「お待たせ、ご注文のクリームパスタと和風パスタだよ」
「こちら取り皿です」
俺がみんなの前に料理をサーブするとすかさず横から不知火が取り皿を配る。ナイスだ不知火ちゃん。
「いーかーづーちー、あなた暁がほうれん草苦手なの知ってて頼んだでしょー!」
「大丈夫よ!おいしいから食べてみなさい!」
「む、むうー」
あら、暁ちゃんに黙って頼んでたのか。でも、このメニューならほうれん草の嫌な味はほとんどしないはずだから、頑張れ暁ちゃん。他の二人は……
「あれ?電、茄子は嫌いじゃなかったっけ?」
「響ちゃん、それは他の鎮守府の電なのです。電はお茄子大好きなのです!」
へえ、同じ電でも好き嫌いが分かれることがあるのか。こう言っちゃなんだが面白いな。
ちょっと躊躇いながらも暁ちゃんがほうれん草を食べたのを確認してから、ごゆっくりと一言言って不知火と厨房へと下がる。そこで、彼女に一つ提案だ。
「さて、不知火。注文にはなかったけど、彼女たちにデザートを作ってみないかい?」
「不知火が……ですか?しかし……」
「なに、デザートと言っても切って混ぜるだけの簡単なものさ。何なら皮を剥くだけだっていい。どうだい?」
さっき思いついたというのが、これだ。
不知火が一人で作ったものを食べてもらって、誰かに美味しく食べてもらう喜びってのを、直接感じてもらおうってこと。もちろんこれは俺のわがままでもあるので、彼女たちにはサービスということにするし、さっき言ったように切って混ぜるだけの簡単なものだ。
不知火はしばらく考えていたようだが、顔を上げるとはっきりと言った。
「わかりました。不知火にできるかどうかわかりませんが、挑戦してみます」
「よし、じゃあさっそくこれを使って……あっ、小さいけどよく切れるから注意してな」
不知火の返事を聞いて小さいフルーツナイフを渡し、作業台の上に人数分+1の材料を取り出していく。
まずは、キウイとバナナの皮を剥いて適当な大きさに切っていく。大きさは揃っていなくてもいいが、それなりに量もあるので初めてナイフを使ういい練習になるだろう。キウイの皮むきの最初の一個だけ見本を見せたが、後は彼女に任せて俺は説明に徹する。
そうして切った果物をミキサーに入れて、ヨーグルト、牛乳も分量を教えながら入れてもらう。最後に蜂蜜をひと回し垂らしたら、ふたを押さえてスイッチオンだ。
「な、簡単だっただろ?」
「はい、不知火にもできました」
その言葉を聞きながら、俺はグラスを五つ用意してミキサーから注いでいく。そしてそのうちの一つを手に取って不知火へと差し出した。
「簡単だったけど、正真正銘不知火が一人で作った手作りのデザート、キウイとバナナのスムージーだ。飲んでみて」
すこし躊躇いながらもグラスを受け取った不知火は、暫く見つめた後グラスを傾けた。
「あぁ、おいしいです……これが料理をするという事なのでしょうか」
ゆっくりと味わい飲み込んだ後、こちらをみてつぶやくようにそう言ってきたが、それに対して俺は首を横に振った。
「いや、まだ足りないな……さぁ、そろそろみんなの食事も終わったころだろう。持って行ってあげよう」
否定されてちょっとしょんぼりした様子だったが、彼女は一つ頷くとグラスの載ったお盆を手に取って厨房を出ていった。それを追いかけて俺もホールに出ていく。
「こちらサービスのスムージーです。デザート代わりにどうぞ」
「いいのかい?ありがとう……これは美味しいね、バナナの濃厚な甘味とキウイとヨーグルトの酸味がマッチしていてとても飲みやすいよ」
不知火が置いたグラスに手を伸ばし、さっそく口をつけた響ちゃんが感想を言ってくれている。他のみんなもそれぞれ飲みながら笑顔になっていた。そして後ろから眺めていた俺に口々にお礼を言ってくれたのだけど……
「いや、これは不知火が一人で作ったんだ、だからお礼を言うなら不知火にね」
そう言って俺は不知火の肩に手を置いて、彼女が作ったという事を強調する。不知火は困ったような顔で肩ごしにこちらを見上げてきたが、間を置かずに暁ちゃん達から「ありがとう」「美味しかった」という声が聞こえてきた。そんな中で雷ちゃんが話し始めた。
「うまくやれてるみたいでよかったわ。このタイミングでこの島に来ちゃって、なかなかお話もできないから心配だったの。だからちょっと様子を見に来たんだけど……大丈夫みたいね!でも、なにか困ったことがあったら何でも頼ってちょうだい、おんなじ鎮守府の仲間なんだから!」
雷ちゃんの言葉に合わせるように、ほかの姉妹たちも頷いて笑顔を不知火に向けている。そんな笑顔を向けられてどう反応していいかわからなかったようで、彼女は少し俯いてしまっていた。
「さて、みんなそろそろ戻るわよ。マスターと不知火のおかげで午後の任務も頑張れそうだわ……そうだ不知火、また『コレ』作ってくれるかしら?こういう飲み物ってレディにピッタリだと思うのよ」
帰ろうかと立ち上がってそう言いながら、不知火に向かってグラスを軽く持ち上げる暁ちゃん。レディかどうかはさておいて、確かに若い女の子には人気あるよね。
その言葉を聞いて不知火ちゃんの肩を軽くたたく。ここはしっかり返してあげなきゃだめだよ。
「ありがとう、ございます。不知火でよければいつでも」
小さいながらもはっきりとした口調で返事をした不知火の表情は、照れているようではあったけれど、今までよりほんの少し柔らかくなっていたような気がする。
その後会計を済ませた彼女たちを二人で並んで見送った後、不知火がぽつりと言ってきた。
「店長殿、先ほど店長殿が『足りない』と言った意味が分かったような気がします。作っただけではまだ足りなかったのですね。作ったものを食べてもらって、笑顔になってもらう……それが料理ということなのでしょうか」
「そうだともいえるし、まだまだともいえるけど、そこまでわかってもらえたらオーケーかな。今の気持ちがあれば、自然と表情も柔らかくなると思うよ」
「はい……ですが、まだまだですか。料理とは難しいですね」
「そう、難しいんだ。こんな風に偉そうに言ってるけど、俺だって師匠たちから見ればまだまだだろうしね。さぁ、仕事に戻ろう。」
そう言ってそれぞれ片付けや、ほかのお客さんの接客に戻っていく。これで少しは変わってくれるだろう……っていうのは少し楽観的かな。
十皿目終了です
果たしてスムージーをデザートと言って良いものかはわかりませんが
デザートのようなもの……ということで一つ
お読みいただきありがとうございました