暁ちゃんがそうオーダーしながら四姉妹はカウンター、ほかの二人はテーブル席とみんな思い思いの席に着いたところで準備を始める。他のみんなも紅茶でいいってことで、今度は人数も多いし、抽出用ポットとは別にティーサーバーも用意してテーブル席に持って行く。
「料理の方もすぐに用意するからちょっと待っていてくれるかな」
「おう、サンキューな。俺たちの方は後でいいから、あいつらの分を先に頼むぜ」
姐御かと思ってたらイケメンだった。そんな天龍さんに感心していると、彼女に対して横から思わぬ攻撃が飛んでくる。
「そうねぇ、あの子達今日は任務中から楽しみでそわそわしていたみたいだしね~……天龍ちゃんも一緒に」
「うっせぇ龍田!俺のことはいいんだよ!ほっとけ!」
顔を赤くして、そっぽを向いた天龍さんと、そんな彼女をニヤニヤ見つめる龍田さん。
続いて、カウンターの四姉妹にも紅茶をサーブしていく。それぞれの前に置かれたティーカップに紅茶を注いでいくと、彼女たちはその様子をキラキラした目で見つめていた。
「じゃぁ、料理ができるまでちょっと待っててね」
そう言って、厨房に引っ込もうとすると、後ろから呼び止められた。
「あ、マスターちょっと待って。ジャムはあるかい?もしあったら、ティースプーンに一杯もらえないかな……えっと、二人分」
彼女は響ちゃんって言ったかな。なるほど、ロシアンティーか……金剛さんがイギリスに関係していたようにこの子はロシアに関係しているのだろう。ロシア語もたまに出て来るみたいだし。
とりあえずすぐに出せるのがイチゴジャムだったのでそれをスプーンで掬い、小皿に二つ乗せて差し出す。
「はい、どうぞ。イチゴジャムでよかったかな」
「スパシーバ。ほら暁、これを舐めながら飲んでみると良い。ロシアンティーという飲み方だ。なかなかおしゃれだと思わないかい?正式なものとは少し違うけどね」
「へぇ、こんな飲み方もあるのね。いいわね……うん、甘くておいしいわ!」
どうやら暁ちゃんがストレートで飲もうとして、飲みにくそうにしていたのを響ちゃんがフォローしたようだ。自己紹介でも言ってたけど、レディに憧れてちょっと背伸びしたがるお年頃ってやつなのだろう。
それにしても、ちょっと暴走気味だった金剛さんや龍田さんにからかわれる天龍さん、響ちゃんにフォローされてる暁ちゃんといい艦娘の姉妹艦の姉っていうのは、みんなこんな感じなのか?
そんな仲の良い姉妹たちの様子を見ながら、厨房に戻りさっそく調理を始める。今回考えていたのはずばり『お子様ランチ』なのだが……暁ちゃんのさっきの様子を見てるとお子様扱いしないでって怒られそうなんだよな。とりあえず、旗は無しにするとして……ちょっと強引かもしれないけど、あの手でいくか。
まずはメインの前に付け合わせその一、ニンジンを使った一品。本来なら、サラダを入れたいところなのだが、今日は野菜を使った一品としてこれを入れることにしよう。
作り方は簡単、細めの千切りにしたニンジンをオリーブオイルでしんなりするまで炒めたら、塩を振って味付け。火を止めて粉チーズ、パセリを振りかけて和えたら完成だ。今日は小さい子向けだからやってないけど、コショウを振ってもピリッと味が締まっておいしい。
それと並行して付け合わせその二のパスタも作っていく。と言っても茹でたペンネと櫛形に切ってあげたジャガイモにジェノベーゼソースを絡めるだけなのだが。
このジェノベーゼソースはこの島に来る前のあいさつ回りで、以前修業していた洋食屋のシェフにもらったお手製のものだ。バジル・オリーブオイル・ニンニク・松の実のシンプルなものなのだが、修行当時に俺が好きだったのを覚えてくれていたらしく、餞別にと渡してくれた。餞別でもあり、量も多くなかったので自分用にしようかと思っていたのだけれど、お皿の中に緑色も欲しかったしせっかくなので少し使うことにしよう。
さて、付け合わせが二種類できたところで次の一品、お子様ランチと言えば尾付きのエビフライ……といきたいところなんだけど、残念ながら冷凍庫にあったのはむきエビの状態で冷凍されたものだった。大きなサイズの尾頭付きはこのご時世手に入りにくいし、しかたないね。なので、今回はエビのフリットでいこう。
まず下ごしらえとして、解凍したむき海老に片栗粉と少しの塩を揉みこんで汚れを取り、しっかり水洗いしてキッチンペーパーなどに挟んで水気を取る。これで臭みはかなりとれるが、さらに下味も兼ねて酒、塩を振ってなじませておく。次に衣だが、これはいろいろとレシピがあるとは思うのだけれど、今日は小麦粉・片栗粉・水を1:1:1で混ぜたものを使う。この衣にくぐらせたエビを180℃の油で揚げて粗熱を取っておく。
あとで皿に盛りつけた後にソースをかけて完成となるのだけれど今回はオーロラソースにしようかな、タルタルソースは今日作ってないし。ケチャップ、マヨネーズにレモン汁と砂糖を少量混ぜ合わせたソースなのだが、こいつを上からタラりという訳だ。
どんどん行こう。次はメインのハンバーグ、種自体は午前中の仕込みで作って成型してあるので、後は焼くだけだ。天龍さんたちのメインもハンバーグにするつもりだったので、彼女たちの分の大きなサイズと、お子様ランチ用の小さいサイズの二種類を焼くことにする。といっても同じフライパンで同時に焼くわけにもいかないので、それぞれ焼き方は変えていくけど。
まずは大きいほうから焼いていく。十分に熱したフライパンに油を引いて、一気に表面だけを焼き固める。こうして肉汁が逃げないようにしてから200℃に予熱したオーブンにフライパンごと投入、じっくりと火を通していく。
その間に小さいほうも焼いていく。小さいほうは片面だけに焼き色を付けてひっくりかえしたらふたをしてごくごく弱火でゆっくり火を通す。修業を始めた当初はオーブンにしろフライパンにしろ、火加減や取り出すタイミングがなかなかわからなくて、失敗したもんだ。
最後はオムライス。サイズは小さいが、お昼に作ったものと同じなので、サクッとやってしまおう。
という訳で一通り完成したところで、それぞれを一つの皿にバランスよく盛り付けていき、ソースをかけていく。フリットにはオーロラソース、ハンバーグとオムライスにはケチャップなのだが、オムライスにはせっかくなのでケチャップで『Ⅲ』と書いてみる。みんな同じバッジをつけていたみたいだし、さっき自己紹介で言っていた特Ⅲ型の『Ⅲ』なのかな。
よし、あっちの二人の分のハンバーグはまだちょっとかかりそうだから、先にこれを持って行こうか。
ごめんなさい、六駆のお食事まで行きませんでした
でも、某午後茶ストレート感覚で飲んでしまい
甘くなくて『きゅぅ~』って顔しちゃう暁かわいい
明日は三皿目の最後のパートを投稿予定です
六駆はどんな反応をするのでしょう……
今回もお読みいただきありがとうございました