「あ、マスターさんいただいてます。そば粉にこんな使い方があったなんて知りませんでした。この半熟の黄身と溶けたチーズと絡めると……最高ですね!」
「はは、良かった。ほかにもいろんな具を使って作れるから、言ってくれればまた作るよ」
夕張ちゃんとそんな話をしている横で、島風ちゃんは黙々とパスタを巻いては食べ、巻いては食べと続けている。するとそんな彼女を見る俺の視線に気づいたのかこちらを見て、口を……
「ふぇんひょー!ふぉえもいふぃー!」
……開こうとしたけど、言葉になってなかった。多分おいしいって言ってくれたんだろうけど、食べるかしゃべるかどっちかにしようね。
周りの三人に一斉にたしなめられた彼女は首を縦に振ると、パスタを巻く作業に戻った。食べる方に集中するみたいだ。
「んー、でも店長、こんな時間からニンニク料理ってちょっと女の子にはきつくない?」
不意に川内から掛けられる疑問の声。それに応えるべく取り出したのは、さっき最後に作ったドリンクだ。まずはお客さんの二人の前に出した後、川内にもグラスに入れて差し出す。
「なーにー?……あ、おいしい。リンゴジュース?」
「そ、りんごとレモン汁、蜂蜜で作った搾りたてのリンゴジュースだよ」
首をかしげながら一口飲んで答えを出した川内になんでリンゴかを説明する。ほかの二人も「どゆこと?」って顔でコッチ見てるしね。
ニンニクのにおいの元がどういう物かってのは、栄養学とかそういう話になって面倒だから割愛するとして、このにおいを消す方法にはいくつかあってそのうちの一つにリンゴがあるんだ。リンゴに含まれる酵素が胃の中で発生するニンニク臭を和らげるってわけだ。で、変色防止に入れたレモン汁でプラスされた酸味が口の中もスッキリさせてくれる。
食事と一緒に緑茶を飲むのも効果があるんだけど、こんな洋風全開の料理に緑茶っていうのもどうかと思うし、リンゴジュースにしてみた。
「へー、なるほどね。まぁその当人はあんまり気にしてないみたいだけど」
苦笑いの川内の言葉に島風ちゃんの方を見てみれば、パスタはすでに食べ終えて満足そうな顔でストローをすすっているところだった。
「あんた、せっかく説明してくれたのに途中から聞いてなかったでしょ」
「んー?そんなことないよ。匂いが減るんでしょ?あんまり気にしてないけどね」
あんたねー……とあきれ顔の夕張ちゃんをよそに島風ちゃんは言い放つ。
「別にいーじゃん。だって、おいしいもん!」
「ははは、そうか。おいしけりゃ別にいいか。よし、もう一杯飲むか?」
彼女が自信満々に言い放ったその言葉に、嬉しくなって空いたグラスにリンゴジュースを再び注ぐ。
「ただ、作って出した俺が言うのもなんだけど、もうちょい気にしてもいいんじゃないか?女の子だし」
なんか隣から「おまいうってやつだね」なんて声が聞こえてくるが、わかってるっての。だからこうしてフォローしてるんじゃないか。
そんな感じでひといじりされた後、話題を変えながら談笑を続ける。
「そういえば、二人は姉妹艦っていうのはいないのかい?」
そんな会話の中でふと気になって投げた話題に一瞬空気が変わる。川内の思わず漏れただろう「あっ」という声に、俺もちょっと不味ったかなと思った所で、夕張ちゃんがちょっと寂しそうに話し始める。
「私たちは二人とも特殊な設計思想で作られたコンセプト艦で、姉妹艦と呼べるような艦はいなかったんです」
そうだったのか、ちょっと悪いこと聞いちゃったかな。
謝った方が良いのかと口を開こうとしたときに、遮るように夕張ちゃんが続ける。
「あっ、でもいいんです。そりゃ他の子達が姉妹仲良くしてるのを見るとたまにちょっぴり寂しくなりますけど、今となってはほかの子と違うことができるっていうのは私の自慢でもあり、誇りでもあるんですよ。それに、鎮守府のみんなは姉妹艦とか関係なくみんな家族みたいなものですし。この子も居ますしね。ねぇ、島風」
「うん、夕張は寂しがりやだもんね。私がいなくちゃ。にひひっ」
「な、なに言ってんのよこの子は!そんなことないんだからー」
そう言って島風ちゃんの頭をぐしぐしとちょっと乱暴に撫でる夕張ちゃんと、「やーめーてーよー」なんて言いながらも嬉しそうな島風ちゃん。
その二人の様子は姉妹というよりは気の置けない親友のようであり、実際そういう感じなんだろう。その後も二人の仲のいいエピソードをいろいろと聞かせてもらった。
この島で建造されたばかりの島風ちゃんとのやり取りや、訓練前のジョギングではいつも夕張ちゃんが置いて行かれてることなど、やいのやいの言い合いながら楽しそうに話してくれた。
そんな楽しい話しのあれこれも、ほかのお客さんがちらほら来店し始めたことで終わり、俺も注文を捌くのに厨房に戻ることにする。
「じゃぁ、マスターさん。また来ますね」
「てんちょー、またね!」
「はい、ありがとうございました。今度は蕎麦用意しとくからな」
そう言って、会計を川内に任せて俺は厨房に向かう。すると程なく川内がニコニコしながら戻ってきた。
「どうした?なんか嬉しそうだね」
「んー、あの二人が楽しそうにしてたからねー。さ、それよりまた注文はいったよー、お仕事お仕事っ!」
彼女は注文が書かれた伝票を置くと、笑顔でお皿のスタンバイをはじめた。
というわけで、七皿目仲良し二人組のお話でした
今日はこのあと箸休めを投稿いたします、ご注意ください
お読みいただきありがとうございました