鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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いつもよりちょっと長めに間が空いてしまいましたが
ようやくお届けできます

今回はタイトル通り、旬の食材で色々作るようです……
お楽しみいただければ幸いです


五十七皿目:旬の食材で色々作ろう1

「んー……どうしたもんかな……」

 

「ドシタノ? ヒデト。ナヤミゴト?」

 

「そうなんだよー、ほっぽちゃん。悩み事なんだよー」

 

 ある休みの日、朝食を食べて一息ついた後、居間でレシピノートを広げながらうんうん唸っていると、ラグの上で寝転んで絵本を読んでいたほっぽちゃんに、心配そうに言われてしまった。

 

 レシピノートを広げているところからもわかるように、店のメニューで悩んでるだけなので大した悩みでもないんだけど、わざとらしく大げさに言いながらほっぽちゃんと一緒にゴロンと寝転んだ。

 

 すると、ほっぽちゃんもワーキャーと楽しそうにしてくれたので、しばらく悩み事は忘れて二人で一緒になってゴロゴロ転がることにした。

 

 しばらくそんな風にしていると、凝り固まっていた頭もほぐれたようで、あるアイデアが浮かんできたのでひとまず動いてみることにする。

 

 一緒にゴロゴロしていたほっぽちゃんをとりあえずソファに座らせてからスマホを手にした俺は、一人の艦娘の番号を呼び出して電話をかけた。

 

「もしもーし、今大丈夫? ……うん、急で悪いんだけど、今夜って空いてるかな? ……は? ……違う違う!夜戦じゃないよ!」

 

 そう、俺が電話したのは川内だ。

 

 とりあえず夜戦云々は置いておくとして……どうして川内に電話をかけたかというと、彼女はいつの間にか俺の一番弟子ってことになっていたのだけれど、なんだかんだで料理のセンスもあって意見を聞くのにもうってつけなので、もし暇ならと思って呼び出すことにしたのだ。そして、今回は川内だけではなく……。

 

「……あと、鳳翔と球磨……が空いてるようなら来てもらいたいかな。あの二人も味覚が鋭いからね、是非意見を聞きたいんだ……大丈夫? 良かった……え? うん、もちろんいいけど……料理は試食してもらうってことでお金取るつもりはないけど、酒飲むならその分は貰うよ? ……望むところですって……どんだけ飲むつもりなんだよ」

 

 鳳翔と球磨も空いてたら連れてきてもらおうと思ったのだけれど、どうやら加賀さんが近くにいて話を聞いていたらしく、赤城さんと一緒に来ることになった。しかも、別料金でもいいからお酒を飲みたいらしい。まぁ、それは良いんだけど、あの人もお酒好きだよね。

 

 彼女たち以外にももしかしたら増えるかもしれないということなので、せっかくだから色々作ってみることにしようかな。と、そうと決まれば、買い出しだ。ほっぽちゃんも一緒に連れて行って、今日のお昼は外で食べることにしよう。

 

 常連さんから聞いた話なんだけど、先日商店街に弁当屋がオープンしたらしくて、そこの唐揚げとオリジナルドレッシングを使ったサラダが美味しいらしいんだよね。そこでお弁当買って、海を見ながら食べるっていうのもたまにはいいんじゃないかな。

 

 その弁当屋以外にも最近は何件か食事処ができたけど、後は早めにラーメン屋ができてくれないかなぁ……まぁ、これは第二期の移住組に期待かな。

 

「ヒデトー、ジュンビデキター」

 

 一緒に出掛けるということで、最近お気に入りの子供用水筒を肩から下げたほっぽちゃんが声をかけてきた。今日の中身はレモネードにしたと嬉しそうに教えてくれた。

 

 「一緒に出掛けるのが嬉しい」と言ってくれて、ウキウキのほっぽちゃんと手を繋ぎながら商店街を歩き、買い出しを進めていく。とはいえ、足りなくなっていた店の分も仕入れていくので、結構な大荷物になってしまうということで、会計だけ済ませて荷物は後から仕入れ用の軽トラで取りに来ることにする。

 

 二度手間?とんでもない。せっかくほっぽちゃんが楽しんでくれてるんだから、下手に荷物を増やして身動きがとりにくくなるのは嫌だからこれでいいんだ。

 

 そうして、一通り商店街を巡ったら、お待ちかねのお昼ごはんだ。予定していたお弁当屋さんで噂の唐揚げ弁当とサラダ、その他にいくつかお惣菜を買って、港へと向かう。いい感じに座れそうなところを見つけてレジャーシートを引いて、ちょっとしたピクニック気分で弁当を広げた。

 

「それじゃ、食べようか」

 

「イタダキマース! ……ン! ウマイ!」

 

 うん、おいしい。これは確かに噂になる味だなぁ。ちょっと濃いめで、うちで出してるのより甘めの味付けだけど、これはご飯が進むわ。サラダもいいね、すりおろし野菜を使ったオリジナルドレッシングがサラダの野菜とはまた違った味わいで、野菜のおいしさを楽しめる。

 

「ヒデトモコロッケタベテ。オイシイヨ」

 

 ほっぽちゃんはそう言いながら、フォークに刺したコロッケを差し出してきた。

 

 どうやら一緒に買ってきたコロッケが気に入ったらしい。じゃがいもとひき肉だけのシンプルなコロッケだけれど、だからこそじゃがいもの甘味が感じられてなんだか懐かしい味わいだ。これで70円は安いな。

 

 そんな感じで楽しいランチタイムを過ごしてしばらくのんびりした後で、贔屓にしている仲卸の事務所に顔を出すことにする。さすがにこの時間は市場内の店舗は閉まっているが、事務所の方はまだ動いているからね。というか、そもそも今回の悩みの原因はここのおやっさんが持ってきた話だからね、そのことも相談しておかなきゃ。

 

 夕方になり、外での用事を済ませて一旦家に戻ると、ほっぽちゃんははしゃぎ疲れたのかお昼寝タイムに突入してしまったので、俺はさっき注文した品物を引き取りに行くことにした。再び商店街を回って帰ってくると、ちょうど道の向こうから川内を先頭に艦娘たちが歩いてくるのが見える。

 

 裏に軽トラを回して、荷物を入れたところでちょうど到着したようなので、店にまわって出迎えよう。

 

「店長こんばんわー、皆連れてきたわよ」

 

「いらっしゃい、川内。急に呼び出して悪かったね。他の皆も来てくれてありがとう、さぁ入って入って」

 

 そう言って入ってきた川内に続いて、球磨、鳳翔、加賀さん、赤城さん、陸奥さんを出迎える。ひとまず席についてもらって、お茶を出したところで川内から声がかかった。

 

「今日はなんか試食して意見を聞かせて欲しいって話なんだよね?詳しく聞かせてもらっていいかしら?」

 

「あぁ、実は今朝の話なんだけど――」

 

 今朝、朝食を作っているところで仲卸のおやっさんから電話がかかってきた。なんでも、午後入船予定の漁船団がでかい群れにあたったらしく、かなりの大漁なので安値でいいから買ってくれないかということだった。

 

 それなら本土の方に回せばいいのでは?とも思ったのだけれど、本土に持って行けるのは自衛軍の輸送艦に載る分だけなので、量に限界があるのだそうだ。もちろん、それだけ載せていくわけにもいかないしね。

最悪、日持ちするように冷凍するなり加工するなりして、何回かに分けて持って行けばいいのだけれど、せっかくの初物だし何とかうちの店でうまいこと料理して皆に食べてもらえないかということらしい。

 

「――とまぁ、それ自体は全然かまわないんだけど、問題はその魚でさ。普通に刺身とかだとこの島の人たちは食べ飽きてるというか、丸とかサクで買って自分で作った方が安上がりなんだよね……だからあんまり家では作らないようなちょっと変わり種を作ろうと思って、それを試食してもらいたいんだ」

 

「その魚って何クマ?もったいぶってないで早く教えるクマ!」

 

 別にもったいぶってるわけでもないんだけど、球磨に怒られてしまったので厨房からその魚を持ってきて皆に見せた。

 

「なるほど、鰹ですか。立派ですね」

 

「おー、おっきいクマ、美味そうだクマー」

 

 そう、鰹だ。昔からこの島は鰹が北上するときの通り道になっていて、今の時期はちょっと沖に出ただけでかなりの量が獲れるので、島民にとってはよく言えば慣れ親しんだ味でもあり、悪く言えば食べ飽きた味でもある。

 

「ってことで、今日はいろんな鰹料理を食べてもらって意見を聞かせてもらおうと思ったんだ」

 

「それじゃあ、私にも手伝わせてよ!作り方も知りたいし、久しぶりに店長と料理したいな」

 

 と、説明が終わったところで川内が言ってくれたので、せっかくなので手伝ってもらうことにした。すると、鳳翔と球磨も手伝ってくれるということで、四人で厨房へと向かう。で、他の三人はというと「いってらっしゃい」と手を振っていた……うん、まぁ、彼女たちにはお客さん目線で意見を聞きたいからそれでいいんだけど、なんか釈然としないような……。

 

「さて、店長さん。まずは何から作りましょうか?」

 

 厨房に入り身支度を整えたところで、鳳翔がそう聞いてきた。さっきはああ言ったものの、艦娘達にとっては初めての鰹でもあるわけで、やはり最初は刺身とたたきから行こうか。

 

「じゃあ、三枚におろすのはやるから、皮引きを……川内できるか?球磨はそっちの焼き台で火を熾しておいてもらって、鳳翔は薬味の準備かな」

 

 そんな具合に指示を出せば、それぞれテキパキと動き出す。さすがというかなんというか、頼りになるなぁ……やっぱり来てもらってよかったよ。

 

「はい、これの皮引きお願い。あ、腹節の一本だけ皮つきでね。銀皮作りにするから」

 

 りょーかいっ!という川内の返事を聞きながら皮つきのサクに串を打ち、球磨へ渡す。炙り方を説明して球磨にやってもらうのだけれど、流石に藁は無いので炭火を扇いで火力をアップしてもらおう。鰹のたたきは火の中を通しながら、バチバチと音を立てて脂を弾けさせながら炙らないとね。

 

 一通り説明して、焼き場を離れたとことで背後から「よし、やってやるクマ!クーマァー!」と気合が入った声と共に、バタバタとうちわを扇ぐ音が聞こえてきた。ふふ、あれなら大丈夫そうだな。

 

 さて、ここまで来たらもう間もなく出来上がるということで、盛り付けの準備をしよう……といっても今日は試食会なので申し訳ないがきちんとした盛り付けは勘弁させてもらって、その代わりいろんなタレをつけて食べてもらうことにする。

 

 鳳翔が用意してくれた薬味や野菜でタレを作っていると、川内が切っていた刺身と球磨が炙っていたたたきが出来上がる。それぞれ大皿にドカンと盛り付けて、加賀さん達が待つテーブルへと持って行くことにした。

 

「おまたせしました。まずは定番の刺身とたたきです。川内達も一旦手を止めて一緒に食べてみてよ」

 と、そう言いながらテーブルに各種漬けダレ、かけダレを並べていくとお昼寝から目覚めたほっぽちゃんもやって来たので、皆で試食タイムだ。

 

 その前に、皆に今回用意した薬味とタレの説明をする。まずは定番の薬味として、生姜の千切りとすりおろし、ニンニクのスライスとすりおろし、みょうがと大葉も千切りを用意した。この辺は好みで醤油やポン酢と一緒に食べてもらう。

 

 そして、ちょっと変わったところではごま油にみじん切りにしたねぎとにんにく・塩・レモン汁を混ぜたねぎ塩ダレやオリーブオイルに塩とみじん切りのトマトを混ぜたカルパッチョソース。加えて、塩やダイダイ果汁、マヨネーズ、七味唐辛子も準備したので、それぞれ好みの味付けを聞かせてもらいたい。

 

 そんなわけで、一通りテーブルの上に並べ終えたところで「いただきます」の声が聞こえるや否や、あちこちから箸が伸びて来る。

 

 まずは、一航戦って言ったっけ?加賀さんと赤城さんの空母コンビ。鳳翔に「はしたないですよ」と窘められて小さくなりながらも、手を伸ばすスピードは緩めない。刺身、たたきと一緒に大量の薬味を取り皿に取っていった。その上からポン酢をたっぷりかけて食べるようだ。

 

「やっぱり鰹は薬味をたくさん載せて食べたいですよね、加賀さん!」

 

「ええ、私は針生姜とみょうがでいただこうと思います。赤城さんは?」

 

「そうですねー、すりおろしとスライス両方のニンニクをたっぷり使ってスタミナ満点で行こうと思います!明日は出撃の予定が入っているので、ちょっとパワーを溜めておこうかと……」

 

「なるほど、それは名案かと。鳳翔さんはどうなさるのですか?」

 

 二人とも思い思いの薬味の配分で食べているみたいだけど、その手元にはしっかりとお猪口も置かれている。今日は鰹ということで芋焼酎を出してみたが、気に入ってくれたようだ。

 

 お酒に関してはかつてに比べても結構値上がりしているということもあって、最初に川内に電話した時にも言ったように、別料金でという話だったのだが……気にしていないようだ。そして、そんな加賀さんに話を振られた鳳翔はというと……。

 

「私はまずはお塩だけで食べてみようかと。高知の方でもそういった食べ方をしているようですし」

 

 そうそう、向こうじゃニンニクたっぷりで食べるのももちろんあるけど、塩だけで食べることもあるらしいんだよね。新鮮なやつじゃないと逆に生臭さが際立つらしいから、今日のなら大丈夫だな。その証拠に、その塩たたきを口に含んだ鳳翔が嬉しそうな顔でため息をついている。そして彼女もまた、手元にお猪口を標準装備だ……空母の人たちってお酒好きだよね。

 

 そんなお酒組はさておいて、他の面子はあれこれ相談しながらいろんな漬けダレを試していた。

 

 そんな中で、陸奥さんが声をかけてきた。

 

「ねぇマスター、このオリーブオイルのソースでサラダなんてどうかしら?カルパッチョも良いけど、このソースなら野菜にも合うわよね?」

 

 ふむ、確かに野菜にも合うからそれもアリだな。せっかくいい意見が出てきたので、さっそく作ってみることにする。

 

 そのままだとオイルだけで粘度が高いので、少しダイダイの果汁を加えて酸味もプラスしよう。ボウルにレタス・カイワレ・スライスオニオンと、トマト……はドレッシングに入ってるからいいか。後は鰹の刺身を入れたらドレッシングを回しかけ、さっくり混ぜ合わせるのだけれど……何かちょっと歯ごたえが欲しいな……。

 

 そう思って、小さな片手鍋にオリーブオイルを熱して、スライスしたニンニクを揚げる。カリッとこんがり揚がったニンニクチップをボウルに追加投入して混ぜ合わせたら出来上がりだ。

 

「陸奥さん、こんな感じでどうです?」

 

「うわぁ、マスターさっすが! いただきます」

 

 陸奥さんがそう言いながらサラダボウルから取り分けると、他の子達も手を伸ばしてきた。

 

「んー! おいしい! ドレッシングもそうだけど、このフライドガーリックが良い仕事してるわね。鰹と野菜を上手く纏めてるわ」

 

「うん、良いと思う。鰹の味も強いし、砕いたナッツとか入れてもいいかもしれないね」

 

「あ、あれはどうクマ? 餃子の皮揚げたやつ。サクサクパリパリでいいアクセントになりそうクマ」

 

 陸奥さんの感想を皮切りに、川内や球磨からもアイデアが出てきた。何気に隣でほっぽちゃんがマヨネーズをちょい足しして食べてるけど、なるほどマヨネーズをドレッシングに使ってコクを加えるのもアリかもね。

 

「いやー、タイミングよく通りかかっただけで誘ってもらえて、こんなに美味しいものを食べられるなんて、私の運もまだまだ捨てたもんじゃないわね」

 

 独り言だろうけど、そんな陸奥さんのつぶやきを聞いて、普段は運が悪いのかな?とちょっぴり心配になりながら、次の料理を作るために厨房へと向かった。

 




前半に秀人とほっぽちゃんの日常の一幕をいれたので
今回は切りの良いところでここまでです

今回陸奥を登場させた理由なのですが、最後の一言がすべてですね
運が悪いキャラですがたまにはいい思いをしてもらっても……って感じで




お読みいただきありがとうございます

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