大学生くらいだろうか、背中まである茶髪を耳の後ろで軽くお団子にまとめている。頭の上でぴょこんと跳ねるアホ毛がまた彼女の愛らしさを強調しているようにも思う。
そんな彼女がさくらに促されて、椅子から立ち上がるとこちらに向き直り、右手は腰に、左手は勢いよく前に突き出し、ポーズを取ると言い放った。
「英国で生まれた帰国子女の金剛デース!ヨロシクオネガイシマース!」
……お、おう。なかなか気合の入った自己紹介でいらっしゃる。どう反応するのが正解なのか戸惑ってしまい、思わず拍手しながらさくらの方に目線を向ければ、顔を背けて肩を震わせている……笑ってやがるなこいつめ。
「うぅー。テートクー、やっぱりこれは間違いだった気がしマース」
うん、俺もそう思うよ、金剛さん。普通に自己紹介してくれればよかったんじゃないかと思うよ。
「くっくっくっく……あー、おかしかった。だって、あなた私の前に初めて来たときだってそれやったじゃない。大丈夫よ金剛、かわいかったから。ねぇ、秀人」
「あ、あぁ、そうだな……っと、俺は田所秀人、さくらから聞いてるかもしれないがこいつの幼馴染で、しがない料理人だ。よろしくな」
さくらが急に振るもんだからびっくりしたが、とりあえず俺の方も自己紹介をして握手しようと手を伸ばす。すると彼女はさっきまでのしょぼくれた顔を一瞬で笑顔に変えて手を握ってくる。
「ハイ!ヨロシクオネガイシマース!」
その屈託のない笑顔と嬉しそうな声にドキッとしてしまい、思わず早口でさくらに尋ねる。
「えっと、さくら、聞きなれない名前から察するにこの金剛さんは……」
「えぇ、お察しの通り、艦娘よ。かつてイギリスにあったヴィッカース社に大日本帝国海軍が依頼して建造された戦艦で、その後何度かの改装を重ね長年にわたり活躍した戦艦『金剛』が元になっているわ。今は私の秘書艦として働いてもらっていて、今後動きにくくなるであろう私に代わって、あなたとの繋ぎをやってもらおうと思って今日連れてきたのよ」
ほう、イギリスで。だからちょっとカタコトっぽいのか……ということで、無事自己紹介も済みここからは金剛さんも交えて具体的な話を詰めることにした。
かいつまんで話すと、とりあえず店の造りとしては喫茶店で、中身はなんでも料理屋みたいな感じの飲食店を営業してほしいとのことだ。
ガワはもう完成していて今は細かい内装を整えてるとのことで、外観も内装も大橋さくら指令代行様の趣味全開で作られているらしく、俺に拒否権は無いそうだ。まぁ、聞いたところ昭和レトロな感じで落ち着いた雰囲気にするということで一安心。ファンシーでメルヘンでワンダーランドな感じじゃなくてよかった。
ちなみに、今回街を作るにあたっての土地のあれこれはすでに話が付いていて、街自体もかなり変わっているから、お楽しみにとのことだ。
さらに、そこで扱う食材に関しては島に農水畜の各種生産兼研究施設が立てられるそうで、効率的な生産やより多くの種類の食材を生産するための施設でもあるようで、よほど特殊なものでない限り手に入るようになるということだ。フル稼働し始めたら、かつての島の人口分の食糧を賄い、さらに余剰分を本土に送るほどの生産能力があるらしい。
そうそう、食材と言えば面白い話を金剛さんがしてくれた。
「実はワタシたちも漁に行ったりするネ。元々鎮守府での暇つぶしに堤防釣りなどをする子達はいたのですが、任務として秋になれば秋刀魚を獲りに行ったりもするデス。皆さんに人気の任務なのですヨ。敵も出てきますが、私もよく駆逐艦の子たちを連れて訓練しながら獲ってきますヨ。Follow me! ってネ」
その時のウインクがかわいかった……じゃなくて、そういえば何年か前から、『鎮守府謹製秋刀魚缶』なるものが売られるようになったな。水煮と生姜煮だったか。結構人気で常に品薄だった気がする。
噂によると、各地鎮守府周辺では塩焼きなんかも売ってたりしているそうなのだが……期間限定なので残念ながらお目にかかったことはない。
ふむ……そうか、彼女たちが獲ってたのか。それを公表したらさらに人気が出るような気もするが、数を確保するのも大変そうだし、それもあって隠してるのだろうか。
ともあれ、食材も問題なく揃えられそうだし、店舗の方あと数日もあれば完成するし、できれば早めに来てほしいとのことなので、挨拶諸々込みで一週間後の軍の物資輸送船に乗せてもらうことになった。
その後も和やかに会談は進み、金剛さんもいろいろな話をしてくれた。艦娘たちについての詳しい話は、実際に島であってからのお楽しみということであまり教えてもらえなかったが、敷地内の寮住まいだった他の鎮守府と違って、島では街の中にシェアハウスのような形で艦娘たちの家が用意されているとのこと。姉妹艦や仲のいい数人単位で共同生活を送るそうだ。
落ち着いたらぜひ遊びにきてくだサーイなんて言われたが、機会があったら……と濁しておいた。だって女の子だけの家に行くってのいうはなかなか……ねぇ?
これにてプロローグはおしまい。次から第一話になります。
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