帰れるなら帰りたい!」

 

 思わず前のめりになって答えてしまった。

 

「だよね、秀人あの島好きだったもんね。実はウチの依頼を請けてくれたら帰れるんだけど……ただ、聞く前に誓約書にサインしてもらうことになるけど、どうする?引き返すなら今のうちだよ」

 

 はいはい、お前もわかっているんだろう……そう思いながら誓約書とやらをよこせと手を出す。

 

「ま、あんたならそうくると思っていたよ……アレを」

 

「ハイ」

 

 さくらは芝居がかった調子でそう言いながら横に座っていた女性に声をかけて誓約書を受け取り、こちらに差し出してきた。それをもらって一応目を通すと、一緒に渡されたボールペンでサインをしてさくらに返す。

 

「はい、確かに。じゃぁ、まずこの鎮守府のことから説明しようかしらね。鎮守府っていうのは、艦娘たちが集中配備された基地のことで、国内外に何か所かあるわ」

 

 そこでいったん言葉を切り、ビールのお替りとちょっとしたつまみを頼む。さして時間もかからずにそれらが届けられると、さくらは改めて続きを話し始めた。

 

「で、そこで何を試験するのかってことなんだけど、ずばり『艦娘との共存』よ。あなたも聞いたことあるでしょ?『艦娘』」

 

「あぁ、たしか深海棲艦が現れてからしばらくして現れた、深海棲艦に唯一対抗できる戦力を有する女の子の姿をした謎の存在だったっけ?俺の知ってることと言えば政府発表で聞いたそれぐらいだけど……そうそう、動画も見たな。海上を滑るように進む六人の女の子たちのやつと、その後出た政府の公式の奴」

 

 深海棲艦と、その後現れた艦娘。詳細な政府発表が求められる中である日、出所こそわからずじまいだったが、状況的には自衛官が撮ったと思われる一つの動画がネット上で拡散され始めた。

 


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