鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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遅くなりました
本日は久しぶりの箸休め。先日金剛が話していた本土行きのお話です



箸休め13:さくらと金剛の本土出張

 ここは鎮守府にある自衛軍の港、まだ早朝と言えるような時間帯にもかかわらず、多くの人が動き回り出港の準備が進められている。

 

「じゃあ加賀に長門、こっちのことはよろしくね」

 

「ええ、提督もしっかりやってくることね」

 

「提督と金剛も気を付けてな。こちらのことは任せておけ」

 

「二人とも、よろしくお願いしマース。いってくるデース」

 

 慌ただしく働く自衛官たちの邪魔にならないようなところで、さくらと三人の秘書艦との間でそんな会話が交わされていた。というのも今日は、さくらと金剛が本土の自衛軍本部へ赴き、現状報告と、近くに行われる予定の二回目の移住の打ち合わせを行うことになっているのだ。

 

「それにしても金剛、昨日まではあんなにテンションが低かったのに、今朝は大違いではないか。なにかあったのか?」

 

 昨日までとはうって変わって機嫌がよくなっている金剛の様子に、長門が質問を投げかけた。

 

「ハイ、実は先ほど祥鳳がやってきて、これを届けてくれたのデス」

 

 そう言って金剛が見せたのは、一抱えもある大きなバスケットだった。

 

「ん?なんだ、それは。バスケット?弁当でも入っているのか?」

 

「イエース!ヒデトサンが作ってくれて、先ほど祥鳳が届けてくれたのデース!」

 

 

 

 ――数時間前、喫茶鎮守府厨房――

 

「さて、あんな風に言われたんじゃ頑張らない訳にはいかないよな」

 

 先日金剛に言われたことを思い出しながら、秀人は腕まくりをしながらそう気合を入れた。

 

 数日間この店の食事が食べられないと、残念がっていた金剛のために何かできることはないかと秀人が考えた結果、弁当を作って持って行ってもらうことにしたのだ。いつもより早めに起きて作ったものを、祥鳳にもちょっと早出してもらって届けてもらう手筈になっている。

 

「んじゃまずは……」

 

 そうつぶやきながら秀人は手にした野菜の皮を剥き始め、手早く下ごしらえを進めていく。作っていくのは夏場ということを考慮したメニューだ。

 

 生ものや汁気の多い物を避けたり、味付けはいつもよりもちょっと濃くしたり……そのほか、カレー粉や梅干しなどの抗菌効果が期待できる食品も積極的に使っていった。

 

「よし、昼の分はこんなもんかな。後は朝食として移動中に食べる分だけど、こっちはそんなに時間が空くわけでもないから、そこまで気にしなくても大丈夫かな?船内は涼しいだろうし……」

 

 昼食用のおかず各種を作り終えると、それを冷ましている間に朝食の分に取り掛かることにしたらしく、新たにいくつかの食材を準備し始めた。

 

「おはようございます、店長さん」

 

 いくつかの料理を仕上げたあたりで、勝手口を開けて祥鳳が入ってきた。

 

「おう、おはよう。悪いな、早出させちまって」

 

「あっ、いえ、大丈夫です。何より金剛さんや提督のためですから、私にできることなら何なりと」

 

「そっか、まぁその分昼飯はなんでも好きなものを言ってくれな。それと、朝飯もそこにあるからもしよかったら食べて待っててくれ。こっちももうすぐ出来上がって、後は詰めるだけだからさ」

 

 秀人が指さした先の皿には、祥鳳の朝食用にと取り分けられた料理が乗せられていた。

 

「本当ですか? やったぁ! お言葉に甘えて朝ごはんも先に頂いちゃいますね。というか、これって……」

 

「あぁ、この間祥鳳との話に出てきた時に思い出してさ、試しに作ってみたんだよ。ちょっと味見してみたけど、結構うまくできてると思うよ」

 

 秀人が上手くできたというその料理に舌鼓を打ちながら、出来上がりを待つことにした祥鳳。程なくして料理も出来上がり、シンプルなデザインのお重やランチボックスに入れられて、最後に大きなバスケットにまとめられた。

 

「これでよし。祥鳳お待たせ、それじゃあコレよろしくな。中身はさっき詰めながら話した通りだから、その辺の説明も一緒にね」

 

「はい、了解しました!それでは祥鳳出撃します!」

 

「いってらっしゃー……い……って、そんなに急がなくてもいいんだけど……」

 

 秀人に敬礼をするなりバスケットを抱えて駆け出していった祥鳳を、秀人は力なく手を振って見送った。

 

 

 

 

 というようなことがあり、先ほど無事金剛の元に届けられたという訳だ。

 

 もっとも、喜んでいるのはバスケットを抱えてニコニコしている金剛だけでは無いようで、隣に立つさくらもどことなく嬉しそうに見える。

 

「いやー、今日の朝昼だけでも食事の心配をしなくてもよくなったからね。って言ってもあっちの食堂のご飯も美味しいし、近くには何かしら店もあるから別に食べるものが無いって訳じゃないんだけどね。ま、秀人のおかげで一緒に行く金剛の機嫌が良いのは私も何かと助かるわ……ってことでそろそろ行くわよ、金剛」

 

 それじゃ、と手を振り輸送船に乗り込む二人を、加賀と長門も手を振って見送った。そして、そのまま出港するまで見送った後で長門がぽつりとつぶやいた。

 

「あの様子だと言わなくて正解だったな」

 

「……ええ、せっかくあんなに嬉しそうなところに水を差すのも野暮ですから」

 

 二人がそのように話す理由、それは……。

 

「では、二人には悪いが我々も行こうか」

 

「そうですね……さて、今日の日替わりモーニングは何でしょうか?……考えただけで気分が高揚します」

 

 どうやらこれから秀人の店にモーニングを食べに行くようで……さすがにこのことは金剛には言えなかったようだ。

 

 所変わってこちらは出港後の輸送船内。秀人が島に来る時にも乗った船で、元民間の高速旅客船を改造したものなのだが、その内部に残された数少ない客室でさくらと金剛がさっそく朝食用の弁当を広げていた。

 

 メニューはそれぞれの好みに合わせて、さくらにはおにぎりで金剛にはサンドイッチが用意されていた。残念ながら手ごろな容器が無かったため、味噌汁やスープは用意できなかったがそれでも手作りの朝食ということで、包みを開けた二人の顔も自然とほころんだ。

 

「いやー、これはいいわね。いつもだったら向こうに着いてから港近くで適当に買って食べるところだけど、今度から本土に行くときには頼むようにしようかしら」

 

「ワーオ、美味しそうなサンドイッチデース……?」

 

 基本的には定番の具材で作られていたおにぎりとサンドイッチだったが、その中でひとつだけ金剛には見慣れない一品があった。

 

「コレは……玉子サンドデスカ?」

 

 それが玉子というのはさすがに金剛にもわかったが、そこにあったのは普段食べなれている玉子フィリングを挟んだものではなく、使ってあるパンの二倍以上はありそうな厚みの厚焼き玉子が挟まれたサンドイッチだった。

 

「あー、なんだか関西の方だと、玉子サンドって言うとソレらしいわよ」

 

 中身が落ちないようにそっと両手で持ち上げて、しげしげとその玉子サンドを見つめる金剛にさくらがそう教えると、金剛は「ナルホド」と一言つぶやいてからかぶりついた。

 

「ンー!玉子ふわふわで美味しいデス!お出汁が効いていて和風なのに、辛子マヨネーズを塗ったパンと良く合うデース」

 

「へぇ、おいしそうね。私も今度作ってもらおうかしら」

 

 おいしそうに玉子サンドを頬張る金剛の様子に、さくらも味が気になったのかそんな風に言葉をかけた。

 

「でも……うん、やっぱりおにぎり美味しいわ」

 

 そんなさくらはさくらで、お気に入りの味噌焼きおにぎりを頬張りながらにこにことしている。

 

 楽しそうに食事を続ける二人を乗せて、船は東京へ向けて進んでいった……。

 

 

 

 

 ――そして数時間後――

 

 二人の姿は、東京にある海上自衛軍内深海棲艦対抗本部、通称『深対本部』あるいは単純に『本部』と呼ばれる場所の、大将執務室に併設されている応接室にあった。午後の会議の前にと大将に昼食に誘われたのだ。

 

「大将はいつもこちらでお昼を?」

 

「うむ、出前を取ったり食堂から運んでもらったりしてな。私が食堂に行っては皆も落ち着いて休めんだろう?幸い給湯室も隣にあるのでな」

 

 さくらの質問に大将は苦笑いで答えながら、いつも使ってるのだろう近くの店の出前チラシや食堂のメニュー表が入れられたファイルを取り出した。

 

「ま、好きなものを頼んでくれ。ここの食堂の飯もなかなかイケるものだぞ?」

 

 そう言いながらさくらにそのファイルを手渡してくる大将に、金剛が少し気まずそうな顔で例のバスケットを取り出して言った。

 

「それなのデスガ、実はヒデトサンがおかずを持たせてくれたのデス。なのでご飯セットだけでもよろしいデスカ?食堂の方々には申し訳ないとは思うのデスケド……」

 

「いや、何も問題はないな。同じようなことをしている職員も多いのでな。それにそこの大和など、お櫃単位で頼むこともあるぞ」

 

 どうやら秀人が用意していたのはおかずだけだったらしく、可能であれば本部内の食堂で、無理であれば近くのコンビニか弁当屋などで白飯だけ買うつもりだったようだ。

 

「ひどいです提督。それじゃぁ私が食いしん坊みたいじゃないですか……って、あれ?皆さん目をそらさないでくださいませんか?」

 

 そんな三人の会話に、それまでお茶を準備していた大和が少し拗ねた口調で口を挟んだが、それぞれ何やら思うところがあるのか、目をそらして口を噤んでしまった……その微妙な空気を振り払う様に、大将が口を開く。

 

「ま、そういう訳で白飯だけの注文もここの食堂は受けてくれるのでな、さっそく注文しようではないか」

 

 そう言って大将が内線を使ってご飯や自分たちの分のおかずを注文すると、さほど時間もかからずに執務室へと届けられた。それらと一緒に金剛もバスケットから秀人が作ったおかずを取り出しては並べていく。

 

「よろしければお二人も食べてくだサイ。ヒデトサンもそう言っていたと聞きマシタ」

 

「まぁ、それは嬉しいです。ありがたくご相伴に与らせていただきますね」

 

 一通りのものが並べられると、大将の音頭でそれぞれ狙っていた料理に箸を伸ばし始めた。

 

 まず金剛が摘まんだのは、何種類か入っていた揚げ物のうちの一つ、ささみの梅しそ巻フライだ。中までしっかり火を通す揚げ物は、傷みにくくて夏場のお弁当にはもってこいだが、その中でもこのメニューは殺菌効果もある梅肉としそを使っているのでさらに適していると言える。

 

 もちろんそういった理屈など関係なく、さっぱりとした味付けは今の時期でも食べやすく、ご飯にも合うのでおかずとしても優秀だ。

 

「梅の酸味が良いですネー、そのままでも美味しいデスガ醤油をつけるとごはんも進みマース!」

 

「ほんと美味しそうに食べるわね。なんとなく秀人の気持ちもわかる気がするわ」

 

 ご飯の上に醤油を少しつけたささみフライを乗せてにこにこしている金剛を見て、さくらがぽつりとつぶやくと、それを耳にした金剛も言葉を返す。

 

「ハイ!ヒデトサンのお料理はとってもdeliciousデース!」

 

 そんな会話を交わす島の二人の向かい側で大和もまた、とある料理に目を留めた。

 

「これは牛肉の時雨煮……ん、生姜は入ってないので……大和煮ですね!ちょっと味は濃い目ですが、お弁当ということを考えるとこれくらいがいいですね。いくらでもご飯が食べられそうです!」

 

「ほう、これは美味いな、確かに飯が進む良い味付けだ」

 

「ふふっ、やはり『大和』と名が付くだけはありますね。先日は提督のせいで碌に挨拶もできませんでしたし、今日はこうして噂のお料理を食べることができて嬉しいです。金剛、戻ったら美味しかったと言っておいてくださいね」

 

「む……それは……すまん。大橋三佐、私の分もくれぐれもよろしく伝えておいてくれたまえ」

 

 少し困ったような大将の言葉で、室内に笑顔があふれた。その後も和やかに昼食は進み、大きなお櫃に入ったご飯はかなりの量があったように思うが、すっかりきれいに片付いてしまった。

 

 しばらくして四人が食後のお茶を楽しんでいるところで、大将が一冊のファイルをさくらに手渡しながら話しかけてきた。

 

「今日は確かこの建物内の宿泊施設に泊まる予定だったな。であれば部屋に戻ってからでいいのでこの資料に目を通しておいてくれるか。それと、大丈夫だとは思うがこの建物から持ち出そうとすると警報が鳴る上に、ICチップでどこにあるかわかるようになってるのでな。覚えておいてくれ」

 

「ここで読んでいけという訳ではないのですか?」

 

「私が許可を出せばこの部屋から持ち出すことは可能だ。何より内容が内容だからな、落ち着けるところで見た方が良いだろう。もちろん、金剛も見て構わないぞ」

 

 わかりましたと返事をしながらさくらが表紙をめくると、そこに書いてあった表題を見て「なるほど、そういう……」とつぶやいた。

 

「テートク?一体何が書いてあったデス?」

 

「これよ」

 

「これは……」

 

 気になった金剛がさくらにその内容を聞くと、さくらは言葉少なにファイルを開いて見せることでその答えとした。

 

「『本部保護下にある姫級深海棲艦に関する各種報告まとめ』デスカ……」

 

「左様。それを読んでもらえればわかるとは思うが、先日ある鎮守府の艦隊が姫級の深海棲艦を拿捕してな。調査や聴取の結果、そちらの北方棲姫の様に敵意も無く非常に協力的だということで、現在は我々の保護監視下にある」

 

 金剛がつぶやくように読み上げた声に答えるように、大将が簡単に内容を説明した。と、ここでさくらが疑問に思ったことを尋ねる。

 

「ですが大将、その辺は軍内部でも……」

 

「あぁ、だから『我々』の保護下にあるのだよ」

 

 さくらにかぶせるように、不敵な笑みを浮かべて『我々』を強調して言い直した大将の言葉を聞いて、さくらは理解した。どういう手を使ったのかはわからないが、その深海棲艦の身柄は大将の一声でどうとでもなる状態にあるらしい。

 

「では今回の移住で彼女も……?」

 

「話が早くて助かるよ。三佐が考えている通りだ……ま、あまり難しく考えんでくれ、私も何度か話をしたが、少々奇抜な所もあるがなかなか気のいい女性のようだ。君とも気が合うのではないかな?」

 

 ハッハと笑う大将に「了解しました」と言葉を返しながらファイルを鞄にしまうと、この後の予定もあるということで、さくらは立ち上がり敬礼をした。

 

「それではこの資料はお借りします。明日以降その深海棲艦に面会できますか?」

 

「あぁ、明後日の午前中に時間を作ってある。詳細はメールしておくよ。たしか君たちもその時間はフリーだったな?」

 

「わかりました。では連絡をお待ちしております。それでは私たちはこれで……」

 

 最後に深く一礼をして執務室から出るさくらと金剛。その二人を扉が閉まるまで見送ってから、大将はソファーに深く身を沈め、お茶のお替りを持ってきた大和もその隣に腰を下ろした。

 

「これで彼女のことも何とかなりそうですね」

 

「そうだな。厄介な連中を躱し続けるのも限界があるしな。大和もこれで一安心できるのではないか?なにやらやたらと気にかけていたようだし」

 

「そうですね。彼女はなんとなく私に似ているような気がして気になっていたんです……でも、大橋提督なら上手くやっていただけるでしょうし、安心です。もちろん、私も全力でサポートいたします!」

 

「それはもちろんだ、私もサポートは惜しまんよ」

 

 さくらと金剛が出ていった扉を見つめながら、そんな会話を交わす二人。

 

 そして、新しく島に来るという姫級の深海棲艦……さくら達にとっては新たに考えることが増えたわけだが、彼女たちの本土出張はまだ始まったばかりだ……

 




今回は箸休めということでしたが何やら物語が動きそうな……

新たな住人達が増えるということで次回からは章を切り替えようと思います
特に事件が起こるわけでもないので、章を変える意味はあんまりありませんが……


島に第二次移住団が到着!そして新たな姫級深海棲艦とはいったい!?
ってわけで、お読みいただきありがとうございます
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