鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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お待たせいたしました。今回のお客様のご来店です


五十六皿目:艦娘漁船団の帰港2

 時間的にはいつもより早めではあったけれど、腹ペコ幼女を待たせるわけにはいかないので、あまり手のかからない物を用意しつつ、今日出す予定のメニューの一部も味見がてら食べてみる。

 

 酒飲み用のメニューではあったが、ご飯にも合うってことで、ほっぽちゃんにも好評だったので一安心。

 

 さて、後片付けを済ませたら仕込みに戻ろう。そろそろ例の二人も来るはずだしね。ほっぽちゃんはお風呂入って、テレビでも見ててね。眠かったら寝ちゃっていいから。

 

 という訳で厨房に戻って仕込みの続きをしていると、店の方から「カランカラン」とドアベルの音が聞こえてきた。お、来たか。と出迎えに行ってみれば、扉の前に立っていたのは、仕事ができそうな美人さんが二人。

 

「いらっしゃいませ。この店の店長をやってる田所秀人です。よろしく」

 

 自己紹介をしながらカウンターへと二人を案内する。すると二人も席について、自己紹介をしてくれた。

 

「貴殿が店長か。私は那智。よろしくお願いする」

 

「足柄よ。ふふふ、よろしくね」

 

 那智さんと足柄さんか。二人ともタイプは違うけれど、さっきも言ったように出来る女オーラを感じる。こういう仕事をしてなかったらちょっと近づきがたいかも……なんて言ったら失礼かな。

 

 とりあえず二人が座ったところで、お冷とおしぼりを渡しながら声をかける。

 

「改めていらっしゃいませ。武蔵さんが言ってたんですけど、二人ともお酒を飲まれるんですよね?それに合わせて料理の方も用意したんですけど、よろしいですか?」

 

「ああ、もちろんだ。昨日我々が運んできた魚を使ってくれると武蔵さんから聞いているので、楽しみだな」

 

「そうね、お酒の方も店長さんに任せるわー」

 

「かしこまりました、まずはこちらで用意しておいたものをお出ししますが、何か食べたいものがあれば言ってもらえれば作りますので。お酒の方もなんでもとはいきませんが、ある程度種類も揃えてあるので言ってくださいね」

 

 といいつつ、カウンター下の冷蔵庫に入れておいたビール瓶とグラスを取り出して栓を抜き、二人の前へ。

 

「まずはこちらを。その間にまた別のものをご用意してきますので」

 

 そう言いながらお通しとして用意しておいた塩昆布キャベツも一緒に並べる。ざく切りにしたキャベツと塩昆布と白ごま、ごま油を和えた簡単なものだが、居酒屋の定番メニューだけあって病みつきになる味だ。

 

「ほう、これは止まらなくなる味だな」

 

「ほんと、いくらでも食べられちゃう。ビールも進むわぁ」

 

 っと、なかなかにハイペースな二人に負けないように、こちらもどんどん行こうか。

 

 続いてはこれもビールに合うだろう一品。アンコウの唐揚げだ。

 

 先ほどおろしたアンコウの尾の身をぶつ切りにして醤油・酒・生姜で下味を付けて小麦粉をまぶして揚げたもので、ちょっと濃いめの味付けはビールにも良く合うはずだ。

 

「んっ、あつっ……だが……美味いな」

 

「うわー、なんです?この魚。柔らかくて美味しいわ」

 

「それはアンコウですよ。丸っこいのが尾の身で、平べったいのが胴の部分ですね」

 

「店長、このスティック状のものはなんだ?」

 

「それはエラですよ那智さん。食感が良いでしょう?」

 

「うむ、コリコリしていて心地よいな。それにしても臭み無く仕上げるというのは、かなり丁寧な仕事をしていると見える。武蔵さんが言っていた通りだな」

 

 確かにエラは臭みが出やすいからね。それはもう徹底的に洗って血が残らないようにしましたよ。と、二人を見れば、早くも瓶ビールを二本開けてしまったようなので、次のお酒に移ってもらっちゃおうかな。

 

「この後の料理からは日本酒が合うと思うんだけど、どうします?もう一本ビール行きますか?」

 

「いや、店長が日本酒が合うというのであればそちらでお願いしよう。なぁ足柄」

 

「そうね。日本酒にあうお魚料理、楽しみだわ」

 

 そういうことであればまずは、さっき作っていた煮凝りと蒸しあん肝をスライスして出す。これに合わせるのはちょっと辛口のシャープな口当たりの日本酒だ。

 

「へーっ、煮凝りね。ぷるぷるで美味しいわ!これもアンコウかしら?」

 

「ええ、アンコウの皮と骨を取ったヒレの部分ですね。コラーゲンたっぷりですよ」

 

 なんだかコラーゲンと聞いた瞬間足柄さんの目の色が変わった気がするけど……気のせいだろう。そして那智さんを見てみると、あん肝と日本酒をそれぞれゆっくり味わいながら楽しんでいた。

 

「いやー、これはいいな。濃厚な肝の風味を辛口のポン酒がスッキリさせてくれて、また肝が恋しくなる」

 

 よし、この調子で次の料理だ。お次は刺身、今日の魚はホウボウともう一種類、春告魚の異名を持つ魚、ニシンだ。

 

「次はホウボウとニシンのお刺身です。どうぞ」

 

「む、このニシンは……ルイベにしてあるのか」

 

「那智姉さん、そのルイベってなんなの?」

 

 那智さんは知っているようだけど、ルイベというのは北海道で主に食べられている魚料理で、要は凍った刺身だ。鮭やニシンなどにいることが多いアニサキスや線虫などの寄生虫を凍らせることで殺し、安全に食べられるように考えられたもので、凍らせたフィレやサクを凍ったまま薄切りにして食べるのが特徴だ。

 

「――とまぁ、そういう料理だ。北方にいたときにそういう料理があるとチラリと耳にしたのだが……意外と覚えている物なのだな……ま、その当時私に耳は無かったけどな」

 

 那智さんが足柄さんに簡単にルイベの説明をして、お猪口をあおる。って最後のはアレか?艦娘ジョーク的なアレなのか?

 

 どうにも反応しにくかったので、その場を離れて次の料理の準備をしに行くことにした。

 

 次はいよいよ焼き魚だ。昨日から仕込んでいたホッケの開きとみりん干しを焼いていく。開きはシンプルに塩水に漬けこんだ後干したもので、みりん干しは三枚におろしたものを、醤油・みりん・酒をひと煮立ちさせた漬け汁に数時間漬け込んだ後、干したものだ。

 

 それぞれ網に乗せて、身の方から焼いていく。身から染み出た脂が落ちるたびにジュワッという音と、美味そうな匂いが立ち上る。

 

「うん、この匂いだけで飯が食えそうだ」

 

 思わずにやけながら焼いていく。身に火が通ったら、ひっくりかえして皮を焼いていく。焦げ目がつくくらいにパリッと仕上げたら完成だ。大根おろしを添えて持って行こう。

 

「はいどうぞ、ホッケの開きとみりん干しです」

 

「あぁ、この匂いだったのか。こちらにまで漂ってきて、気になっていたんだ」

 

「これもお酒に合いそうだけど……店長さん白いご飯ってあるかしら?」

 

 やっぱりご飯が欲しくなるよね。もちろん用意してあるので、すぐに二人分のご飯セットを持ってくる。

 

「んー、これこれ。やっぱり焼き魚には白いご飯よねぇ」

 

 そう言って足柄さんが美味しそうに、ホッケをおかずにご飯を頬張る。見ているこっちが嬉しくなる食べっぷりだ。そして、那智さんもまた静かにではあるが、結構なハイペースで食べ進めていた。これは二杯目も必要そうだな……。

 

 その後、案の定というかなんというか、お替りを注文されたのでご飯と一緒にあるものも持って行く。

 

「ん?店長これは?」

 

「よかったら使ってみてください。こっちに出汁が入ってるんで、ねぎと海苔を散らして出汁茶漬けってやつです」

 

「ほほぅ。それは美味そうだ試してみようか」

 

 那智さんはそう言うと、ご飯の上にほぐしたホッケとねぎ、海苔を乗せて出汁をかけた。軽くほぐしながら混ぜ合わせて、サラサラと口に流し込むとゆっくり咀嚼しながら何度も頷く。

 

「うん、うん、これも良いな。酒の締めとしてもピッタリだ」

 

 よし、気に入ってくれたみたいで良かった。足柄さんも豪快にかき込んでるし……って、ちょっと女性がする仕草ではない気もするんだけど……まぁ、今は他の人もいないからいいか。

 

 結局今日はこの茶漬けで締め……とはならずに、まだいくらかお酒も肴も残っていたので、俺も一緒になって、ゆっくり会話しながら杯を傾けることにした。

 

 せっかくだから、今回の演習の話でも聞いてみようかな……。

 




今回は那智・足柄姉妹にご登場いただきました

丁度ホッケをネタにすると決めたときに
画面の中で那智さんが「今夜ばかりは飲ませてもらおう!」と
意気込んでいらっしゃったので……



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