鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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ちょっと間が空いてしまいましたが
先日のたけのこ回の裏側というか、思いついた小ネタで箸休めです
短めですが、どうぞー


箸休め12:呼び方は大事です

 ある日の鎮守府提督室。二人の艦娘が新規着任の挨拶のため、さくら提督の前に並んでいた。

 

「日振型海防艦、一番艦、日振!提督、日振型着任しました!頑張りますっ!」

 

「おなじく日振型海防艦、その二番艦、大東さっ!あんたが提督かー。へへ、いいね!」

 

「ちょっと、大東ちゃん。提督にそんな言葉づかいは駄目だっていったじゃない!」

 

「なんだよ、かてーこと言うなよ、日振」

 

 元気よく着任の挨拶をしたと思ったら小声で言い合いを始めてしまった二人に、さくらは苦笑いを浮かべながら声をかける。

 

「二人ともようこそ。日振ちゃん、それくらいなら大丈夫だから、あなたも楽にして頂戴」

 

「ヘイ、二人とも、立ったままだと疲れるので、そこのソファーに座ってくださいネ。この鎮守府とこの島について説明しマース」

 

 さくらの横に控えていた金剛に促されてソファーに座る二人。それを見計らって金剛が資料を渡す。

 

「それでは、それを見ながら聞いててくださいネ。お二人は書類上では本部からの転属という扱いで、基本的な航行訓練はClearしていてある程度の説明も受けたと聞いていマス……デスガ、実戦経験はなく、実質新規建造艦と同じですネ、なのでそのつもりでお話しマース。それではまず―――――」

 

 そんな感じで始まった金剛の説明を、二人は背筋を伸ばして聞く。とはいえ、金剛も言っていたように、ここへ来る前にもある程度この鎮守府の特殊性の説明は受けていたらしく、時折頷きながら話を聞いていた。

 

 だが、その説明も終わりに近づいて、ある資料を見たときに思わず二人は驚きの声を上げてしまった。

 

「はぁ?これって深海棲艦かぁ!?」

 

「確か北方棲姫……でも、一緒に映ってるのって佐渡ちゃんよね」

 

 二人が見た資料とは青葉が作ったもので、先日のひな祭りの時に撮影された写真が貼り付けられたものだった。

 

「Yes!みんなはほっぽちゃんと呼んでるネー。詳しい経緯はその資料にかいてある通りデスガ、彼女は私達のFriendとしてこの島で暮らしてマース。あなた達も仲良くしてくれると嬉しいネー」

 

「はぁ、わかり……ました」

 

「金剛さんがそう言うなら、あたいも……うん、やってみるよ」

 

 全く頭になかっただろう事を聞かされて驚きを隠せずにいる二人だったが、とりあえず資料を読み込んで事情を把握しようとすることにしたようだ。

 

 資料に集中し始めた二人を見てさくらと金剛が顔を見合わせ微笑むと、金剛はどこかへ内線をかけた。

 

 ほどなくして提督室の扉がノックされた。先ほどの内線で呼び出したのだろう、入室してきたのは天龍だった。

 

「おう、呼ばれたんで来たぜ。そこのちび助どもの件だな?」

 

「ええ、昨日話していた通りにお願いね」

 

「了解だ……よう、二人とも。俺様は天龍だ、ここじゃ龍田と一緒に指導教官みてーなこともやってんだ。よろしくな」

 

 天龍にそう挨拶をされた二人は、その雰囲気に若干おびえながらもなんとか天龍に挨拶を返した。そこからは天龍が代わって説明を始める。

 

「あー、本当だったら遠征か戦闘訓練をやりてーとこなんだが、ちと枠がいっぱいでな。なるべく新規着任の奴には優先的に回してもらうが、どうしても空き時間が出来ちまう。ま、場所が有限だからしょうがねぇな」

 

 着任してすぐはそういうことをするのだろうと考えていた二人は、天龍にそう言われて、では何をするのかと首を傾げた。

 

「で、だ。お前らには開いた時間で座学と、島内活動をやってもらう。さっき説明されただろ?島内活動」

 

 島内活動……ついさっき説明されたばかりの言葉に二人も大きく頷いて、さらに日振が言葉を返す。

 

「はい、民間人との交流を目的とした、この鎮守府特有の任務ですね」

 

「あー、そんな堅っ苦しく考えなくていいんだけど……簡単に言やぁ皆で仲良くしましょうってこった。楽しくやろうぜ」

 

 真面目な日振の言葉に笑いながら軽く返した天龍は、さらに説明を続けた。

 

「っつー訳で、明日はここの施設巡り説明と午後は軽く座学。内容は……今はいいか。で、明後日はさっそく島内活動をやってもらう」

 

「了解しました、天龍教官!」

 

「りょーかいっ、えーっと……教官?」

 

「おーし、良い返事だ。内容は気になるだろうが、明日説明すっから……それと……」

 

 先ほどまでの勢いをなくして、頭を掻きながら天龍が言った。

 

「教官はやめてくれ……呼び捨てじゃなきゃなんでもいいから他の呼び方で頼む……」

 

 どうやら教官呼びは恥ずかしかったらしい。もしここに龍田がいたらからかわれていただろうが、いなかったのはせめてもの救いか……

 

「わかりました、天龍さん」

 

「じゃあさ、じゃあさ、姐御って呼んでもいいかな!なんか天龍さんカッコイイし、そういうイメージっつーかさ……」

 

 キラキラした目で天龍を見つめながら返事を待つ大東と、妹の申し出が怒られるんじゃないかと強く目を瞑って首を竦めている日振。そんな対照的な二人に、天龍の返事はというと……。

 

「なんだよ、木曾といいしょうがねぇなぁ。いいぜ、好きに呼びな……まったくよぉ」

 

 やはり、この場に龍田がいなかったのは幸運だったかもしれない……

 

 

 

 

 その夜、天龍と龍田が住むシェアハウスのリビングでは、龍田がお茶を飲みながらのんびりしていた。

 

「おーぅ、帰ったぜー……っと今日は他の連中はいないのか」

 

「おかえりー天龍ちゃん。どうだった?新しい子達。私は行けなかったからさぁ」

 

 日振たちの着任は龍田も気になっていたようで、天龍が帰宅するなりそんな質問を投げた龍田に、天龍は待ってましたとばかりに説明を始めた。天龍の表情に何かを感じ取った龍田もまた笑みを深めて話を聞く。

 

「――でよー、『教官』なんて呼ぶもんだから、それはさすがに勘弁してくれって言ったんだよ」

 

 天龍の「『教官』なんて呼ぶ」の辺りで一瞬お茶を噴きそうになる龍田だったが、その後すぐに天龍が否定したことと、考えてみれば教官と呼ばれても間違いではないことに思い至り、なんとか堪えることができた……できたのだが……

 

「だから別の呼び方をするように言ったら、日振は普通にさん付けだったんだけど、大東が『姐御』って呼びたいってよ、参っちまうよなー……って龍田?どうした?」

 

 さすがに二度目は無理だったようだ……先ほどので油断したところだっただけに、まさかの『姐御』で、しかも嬉しそうにしている天龍の顔を直視できずに、口元を抑えて咳込む龍田。

 

(そうきたかー、さすが天龍ちゃん。隙を生じさせない二段構え……というかその大東ちゃんもやるわねぇ、明日顔を合わせるのが余計楽しみになってきたわぁ)

 

 それからしばらくの間リビングには、肩を震わせる龍田に対する「おーい龍田ー?」という天龍の声が繰り返された……。

 




大東に『姐御』と呼ばれて満更でもない天龍ちゃん……
かわいいです


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