鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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本日二つ目の投稿です
これの前に七皿目その2を投稿してるのでご注意ください

今回のお話は流れ的に八皿目に組み込んでもよかったのですが
主人公のいない場面で三人称視点ということで箸休め扱いにしました

それではどうぞー


箸休め3:釣りの朝

「おっちゃーん!どや?つれとる?」

 

「嬢ちゃんか、早いな。なんだ、こういう時はぼちぼちでんなーって言えばいいのか?」

 

「それはそれでベタな返しやな……」

 

 早朝の堤防に二人の笑い声が響き渡る。

 

 ここは鎮守府から少し離れたところにある防波堤の一つ。岩場が近くにあるせいか船の往来の激しい鎮守府の近くにありながらも航路からは外れており、様々な魚が集まる穴場の釣りスポットである。

 

「今日はどうした?こんなに早い時間にこんなところに」

 

「今日休みやねんけど、早く起きてもーて……ちょっと散歩にな。にしても、その『嬢ちゃん』って呼び方何とかならんの?なんやこしょばいわぁ」

 

「でも嬢ちゃんの名前は『龍驤』だろ?なら嬢ちゃんでいいじゃねえか」

 

 何度言っても改めてくれない呼び方に「もうええわ」とため息をつきながら、龍驤は自衛官の脇に置いてあるクーラーボックスをのぞき込む。

 

「ほー、ようさん釣れたなー。これって鯵か?」

 

「ああ。ほら、あそこに岩場が見えるだろ?あれがこの辺の海底にもあってな。『根』つって魚が集まりやすくなってんだ。で、この鯵はその根に住み着いてる所謂『根つきの鯵』ってやつだ。それをサビキでちょちょいっとな。カタは小さいが、脂がのっててうまいぞ」

 

 そう話す間にも、上げた竿先から伸びる仕掛けには三匹の鯵が付いていた。それを慣れた手つきで針から外し、ナイフで締め、クーラーボックス……ではなく、バケツの中に入れていく。

 

「あれ?こっちに入れへんの?」

 

「ん?あぁ、こいつらはアシが早いからな。こうやって刃を入れた後しばらく海水に漬けて血抜きすんのさ……」

 

 龍驤からの質問に答えながら、その自衛官はテキパキと釣り道具を片付けていく。

 

「さて、そろそろ戻らないと遅刻しちまうな……そうだ嬢ちゃん、今日こいつを持って例の店に行こうと思うんだが、嬢ちゃんもどうだい?結構釣れたからな、ほかに一人二人くらい連れてきても構わんぞ?」

 

「ほんまに?ありがとう!早起きは三文の徳ってやっちゃな。確か今日は赤城が非番やったはずやし、声かけてみよか……それにしてもおっちゃんも仕事前に釣りなんて、ほんまに好きなんやなぁ」

 

 そんな軽く呆れたような龍驤の言葉に、彼は「まあなー」と照れたように頭を掻きながら今の話に出た艦娘を思い浮かべた。

 

「あー赤城っつーとよく食うって噂のあの子か。まぁ、こんだけありゃだいじょぶだろ。他のもんも頼むしな」

 

「あははー。大型艦が元になってる子らはしゃあないな」

 

 艦娘たちの間では、戦艦や正規空母の健啖家ぶりはもはや常識だが、自衛軍の中でも話題になっていることに龍驤は少し呆れながらも一応フォローはしておくようだ。

 

「いやいや、君らは体張ってこの国を守ってくれてるんだ、食事くらい遠慮せず食べてくれよ……とりあえず、店の方には話しとくから時間が決まったら連絡するよ。鎮守府の方に行けばいいかな?」

 

 国を守るという自衛官の言葉に少ししんみりした空気が流れそうになったが、それを打ち消すように龍驤が声を上げる

 

「そうや!そしたら、この子預けとくわ!」

 

 そう言ってごそごそとポケットを漁って龍驤が取り出したのは一枚の紙人形。それを左手の掌に置き、右手の人差し指を立てて軽く念じると人差し指に『勅令』と書かれた青白い人魂のようなものが浮かび上がる。きちんと発動しているのを確認して軽く微笑んだ龍驤は、その人差し指で左手の紙人形を撫でた。

 

 その瞬間紙人形はボウッと青白い炎に包まれて燃え上がり、そばで見ていた自衛官も「うおっ」と思わずのけぞってしまう。そして龍驤の左手に残ったのは、一機の飛行機とその上にちょこんとのる小さな人形のような女の子だった。

 

「いやー、遠くからは見たことあったけど、近くで見るとなおさら魔法みたいだねぇ。それにその子、妖精さんだったかな?施設でもたまに見かけるけど、不思議なもんだ」

 

 自分のことを話しているのがわかり、敬礼を返す妖精さん。さらに、その妖精がぽんぽんと機体を叩くと機体はどこかに消えてしまった。

 

「ふっふーん。どーお?この子は彩雲。この子に言ってくれればウチのとこまで戻ってきて知らせてくれるっちゅうわけや。って言うても今の召喚はちょっち演出したんやけどな」

 

 彩雲と呼ばれた妖精を自衛官に手渡しながら、龍驤はそう説明する。受け取った自衛官も「よろしくな」と言いながら肩に乗せて頭を撫でる。

 

 彼も妖精自体を見るのは初めてではないし、鎮守府の各施設にも少なくない数の妖精がおり、交流もあるため慣れたものだ。

 

 そうして彼ら二人と一機……いや三人はわいわい話しながら鎮守府へと戻っていった。

 

 その日の午後。龍驤は赤城と一緒に鎮守府にある休憩スペースに来ていた。

 

 二人とも非番とは言え、この鎮守府ではまだ所属している艦娘が少ない上に、立ち上げの核としてここに来ているためやることも多い。今後増えるであろう艦娘たちの訓練計画や、まだ足りていない物資や施設の改善要望のまとめなど普段なかなかできない書類仕事をこうして休日を使って片付けたりしていて、今はその休憩という訳だ。

 

 秀人が聞けば「鎮守府はブラックなのか?」と唖然としそうであるが、とはいえ特にノルマがあるわけでもなく、ほかにやることもないので本人たちも休日の暇つぶし代わりに、のんびりやっているというのが実情だ。

 

 もっともいずれ人数に余裕も出てくれば、何か趣味を持ちたいと彼女たちは考えているようだが。

 

 そんな二人の元に一機の飛行機が飛んできた。今朝龍驤が自衛官に渡した『彩雲』だ。

 

「おっ、来た来た」

 

「なんです?龍驤さん。彩雲?」

 

 二人の前のテーブルに着陸した彩雲を見て、赤城が疑問を投げる。

 

「せや、実は今朝、例の釣り好きのおっちゃんに会うてな……」

 

 龍驤は彩雲を手に乗せ、報告を聞きながら赤城に今朝のことを話し始める。

 

「……っちゅーわけで、赤城もどうや?今日は加賀帰り遅いんやろ?」

 

「いいんですか!?ぜひ!実は加賀さんから話を聞いてうらやましく思っていたんです!あの人はじめは『赤城さんと一緒に行きたいものです』とか言っておきながら長門さんと先に行っちゃうし、それを言ったら『仕事の一環でしたので』とかしれっと言ってくるし……そのくせ自慢するように……あれはわかってやってましたね、絶対」

 

 龍驤の誘いに思わずといった感じで愚痴りだす赤城。龍驤も宥めながら、加賀にも意外とお茶目というか黒い部分があったことに苦笑いをこぼす。

 

「それならちょうどよかったな。今度は赤城が自慢したりぃ……っで、時間なんやけど、店長はんからは閉店後でどうかって。せっかくだからいろいろ気にせず作りたいし、食べてもらいたいって事らしいで」

 

「あー、楽しみですね!どんなお料理が食べられるのでしょうか」

 

 その後仕事に戻った二人だったが、夕食が楽しみすぎて気合の入りすぎた赤城の手によって、かなり早めに終わったせいで『おあずけ』の時間を紛らわすのに苦慮したとかしなかったとか……

 




龍驤の関西弁は大目に見てもらえると助かります……
根っからの関東人なので堪忍してつかぁさい

艦載機の補足として、空母たちは飛ばすだけなら艤装が無くても
矢やヒトガタなど、元になる物があればできますが
艦載機との通信は艤装がないとできません……という設定です
そして艦娘以外に妖精さんの声を聞こえるようにするかどうかは
まだちょっと考え中です

という訳で次回はこの二人が来店します
お読みいただきありがとうございました

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