とはいえ、あんまり祭感はないんですけど……お楽しみいただければ幸いです
さて、そんなこんなでお祭り当日のお昼前。通常の仕込みは今日のところは行わないので、いつもよりゆっくりペースで作業を進める。
「てんちょー、これってどこに置くの?」
「店長さん、フードパックの準備できました。祥鳳さんそちらは?」
「はい、用意できてます鳳翔さん」
そして、先日から手伝いに来てくれている祥鳳に加えて、川内と鳳翔も駆け付けてくれた。ま、この間龍驤が言っていたように、いつものメンツっちゃいつものメンツだな。
その時の話では商店街の方にも任務の一環ということで人員を回すってことだったけれど、実際に多くの艦娘が手伝いに行っているらしい。あ、ちなみにうちのほっぽちゃんも先程迎えに来た佐渡ちゃんと一緒にお手伝い……という名の賑やかしに出かけて行った。
なんでも集会所の常連さん達からご指名があったらしく、ぜひ来てほしいという事なのだそうだ。なんだか色んな人達から色んなものをもらっている様子が容易に想像できて、申し訳ない気もするが、
正直今日はいつもと勝手が違う営業なので、面倒を見てもらうのはありがたかったりする。
他の艦娘の子たちも、うちみたいな屋台の手伝いは勿論、街の案内や休憩所の管理、中には今回の祭りの運営の手伝いをしている子もいるらしい……と、そんなことを考えていると、街中に設置されているスピーカーから『アーアー、テステス』と言う声が聞こえてきた。
『マイク音量大丈夫?チェック、ワン、ツー……よし。島民の皆様おはようございます。艦娘の霧島です。早速ではありますが、本日の予定を簡単にご説明いたします』
どこか聞いたことがある声だなと思っていたら、案の定というかなんというか霧島さんだった。確かあの人この前の式典の時にも司会してた気が……こういうの好きなんだろうか?
『まず、第二期移住船団の到着予定時刻ですが、ヒトサンマルマル……午後一時頃を予定しており、その後鎮守府にて到着式を行い解散となります……』
なるほど、って事はこっちに来るのは夕方頃からかな?到着式はそんなに時間かからないって言ってた気がするけど、それなりに大人数だと船から降りるだけでも時間かかるだろうし、終わった後もまずは新居の様子を見に行くだろうからね。すぐに使うようなものは荷ほどきしちゃいたいだろうし。
『……ということで皆さま、本日はどうぞよろしくお願いいたします』
っと、霧島さんの放送も終わったみたいだ。そしてその間にこっちの準備も一通り終わって、皆でお茶を飲みながら一息つくことにする。
「どうぞ、店長さん。紅茶が入りました」
「ありがとう鳳翔。うん、うまい。あのころからさらに腕を上げたんじゃないか?」
「ふふふ、よかったです。こちらのお手伝いが終わってからも金剛さんに教わったりしながら練習を続けたかいがありましたね」
鳳翔が淹れてくれたアイスティーは準備で熱を持っていた体に染み渡る。と同時に鼻に抜ける柑橘の香り……なるほど、アールグレイとはいいチョイスだね。
そんな感じでちょっとのんびりした時間を過ごしていると、商店街に繋がる道の向こうから龍驤がやってきた。
「おはようさん。準備はどうや?進んどる?」
「おはよう、龍驤。おかげさんでばっちりだよ。ってわけで、お昼から開店しようと思ってるんだけど、他のお店はどんな感じ?」
「それやったら、ほかんとこも似たようなもんやで。商店街の方はほとんどが昼に始める言うてたし、夕方からっちゅうんは施設で出す店くらいちゃうかな」
そっか、それじゃ予定通りお昼から営業開始しますかね。とはいえお客さんもどれだけ来るか分からないし、のんびりやらせてもらうことにしよう。というわけで、開店前に鉄板の使い勝手を確かめるために試作しつつ、腹ごしらえといきますか。
残念ながら龍驤はこの後鎮守府に戻らなきゃいけないということで、川内たちと軽く話をして「ほな、よろしゅーな」と言い残して帰ってしまったので、残った俺たち四人分の料理を始める。
まずは具材から。野菜はピーマン・玉ねぎ・マッシュルーム、そしてウインナーを鉄板で炒めていく。そこに軽く塩コショウをしてから茹で置きしておいたパスタを投入。すかさずそこにケチャップを回しかけて混ぜながら炒め、味を付けていく。
まぁ、ここまでくればわかるように、喫茶店の定番メニュー『ナポリタン』を鉄板で作ってるわけなのだけれど、これで後はフードパックに入れて出来上がり……というわけではなく、ちょっとしたアレンジを加える。
ここまでできたナポリタンを一旦鉄板の隅の保温スペースに寄せてから、空いたところに溶き卵を垂らす。鉄板が平らなので少々やりにくいが、形を整えながら円形に広げ、固まりきる前にその上にナポリタンをのせて、コテを使って手早く巻いていけば『オムナポリタン・屋台の鉄板バージョン』の完成だ。
「いやぁ、見事なもんだね。というか、屋台でナポリタンって……いや、焼きそばもあるし、あながちおかしくは……ない……かな?」
「そういうこと。焼きそばもナポリタンもどっちも炒めて作る麺料理だからね。ありじゃないかなって思ったんだけど。さすがにオムナポは鉄板じゃちと難易度高かったけど、なんとかなりそうで良かったよ」
横で見ていた川内の言葉にそんな風に返すと、同じく作る様子を見つめていた鳳翔がおずおずといった感じで口を開いた。
「あのぅ、さすがにそれは川内さんでも難しいような気が……ましてや私や祥鳳さんでは無理だと思います……」
その鳳翔の言葉に他の二人も大きく頷きながら、強く同意してきた。んー、まだ料理を始めたばかりの祥鳳は確かに難しいかもしれないけど、川内と鳳翔なら少し練習すれば何とかなるような気がしなくもないが……。
「とりあえずこの仕上げは俺が担当するから、皆にはナポリタンの方を作ってもらおうかな。それに仕事はこれだけじゃなく、中の方も見てもらいたいしね」
そう、今日は通常の営業は行っていないものの、店内も休憩所として開放しているので、そっちの接客もやってもらうつもりだ。
そして、メニューもこれだけではない。この前龍驤達に試食してもらったように、いくつかのアレンジメニューも考えているので、そちらも作ることにする。
まずは簡単に作れるものからという事で、先程と同じようにナポリタンを作ったら、切れ目を入れた自家製のコッペパンに挟む。以上。
「あら?店長さんこれだけですか?」
「うん、これだけ。簡単でしょ?」
驚いたように声をあげた祥鳳にちょっとおどけるように軽く返す。
先日の試食の時に会長さんが『懐かしい』と言っていたのがこのナポリタンドッグだ。とは言え、その時に会長さんも言っていたのが、会長さんが若い頃に食べたものは、具なんか入ってないナポリタン風のケチャップ味パスタが挟んであるようなチープなものだったそうで、今思うとナポリタン?と首をかしげるようなものだという事だったが、それでもその当時は物珍しさも相まってよく食べていたらしい。
まぁ、そんなわけでどことなく懐かしい感じのナポリタンドッグも、食べ歩きのしやすさからメニューの一つにしてみた。
そしてもう一つ。これは店内限定のメニューになるのだが、ナポリタンを耐熱皿に入れて、上にチーズをのせてオーブンで焼いたチーズ焼きナポリタンだ。
先日作った時には普通のシュレッドチーズをのせて焼いたのだけれど、その時に施設の部長さんから提案があって、今日は施設で作っているカチョカヴァロをスライスしてのせることにした。
このカチョカヴァロ、朝食の時に食パンに載せてトーストしてみたら、味はもちろんのこと焼いた時の伸びも良く、これを使えば目でも楽しめる出来栄えになりそうだ。
というわけで、料理も出そろったところで皆で手を合わせて食べ始めることにした。
「うわー、みてよこのチーズ……表面のちょっと焦げた感じとか……アハハ、伸びる伸びるー。これはヤバイよ店長。見ただけで美味しい事がわかっちゃう」
川内が「ヤバイヤバイ」と言いながらも目を輝かせてパスタをフォークに巻き付け、チーズを絡めて引き上げている。あの時部長さんが言ったように、やはりチーズには女の子を引き付ける魔力があるらしい……。でも川内、かなり熱いから食べる時に気を付けてね。
「玉子とナポリタンの相性がこんなにも良いとは……あっ、でも玉子にケチャップは合いますものね。これは瑞鳳にも教えてあげなくちゃ」
祥鳳は玉子焼きを作るのが上手だという妹さんに、今回のレシピを教えるらしい。玉子焼きとはちょっと違うとは思うけど、普段玉子料理を作っているのなら、火の通り具合の見極めなんかもしやすいだろうし、割とすんなり作れるかもね。フライパンなら鉄板よりも難易度低いし。
そして鳳翔はというと、何やら神妙な面持ちでナポドッグをもくもくしていた。どうも頷きながら食べているので、口に合わなかったって事はないんだろうけど……最近和食以外の料理の腕も上がってきているという鳳翔の事、何かレシピでも思いついたのだろうか?
ともあれ、今日のメニューを知ってもらったとこで、営業に関してもあれこれと話しながら料理を平らげると、そろそろいい時間だ。
「それじゃみんな、よろしくね」
片付けを終えて、最後のチェックを済ませたところでそう言うと、三人も元気な返事で答えてくれた。さぁ、開店だ。
その後、あいさつに来た会長さんや部長さん、様子を見に来た顔なじみのお客さんの相手をしながら営業を続けていると、スピーカーから移住船団の到着を知らせる霧島さんの声が聞こえてきた。
いよいよか……なんて軽く気合いを入れなおしてはみたものの、そういえばこっちに来るのはまだしばらくかかるのだったなと思い直して、肩の力を抜く。
それからさらに一時間くらい経った頃だろうか。数台のバスが車列を組んで店の前の海岸通りを通って行った。あぁ、住宅地まで送るバスか……俺たちの時もあったなぁ……俺は乗ってないけど。
と、そんなことを考えながら、思ったよりも長いその車列をぼーっと眺めていると、そのうちの一台が商店街の入り口で止まった。遠くて良く見えないが、どうやらそのバスはそこで降りる人のためのバスのようで、続々と人が出てくるのが確認できた。
そのうちの何人かはこちらのほうに歩いてきているのが見えたので、川内たちに声をかける。
「みんなお客さんがいつ来てもいいようにしといてね」
するとすかさず、それぞれの言葉で了解の意を笑顔とともに返してくれた。うん、心配いらなかったかな。
そんな感じで店頭に設置した鉄板の前でスタンバっていると、小さな女の子を連れたご夫婦がこちらに歩いてくるのが見えた。
表情がわかるくらいまで近づいたあたりで川内が手を振ると、父親に抱かれていた女の子も笑顔で大きく手を振ってくれた。どうやら移住組第一号のお客さんは彼女たちになりそうだな。
そんな彼女たちを皮切りに、日が沈むくらいまでたくさんのお客さんが来てくれた。移住組はもちろん、いつもの顔ぶれも来たりして早速この島の話で盛り上がっている様子も見られたのは嬉しかったな。
ともあれ、すでに日が落ちたということで、祭りそのものは一旦お開き。あとは節度を守ってご自由にって流れみたいだ。さっき霧島さんがそんな放送をしていたし、ここの島民の気質を考えると適当に余った食材とか持ち寄って、宴会でもやるんだろうな……ある意味ここから第二部のスタートって感じかね。
とりあえず俺たちも店じまいして、軽く打ち上げでもしようかってことで片付けを始めると、一台の黒塗りの高級車が店の前に止まった。
なんだなんだ?やばい客か?……なんてことはなく、その特殊なナンバーを見れば鎮守府の車だということが分かった。とは言え、うちの店に車で乗り付ける人物に心当たりはなく、窓もスモークガラスで中が見えなかったので、誰が来たのかと首をかしげていると、向こう側のドアが開いて誰かが降りてきた。
「ヘーイ、ヒデトサーン!こんにちはデース!」
降りてくるなり元気に挨拶をしてくれたのは、金剛さんだった。
「今日はヒデトサンに紹介したい人を連れて来たデース!」
金剛さんはそう言いながら車のこちら側へと回り込み、ドアを開けて中の人物を外へと促す。そして車から降りてきたのは……。
「コンニチハ、アナタガヒデトネ。ワタシハナンポウセイキ、ヨロシクオネガイスルワネ」
「え?あ、はい。こちらこそよろしくお願いします……えと、金剛さん、こちらの方は……?」
金剛さんが連れてきたのは、ほっぽちゃんと同じような透き通った白い肌に、白い髪の女性だった。ただ、ほっぽちゃんと違うのは、髪を頭の後ろで二つに結んでいるのと、服装も黒いビキニに黒いライダースジャケットとブーツという出で立ちでかなり露出度も高く、年の頃も金剛さんと同じ位に見える。
なので……その……目のやり場に困るといいますか……挨拶もそこそこに金剛さんに助けを求めても仕方ないよね。
っていうか、君たちは知ってたの?という感じで川内たちの様子を見てみると、どうやら連絡は前もってあったようで、驚いてはいないようだが、何やら険しいような、拗ねたような表情で彼女のほうを見つめていた。敵視ってわけじゃないみたいだし、金剛さんも特に指摘してないから別に問題ないんだろうけど、ちょっと怖いからやめてくれるとありがたいんだけどな……。特に川内さん。
「彼女は、お分かりのように深海棲艦なのデスガ、簡単に言うと、ほっぽちゃんと同じデス。なので、前例のあるこの島に来てもらって、一緒に暮らすことになったデース」
そんな川内たちの視線をスルーして、金剛さんが彼女にことを説明すると、それに続いて彼女も口を開いた。
「エエ、ソウイウコトデス。ホッポウセイキニアワセテ『ナンポ』……トイウノハナンダカオカシイノデ、『ミナミ』トデモヨンデクダサイ」
なるほど、ミナミさんですか。とりあえず彼女がここに来るまでの詳しい経緯はさておいて、まさかまた深海棲艦がこの島に来ることになるとは思わなかったよ。
ただ、今はまだびっくりしてて頭が追いついていないけど、とりあえずこの島ならなんとかやっていけるだろう……っていうのはちょっと楽観的すぎるだろうか?
ともかく、今日のところはせっかく来てくれたんだし、何か食べていってもらいましょうか。もちろん金剛さんも一緒にね。
最後にちょろっと出てきましたが、新しい深海棲艦は南方棲鬼でした
次回は彼女のプチ歓迎会の予定です
お読みいただきありがとうございます