鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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この前に九皿目その3を投稿しています。ご注意ください。

今回の箸休めはちょっと蛇足感があるかもしれませんが
よろしければお読みください


箸休め4:緊急招集

「ごめん、もう始まってる?」

 

「いや、まだ提督が来ていない。大丈夫だ」

 

 急な呼び出しに駆け込んできた川内に、長門がそう返して着席を促す。

 

 ここは鎮守府にある会議室の一つ、提督から急な招集がかかり、艦娘たちが集められていた。川内は喫茶店での作業中だったため、少し遅れてここへ駆け込んできたという訳だ。

 

 川内が開いている席に座りあたりを見回すと、どうやら彼女以外の艦娘たちは揃っているようだ。先ほどまで店で騒いでいた赤城と龍驤もそろっており、川内へ向けて手を振っている。

 

 すると、ほどなくしてさくらが高雄と愛宕を引き連れて入ってきた。

 

「みんな揃ってるみたいね、じゃあさっそく今回の呼び出しについて説明をするわ。長門、海図を」

 

 そう言われて、長門がホワイトボードに張り出したのは、何種類かの縮尺で描かれた島周辺の海図だ。さくらはいくつかのマグネットを貼り付けながら説明を始める。

 

「昨日まで高雄たちが本土に行っていたのはみんな知っていると思うけど、その帰り道に深海棲艦との戦闘があったの。まぁ、そのこと自体はいつものように『はぐれ』と遭遇しただけとも考えられるんだけど……高雄」

 

「はい、私たちは昨日の午前中に向こうの港を出たのですが、だいたいこの辺りではぐれと思われる駆逐イ級と遭遇しそのまま戦闘に突入、これを撃沈せしめました。その後速度を落として周囲を索敵しながら戻ってきました」

 

「ありがとう。という訳で、これからしばらくみんなには集中的に哨戒を行ってもらいます。式典を控えているから念のための安全確保ってやつね。積極的に索敵範囲を広げる必要はないけど、何かあった時のために哨戒の精度を上げていきます。期間は一週間、そのくらいやれば上も文句言わないでしょ?」

 

 話を聞いていた艦娘たちは、一様に引き締まった顔で頷いていた。その表情を見回したさくらも満足そうな顔で頷いて話をつづけた

 

「よろしい。じゃぁ、詳細はあとで長門と詰めてくれるかしら。提督なりたての私よりもあなた達の方が詳しいでしょうからね。あとで報告だけ頂戴……それともう一つ。私にとってはこっちの方が重要なんだけど……」

 

 ちょっと言葉を濁したさくらの説明を引き継いだのは愛宕だった。

 

「実はその戦闘の後『ドロップ』があったのよね。発見されたのは陽炎型の不知火よ。なんとか自力航行は可能だったけど、この島に着いたところで限界だったのか眠っちゃって、今は医務室で寝ているわ」

 

「なるほど、平時であればゆっくり教育や訓練もできるけど、式典を控えたこのタイミングじゃね」

 

「えぇ、もう少し人が多ければいいのでしょうが、まだそんな余裕はありませんからね」

 

 提督が言いよどんだ理由を察したのか夕張と赤城からそんな言葉が聞こえた。

 

「まぁ、やってやれないこともないが空き時間が増えたり、偏りが出るのは否めんな。いっそ訓練ということで周辺哨戒に組み込むか?」

 

「それははんたーい。ある程度の戦闘機動訓練をやってからじゃないと危なっかしくて連れていけないわ~。せめて雷跡を見て縮こまらずに、落ち着いて回避行動がとれるくらいにはなってもらわないとね~……当たる当たらないは別にして。」

 

「ふむ、龍田の意見ももっともだな。せめて香取か鹿島がいてくれれば……というのは無いものねだりか。提督よ、どうするのだ?さすがにやることもなく放っておくのはかわいそうだぞ」

 

 あちらこちらで話が始まり、室内がざわついてきたところでさくらが手を叩いて注目を集めた。

 

「はいはい、みんながあの子のことを心配してくれているのはわかったわ。そこで、私から提案。秀人のところに預けるっていうのはどうかしら?長門の言うように、やることもなく放っておくのは言語道断だし、かといって中途半端に教育を始めても身に付かないと思う。だから、いっそのことコッチが落ち着くまで喫茶店の手伝いをしてもらうわ」

 

 さくらの提案に、なるほどといった声があがり、おおむね賛成するような雰囲気になっていたが、一人の艦娘が口を開いた。

 

「ねえ司令官?それだとマスターのご迷惑にならないかしら?心配だわ。なんだったら私が空いてる時間一緒にいてお勉強のお手伝いしてもいいわよ?」

 

「ありがとう雷。でも、秀人なら大丈夫よ、ああ見えて面倒見良いし。それに、そのやり方だと雷ばかり負担がかかっちゃうからね」

 

 そんな秀人を心配する雷に対し、さくらは優しい口調で言った。そして皆に向き直ると、さらに説明を続ける。

 

「とりあえず、明日の朝川内と一緒に店に行ってそのあたりは説明しておくわ。そこでオーケーがもらえなかったらまたちょっと考えなきゃだけど、多分大丈夫。あと、不知火には高雄・愛宕と一緒に暮らしてもらうわ。そこで簡単な説明は済ませておいてくれると助かるわね」

 

 さくらの言葉に二人は敬礼を返して了解の意を伝える。

 

「じゃぁ、この後は長門を中心に編成を決めて頂戴。高雄・愛宕はあの子が目覚めたら一回私のところに連れて来てもらって挨拶を。それが終わったら今日は帰っていいわ、あの子と一緒にゆっくり休みなさい。明日は朝みんなと顔合わせしたら、あの子にこの島と鎮守府の基本的なことを教えてもらいたいのと、午後にでもあの店に顔出してきなさい。あの子を預けるにしろそうでないにしろ、美味しいものでも食べてくるといいわ」

 

 そうして一通りの指示を出した後、「私は執務室で今回の報告書をまとめる」と言って出ていくさくらを艦娘たちは敬礼で見送る。

 

 残った彼女たちはさっそく長門を中心に集まり、高雄たちが敵艦と遭遇した状況を詳しく聞きながら、艦隊編成を考え始める。空母を中心とした航空機による索敵部隊、天龍達の水雷戦隊や川内を中心とした夜間哨戒部隊などが組まれ、スケジュールも次々決まっていく。

 

 確かにさくらが言うように今回の件はあくまで『念のため』であるし、こんなに大がかりな警戒態勢は必要ないだろう。そしてそれはここにいる皆がわかっていた。わかっていてなお、これほど真剣に動いているのは、この鎮守府が無事にスタートを切れるよう、すぐそこに控えた開港式典を何事もなく終えられるようにという想いがあったからだ。

 

 そんな皆の想いを頼もしく、また、嬉しく思いながら長門は部隊をまとめていった。

 




という訳で、今回の件の鎮守府側の対応と
不知火が店に来た理由の簡単な説明でした

とりあえず九皿目までで今いる艦娘は出たので
あと少しで一章を閉める予定です。
今後ともよろしくお願いします

お読みいただきありがとうございました

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