鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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昨日の箸休めで出たように今日は
あの二人が鯵を食べまくる前編です




八皿目:鯵と赤城と龍驤と1

「おっさかながー、つれましたー、さんまいにー、ふふふふんふふーんっと」

 

「……店長……なにそれ、歌?」

 

「え?あぁ、昔どっかで聞いた歌なんだけど、魚をおろしてるとつい頭に浮かんじゃうんだよね」

 

 鼻歌交じりに鯵をおろしていたら、川内に冷たい目で突っ込まれてしまった。確かラのつく……

 

 と、それは置いておいて、今俺は、今日のランチタイムに例の自衛官のおっちゃんが持ってきた鯵をおろしている。今朝釣りあげたもので、これでいろいろ作ってほしいという事だった。夕方以降艦娘も連れて来たいが、何時が良いか?という事なので、俺も久しぶりの新鮮な魚でいろいろ作りたかったので、どうせなら閉店後にでも時間を気にせずやろうということになった。

 

 そして今、閉店までにはまだ時間があるが、お客さんももう食後でのんびりしていて会計を待つのみということもあって、下ごしらえをしているという訳だ。

 

 しばらくすると厨房の出口のところからホールの様子をうかがっていた川内が、お客さんに呼ばれて出ていった。

 

「店長、最後のお客さんが帰ったよー。外の看板も下げてきたし、何か手伝おうか?」

 

 ホールに行った川内が、そう言いながら戻ってくる。それじゃあ川内にも手伝ってもらおうか。

 

「おう、ありがとう。川内は魚を捌いたことは?」

 

「残念ながら無いかなー」

 

 ふむ、となると簡単なものが良いか。そう考えながら、分けてあった小鯵を冷蔵庫から出す。『ジンタ』というには大きいが、刺身にするには小さいサイズのこいつの処理をお願いしようか。

 

「じゃあ、これのエラとワタを取ってもらおうかな」

 

 そう言って、やり方の説明を始める。このサイズなら包丁を使わなくても簡単にできるからな。

 

 左手で鰓ブタの後ろくらいを持って、右手で鰓と胸鰭、その下の骨のある所をつまんで下に引っ張れば、鰓から内臓まで一気に取れる。その後残った血をきれいに流して水気を取ればオーケーだ。

 

「おー、簡単だぁ。面白いねこれ」

 

 川内もすぐにコツをつかんだようで、楽しそうにやっている。あまり数は多くないけど、これは南蛮漬けにしよう。

 

 こっちの下ごしらえも終わったところで、川内から鯵を受け取る。水気がないのを確認して、小麦粉をまぶし油で揚げる。その間に酢・砂糖・しょうゆでつけダレを作り、そこに薄切りにした玉ねぎ・ピーマンと輪切りにした鷹の爪を入れたバットを用意しておく。170℃で約10分揚げた鯵の油をきって、つけダレに漬けて冷蔵庫に入れ、味を馴染ませて完成だ。

 

 そうこうしていると店の方から扉を開ける音が聞こえて来る。おっ、来たかな。

 

「おーぅ、兄ちゃんきたぞー」

 

「いらっしゃい。待ってましたよ」

 

「あぁ、これは土産だ。ウチの地元の酒蔵で作ってる酒でな、魚にはこれが一番なんだよ」

 

 入ってきたのは、約束していたおっちゃんと二人の艦娘らしき女の子。さらに自衛官さんはお土産にと日本酒を持ってきてくれた。

 

 酒と言えば、例の侵攻以降荒れに荒れた業界の一つであるが、せっかく良い酒を持ってきてくれたんだ、今は忘れよう。持ってきてくれた銘柄を見れば、知る人ぞ知る酒蔵の名酒だった。これは合わせるアテを作るのも気合が入るってもんだ。

 

「さぁ、どうぞお好きな席に。そっちのお二人さんも。あぁ、聞いてると思うが、俺はここの店長やってる田所だ。よろしくな」

 

 彼らを席に案内しながら、軽く挨拶をしておく。すると艦娘の二人もそれぞれ自己紹介をしてくれた。

 

「ウチは軽空母、龍驤や。よろしゅうな」

 

「正規空母、赤城です。加賀さんからお話は伺っています。こちらのお店に来られるのを楽しみにしていました」

 

「ってことで、今日の払いは俺が持つからこいつらに腹いっぱい食わせてやってくれ。こう見えて結構食うからな」

 

「わかりました、頑張らせてもらいます。とりあえずすぐにつまめるものでもいくつか出すので、お待ちください」

 

 ちょうど川内がお冷とおしぼりを持ってきてくれたので、後を任せて厨房に戻ってつまみになりそうなものを持ってこよう。

 

 ついでに、預かった日本酒を徳利に移そう。この酒は確かスッキリした飲み口で香りも控えめだったはずだから、冷が良いだろう。ということで、清涼感のあるデザインの徳利に移し、氷を入れた桶にお猪口と一緒に入れて持って行く。つまみはさっき仕上げておいた鯵の南蛮漬けと、塩もみして千切りにした生姜と一緒に出汁にしばらく漬け込んだ胡瓜だ。

 

「はい、お待たせしました。まずは小鯵の南蛮漬けです、頭から丸ごとどうぞ。あと、こいつは冷でよかったですかね?」

 

「あぁ、さすがわかってるねぇ。この酒は冷たいほうが旨いからな、あっためると香りが飛んじまう。どうだ?兄ちゃんも一杯」

 

「ありがとうございます。じゃあ一杯だけ……どうも……っはぁ、うまい」

 

 さっぱりした飲み口と鼻に抜けるリンゴのような爽やかな香り。さすがいい酒だな……これならこの後の料理にも間違いなく合うだろう。

 

「うん、うまい……それに、この南蛮漬けにもよく合うな」

 

「はい、さっぱりとした味付けと良く合って、これは箸が進みますね」

 

 出だしは好調のようだ。さて、次の料理に取り掛かろう。

 

 お次は鯵料理の定番の一つ、なめろうだ。まずは三枚におろして小骨・皮を取った鯵を叩いていく。ある程度叩いたところでみじん切りにした生姜・ねぎ・大葉を加えてさらに叩く。ムラなく混ざったらこれを三つに分ける。今日は量が多いので、これをベースに三種類作ろう。

 

 まず一つ目は味噌と醤油で味をつけたベーシックなタイプ。もう一つは同じように味をつけた後フライパンで焼いた所謂サンガ焼き。そして最後、味噌と醤油の代わりににんにくのみじん切り・ごま油・塩を使った塩なめろうだ。

 

 そしてさらにもう一品。三枚におろした後の骨を醤油・酒・みりん・生姜に漬け込んだ後、軽く小麦粉をまぶして、二度揚げした骨唐揚げだ。どっちかというと日本酒よりビールに合う感じだが、これがまたハマる。この辺のメニューは居酒屋で修業した甲斐があったってもんだな。

 

「どうぞ、なめろう二種類とサンガ焼き、それと鯵の骨唐揚げです」

 

 先ほどの南蛮漬けは皆すでに食べ終わっていたようで、待ってましたと言わんばかりに一斉に手を伸ばす。

 

「んー、これまた旨いなあ。ウチはこのサンガ焼きちゅうのが好きやわ。表面の香ばしさとほろほろとした食感がええわぁ」

 

「私はこの塩なめろうですね。普通のもいいですが、ごま油とニンニクの風味が食欲をそそります」

 

 おっちゃんは骨唐と日本酒を交互に楽しんでいる。これは聞くまでもないな、まぁ酒飲みの好きな味付けだから気持ちは解るけど。

 

「さて、そろそろガッツリ系も出そうかと思うんだけど、ご飯はどうする?おっちゃんは酒飲むからいいと思うけど、そっちの二人は?」

 

 予想通り、おっちゃんは「俺はこれがあればいい」なんてお猪口を掲げてるけど、二人はご飯も食べるみたいだ。それじゃ、さっそく作ってくるかね。

 




まずはサッパリと南蛮漬けとなめろうです

なめろう美味しいですよね
ご飯に乗せて出汁をかけてお茶漬けなんてのもいいと思います
鯵以外にも秋刀魚やブリで作っても……

明日はご飯と一緒に食べたいアレです
お読みいただきありがとうございました

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