鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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六皿目の2です

今回は艦娘に関するお話をちょろっと入れて
六皿目終了です


六皿目:わんこ予備隊2

 別に普通に食べ始めていいのにと苦笑しながら川内を見れば、二人の様子を物欲しげにじーっと見ている。今は仕事中なんだけどとは思ったが、ほかのお客さんの時はきちんとしているし、気心知れた仲間の前だから多少は大目に見るかと、一言注意してから少し残った生地を焼き始める。

 

「特別だからな。味見程度だぞ」

 

「やったぁ!店長、大好きよ!」

 

 まったく、安い大好きがあったもんだと小さなホットケーキを焼きながら、熱心に食べる二人の様子を見てみる。

 

「どうだい?お二人さん」

 

「うん。とてもおいしいよ。こんなのをいつも食べてるかと思うと、ちょっと川内さんがうらやましいな。ねぇ夕立」

 

「そうそう、夕立このホットケーキのためなら、何でもできるっぽい!」

 

 そんな大げさなと思いながら、焼きあがったホットケーキにバターを一欠け落として川内に渡す。受け取った彼女は、準備万端持っていたフォークを突き刺し、嬉しそうに食べ始めようとした。

 

 立ったままだったので、流石に行儀が悪いと注意して、結局三人並んでカウンター席でもぐもぐやってる。「ふわふわだねー」なんていいながら、かわいい女の子たちがおいしそうに食べてる姿は見てるこっちも嬉しくなるからいいんだけどね。

 

 その間に、紅茶のお替りも入れておく……しょうがない、川内にも出してあげよう。

 

 みんなの食べる様子を見て思ったんだけど。どうして女の子ってのは甘いものを食べるとジタバタしちゃうんだろうね?美味しさの表現がわかりやすくて作り手としてはありがたいんだけど……謎だ。

 

 そうこうしているうちに皆食べ終わり、紅茶を飲んで一息ついている。ほかにお客さんもいないので、俺も一服しようかとお茶を入れていると時雨ちゃんが静かに話し始めた。

 

「それにしても、こんなにおいしいお菓子は初めて食べたよ。ホットケーキ自体は知っていたし、市販のお菓子は差し入れなんかで何度か食べたことはあるんだけどね」

 

 はじめて食べた……か。

 

「その……先日雷ちゃんが言っていたのだけれど、君たちも建造……というか、うまれたばかりなのかな?」

 

「そうだね。僕らをはじめ駆逐艦はみなこの鎮守府で生まれたんだ。軽巡以上のみんなは他の鎮守府からの転属だけどね。だから毎日新しいことだらけってわけさ」

 

「へー、じゃあ川内って前は他のところにいたの?」

 

「そうよ、これでも結構活躍してたんだから」

 

「そうなの!川内さんってばすごく強いっぽい!夕立も早く川内さんみたいな改二になりたいっぽい!」

 

 へぇ、川内がねぇ。当たり前だけど、まだまだ知らないことだらけだな。今の会話でも気になったところがあったので、せっかくだから聞いてみる。

 

「なぁ川内。今夕立ちゃんが言ってた『改二』ってなんだ?」

 

「ふっふーん、教えてあげましょう。私たち艦娘は戦闘や訓練を重ねて経験を積んで、艤装の運用能力が上がると、性能を大幅に向上させることができる改造を行うことができるの。そして私とか艦娘のうちの何人かは改二改装と言って、さらなる性能向上や特化運用ができるような改装を行えるのよ、中には艦種自体が変わったりする子もいるし。ちなみに、ここにいる二人もいずれ改二改装が予定されていて、時雨は対空能力、夕立は砲戦火力の大幅アップが予定されているの」

 

 川内が得意げに説明してくれた。なるほどねー、艦娘って言っても色々あるんだな。そうだ、もひとつ聞いてみようかな

 

「ついでにちょっと聞きたいんだけど、ここの鎮守府って今何人の艦娘がいるの?」

 

 と、今まで店に来た子達の名前を上げながら聞いてみた。

 

「そうだね。そのほかだと正規空母では赤城さん、軽空母で龍驤さん、重巡は高雄さんと愛宕さん、軽巡だと夕張さんがいて、駆逐艦は島風かな。あ、開港式典まではこの人数で行くそうだよ。まだ艦を新造できるだけの資材もないし、海域攻略で……ってこの辺は機密だったかな?」

 

 ちょっとしゃべっちゃったけど大丈夫かな?と不安そうに時雨が川内を見ると、だいじょぶだいじょぶと手を振っていた。

 

「店長なら大丈夫だと思うよ?でも、私たちの口から話すのは確かにあまりよくないかな。多分そのうち提督が話すと思うけどね」

 

「ああ、参考になったよ、ありがとう」

 

 川内のフォローに乗っかる形でお礼を言っておく。

 

「でも……うん。参考になったのならよかった」

 

「もー、時雨ばっかりずるいっぽい。夕立もマスターさんとお話したいっぽいー!」

 

 よかったとつぶやき、はにかむ時雨ちゃんとそれにじゃれつく夕立ちゃん。この二人も姉妹艦らしいけど、こうしてみるといろんな形の姉妹がいるんだなと改めて思う。まぁ、みんな仲がよさそうなのは変わらないけど。

 

 それからしばらく他愛のない話をしながら過ごす。主に夕立ちゃんからの質問に答える形だったが……

 

 こないだの暁ちゃんたちもそうだったけど、彼女たちのような駆逐艦の子はこの島で生まれたばかりということもあって人と接する機会もまだ少なく、こうして話をするのが楽しくて仕方ないようだ。特にこの子は「かまってかまって」って感じの犬みたいでかわいい。

 

 そんな夕立ちゃんの「ぽいぽい」という口癖に慣れてきたころ、時雨ちゃんが思い出したように声を上げた。

 

「あっ!夕立、そろそろ鎮守府に戻らないとこの後の水雷講習に間に合わないよ。今日の講師は龍田さんだから……そういうわけで慌ただしくてごめんね、マスター。おいしかった、ごちそうさま」

 

「えー、もっとお話したいぃ……けど戻らないと龍田さんに怒られるっぽい。マスターさん、また来るっぽい」

 

「そっか、勉強頑張ってな。またいつでもおいで」

 

 そう言って慌てて会計を済ませ、手を振りながら店を出ていく二人を、こちらも川内と二人で「ありがとうございました」と見送る。

 

 そのまま片付けをしていると、ドアベルの音と同時に「いらっしゃいませ」という川内の元気な声が店内に響く。さて、ここから閉店までもうひと山かなと、気合を入れなおしてお出迎えだ。

 




皆様イベントお疲れ様です
自分は改めて学びました……
備蓄は計画的に!

お読みいただきありがとうございました。

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