鎮守府島の喫茶店   作:ある介

20 / 121
七皿目:一人と一人1

 結局昨日は彼女たち以外の艦娘は来なかったが、夕方になって農場で働いているという研究者さんたちがやってきていろいろと話をしていった。納品してくれている野菜の感想や、今後作ることになるであろう品物の話、そこから広がる料理の話などいろいろ盛り上がってしまい、結局店を閉めてからも色々食べながら話し込んでしまった。

 

 そして、最後にいくつかの材料を置いていったんだけど、これはそのうち作ろうか。しばらく作ってなかったから練習も必要だしね。

 

 そして一夜明けて、今日も今日とて開店準備の最中だ。もう間もなく開店時間でもあるので川内は店内を、俺は店の前を掃除している。

 

 さっきちょうど暁ちゃんたちが鎮守府に出勤だったようで元気に挨拶して通っていった。その姿を見送りそろそろ開店かなと思っていると、何やら市街地の方からすごい勢いで接近して来るものが見えた。

 

 なんだろうとしばらく見ていると、どうやら誰かが走ってきているようだ。そのスピードから艦娘の子なんだろうなと思っていると、どんどんその姿が大きくなってはっきりと見えて来る。

 

 大きなうさ耳のようなカチューシャをつけて、ノースリーブのセーラー服。そしてスカートと言えるのかどうかも怪しい短さのスカートをはいた金髪の女の子が両手を大きく広げて、さながら某眼鏡のロボット娘のように走ってきた。なんというかコメントに困るというか、変わったかっこの子も居るんだな……

 

 間もなくうちの店の前に着くと、砂埃を上げながら急停止した。

 

「とうちゃーく!にひひ、速いでしょ」

 

「お、おう。速いな」

 

「だって島風だもん!……あっ、駆逐艦島風です。スピードならだれにも負けません。速きこと、島風の如し。です!」

 

「島風ちゃんね。俺はここの店長だ、よろしくね。今日は一人で来たのかい?まだ、ちょっと早いけど」

 

「んーん、もう一人いるんだけど……」

 

 そこまで言って自分が来た方を見る。俺もつられて見てみれば、またひとり女の子がこっちに走ってきている。島風ちゃんは「おっそーいー!」なんて言ってるけど、俺みたいな一般人からしたら彼女も十分早いと思うんだけど。

 

 緑の大きなリボンで髪をまとめ、胸元にもオレンジのリボン。ちらりと覗くおへそが眩しい女の子だ。島風ちゃんよりもちょっと年上だろうか?そんな彼女もほどなく店の前に着いた。

 

「もう、島風置いてかないでよー。艤装がなくてもあなたとは速力の差があるんだから」

 

 島風ちゃんといいこの子といい、あれだけのスピードで走ってきた割に息を切らしていないのはやはり艦娘の身体能力のなせる業なのだろうかと感心して二人を見ていると、そんな俺に気づいて、彼女は慌てて居住まいを正す。

 

「ご、ごめんなさい。兵装実験軽巡、夕張、到着いたしました……って、まだ開店前でしたか?」

 

「いや、もうすぐ開店だから大丈夫。さぁどうぞ」

 

 そう言って扉を開けながら二人を店内へと促す。

 

 それにしても夕張か……その衣装の色使いはやっぱり……メロン?なんてくだらないことを考えながら席に着く彼女を見てたら、視線に気づいたのかこちらを見て首をかしげる。

 

「どうされました?マスターさん」

 

「あ、いや、なんでもないよ。さて、さっそくだけど注文はどうする?一応メニューはあるけど、それ以外でも作れるものはあるから相談してくれ」

 

 そう言ってメニューを渡す。危ない危ない、あんまり不躾に見てたらだめだな。

 

 接客を川内に任せ、カウンターに引っ込むとすぐに声がかかる。

 

「てんちょー!この中ですぐに食べられるものがいい!」

 

「はい、かしこまりました、夕張ちゃんは?」

 

「お蕎麦……は無いですよね」

 

 蕎麦か……昨日の研究者さんからの土産の中にそば粉もあったけど……ちょっと一回打って感覚を取り戻さないと、まだお客さんには出せないかな。

 

「ごめんね、お蕎麦はまだやってないんだ。あー、でもそば粉はあるからそれを使った料理なら出せるよ」

 

「そうですか、残念です。でもそば粉を使った他の料理っていうのも気になるので、それをお願いできますか?」

 

「かしこまりました、少々お待ちくださいね」

 

 二人とも注文を終えて、話に花を咲かせている。どうやらこの後午後から鎮守府に行くようで、今日の任務の内容を確認しているようだ。その前にうちで早めのランチという事らしい。

 

 という訳で川内に指示を出しながらさっそく作り始める。まずは夕張ちゃんのそば粉を使った一品、ガレットから作ろう。

 

 初めにそば粉・水・卵・塩を混ぜて生地を作る。本来はこの後数時間寝かせたほうが生地がなじんで滑らかになるのだが、このままでも焼けるので今日はこのままで。

 

 熱したフライパンに油を引いて馴染ませたら、生地を丸く広げながら引いていく。表面がふつふつしてきたところで中央に卵を割り、周りにハム・チーズを並べる。生地の裏に良い感じで焼き色が付いて、白身がある程度固まったら具を覆うように生地を四角に折りたたんで完成。

 

 皿に盛ってベビーリーフを乗せてオリーブオイル・塩コショウをかけて仕上げるのを川内に任せている間に、島風ちゃんのもう一品。

 

 フライパンにオリーブオイル・粗みじんにしたニンニクと鷹の爪・拍子木切りにしたベーコンを入れて熱していく。ニンニクが軽く色づき、ベーコンにも焦げ目がついたところで、並行して茹でておいたパスタを投入。さらにゆで汁を加えて、フライパンを軽く煽りながら一つに纏めていけば、パスタアーリオ・オリオ・ペペロンチーノの完成だ。

 

 川内にはこの二つを先に持って行ってもらって、俺はもうひとつ……とあるドリンクを作ってから後を追う。さて、おいしくできたと思うんだけど、反応はどうだろう。

 

「はい、二人ともお待たせ―。夕張さんにはこれ、そば粉のガレット。島風にはペペロンチーノよ」

 

「待ってましたー!いっただっきまーす」

 

「いや、島風あんた手つけるの早すぎでしょ……まぁ、いいか。おいしそう、いただきます」

 

 俺がカウンターに行くと二人はさっそく食べ始めているところだった。

 




島風のあの格好は実際目の前に現れたら
ちょっとどうかと思う。

お読みいただきありがとうございました

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。