鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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今回から章が変わり新たな住人達がやってくるということで
タイトルのような事をするようです
今日のお話はその計画段階の一幕……


Menu-5:島の新たな仲間たち
六十皿目:歓迎の夏祭り1


 先日、さくらと金剛さんが島に戻ってきた。まだ日が高いうちに帰ってきたということで、その足でバスケットやランチボックスを返しに来てくれた。

 

 そんな訳で、帰ってくるなりうちの店に来てくれた金剛さんなのだけれど、その時はすぐに鎮守府に戻って仕事があるということで少しだけ話をしたのだが、一週間後には予定通り第二期の移住が行われるとのこと。そして、今度は前回よりも小規模ということで、あの時のような大々的な式典は行わず、簡単な到着式を行う程度なのだそうだ。

 

 とまぁ、ここまでが先日聞いた話で、店が休みの今日は同じような話を別ルートから聞いていた商店街の会長さんと、生産施設の出荷関係を統括する部長さんがやってきてちょっとした会合が開かれている。その議題というのが……

 

「電話でもちらっと話したけど、一週間後の移住の時には僕たちの時みたいな式典は無いみたいだからさ、商店街の皆とも話し合って屋台でも出してちょっとしたお祭りでもできないかなって思ったんだよね」

 

「私もその話を会長さんからお聞きしまして、是非何かお手伝いできないかと思いまして、各部署と相談しまして、タダでとはいきませんがかなりのお買い得価格で一部の食材を卸せることになりました」

 

 笑顔でそう話す会長さんと部長さん。さすがこの島にはお祭り好きが多いだけあって、皆ノリノリで決まったらしい。もちろん俺もそんな島民の一人なので大賛成なんだけれど……

 

「俺も是非参加させてもらいたいとは思うんですけど、どうしてわざわざうちで話を?呼んでくだされば集会所まで伺ったのに……うちはちょっと外れてるじゃないですか?」

 

 今日うちで話をしようというのは会長さんに言われたことなのだけれど、今俺が言ったようにこの店は商店街からちょっと離れたところにある。

 

 まぁ歩いてもそれほど苦にはならない距離だけど、鎮守府から伸びる海岸通りの途中にうちの店があって、さらにその先に商店街がある。そして生産施設は、商店街の手前に分かれ道があって、そこから山の方に入っていく感じだ。

 

 ちなみに、艦娘たちが住んでいるエリアは更にその手前、うちと商店街の中間あたりから道が分かれている。いつ艦娘が増えてもいいようにかなりの面積と建物が用意されているが、周りを森に囲まれていて入口には門もあるので、昔テレビで見た軽井沢や那須の高級別荘地と言った様相だ。まぁ、そう言った場所よりも建物同士は密集しているし、建物自体も庶民的な感じなので親しみやすいんだけど。

 

 閑話休題、そんなわけで少し外れたうちの店を会合の場所に選んだ理由を聞いてみると、会長さんは頭を掻きながら話してくれた。

 

「いやぁ、最初は集会所でとも思ったんだけどね、会議室もあるし。ただ、このお店でゆっくりコーヒーを飲みながらっていうのも良いかなって思ってさ。僕も部長さんも秀ちゃんの淹れるコーヒー好きだし……まぁ、休みの日に店を開けてもらうのも悪いとは思ったんだけど」

 

「いえいえとんでもない、そう言ってもらえて嬉しいですよ。普段商店街の会合にもなかなか顔を出せないので、これくらいどうってことないですよ」

 

 場所はちょっと遠いとは言え一応商店街のメンバーとして名を連ねてはいるのだけれど、なかなかそちらの会合に出られないのも心苦しく思っていたので、こういう風に使ってくれるなら休みの日だろうが大歓迎だ。

 

「それはまぁ、秀ちゃんのとこは誰かに店を任せてちょっと抜けるってのも難しいだろうしね。そこは皆わかってるよ。それにこの店は商店街の皆にとってもお得意さん兼憩いの場だからね、今のままでいいのさ……ところで、今日この店に来たもう一つの理由なんだけど……電話で頼んでおいたアレ、大丈夫だった?」

 

 俺の言葉を受けた会長さんの言葉に、商店街の皆さんの優しさを改めて感じて胸を熱くしながら、会長さんが言ったもう一つの理由について思いを巡らせる。

 

 今日のことについて電話をもらった時に頼まれていたのが、鎮守府にも協力してもらいたいので、誰かそういう話ができる艦娘を呼んではもらえないかという事だった。

 

 そういう事ならと思い浮かんだのが加賀さんだったので、会長さんとの電話が終わった後すぐに電話してみたのだが、残念ながら移住関連の仕事で忙しく加賀さん本人は来られないということだったので、信頼できる人物をこちらに寄こすとのことだった。曰く、今は役職には就いていないものの、軍歴も長く経験も豊富で能力も高いのでいろいろな場面で頼りになるのだそうだ。

 

 加賀さんが珍しくそこまで持ち上げるので、誰の事かと聞いてみたのだがこっちに来るまでのお楽しみだとはぐらかされてしまった。まぁ店にも何度も来たことがある顔なじみだとは言ってたけど、そう言っていた時の加賀さんのテンションがなんだかいつもと違っていたし、そうやって普段見せないお茶目な所を出してくるあたり、加賀さんも疲れてるんだろうな……。ひと段落したら美味しい物で労ってあげよう。

 

「ええ、多分そろそろ来る頃だと思いますよ。鎮守府の方でも今回の件は賛成してくれて、バックアップもしてくれるって事なんで、そのあたりの話を詰めていきましょうか」

 

 それから三人で基本的な方針や鎮守府との連携について相談していると、ドアベルが鳴って一人の艦娘が入ってきた。

 

「ちわー、店長はん。いやぁ、今日もあっついなぁ」

 

「いらっしゃい龍驤ちゃ……龍驤。待ってたよ」

 

 あぶない、ちゃん付けしたらまた怒られてしまう。こないだ「子供扱いせんといて!」って言われちゃったからね。

 

 それにしても、なるほど龍驤か。確かに彼女には加賀さんも頭が上がらないって言ってたし、見た目にそぐわず戦闘もかなりの実力らしいからね。それに、明るい性格で島の皆にも人気がある。確かに今回の件にはうってつけかもしれない。

 

 席に着いた彼女に冷たいレモネードを出すと、一口飲んで落ち着いてから彼女は話し始めた。

 

「会長はんも部長はんも顔見知りやし、挨拶は抜きにしてさっそく本題に入るで。店長はんから加賀が電話もろうてから、加賀と提督ともちょろっと話してんけど、鎮守府としては今回の企画は大歓迎や」

 

 そして、龍驤は持っていた鞄から書類を出して俺たちに渡しながら話を続ける。

 

「で、これを見て欲しいんやけど、前より艦娘も増えたし警備の人員を確保しても人手が余ってるっちゅーことで、こんな感じで申請してくれたらうちらも島内活動として実績を残せるし、どないやろ?」

 

 龍驤が見せてきたのは、艦娘達の『お手伝い案』とそのための島内活動の申請書だった。まったく用意周到というかなんというか……ただ、島民と艦娘が一緒になって今回のお祭りをやるってのは良いよね。ついでに実績として報告できるなら一石二鳥ってやつか。

 

 その書類を受け取った会長さんと部長さんは、それぞれ「ふむふむ」と頷きながら読んでいき、最後にお互い顔を見合わせて口を開いた。

 

「龍驤さん、商店街としてもこの申し出はありがたいので是非申請させてもらいたいと思います。とりあえず今日中に参加予定の店舗に連絡を取って手伝ってほしい人数をまとめますので、明日申請書をお届けするということでよろしいですか?」

 

「私達の方も手伝ってもらえるならお願いしたいですね。食材を配送してもらったり、人手があれば我々も出店できますし」

 

「よっしゃ、ほんなら申請は明日でもええで。商店街まで……はちょっと行かれへんけど、鎮守府まで持ってきてもろうて、守衛さんに言うてくれたらウチが受け取りに行くわ」

 

 なんだか面白くなってきたので、俺もお手伝いを頼もうかと書類を手に取ると、龍驤から「ちょい待ち!」と待ったがかかった。

 

「店長はんの所は申請要らんで。今手伝いに入っとる祥鳳と、いつものメンツが来るのが決まっとるんよ。まぁ、まだウチと加賀と提督しか知らんけど、こっちから言わんでも、あの子らなら自分から言い出すやろうしな」

 

 あ、そうなの?いつものメンツって言うと……いつものメンツか。ま、それならなんでもできそうだなぁ……今回は屋台っていうよりはそれぞれの店の前で色々売るってことだし、うちもそうするとして店で調理できるなら……なにを出そうか迷うな。

 

 店の前でとなると、網焼きか鉄板焼きか……どうせなら喫茶店っぽいメニューがいいよね。で、あんまり種類を増やすと大変だけど、一種類だと味気ない。となるとトッピングで幅を広げるか、ベースのメニューにいくつかアレンジを加えて出すか……。

 

 と、そこまで考えたところでふと時計を見ると、昼過ぎから始まった会合も大分時間が経って小腹のすいてくる時間帯。そしてとあるメニューを思いついた俺は、他の三人に提案してみる。

 

「みなさん、そろそろ小腹がすきませんか?ちょっと今回のお祭りで出すメニューのアイデアがあるんですけど、味見してもらえないですかね?」

 

 そんな俺のセリフに大喜びで賛成してくれた三人に時間をもらって、さっそく調理に入ることにした。

 

 それはあるメニューにアレンジを加えたもので、ベースは同じだけれどテイクアウト用と店内用に何種類か別の料理にして用意するつもりだ。今はとりあえずお試しということで手早く作った試食用のものをいくつか三人に食べてもらった。

 

「ほほぅ、こんなアレンジもあるんやね。いつも通り美味しいけど、いつもとは違った味わいって感じでええんちゃうかな」

 

「こっちはなんだか懐かしいですね。まぁ、昔この島で手に入るのなんてこんな上等じゃなかったですけどね」

 

「これは初めて食べますが、女性にウケそうですね……ちょっとカロリーが気になりますけど……。そうだ、これならうちで作ってるやつを使いませんか?特別価格で卸しますよ?」

 

 よしよし、三人ともどのアレンジも反応は上々だな。部長さんはちゃっかり営業してきたけど……安くしてもらえるならぜひお願いします。

 

 ともあれ、メニューはこれで決まりだな。後はレシピの細かい部分を詰めて、本番に臨むだけだ。お客さん達が喜んでくれるといいんだけど……。




今回はまだメニューは内緒にさせてもらいました
そして前回の話で出てきた新しい深海棲艦も次回までお預けということで……



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