昨日も会ったように長門さんと加賀さんの登場です
ランチタイムも過ぎてお客さんもいなくなり、そろそろ俺たちもお昼にしようかと洗い物をしながら考えていると「カランカラン」とドアベルの音が聞こえ、続いて川内が厨房に呼びに来た。
「てんちょー、長門さんと加賀さんが来たよー」
「わかった、席に案内して水とおしぼりお願い」
「りょうかーい」
彼女はそういってホールに戻っていった。二人はカウンター席に座ったようで、川内と話している声が聞こえて来る。
「川内もきちんとやっているではないか」
「そうね、すこし見直しました」
「当然よ!やるときはやるんだから!それに、二人とも店長の料理を食べればわかるわよ。頑張んなきゃって」
おっと、川内さん、あまりハードルは上げないでほしいのだけれど?これ以上上がらないうちに俺もカウンターに向かう。
「いらっしゃいませ。長門さんに加賀さんだったかな、店長の田所秀人だ。よろしくね」
「私が、戦艦長門だ。よろしく頼むぞ、店主殿」
「航空母艦、加賀です。どうぞよろしく」
二人がそれぞれ挨拶してくれる。長門さんは黒髪ロングできりっとした目つきの美人さんだ。佇まいや拳をグッと握った力強い自己紹介など武人然としていてかっこいい……露出が多くて目のやり場に困るが。
加賀さんは対照的に物静かな感じで青い袴の和装と共に凛とした雰囲気を感じる。ともすれば冷たい印象を受けるが、可愛らしいサイドテールがそれを和らげている感じだ。実際の性格はどうかまだわかんないけど。
「さて、二人ともご注文はどうしましょう?一応メニューはあるけど、リクエストがあれば載っていないものでも作りますよ?」
「それなのだがな、実は今朝から提督がうるさいのだ。やれ焼き魚が旨いだの、味噌汁が旨いだのとな……それですっかり定食の腹になってしまってな」
「えぇ、それにお恥ずかしい話なのだけれど、最近はきちんとした形式の定食などしばらく食べていなかったのよ。ですから何かそういった物をいただければと」
「あぁ、そうなのだ。だから、そういった物で一つ頼めるだろうか。主菜はなんでも構わない、魚はまだ仕入れが難しいというのも聞いているしな」
二人の話を聞いて思わず頭を抱えた。さくらの奴は部下に何を話しているんだ……まぁ、職場でそういう話ができるのは立場関係なく仲がいいってことなのか?まぁ、そういう事ならちょうど良いものが仕込んである。
「かしこまりました。そんなに時間もかからないと思いますので、少々お待ちください。ちょうどいいから川内も一緒にお昼にしたらどうだ?」
「んー、いや私も手伝うよ。指示ちょうだい」
「そっか、助かるよ。じゃあ……」
二人に一礼し、作るものを川内に説明しながら厨房へ引っ込んで下ごしらえを手伝ってもらう。
「そうだなぁ、じゃぁ俺はこっちで出汁取ってるから、川内は茄子の下ごしらえをしてもらえるかい?」
「はーい、縦に半分にして格子に飾り切りだっけ?」
「お、良く知ってるな。でも今回は乱切りにしよう。それと、たしか冷凍庫にちりめんがあったからそれと和えようと思う」
「へぇ、そんな作り方もあるんだ。あれ?でも冷凍してあったらすぐ使えなくない?」
「いや、取り出してもらうとわかると思うけど、ちりめんは水分が少ないから冷凍しても軽く揉めばすぐにほぐれるよ。使う分だけほぐして、また冷凍しておいて」
そうなんだー、と言いながら冷凍庫に行き小分けにされたちりめんを取り出す川内。すぐに、ほんとだ!おもしろい!という声も聞こえて来る。さて、彼女が茄子の下ごしらえをしているうちにこっちのことをやってしまおう。
だし汁に醤油・みりん・砂糖・酢を入れて火にかけ、ふつふつとしてきたところで火からおろしてバットに移しておく。その間に茄子の方も切り終わったらしく次の指示を伝える。
「そしたら、茄子を素揚げにしてもらえる?160~70℃くらいかな。切り口がほんのりきつね色になるくらいまで」
元気よく返事をした彼女は予熱してあったフライヤーに向かい、茄子を揚げはじめる。じゅわぁという音を聞きながら、今度は味噌汁を作り始めると同時に主菜となる煮物を温めておく。この煮物は、今朝大根おろしに使った大根が中途半端に残っていたのと、昨日の残りの鶏モモ肉を使った『鶏と大根の煮物』だ。
一口大に切った鶏肉と大根を醤油・酒・みりん・砂糖を使って弱火でじっくり煮込んだもので、濃いめの味付けと生姜の風味が食欲をそそる。今日は鶏肉と大根だけだが、ゆで卵を一緒に煮込んでもおいしい。味の染みたゆで卵をご飯に乗せて軽くほぐして煮汁をかけて……って食べたくなってきた。後で余った煮汁で煮卵だけでも作ろうかな。
「店長、揚がったよ~」
「はいよ、じゃぁ油を切ったら熱いうちにそこの漬け汁に漬けておいて」
おっと、余計な事を考えてしまった。この煮物はもう味も染みてるし、温めなおすだけでいいな。
ご飯と味噌汁をよそって、彩に斜に切った青ネギを散らした煮物も盛り付けたところで、茄子の方も粗熱がとれ出汁もたっぷり吸っているようなので、ここにちりめんを和える。
「ほい、川内味見」
火傷しない熱さなのを確認して、川内の口に茄子をひと切れ放り込む。「いいねー、いいよこれー」とお褒めの言葉をいただいたので、器に盛っておろし生姜をちょんと乗せて『茄子の揚げびたし』の完成だ。
「二人ともおっまたせー」
川内と一緒に二人の待つカウンターにお盆に乗せた定食セットを持って行く。
「おぉ、待っていたぞ川内……旨そうだな」
「そうですね、この香り、さすがに気分が高揚します」
「ほら二人とも、冷めないうちに食べてよね。私も一緒に作ったんだから」
いただきますと手を合わせ、箸を手に取る二人の様子をうかがう……長門さんがまず口に運んだのは大根。中までしっかり味が染みたそれを口に含み、何度か咀嚼するとすかさずご飯を掻き込む。
「まずいな、これは……あっ!いや、その、おいしくないという事ではなくてだな!絶妙な味付けで、その……そう!あれだ、いわゆるヤバイというやつだ。箸が止まらなくなりそうでまずいということだな。うん」
そういって手早く箸を進める長門さん。最初ちょっとドキッとしてしまったけど、若干テンパりながら早口で説明してくれた。おいしくてヤバイってことでいいんだよね、若者言葉的な?と思いながら隣に立つ川内を見ると、こちらの視線に気づいて小声で話しかけてきた。
「いつも不動の構えって感じで堂々としている長門さんがあんなになるなんて、レアだよレア」
さらに、良いもん見せてもらったわーといった感じで大きく頷いている。そしてもう一人、加賀さんはと言えば、茄子から手を付けて目を見開いていた。
「この茄子は……いいですね。茄子のとろける食感とじゃこの食感のアクセント、染み出る出汁の旨味……」
小声ながらもそう言って、ご飯や味噌汁、煮物と箸を進めバランスの良い三角食べを見せてくれる。さらに合間合間で頷きながら食べている様子を見ると気に入ってもらえたのだろう。
おいしそうに食べてもらえてよかったねと川内と顔を見合わせてほっとしていると、長門さんが遠慮がちに声をかけてきた。
「あの、店主殿……申し訳ないのだが、ご飯のお替りをいただけないだろうか」
「私の分も、その……お願いできるかしら」
そして、それに便乗する加賀さん。そんなの返事は決まってる。
「はい!喜んで!」
ついでに、川内にも同じメニューで昼食を摂らせて、その間にもさらにご飯を二杯、おかずを一杯お替りした二人は、今は満足そうな顔で川内と一緒に食後のお茶をすすっている。
なかなか見た目にそぐわぬ食べっぷり。作った側としては嬉しい限りだ。
すると、長門さんが姿勢を正して口を開いた。
「さて、店主殿。少々真面目な話になるのだが、よろしいか?」
ここの鎮守府を裏から支えるお二人の登場です
外に出るときは長門さん頭の角は外してます
そして、加賀さんのサイドテールには『女子』を感じます
次回、長門さんは何を話すのか……
お読みいただきありがとうございました