鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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イベントは終わってしまいましたが
やはりこの時期はこれは外せないということで、書いてみました
タイトルで(出港)とあるように何回かに分かれております



六十二皿目:旬の味を求めて(出港)

「それじゃぁ」

 

「提督さん」

 

「行ってくる」

 

「にゃ」

 

 ある日の早朝。鎮守府の港でさくらに出発の挨拶をしているのは、先日着任したばかりの村雨と、そのフォローということで妹艦の夕立。

 

 実は村雨が着任してすぐに、時雨と夕立が店に連れてきてくれて紹介してくれたんだけれど、なんというか二人とはまた違った雰囲気の子で、隣でぽいぽい言っていた妹さんと比べると、かなり大人っぽく感じられた……。そんな女の子が釣竿を持って気合を入れている。

 

 そして、迷彩模様のフィッシングウェアを着込んで村雨以上に気合十分、完全装備の響――ちょっと前に改装して『ヴェールヌイ』とかいうロシア語の艦名になったらしいけど、本人の希望もあって『響』と呼んでいる――と、なぜか大漁旗を持った多摩が並んでいる。

 

 というか多摩はどこでその大漁旗を作ってもらったんだろうか?妖精さん?そんなのも作れるのか、すごいな妖精さん。

 

 そして俺の前には、子供用のフィッシングベストに身を包んだほっぽちゃんと、そのほっぽちゃんを肩車している長門さんがいた。

 

「ヒデト!イッパイトッテクルカラマッテテ!」

 

「ははは、気合十分だな!店主殿、ほっぽちゃんの言う通り、大漁を期待して待っていてくれ。もちろん、ほっぽちゃんの身の安全はこのビックセブンが保証するのでな、安心してくれよ」

 

 いや、その辺はあまり心配していないのだけれど……。

 

 我々が何の話をしているのかというと、実はこれからこの六人で艦隊を組んで、今が旬の秋刀魚を獲りに行くことになっているのだ。

 

 で、そのなかになぜほっぽちゃんがいるのかというと、話は数日前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 数日前のモーニングタイム。その日はそれほど忙しくなかったので、例によって朝定を食べに来ていたさくらと、その隣で一緒に朝食を取っていたほっぽちゃんとちょっとした世間話をしていた。

 

「そうだ秀人、来週あたりからしばらく秋刀魚を持ってくるからメニューよろしくね。とりあえず塩焼きはマストで」

 

「なんだ藪から棒に。メニューを考えるのは良いけど、どういうことだ?」

 

「ほら、毎年この時期になると艦娘達が秋刀魚漁に行ってるって話は前にしたじゃない?一応うちからもローテ組んで漁に出すからさ」

 

 そういえば以前さくらからそんなような話を聞いたことがあった。確か今までは艦娘が獲ってきたということは伏せて、自衛軍経由で流通させてたんだったか?

 

「そうそう、今年も加工品に関しては軍が一括して作るんだけれど、ただ今回は各地の漁協と協力して生のものも流通させようという話になってるのよ。おまけに、艦娘がってことも出していこうって。まぁ、今までに秋刀魚以外の漁で似たようなことを始めたところもあるからね、特に大きな混乱はないと思うわ」

 

「ふーん、そっか。そりゃ楽しみだな」

 

「でしょでしょ。漁船を改造した輸送船も用意してあるから、この島なら十分新鮮な状態で持ってくることができるはずだからね。お刺身楽しみだわー」

 

 ま、刺身で食べられるかどうかは物を見てみないとわからないが、そういうことならちょっと色々考えてみましょうかね。

 

 とそんな感じでメニューを考え始めた俺だったが、横からほっぽちゃんが首をかしげながら聞いてきた。

 

「ヒデト、サンマッテナニ?オイシイノ?」

 

 秋刀魚にピンと来てない様子のほっぽちゃんに、検索して出てきた画像を見せながら説明する。

 

「これが秋刀魚だ。煮ても焼いても刺身でもよし。今が旬の魚だよ」

 

 すると画像を見たほっぽちゃんが「あっ!」と声を上げて得意げに話し始めた。

 

「ホッポコレシッテル!マエイタトコロデミタ!」

 

 前いたところ?海で見たことがあるってことか。確か記憶が曖昧だって言ってた気がするけど、まぁ『北方棲姫』っていうくらいだし、北の方にいたんだろうな。んで、この画像を見て思い出したと……。

 

「キラキラシテテキレイダッタ……ソウダ!ホッポモ!ホッポモサンマトリニイク!」

 

 えー……ちょっとそれは心配だなぁ……。艦娘みたいに海上を航行できるのは前に見てるし、見た目にそぐわぬ力持ちってのも知ってるけど、深海棲艦に襲われたりしたら……攻撃能力ないんだよね、ほっぽちゃん。

 

 そんな不安を小声でさくらに伝えると、彼女は笑って一蹴した。

 

「大丈夫でしょ。うちの演習に参加してもらったこともあるけど、この子かなーり強いわよ。それに攻撃能力がないっていうけど、艤装の展開はできるし、ダメージを与えられないのは艦娘相手だからで、もしかしたら深海棲艦には通じるかもしれないしね。ねー、ほっぽちゃん」

 

「ウン!ホッポツヨイ!ダカラ……オネガイ、ヒデト」

 

「ほら、かわいい子には何とやらって言うじゃない。それに、そんなに心配だったら、それなりの戦力を用意するわよ。近海に出てくるような奴らなら軽くひねれるようなメンツをね。まぁ、一人か二人は練度の低い子を入れるつもりではあるけど……そうだ、引率は長門にやってもらいましょう。あの子、ああ見えて小さい子好きだし、面倒見もいいからね……なるべく隠そうとしてるけど……」

 

 んー、さくらがそこまで言うなら……。それに長門さんが一緒に来てくれるなら安心か。彼女、ほっぽちゃんのこと好きみたいだし、きちんと見てくれるだろう。

 

「ほっぽちゃん。ちゃんとお姉さんたちの言うこと聞ける?勝手な行動しない?」

 

「キケル!シナイ!」

 

「じゃぁさくら、お願いしてもいいかな?」

 

「はーい、お願いされました。詳細が決まったら連絡するわね……じゃ、私はそろそろ仕事にいきますか。ごちそうさま、美味しかったわ」

 

 

 

 

 

……とまぁ、こんな感じのやり取りがあって急遽ほっぽちゃんも秋刀魚漁に同行することになったというわけだ。

 

「では長門さん、ほっぽちゃんの事よろしくお願いしますね。それと、これ。道中みんなで食べてください」

 

 そういいながら長門さんに大きなバスケットを渡す。中身はおにぎりやサンドイッチなどの簡単に食べられるようなお弁当だ。おかずには唐揚げや玉子焼きなんかの定番料理を入れてあるが、どんな状況で食べるかわからなかったので楊枝で食べられるようなものでまとめてある。

 

「む、これはもしかして店主殿特製の弁当ではないか?先日金剛から話を聞いて是非食べてみたいと思っていたのだ。ありがたく頂くとしよう」

 

 長門さんは俺からバスケットを受け取ると大事そうに抱えて、さくら達の方へと向かっていった。そこで一言二言言葉を交わすと、いよいよ出港ということで堤防から海面へと降り立つ。

 

 そういえば、艦娘の皆は鎮守府で艤装を装備してから出てきたけれど、ほっぽちゃんはうちから一緒に来たので、当然そんなものはない。彼女の持ち物といえばお気に入りのかわいらしい水筒――今日は北へ向かうということで、ホットのロイヤルミルクティーが入っている――だけだ。

 

 まぁ、ほっぽちゃんも艦娘と同じように航行するだけなら艤装は必要ないらしいのだが、このまま行くのだろうか?と疑問に思っていると、ほっぽちゃんは長門さんに何やら耳打ちしてから肩の上で立ち上がった。いったい何を……と思ったのもつかの間、どこかで見たようなヒーローよろしく「トゥッ!」と掛け声一声、長門さんの肩からジャンプした。

 

 空中へと躍り出たほっぽちゃんは、そのままくるりと宙返りしたかと思うと、きらきら光る謎の粒子に包まれて、着水した時には右腕に何やら仰々しい滑走路?のようなものを装着していた。え?何その変身、かっこいい。

 

 この姿は初めて見たが、普段のほっぽちゃんの姿からは想像できないような禍々しさもあって、改めて彼女が深海棲艦だったことを思い出したのだけれど、肩から下げた水筒とのギャップに思わず笑ってしまった。

 

 ほっぽちゃんは肩を回したり、軽く体を動かして具合を確かめると、こちらに向いて大きく手を振ってきた。

 

「ヒデトー!ドウ?カッコイイ?」

 

「ああ、かっこいいよ。なんだか強そうだ」

 

 ほっぽちゃんの問いかけに親指を立てながらそう返すと、彼女はちょっと照れ臭そうにしながらも「イッテキマス」と再度手を振り、艦隊へと加わっていった。

 

 いよいよ出発か。行ってらっしゃい、がんばってね。

 

 

 

 

 ……と、いうわけで、秋刀魚漁艦隊が出港して数時間後、午前中の営業を終えた俺は、店の裏庭で、ある艦娘と向き合っていた。

 

「マスター、休憩時間なのにごめんね。よろしくお願いします」

 

「おう、よろしく時雨。それで今日は魚の焼き方だったか?つか、もしかしなくても秋刀魚だよな」

 

「ご明察……っていうには簡単だったかな。あの二人が帰ってきたら美味しく焼いてあげたくてね、マスターに教えてもらおうと思ったってわけさ」

 

 やっぱりね……というか、このタイミングで言われたらわかるよな。

 

 で、今回時雨から相談を受けて、何で焼いてもらおうか色々と考えた。手軽さを考えるならガスレンジの魚焼きグリルや、後片付けも簡単なフライパンなんだけど、やはり焼き魚の一番おいしい食べ方といえば炭火焼だろう。それにうちの店でも焼き台は炭を使っているから俺も使い慣れているしね。

 

 ってことで用意したのが角形七輪だ。通常七輪と聞いてイメージする丸型ではなく、長方形のもので、魚を焼くならこのタイプがいいからね。

 

 実はこれ、店で使うかもしれないと思って買ったはいいものの、焼き肉屋のような高性能な排煙装置がない客席で使うわけにもいかず、かといって厨房では焼き台を使えばいいので、結局気が向いたときにプライベートで使う程度だ。ただ、そのおかげで慣らしは済んでるし、使い方も把握している。

 

 それに、同じものではないが、似たような角形七輪が鎮守府にもあるということも確認済みだ。これを買う時にさくらに相談したんで、大方うちのを買うときに一緒に買ったんだろうが……聞く限りでは碌に使ってないみたいだけど。

 

 さて、いよいよ焼き始めるわけだけれども、今回は休憩時間にやってるってこともあって時間があまりないので、火熾しは割愛させてもらおう。なので、厨房からすでに火が付いた炭を持ってきてセッティングする。一応後で説明はするけれど、炭火を熾すのに必要なのは時間と根気だから時雨なら心配ないだろう。

 

「ふふっ、やっぱり炭火は温かみがあっていいね」

 

 俺が七輪をセッティングしている横で、手をかざしていた時雨がそんなことをつぶやく。うんうん、それもまた魅力の一つだよね。と、ほほを緩ませていると、勝手口から祥鳳が今日の食材を持って出てきた。

 

「店長さんお待たせしました。鱗とワタとれましたー。塩も教えてもらった通りに。」

 

「ん、ありがとう。そこの台の上に置いておいてくれるかな」

 

 祥鳳に持ってきてもらった今日の主役は『本カマス』だ。これは細長くて秋刀魚っぽい……ってだけではなくカマスも今の時期が旬で、脂がのったものを塩焼きにするとこれまた格別なんだよね。

 

「マスター、この魚は?」

 

「これはこの辺でとれるカマスって魚だ。白身で柔らかく淡白な肉質で、この時期は脂がのっててうまいんだ」

 

「へー、さっき祥鳳さんが言っていたけど、塩はもう振ってあるのかな?」

 

「あぁ、焼く三十分前くらいに振ってなじませておくのがいいかな。これくらいの高さからまんべんなくね」

 

 そういいながらカマスの三十センチくらい上で手を振るジェスチャーを行う。時雨もそれを見ながら真剣な表情でメモを取っていた。

 

 続いて取り出したのは焼き網。今回は初心者の時雨でもやりやすいように二枚合わせの挟み込むタイプの焼き網で焼くことにする。これを時雨に手渡して、いざ調理開始だ。

 

「ではまずこの網に軽く油を塗って、皮がくっつきにくいようにしてから秋刀魚を乗せて、軽く挟む。で、盛り付けるときに表になる方を下にして七輪の上に置く」

 

 俺の説明に合わせて横で時雨が作業を始める。七輪に網を乗せたところで、時雨が「次は?次は?」というような表情でこちらを見てきた……次はね……。

 

「待つ」

 

「待つ?……だけ?」

 

「まぁ、一応炭の様子を見ながら、あんまり脂が落ちて火が上がるようなら手を入れなきゃいけないんだけれど、基本的には待ちだな。ちょこちょこ触ると身崩れするし、ひっくり返すのは原則一回だけ」

 

「それは……ちょっと不安だね」

 

 まぁ、慣れてないとちゃんと焼けてるかどうか不安だよな。

 

「目安としては秋刀魚の目が白く濁ってきたらかな。最悪この挟むタイプの奴なら身崩れしにくいから、持ち上げてちらっと覗くのはアリだよ」

 

 俺のその言葉に時雨は「なるほど」と小さくつぶやき、視線を七輪へと戻した。それからはしばらく「パチリ」と炭が爆ぜる音と、脂が落ちて立てる「じゅぅっ」という音だけが流れる。この間に俺は祥鳳に目配せをして、あるものを作ってきてもらう。

 

「そろそろだろうか?どうかな、マスター」

 

「うん、いいんじゃないか?それじゃあひっくり返してみて」

 

 俺のGOサインに時雨は一度頷くと、一思いに網をひっくり返した。

 

「うわぁ、皮がパリパリなのが見ただけでわかるね。でも、ちょっと焦げちゃった?」

 

「いや、いい感じだ。この色を覚えておいてね。裏側はさっきより短めに焼いていこう。大体表が六から七割裏が四から三割なんて言われているかな」

 

 そのまましばらく火を通して、俺が見ててもそろそろかなといったところで時雨が顔を上げてこちらを見た。それに頷きで応えると、時雨が軽く網を持ち上げて下から覗き込んで焼き加減を確かめたので、俺も彼女の横にしゃがみこんで一緒になって覗いてみた。

 

「マスター!」

 

「あぁ、うまそうだ」

 

 嬉しそうな顔でこちらを見てくる時雨にそう言葉をかける。と、そのタイミングで祥鳳もお盆を手に戻ってきた。

 

「あら、その表情はうまく焼けたみたいですね。では、時雨さんが焼いたお魚でお昼にしましょう」

 

 祥鳳に作ってきてもらったのは塩むすびと味噌汁だ。これと炭で焼いた旬の魚……最高だな!

 

「さぁ時雨、冷めないうちに食べよう。やっぱり焼き立てが一番だからね」

 

「うん!祥鳳さんもありがとう」

 

 木製のちょっとした台をテーブル代わりに、早速いただくことにする。ここはやはり時雨から食べてもらうことにしよう。

 

「いいのかい?それじゃ遠慮なく……」

 

 時雨は手をぬぐっていたおしぼりを箸に持ち替えて、カマスへと伸ばした。

 

「うわっ、おいしい。パリパリの皮とフワフワの身がなんとも言えないね。塩加減もちょうどいいし……旬だからかな、脂ものっててとてもジューシーだ。僕でもこんなにおいしく焼けるなんて、炭と……教えてくれたマスターのおかげかな」

 

「ま、炭の力もあるだろうが、時雨が頑張ったからさ。炭で焼くのは結構難しいからな……うん、本当にうまく焼けてる。なぁ、祥鳳?」

 

「ええ、美味しいです。私も頑張らなきゃいけませんね」

 

「艦隊が返ってくるまで何日かあるんだよな?出来たらもう一・二回練習すればばっちりだろう」

 

「そうだね、今度は鎮守府の皆にふるまってみるよ……皆たくさん食べるからね、練習には事欠かなそうだ」

 

 そう言って笑顔を見せた時雨を見て、俺たちも一緒になって笑った。

 

 それにしても、秋刀魚か……楽しみだな。

 




はい、秋刀魚です
最初は出港だけで終わらせるつもりだったのですが、ちょっと短いかなと思ったので
急遽時雨に七輪での焼き方を覚えてもらいました
限定グラを見ているうちにふと思いついたので

それと、ほっぽちゃんの攻撃云々に関しては、
艦娘と深海棲艦の長ったらしい独自設定解説をするのもあれなので
そういうものと思っていただければ……

では、また次回……
お読みいただきありがとうございます
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