鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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本日は十皿目です

今回は不知火のお手伝い開始がメインですが
最後に久しぶりのあの子達が少し登場して
明日のその2に繋げます。


十皿目:不知火の給仕修行1

 さっそく手伝いを始めてもらった不知火なんだけど、初めてだからしょうがないのだけれども、なかなか手が進まない。とは言え慣れないながらも丁寧にやろうとしているのが伝わってくるので好感が持てる。

 

 これが雑で適当にやっていたら、以前いた厨房だったら蹴り飛ばされているところだが、彼女はそんなことは無いので文句はないな。多少皮を剥きすぎ大きさがそろっていなくても調理次第でカバーできるし、問題は無い……無いんだけど……

 

「くっ……また、削りすぎてしまいました。これは……不知火の落ち度です」

 

 本人は結構気にしているようで、だんだんと元気もなくなってきている気がする。

 

「なあ、不知火。初めてやることなんだ、そんなに気にすることはないよ」

 

「ですが店長殿、これでは食材が無駄になってしまいます。せっかくの野菜が……」

 

 軽くフォローしてみたが、彼女はそう言って小さくなってしまう。初めに感じた気の強そうな表情は、自分のふがいなさを堪えているようにも見える。確かに、食材を大事にするのはいいことだし、その気持ちは忘れちゃいけないんだけど……と思いながら俺は一杯のスープを彼女に差し出す。

 

「店長殿、これは?」

 

「まあいいから、飲んでみて」

 

 怪訝な顔をしながら一口飲んだ彼女は、目を見開いてこちらを見た。俺は無言で促すと、一気にスープを飲み干して「ふぅ」と息をついた。

 

「今飲んでもらったのはこれだ」

 

 そう言って不知火を一つの鍋の前に連れていき、中を見せる。その中に入っている袋を取り出して中を見せると、彼女もその中身に気づいたようで問いかけてきた。

 

「これは、野菜の皮ですか?それに切れ端なども入っているようですが?」

 

「あぁ、ここに入っているのは昨日出たものだけど、これと鶏ガラなんかを合わせてブイヨン、まぁ、和食で言うところの出汁を取っているってわけだ。だから、今日出た分も閉店後や明日の開店前に同じようにしてブイヨンの材料として使う。だから無駄にはならないよ」

 

「じゃあ、不知火が失敗したものも……」

 

「あぁ、そのまま捨てたりしないさ。それにこの出汁ガラやここに使わなかった物もそのほかの生ごみと合わせて裏にあるコンポストで肥料にしちまうからな。それを農場で引き取ってもらってまた新しい野菜を育ててもらう。だから、あんまり気にするな。それに、不知火は丁寧にやってくれてるからね、すぐに上手くなるよ」

 

 俺はそれだけ言って仕込みに戻った。不知火はしばらく鍋を見ていた様だったが、一言つぶやくように「はい、ありがとうございます」と誰にともなく言うと作業に戻っていった。

 

 戻った後の彼女は背筋を伸ばして作業しており、心なしかやる気も元気も戻ったように見える。

 

 その後、作業がひと段落したところで、先ほどのブイヨンをベースにしたスープとトースト・ハムエッグといった簡単な朝食を取った後、開店作業を行う。その朝食の時も味わうようにスープを飲んでいて、なにか彼女なりに感じる物があったようでうれしく思う。

 

 さて、そんなこんなで開店を迎えたわけなのだけれど、ここでもう一つ問題が出てきた。というか、開店前の作業から薄々感づいてはいたので、案の定といった具合ではあるのだが……

 

 不知火に笑顔が無いのだ。それが彼女の性格で、表情を出すのが苦手なのだと断じてしまうのは簡単だが、接客業においてはちょっと問題である。

 

 どの店でも自分の腹のうちは見せずにお客様に対しては常に笑顔で接する。真面目な顔をするのはお詫びをするときだけだと教育されてきて、不知火に対しても開店前にそのように教えて理解はしてもらえたようなのだが、実際のところは……といった感じだ。

 

 さっきちょっと練習した時はもう少しまし――と言っても、口角が少し上がっているという程度――だったので送り出したのだが、早まっただろうか。真面目にやってくれている事が救いだけど、ちょっと心配になって、手が空いたところを見計らって聞いてみる。

 

「およびですか、店長殿」

 

「あぁ、ちょっと見ていて感じたんだけど、やっぱり笑顔は難しいかい?」

 

「そう……ですね。今朝店長殿に言われたことは頭では理解していますし、お客様に気持ちよく食事していただかなければならないので、どうにか顔も動かそうとしているのですが……やはりできていませんか」

 

 うーん、硬いな。真剣に取り組んでくれいているのは嬉しいんだけど、自然な笑顔で接客するなら、その義務感は逆効果なんだよ。

 

「んー、ちょっと質問を変えようか。まだ何人かしか接客していないけど、不知火はこの仕事は楽しい……いや、楽しくやれそうかい?」

 

「はい、お客様が店長のお料理をおいしそうに笑顔で召し上がっているのを見るとありがたく思いますし、そのお手伝いが不知火にもできるのは光栄なことだと思います」

 

 そうか、ついつい川内と同じように見てしまっていたけど、この子はあくまで自分は部外者だと感じているのかもしれない。そのお客さんの笑顔を生んでいるのは、不知火も含めてのこの店だっていうのをわかってもらえれば自然と表情も柔らかくなると思うんだよね。

 

 不知火が仕込みを手伝った食材を使っている時点で、今でも十分にそういう事になっているんだけど、もっと直接的にわかってもらわないと難しいかな……とその時だった。

 

「こんにちわー」

 

「ズドラーストヴィーチェ」

 

「お邪魔するわ」

 

「おじゃまするのです」

 

 入口の方から声が聞こえた。この声は暁ちゃん達かな?ちょっと話が中途半端になっちゃったけど、同じ艦娘どうしならもう少し気楽にできると思うし、接客に行ってもらおう。

 

「あたらしいお客さんが来たね。暁ちゃん達みたいだし、あまり気負わずにいってらっしゃい」

 

 はい、と一言返事をしてさっそくお冷とおしぼりを持って行く。するとすぐに、注文をもらって戻ってきた。

 

「店長殿、ランチパスタのこれとこれをそれぞれ1.5盛りお願いします。取り分けて食べるそうなので」

 

「了解、じゃあ不知火はお皿とスープの準備をお願い」

 

 不知火にお皿を出してもらって、人数分のスープを温めなおしてもらっている間に彼女たちの注文の品を作っていこう。

 

 まずはベーコンとほうれん草のクリームパスタから。フライパンに拍子木切りにしたベーコンを入れ、火が通って脂が出てきたところでバターを一欠け、4~5センチ幅に切ったほうれん草を入れて炒める。

 

 ほうれん草がしんなりしたところで、小麦粉を全体にまぶして粉っぽさがなくなるまで混ぜたら牛乳を少しづつ加えながら混ぜていき、ブイヨンを加えて煮込みつつとろみを出す。とりあえずこれは置いておいて、後で茹で上がったパスタを入れて良く合えて、塩で味を整えたら完成だ。

 

 さてお次はキノコと茄子の和風パスタ。石突を取ったり適当な大きさに切って下ごしらえをしたしめじ・しいたけ・エリンギと厚めのいちょう切りにした茄子をたっぷりのバターで炒めていく。しんなりしてきたところでだし汁と醤油を加えて煮たたせると、フライパンの縁の辺りでこげた醤油がバターと相まってなんとも言えない香りを漂わせる。

 

 ここにちょっと固めにゆで上げたパスタを加えて、残った汁気を吸わせるように混ぜ合わせたら完成。さっきのクリームソースにも同様にパスタを加えて最後の仕上げを済ませる。

 

 と、ここまで作っていてちょっと思いついたことがある。暁ちゃん達にも協力してもらって試してみよう。

 




不知火の初めての接客は、案の定といった感じですかね


そしてお待たせしました?
第六駆逐隊が久しぶりの登場です


続きはまた明日
お読みいただきありがとうございました
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