鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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今回から九皿目です

最近誤字が多く、報告をいくつもいただいてしまっています。
この場をお借りして、ご迷惑をおかけしたお詫びと
報告をくださった方々にお礼を申し上げたいと思います。

ありがとうございます


九皿目:二人の大きなお姉さんと一人の真面目な駆逐艦1

 さて、川内も昨日ああ言ってたし、普通に開店するつもりで準備だけはしておこう。

 

 いつも通り、今日使うだろう食材の下ごしらえをしていると、勝手口が開けられて川内とさくらがそろって入ってきた。

 

「おはよう秀人、ちゃんとやってるみたいね」

 

「おう、おはよう。朝一発目のセリフがそれとは……おまえは俺のオカンかなにかか?とりあえず、お茶くらいは出すから店の方に行っててくれ」

 

「はいはーい。んじゃ待ってるから」

 

 そう言って厨房から出ていくさくら。その間川内は挨拶をした後手を洗い、エプロンをつけて手伝う準備をしていた。

 

「ん?川内大丈夫なのか?昨日結構慌ててるようだったから、てっきり今日からしばらく手伝えないものだと思っていたんだけど」

 

「うん、今日は大丈夫。でも、この後提督とも話すと思うけど、明日からはしばらく鎮守府に詰めることになるみたい。集中的に付近の哨戒をすることになったから……手伝えなくてごめんなさい」

 

「何言ってんだ元々そっちが本業だろう。それを無理言って来てもらってるんだ、文句なんかねぇよ。じゃぁ早速あいつに出すお茶の準備してくれるか?俺もすぐ行くからそのまま向こうで待っててくれていいから」

 

 さっきまでの申し訳なさそうな顔から一転、笑顔で元気よく返事をすると彼女はさっそくお茶の準備を始めた。

 

 さて、どうせちゃんと朝飯も食ってないだろうから俺の方でも何か軽く用意するか。簡単にできる物ってことでおにぎりと味噌汁かな。とはいえ、ただの塩むすびじゃ色気が無いからちょっと手を加えよう。

 

 まず取り出したのは大根。根っこの方は細めの短冊に切って味噌汁に、葉っぱの方をおにぎりに使う。

 

 みじん切りにした葉っぱを、ごま油を引いたフライパンで軽く炒めてボウルに移す。そこにちりめんじゃことごはんを入れて混ぜ合わせたらちょっと味見……んー、ちょっと塩を振るか……よし、これを握ってまず一つ。

 

 もう一つは白ごまを混ぜたご飯を握り、味噌を塗って焼いた焼きおにぎりだ。味噌はみりんで軽く伸ばしてちょっと甘めにしてある。これを焼き台でじっくり焼いていけば香ばしいなんとも言えない香りが広がる。両面に焦げ目がついたら完成だ。

 

「おまたせ、はいこれ。どうせ飯食ってないんだろ?あんまり時間ないかもしれないけど、とりあえず話は食べてからにしよう」

 

「さっすが秀人気が利くわね。まぁ、時間なくなるほど切羽詰まってるわけじゃないけど、ありがたいわ。んじゃさっそく……」

 

「私もいただきまーす」

 

 二人そろって揉み手をするようにおしぼりで手を拭きながらそう言うと、思い思いにおにぎりを手に取って頬張る。

 

 んじゃ、俺は焼きおにぎりからいこうかな……うん、良い感じだ。外はカリカリ中はふんわり、ごまの香りもいいアクセントになっている。

 

「あーやっぱりいいわね、こういうの。なんていうかお母さんを思い出すっていうか、実家に帰ってきたっていうか……ほんと、秀人をこの島に呼んでよかったわ」

 

 おい、お前のおふくろさん、朝はパン派だっただろうが幼馴染よ。いや、言わんとしていることはわかるんだけどね、所謂『おふくろの味』ってやつだろう。

 

「そうだねー。いいよねーこういうのってさ。簡単そうだし今度私も同じ家の子に作ってあげようかな。今まで作ったのなんて塩むすびか、適当に具を入れたくらいよ」

 

 それでも十分だとは思うけど。まぁせっかくだから、ぜひ作ってあげるといいよ。他にもいろいろおにぎりレシピはあるし、好みに応じて教えてあげよう。

 

 そんな感じで間もなくおにぎりも食べ終わり、ちょっと一息ついたところでさくらが今回の件の説明を始めた。

 

「じゃぁ、さっそく昨日の呼び出しのことと、今後の話をしようかしら。っても、そんなに深刻になる必要はないんだけど……まず昨日の夜、本土に行って仕事をしていた二人の艦娘が帰ってきたんだけど、そもそも夜間航行はこちらの指示か、よっぽどのことがない限りしないように言っているの。これはいくら高練度艦でも、暗闇からの攻撃では大きな被害を受けることがあるからよ」

 

「ってことは、そのよっぽどのことがあったってことか?」

 

「まぁね。本当だったら彼女たちは日が落ちる前に帰ってくる予定だったんだけど、こちらに向かう途中で戦闘があったらしくてね。敵ははぐれ駆逐艦で、戦闘自体はすぐに終わったらしいんだけど、そのあといろいろあって……」

 

「ってちょっとまてまて、さっきから普通に話してるけどそれって軍事機密ってやつじゃないのか?」

 

 俺みたいな一般人にそう易々と話すような内容じゃないだろう。一部とはいえ作戦行動だし、なにやら段々と詳しい話しになっていっているし……勘弁してほしいのだが。

 

「そうなんだけどあんたなら信用できるし、川内のこととかこの後の話にも関わってくるしね。ま、全部が全部話してるわけじゃないし、一応それなりの権限持ってるから……それで、その戦闘終了後に一人の艦娘が発見されたの……理由は色々説があって定かじゃないけど、私たちの間じゃ『ドロップ』って言われて、深海棲艦との戦闘後に艦娘が発見されることがあって……それよ」

 

 ほらみろ、お構いなしで喋りやがって。信用されてるのは嬉しいし、別に喋るつもりもないけど、戦闘後に艦娘が発見されるとか、むしろお前の方が守秘義務違反とかに問われたりしないのか?

 

「で、割と近海でそんなことがあったもんだから、しばらく集中的に哨戒を行うことにしたの。間もなく鎮守府祭もあるし、無事に成功させたいからね。その一つの部隊を川内に率いてもらいたいから、手伝いには寄こせなくなるわ。ごめんね」

 

「いや、さっき川内にも言ったんだが、そっちが本業なんだから気にしないでくれ。というかこっちは普通に営業して大丈夫なのか?」

 

「ええ、それは大丈夫。この島の生産施設も稼働してるし、本土との輸送にも護衛をつけるから食材も問題ないわ。もちろん、ここの安全もね。むしろ、みんなが一息つけるところとして普段通りの営業をお願いしたいの……それと」

 

 営業するのは構わないし、この島に来ることになった時今回のようなことがあるのも少し聞いてはいたからいいんだけど、まだ何かあるのか?

 

「さっき言った『ドロップ』した艦娘なんだけど、流石に昨日の今日で作戦行動に従事させるわけにはいかないの。おまけに、まだうちは人手不足だから、作戦を行いながら教育や訓練をって訳にもいかなくてね。川内の代わりにここで働かせてほしいのよ」

 

「わかった、いいぞ。まぁ、ここに来たばかりでこの流れだったらちょっと躊躇ったかもしれないけど、川内という前例もいるし、今日まで何人かの子たちと話もして来たし大丈夫だろ」

 

「そう?よかった。もちろん、この店の事とかこの島のこととかは話しておくから。よし、じゃぁ話も済んだしそろそろ鎮守府に戻るわ。今日昼過ぎくらいにその子を連れて何人かで艦娘が来るからよろしくね。その子たちも昨日帰ってきたばかりでゆっくりできなかったから、いっぱい食べさせてあげて。私宛に請求してくれれば払いは持つわ。じゃ、そういうことで」

 

 そう言うや否や、話は済んだとばかりに立ち上がり、川内に一声二声かけると颯爽と店を出ていったさくら。なんか勢いに流された気もするけど、まあいいか。

 

「行っちゃったね……」

 

「あぁ、行ったな。さ、とりあえず開店準備するか」

 

 それまで黙っていた川内がちょっと呆れたようにぽつりとつぶやいたのをきっかけに、開店準備を再開する。

 

 にしても、昼過ぎに来るという子達はどんな子なんだろう?その辺聞いておけば良かったかな……後で川内に聞いてみようか。

 




すみません!
大きな(どこがとは言わない)お姉さんの登場は
次回になります!

そしてさくらが結構機密っぽいことを話してますが
一応問題無い範囲です(一般協力者に対するナントカカントカ)

それでは、また明日いつもの時間に……
お読みいただきありがとうございました

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