鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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とある飯系漫画を読んでこの料理が出てきたので思わずネタにしてしまいました
皆さんも知ってるであろう『あの料理』です……


五十一皿目:あの憧れの一品を……

 ほっぽちゃん漂着事件以来、特に大きな出来事もなく平穏無事に日々を過ごしている。そしてそれは鎮守府でも同じようで、何人かの新しい艦を迎えて人数も増えてきたことで、出撃・遠征・運営と様々な仕事に余裕が出てきたらしい。

 

 と、そんなようなことを朝食を食べに来たさくらが話していたのだけれど、あいつに関しては割と前々から余裕を見せていたような気もするんだが……まぁ、艦娘の子達から不満の声は聞かないし、仕事はちゃんとやっているのだろう。昔からやることはきちんとやってたし、うちの店でくらいはのんびりしてもらいたいってのも確かだしね。

 

 そうやって時間に余裕が出てくると、艦娘の子達は色々と趣味を楽しむようになってきたらしい。釣りなんかは前からやってた子も居たそうだけど、それ以外に山登りや家庭菜園――話を聞く限りもはや『家庭』の域を超えてるようだけど――に力を入れている子も居る。

 

 ここへ初めて来たときはあれほど表情が硬かった不知火も、空いた時間で料理の腕を磨いているらしく、今では鎮守府内でも屈指の料理上手になっているそうだ。もう少し自信が付いたら、そのうち俺に料理をごちそうしてくれると、先日来た妹艦の黒潮が話してくれたので楽しみに待っているとしよう。

 

 さて、そんな余暇を楽しむ余裕が出てきた鎮守府内で、ちょっとみんなとは違う趣味を持っているという二人が、とあるリクエストを持ってきた。

 

「マスター!これ!この料理をぜひお願いします!」

 

 そう言って、あるアニメ映画のワンシーンのキャプチャー画像を印刷したものを、若干前のめりで渡してきたのは夕張ちゃんだ。そんな彼女の横で何度も力強く頷いているのは、最近着任したという秋雲。

 

 最古参の夕張と、来たばかりの秋雲……艦種も着任時期も違う二人なのだが、どうやらこの二人似たような趣味を持っているらしく、そこから意気投合したのだそうだ。どんな趣味かは詳しく聞いていないけれど、夕張が見せてきた画像を見ればなんとなく想像はできる。

 

 そして夕張ちゃんが渡してくれた画像に映っている料理……確かにこれは見たらたべたくなるよなぁ……

 

「わかったわかった。具材から作らなきゃいけないからちょっと時間はかかるけど、それでもいいかい?」

 

「やったぁ!ありがとうございます!」

 

「店長、ありがとぉ!」

 

 俺の返事を聞いてお礼を言いながらハイタッチをする二人。そんなにこれが食べたかったの?まぁ、気持ちは解らなくもないけど……あ、そうだ。

 

「じゃあ出来上がるまで少々お待ちくださいね。それと、これは大皿でまとめて盛っちゃっていいんだよね?」

 

「もっちろん!さすがマスター、わかってますね!」

 

 そう言って二人は開いているテーブル席へと座った。そうだね、この料理なら向かい合って食べないとね。

 

 楽しそうに会話をしながら席に着いた二人の雰囲気に、こちらも嬉しくなりながら厨房へと向おうとすると、空いたテーブルを片付けていた榛名が話しかけてきた。

 

「マスターさん、なんだか楽しそうですね」

 

「ん?あぁ、あの二人の楽しそうなのがうつったかな。榛名はこれ、知ってるかい?」

 

「いえ、すみません。ですが、おいしそうですね」

 

 榛名にも夕張ちゃんから貰った画像を見せてみると、残念ながら知らなかったようで少し申し訳なさそうな顔をしていた。でもまぁ無理もないかな……なんせ俺が生まれる前の映画だし、俺も再放送というか、テレビのなんとかロードショーみたいなものでしか見たことはないし、正直内容もうろ覚えだ。

 

 ただ、この料理のシーンとラストシーンは印象的なシーンとして、頭の中に残っている。料理そのものの描き方や、主人公たちの食べ方はいかにもアニメっぽくデフォルメされているのだが、実に美味しそうなのだ。

 

 という訳で、今回のリクエストのミートボールスパゲッティを作っていこう。そもそもこのスパゲッティは、例の映画だけの料理という訳ではなく、スパゲッティ・ウィズ・ミートボールや、スパゲッティ&ミートボールなんて名前で食べられている、アメリカの定番スパゲティでもある。

 

 まずはミートボールから。合い挽き肉に塩・コショウ・ナツメグを入れて練るようにして良く混ぜる。肉に粘り気が出てきたら卵・牛乳を含ませたパン粉を加えさらに混ぜ、ムラなく混ざったら一口大のボール状に丸めて小麦粉をまぶす。

 

 フライパンにちょっと多めに油を熱して、ミートボールの表面を焼き固めていく。全体に焼き色が付いたら一旦取り出し、油を引きなおしてみじん切りにしたニンニク・玉ねぎを炒め、火が通ったところでトマト缶・ブイヨン・ケチャップ・ローリエを加えて煮立たせる。

 

 煮立ったら取り出しておいたミートボールを入れて、ソースを絡ませながら火を通していき、肉に火が通りソースも程よく煮詰まったら味を見ながら塩・コショウで整えるんだけど……

 

「あ、ほっぽちゃんと榛名もちょっとこっち来て」

 

 と、ちょうどホールから食器を下げて厨房に入ってきた二人を呼んで、半分に割ったミートボールにソースをかけて味見してもらう。

 

「オイシイ!」

 

「えぇ、おいしいです。塩加減もちょうどいいかと」

 

 二人はいい感じみたいだけど、俺も念のためソースをすくって味見してみる……うん、ちょうどいいかな。

 

 ソースの味も定まったところで、別鍋でゆでておいたパスタを上げてソースに投入。大きく煽りながら絡めたら完成だ。あのシーンの様に大皿に山盛りにして二人の所へ持って行く。

 

「はい、お待たせしました。ミートボールスパゲッティです……あ、二人とも、食べ方までは真似しなくていいからね」

 

「わかってますってー。うわぁ、おいしそう!こないだあの映画を見てから憧れてたんですよ」

 

「そうそう、これこれ!夕張さんと何度も話したんだよねぇ。いっただきまーす!」

 

 そう言って二人は大皿から直接……ということはさすがにせずに、取り分けてから食べ始めた。

 

 俺は一旦厨房に戻って、例のシーンに映っていたワインの代わりといってはなんだが、ぶどうジュースを用意してきたのだが、黙々と真剣な表情で食べ進める二人に思わず吹き出してしまった。

 

「あー、おいしくて思わず黙り込んじゃったわ。マスターさん、これ絶対メニューに入れた方が良いですよ。間違いなく人気出ます。ね秋雲」

 

「ん?んー」

 

 夕張ちゃんの言葉に頷きと「んー」だけで返事をする秋雲。それを見て夕張ちゃんも焦って大皿から自分の分を確保しに動いた。

 

「もー、ちょっと待ってよぉ。私の分まで食べないでー」

 

 そんな焦った夕張ちゃんの行動に、秋雲も大皿から取り分けながら言葉を返す。

 

「食べる時は食べる、描くときは描く。これがイケてる艦娘なのよ。ね?店長」

 

 そう……かもしれないけど……ま、喧嘩しないようにね。

 

 ごゆっくりと一声かけて厨房へ戻ると、洗い物をしている榛名の陰からほっぽちゃんがじっとこっちを見ていた。なんだなんだ、どした?

 

「ヒデト、ミートボールオイシカッタ……」

 

 あー、ほっぽちゃんもあのスパゲッティを食べたいのか……確かに子供が好きそうな味だもんね。でも、榛名の陰に隠れちゃってるのは、遠慮してストレートに言えないのかなぁ。

 

「そっか、ありがとう」

 

 そんなほっぽちゃんに、俺はそれだけ返してじっと目を見る。さぁ、ほっぽちゃん、頑張ってしてほしいことを言ってみよう。

 

 そんな思いで見つめていると、それを察したのか榛名がほっぽちゃんに「どうしたいのか言ってごらん」と優しく語りかけた……それを聞いたほっぽちゃんは、こっちを見つめて口を開く。

 

「ウン……ホッポモアノオリョウリタベテミタイ」

 

「わかった。じゃあ、今日の晩御飯はあのスパゲッティにしようか」

 

「ホント!?ヤッタ!」

 

 ほっぽちゃんの言葉を聞いて、今日の晩御飯のメニューを約束すると、ほっぽちゃんは榛名に抱き着いたままぴょんぴょん跳ねだした。うん、やっぱり小っちゃい子は素直なのが一番だね。

 

 ……と、いかんいかん。仕事を忘れてほっこりしてしまった。とりあえずほっぽちゃんの頭をひと撫でして、注文が溜まっていないことを確認してから厨房を出る。

 

 しばらくホールの様子を見ながらカウンターで作業をしていると、夕張ちゃんと秋雲も食べ終わったようで、背もたれに寄り掛かった楽な格好で談笑していた。

 

「空いたお皿さげますねー……どうだった?ふたりとも」

 

 皿を下げてお冷を注ぎながら、感想を尋ねてみる。といってもさっきの感じを見ると満足してくれたみたいなんだけどね。

 

「とってもおいしかったですマスターさん。さっきも言ったけど、やっぱりこの料理メニューに加えるべきですよ!」

 

「うん、おいしかったぁ。もしこれがメニューに加わったら秋雲さんも通っちゃうなぁ……まぁ無くても通うけどー」

 

 いやぁ、そこまで言ってくれるとうれしいねぇ。

 

「じゃぁ、ちょっとメニューに追加考えてみようかな……」

 

「ホントですか!?いやぁ楽しみだなー!」

 

「風雲が着任したら連れてきてあげよーっと!」

 

 俺の言葉に手を叩いて喜ぶ二人。まだ『考える』って言っただけなんだけど……まぁいいか。

 

 そんな風に思いつつも、自分の中ではほぼほぼメニューに加えるのは確定してるし、黙っておこう。とりあえずは限定ランチで様子を見てからだけどね。

 

 お皿も回収して感想も聞けたし、そろそろ戻ろうかと思った所で夕張ちゃんが「あのー……」と声をかけてきた。

 

「あのー……またこういうのあったら作ってもらえますか?」

 

「あ、秋雲も作って欲しいかも。色々気になる料理もあるんだよねぇ……だめかなぁ?」

 

 二人が言っているのって、所謂漫画飯とかアニ飯とかって事か……それなら……

 

「もちろん。とは言ってもなんでも作れるって訳じゃないとは思うけどね」

 

 夕張ちゃんの質問に笑顔で返事をする。今回みたいに知ってる料理や、作り方・味が想像できる料理に限られるけど、実際今日も作ってて楽しかったし、たまにはいいんじゃないかな。

 

……で、たまに、でいいんだよね?ふたりとも?

 




料理の元ネタは皆さんご存知、某泥棒三世がお姫様の心を盗んだあの作品です

この料理がネタにされている漫画を読んで
やっぱり料理物ならネタにしておかないと、と思った次第で……なんかすみません……

後、うちの鎮守府にもようやくアメリカ艦が着任したので
次回はその子に登場してもらおうかと思っております


お読みいただきありがとうございます

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