鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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プロローグ中編です


【中】

 夜明け間際、昇ってくる朝日をバックに海上を滑るように進む六人の人型をしたシルエット。逆光ではっきりとは見えないが、服装や髪形から十代前半くらいの女の子だろうと推測された。

 

 その後シーンが変わると、遠景でこれまた細かいところまでは見えないようになっているが、訓練だろうか的に向かって手に持った砲塔らしきもので砲撃をする姿や、足や腰に装着されている発射管から魚雷と思われる細長いものを撃つシーンなどが映し出されていた。

 

 その後、最後にまた朝日をバックにした航行シーンに戻って動画は終わるのだが、その暁の水平線を進む姿は神々しくさえ感じられた。

 

 そんな動画が世間を大きくにぎわせたしばらく後、別の動画が今度は政府から公式動画として公開された。

 

 その動画には総理大臣、防衛大臣と並ぶ様々なデザインのセーラー服を身にまとった女の子が六人。後に『始まりの六人』と呼ばれることとなる彼女たちは、最初の動画のような武装こそしていないが、あそこに映っていた女の子たちであろうことは容易に想像がついた。そして、そこで語られた内容は今でもはっきり覚えている。

 

 最初の自己紹介からして衝撃的だった。

 

 初めに総理大臣が演説と説明をした後で彼女たちに自己紹介を促した。そして彼女たちが口したのはかつての第二次世界大戦時の大日本帝国海軍の艦艇の生まれ変わりであり、それぞれ駆逐艦『吹雪』『叢雲』『漣』『電』『五月雨』と軽巡洋艦『大淀』であるという事だった。

 

 そして、その内容に会見場が静まり返る中、軽巡洋艦『大淀』と名乗った六人の中でも背の高い女の子が代表して話し出す。

 

「私たちは『艦娘』と呼ばれる存在であり、かつての大戦で国のために戦った英霊たちの想いが形となり、当時の軍艦の力を持って現れたものです。あの戦争に関しては多くの議論があるかと思いますが、今私たちを形作っているのは、ただただ純粋な『日本と、そこに住む人々を守りたい』という想いだけです。まず、そのことをご理解いただきたいと思います」

 

 そこで、一度お辞儀をすると一斉にフラッシュが焚かれた。彼女は顔を上げて、目の前に置かれていたコップを手に取り、口を潤すようにゆっくりと水を飲むと、言葉を続ける。

 

「私達には『艤装』と呼ばれる装備を使って深海棲艦と戦う力があります。通常兵器の効果がない深海棲艦に対して、現状唯一対抗できる力です。ただ……先ほど御覧になったように私たちも水を飲み、食べ物を食べ……生きています。なので、様々なご意見はあろうかと思いますが、どうか皆さんと共にこの日本を守る仲間として、私たちと今後増えるであろう艦娘たちを受け入れていただきたいと思います。それが私たちの願いであり、私たちを形作る英霊たちの想いです……そしていつか、平和になった時は皆さんと一緒に……そうですね、桜の下でお花見でもしたいですね……」

 

 実は料理もそこそこできるんですよ。そう言って笑顔で締めくくった彼女は、割れんばかりの拍手を受けて一歩下がると、そこに並んでいた他の『艦娘』たちと一緒に敬礼をして、総理大臣に先導されながら会場を後にした。

 

 その後防衛大臣が引き継ぎいくつかの質問を受けて会見は終了したのだが、正直会見場がしっちゃかめっちゃかになっててまともな会見の体を成していなかったように思う。

 

 その後は当然ながらネットは祭りになり、新聞各社は号外を出し、TV各局も緊急特番で一色だった。そして、この会見によって一部軍国主義の再来だという声もあったが、そういう声もやがて小さくなり、世論は全力で『艦娘』を応援するという方向へと収束していった。

 

「あー、その最初の動画なんだけどね……実は彼女たちの発案で作って、防衛省が拡散させたのよ。どうやったら国民に受け入れられるか彼女たちなりに考えてね」

 

「え!?そうなの?確かにやけに構図にこだわったというか、PVっぽさがあるなとは思っていたし、その辺は話題にもなったんだよ。一介の自衛官が隠れて撮って拡散したにしてはできすぎてるってね」

 

 もしかしたら彼女たちのいる基地がある程度噛んでいるんじゃないかという推測は出ていたが、まさか軍そのものだったとは。しかも本人たちが発案だったなんて……まさに、狙い通りじゃないか。それにそう考えると、心なしか映りを意識してたようにも感じられたのが納得できた。

 

 島に戻ると彼女たちを相手にするということらしいのだが、まだ実際に会ったこともないのでどんな子達なのか少しばかり不安っちゃ不安だな……と伝えると、さくらがニヤニヤと気持ち悪い笑いを浮かべている。

 

「なんだよ、その顔。気持ち悪いな」

 

「いやー、『どんな子なのか』って言ってたからね。ちゃんと一人の女の子としてみてくれているんだなーって嬉しくなっちゃってさ」

 

「まぁ……な。というか、みんなそう思ってると思うんだけど」

 

 俺が照れくささから、若干早口でそういうとさくらは少し表情を曇らせて言った。

 

「んー、ほとんどの人はそうなんだけどね……中には彼女たちをただの兵器としか見てないような輩もいるのよ。悲しいことにね……ただ、そういう連中は度が過ぎると処罰対象になるし、そういう考えを払拭するための今回の試験鎮守府でもあるんだけど」

 

 そうだった、話があちこちに飛びがちだけどその話をしてたんだよ。

 

「それそれ、結局のところどういう事をするところなんだ?『艦娘との共存』って言ってたけど、具体的には?」

 

「えっと、あれから彼女たちの人数も増えたり、ある程度情報も公開されたりして国民の認知度も上がってきてると思うんだけど、国民と艦娘の相互理解を深めるためのテストケースとして、島を丸ごと使って自由に交流ができる街を作ろうって計画なのよ。で、ちょうどいい島出身者の私が責任者をすることになったってわけ」

 

 なるほどね。それで、協力者として元島民たちに声を掛けてるってわけだ。いろいろと条件や制約はかかるが島に戻りたいって人は多いだろうし、インフラも残ってるから街も作りやすいか。

 

 加えて、この島で行われる様々な施策を既存の鎮守府にも波及させその周辺の町でも積極的な交流を始めるそうだ。

 

「今回の計画のキモは彼女たちが生活する様子を多くの一般の人たちに見てもらって、彼女たちが普通の女の子だって知ってもらう事よ、まずはウチの島で次に既存の鎮守府。いずれ国内全体と、段階的にお互いを知って『共存』の下地を作れればってね」

 

「オーケー、目的とか意義みたいなものはわかった。俺も全面的に協力しよう。だが、これだけは聞かせてくれ……『安全』なんだよな」

 

「うん、そこは気になるよね。地理的には最前線だし、絶対安全とは言えないけれども、少なくとも危険度としては本土と大して変わらないわ。きちんとした鎮守府の施設を作ってある程度の練度の艦娘たちも配備される予定だから、もし深海棲艦が攻めてきても周辺の安全はなんとしても確保するわ。それに、接続水域内だったらほとんど危険は無いって事も最近分かってきたしね。EEZ内でも『はぐれ』みたいなのはいるけどきちんと艦娘の護衛をつければ問題ないし」

 

 それは大丈夫なのか?とも思ったが、どうやら接続水域内であれば民間船もほぼほぼ安全に航行できることが最近分かって、単独で漁などに出ても大丈夫らしい。もちろん近くの鎮守府が定期的に哨戒と掃討を行っていることが前提だということだが……

 

「それじゃ、納得してもらえたところで具体的な話に行きたいんだけど、その前にこの子を紹介しておくわね」

 

 ここまで結構長いこと話を進めてきたが、さくらの横に座ってにこにことかわいらしい笑みを浮かべたまま会話を見守っていた女の子、気になってたんだよね。

 


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