今回はあの子達が登場します
とは言え前半は川内との朝食風景ですが……
それではどうぞー
「おっはよーございます」
「おう、おはよう」
元気に朝の挨拶をしながら、川内が裏口から入ってきた。そのまま身支度を整え、エプロンをしながら聞いてくる。二日目にしてすでに慣れたものだ。
「さぁ店長、何からする?」
「そうだな、今日はもう野菜が届いているから、昨日と同じようにしまっちゃってくれるかな?」
りょうかい!とこれまた元気に返事をしながら段ボールから野菜を取り出してはしまっていく。
その間に、一旦仕込みの手を止めて朝食用に食パンを焼いていく。これは彼女が来る前に焼いておいた自家製パンだ。業務用のミキサーが用意されていたので、せっかくだからと使ってみたのだけど、どうだろう?専門店には劣るかもしれないが、ふんわりとおいしくできたと思う。
トーストだけというのも味気ないので、オムレツとスープも用意しようか。オムレツはすぐできるから後にして、スープは今日のメニューにも出そうと思っているコンソメスープだ。
昨日店を閉めてから鶏ガラや手羽先、各種野菜ガラ、香草をじっくり煮込んで仕込んだブイヨン・ド・ヴォライユ(鶏のブイヨン)をベースに刻んだ野菜・鶏ひき肉・卵白・昆布を加え、アクを取りながら旨味をさらに追加して塩で味を整えた黄金色のスープだ。
ここにブイヨン・ド・ブフ(牛のブイヨン)があればさらにコクも出るんだが……牛骨とか仕入れられるようになったらさっそくやってみよう。代わりに、今回は昆布を入れて味に深みを増す。
このコンソメを作るときに出たひき肉なんかの出汁ガラはうま味があまり残っていないので、お客さんのメニューの具材としては使いにくいのだが、修行中はミートソースやドライカレー、ピラフの具などに使って賄いを作ったりしていた。今日はこれをオムレツの具にして俺たちで食べちゃおう。
「店長こっち終わったけど、なんかいい匂いがする」
「おう、朝飯食ってきてないんだろ?味見がてらササッと食べちゃいな」
「やったぁ!じゃあさっそくいただきまーす!」
手を合わせてさっそくトーストにかぶりつく。厚めに切った食パンを「サクッ」と気持ちのいい音を立てて頬張るとゆっくり味わうように咀嚼する。
続けて、無言のままスープを一口飲むと川内は「ふはぁ」とよくわからない声を上げた。続けてオムレツに手を伸ばしてそれぞれ口にしたところで聞いてみる
「どうだ?」
「うん、最高のモーニングだよ!これも店で出すの?」
「そっか、良かった。スープは今日の日替わりスープとして出すよ。パンは今はトーストにしたけど、サンドイッチにしようかなって。オムレツは具材がちょっと訳ありだからなぁ」
満足してもらえたようでよかった。オムレツは具がどういう物かを説明して、出せない理由を教えたけど「これでも十分おいしいのに」とちょっと不満そうだ。確かにおいしいはおいしいし、そう言ってもらえるのは嬉しいんだけどね。
「さぁ、残りの仕込みをやっちゃおう。今日は艦娘の子はだれか来るって言ってた?」
「えーっと、確か白露型の二人がおやつ時くらいに来るって聞いたなぁ。なんかお菓子みたいなの作ってあげたら喜ぶんじゃない?」
うーん、デザート系はあまり得意ではないんだけど……まぁ、来たら聞いてみようか。普通に食事しに来るかもしれないしね。
そのまま仕込みを続け、昨日同様開店を迎える。島にいる人数も限られているので、三日目ともなるとだいぶ落ち着いたものだ。川内も手伝ってくれているので、お客さんと話をする余裕も出てきた。
昼過ぎには先日鯖を持ってきてくれた釣り好きの自衛官さんも来てくれたので、例の一夜干し鯖定食を出した。この方は鎮守府の立ち上げ関連の任務が終わって、島が動き始めた後も島に残ることになっているらしい。なんでも、小さなものだが鎮守府とは別に自衛軍の基地も作って本土との連絡や物資搬送、島内の復興基地として使うのだそうだ。
今日の焼き鯖もたいそう気に入ってくれて、今後も釣りに行ったときは持ち込むのでぜひ調理してほしいと言われた。俺としても魚介類は大好きなので、ぜひ持ってきてくださいということを伝え、とても仲良くなれた気がする。
そんな楽しい会話を交えつつ昼の営業を行い、お客さんが切れたタイミングで俺たちも昼食を摂って、片づけをしているときに彼女たちはやってきた。
「こーんにーちわっ!」
「こんにちわ」
「いらっしゃい、空いてる席にどうぞ」
そう出迎えたのは、二人の女の子。こないだ来た暁ちゃんたちと同じか、ちょっと上くらいだろうか。薄い桜色の長い髪に黒髪おさげの……あぁ、初日に店を覗いていた子か。
「やっと来れたっぽい!」
「そうだね、でもとりあえず自己紹介しよう?マスターも困ってるよ?」
いや、困ってるって程でもないけど、ちょっと突っ走り気味のこっちの子を黒髪の子が窘めるって言う構図はこないだと同じだった。
「まずは僕からだね。僕は白露型駆逐艦二番艦、時雨。これからよろしくね」
「おなじく白露型駆逐艦四番艦、夕立よ。よろしくね!」
「店長の田所秀人だ、こちらこそよろしく」
なんやかんや言いながらカウンター席に着いた二人に、川内がお冷とおしぼりをだす。お互いに挨拶を交わして談笑する中で注文を聞く。
「店長、二人ともお昼は食べたけど、ちょっと小腹がすいてるんだって。なんか丁度いいおやつある?」
それならと今朝川内に言われてから考えていたメニューがあるので、二人のお相手を川内に任せて一旦準備に下がる。
そのメニューはホットケーキ。
まず材料として薄力粉・ベーキングパウダー・砂糖・卵・牛乳を用意する。粉類はそれぞれふるいにかけてから混ぜ合わせておいて、別のボウルで溶いた卵に牛乳を入れた物にダマにならないように混ぜて生地にするのだが、ここでひと工夫するとふんわりした焼き上がりにすることができる。
それは、卵を溶くときに黄身と白身で分けるということだ。特に白身はメレンゲにしてから加えると焼き上がりのふんわり感が全く変わってくる。こうしてできた生地を持ってカウンターに戻る。カウンター内で焼こうという訳だ。
「あ、マスターさん戻ってきたっぽい!」
「おう、ちょっと待ってな。今焼くからな」
「へー、今回はこっちで作るんだ?」
川内が疑問を投げて来る。そういやこっちで料理するのは初めてだったか。お茶やコーヒーはこっちで入れたりしてたんだけどな。
「まぁね。これならこっちでも作れるしな。それにお嬢ちゃんたちも作ってるとこ見ながらなら飽きないだろ?」
この店では初めてだけれど、修行していた喫茶店ではデザートや簡単な料理はこうしてカウンターで作っていて、俺も初めの頃に川内同様疑問に思って、マスターに聞いたことがある。
『デザートは華があるからな。一種のパフォーマンスみたいなもんでお客さんも見ていて楽しいだろ?それにカウンターに座るお客さんってのはそういうの目当てで来てる人もいるし、こっちもお客さんと会話しながら作業できるしな。黙ってムスッとした顔をお客さんに見せるくらいならカウンター席なんて必要ねえよ。寿司屋だって同じだろ?』
そして『お客さんに見られるんじゃない、お客さんに見せるようにやれ』というマスターの話を聞いて考えてみると、それまで修行してきたカウンターがある店では、どの店の店主も似たような思いでいたのだろう。カウンターに立つ時はお客さんとの会話を楽しみ、料理に関しても包丁さばきやフライパンさばきなどで楽しませていたような思い出がある。
だからこの店でもこうやってカウンターで調理をして……
「おー、見てみて時雨、膨らんできたっぽい!ふわふわ~!」
こうして目の前でだんだんと焼きあがる様子や……
「いや、見事なものだね」
ちょっと大げさにフライパンを煽ってひっくりかえす様子を見て喜んでもらおうってわけだ。
「よし、できた」
二枚のホットケーキをふっくら厚めに焼き上げて皿に乗せ、ちょっとした苺の飾り切りを添える。別皿に乗せたバターと、ディスペンサーに入れた蜂蜜も一緒に二人の前に置けば、そっちに目を奪われながらもちらちらとこっちの様子をうかがってくる。その様子はまるでお預けを食らった犬のようで、彼女たちの頭に犬耳があるようにさえ見えて来る。
「どうぞ、召し上がれ」
俺がそういうと、待ってましたと言わんばかりにナイフとフォークを手に取り、いただきます!と食べ始めた。
まだ二人には犬耳は無いので『予備軍』ということで
でも、耳は無くとも、ぽいぬはぽいぬ
お読みいただきありがとうございました