鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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今日はいよいよタイトルの子達が登場します





九皿目:二人の大きなお姉さんと一人の真面目な駆逐艦2

「おじゃまいたしますわ」

 

 ランチタイムが過ぎて、落ち着いた頃彼女たちはやってきた。ちなみに今日のランチタイムはさすがに昨日の影響かお客さんは少なかった。

 

 まず入ってきたのはおそろいの青い制服のような恰好をした、ナイスなバディというか、なんともグラマラスな黒髪と金髪のお姉さんが二人。正直目のやり場に困る……

 

 そしてその後ろから少し俯き加減で入ってきたのは薄紫の髪に黒いベスト、白いシャツに赤いリボンタイをした女の子だった。今までの感じからすると駆逐艦娘だろうか?いや、龍驤ちゃんの例もあるし……

 

「こんにちは、いらっしゃい」

 

 益体もないことを考えていてもしょうがないので、ひとまずお出迎えをして店内に促す。

 

「マスターさんこんにちは。高雄型重巡洋艦一番艦、高雄です。提督から聞いていた通り、あなたのような素敵な方がマスターでよかったわ」

 

「私は高雄型重巡洋艦二番艦、愛宕。マスター、覚えてくださいね」

 

 まずはお姉さん二人が笑顔で挨拶してくれた。高雄さんに関しては「素敵な」なんて言ってくれて、思わず照れてしまう。

 

 後ろから川内が背中をつつきながら「店長、デレデレしない」なんて言ってくるけど、こんな美人さんに言われたらしょうがないだろ……何とか普段の表情で挨拶を返せたと思う。返せたはずだ。

 

 すると、そんなお姉さん二人に促されてもう一人の子も自己紹介をしてくれた。

 

「陽炎型駆逐艦二番艦、不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」

 

 うん、真面目というか、硬いというか……先の二人とはいろんな意味で違う感じだ。挨拶から察するに、この子が川内と代わってこれから働く子なんだろう。仲良くできるといいんだけど。

 

「こちらこそよろしくね。まぁ、初めてのことばかりだろうから、気楽にいこう。俺のことはマスターでも店長でも好きに呼んでくれたらいい」

 

 そう言って握手をしようと手を伸ばす。するとおずおずと手を握り、言葉少なにではあるが返事を返してくれた。

 

「はい。それでは店長殿と……」

 

 うーん、怒っているわけではないんだろうけど。慣れてくれればもう少し柔らかくなってくれるかな。

 

 それぞれ自己紹介を済ませたところで席についてもらい、注文を聞くことにする。その際、さくらが払いを持つことを伝えて好きなだけ食べるようにとも伝える。せっかくだから、鎮守府司令官様の懐の深さを見せていただこう。

 

「では、みんなでつつきながら食べられるような料理にいたしましょうか。私たちもお腹すいてますし、がっつりいきたいですわね……マスターさん、中華はできますか?」

 

「あー、ちょっと材料と相談しなきゃならんけど、できますよ」

 

「では中華料理をいくつかお任せでおねがいします」

 

 この中で一番のお姉さんの、高雄さんが代表して注文をする。みんなそれでいいようでそれぞれ頷いているけれど、正直ちょっと意外だった。

 

 もっとこう、お洒落な感じかとも思ったんだけど、まさかガッツリ系中華をご所望とは。さて、何を作ろうか。

 

 店を作った時のさくらの指示なのか、調味料類は和・洋・中関わらず豊富にあるので良いとして、問題は他の食材なんだよな……

 

 魚介系は基本冷凍もので種類も限られてるし、麺は各種パスタとその他数種があるけど、残念ながら中華麺は無い。小麦から作れないこともないけどそんな時間もないし……何より豆腐が無いから麻婆豆腐が作れない。餃子や春巻きの皮もないし、どうしたものか。

 

「てんちょー、愛宕さんから追加注文!あのね……」

 

 とりあえずできる物から手を付けようと思いついたメニューの野菜を切っていたら、川内がホールから戻ってきた。追加注文があるらしいが……ふむ、了解だ。その一品も付け加えよう。

 

 さあ、まずは簡単にできる物から作って、間をつなごうか。中華鍋を熱して鶏ガラスープの素を混ぜた卵液を多めの油でふんわりと半熟のスクランブルにしたら、一度皿に上げる。次に一口大のトマトを炒めて皮がめくれるくらい火が通ったら、さっきの卵を入れて軽く和える。最後に塩コショウで味を整えて、ごま油を少量回しかけて煽ってなじませれば完成だ。簡単にできて、ご飯にも合う。

 

 修業時代にはこれを丼にした賄いが良く出てきたものだ。これと、もう一品もやしの中華風サラダを出して次を待ってもらう。

 

 このサラダも簡単で、レンジにかけたもやしと千切りにしたキュウリ・ハムを醤油・酢・ごま油で和えただけである。

 

 これは余談だが、修行先でバイトしていた中国人留学生曰く、「ごま油と鶏ガラスープを使えば何でも中華料理になる。たまにいくつかの醤を使えれば完璧」らしい。それを聞いたその店の店主は「そりゃ家で作る中華風料理ってやつだ。一緒にすんな」なんて笑いながら言ってたけど……

 

 ともあれ、この二品を川内に持って行ってもらう間に次に取り掛かろう。

 

 次は、昨日もらった鯵が何匹かあるから、あんかけ仕立てにでもしようか。ぜいごとワタを取った鯵に飾り包丁を入れて塩コショウで下味、小麦粉をまぶし、素揚げにする。

 

 それにかける餡は、みじん切りにしたニンニク・生姜を炒め、香りが出てきたところで千切りにした玉ねぎ・ピーマン・ニンジンを加える。すぐに火が通るのでこげないうちに鶏ガラスープ・醤油・砂糖・酢の合わせ調味料を入れて煮立たせたら、水溶き片栗粉でとろみ付けだ。その餡を揚げたての鯵の唐揚げにたっぷりかければ出来上がり。

 

 よし、じゃぁ野菜、魚ときたから次は肉料理かな。これは中華の定番青椒肉絲(チンジャオロース)で行こう。

 

 あらかじめ川内に下ごしらえを頼んであるので、あとは炒めるだけ。まず、卵・塩・酒・醤油で下味をつけて片栗粉・油をまぶした豚細切りを炒める。そこに千切りにしたピーマンとたけのこ……が今日は無いので、代わりにジャガイモを入れる。

 

 残念ながら現状では本土に注文しないと手に入らないからな。でもこのジャガイモを入れたやつも結構おいしいんだよね。確かにシャキシャキ感は劣るけど、ほくほく感と味の染みた感じが好きなんだ。

 

 さて、野菜に火が通ったところで醤油・酒・オイスターソース・鶏ガラスーブ・水溶き片栗粉を混ぜた合わせ調味料を入れて強火で一気に絡めて出来上がり。

 

 よし、この二品を持ってちょっと顔出してくるか。

 




留学生のくだりは実際に知り合いの中国人に
言われたことだったりします。もちろん笑い話ですが。

そして、駆逐艦は『不知火』でした
眼光鋭く、『怖い』と言われる彼女を『真面目』と書いたのは
セリフやエピソードから『不器用な真面目さ』を感じ
その真面目さ故に「今度こそ」と自分に言い聞かせる意味も込めて
厳しい表情・言葉が出てきてるんじゃないかなと思ったからです
この辺りは『霞』も同じかもしれません

と、長々書いてしまいましたが、あくまで作者の妄想ですので
「そんな風に考える人もいるんだなぁ」
くらいに思って、ご理解していただければと思います

お読みくださりありがとうございました

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