皆でカレーを食べます
それからしばらくして仕込み作業も終わり、不知火のカレーも無事完成したところでさくらから「これから向かう」と連絡があったので、俺たちは準備を始めた。
保温用のジャーと鍋に入れたご飯とカレーをカウンターにセッティング、その隣には各種揚げ物類などのトッピングを置いてある。ちなみに揚げ物以外にも、ウインナーやハンバーグ、目玉焼きなんかも注文されればカウンターで焼くことになっている。
そのほかにもサラダや飲み物などの準備も終わり、後は鎮守府組の到着を待つだけとなったところで、不知火が声を掛けて来る。
「なんだか、今になって緊張してきました。皆喜んでくれるでしょうか」
「どうした?らしくないな。そんな不安そうな顔……っていつも通りのポーカーフェイスだな。ま、大丈夫さ、さっき味見しておいしかったろ?それに不知火の気持ちもちゃんと伝わるよ」
「なにやら、失礼なことを言われた気がしますが、まぁいいでしょう……ふふっ」
いつも通りの表情ながら、緊張していたのを解そうとちょっとおどけて言ってみたけれど、うまくいったみたいだ。それこそ珍しいことに、笑顔を見ることができた。
そんな会話をしていると、店の外が騒がしくなってきた。どうやらご鎮守府組がご到着のようだ。
「こんばんわー、秀人来たわよー……って、うわっ!いい匂い。すきっ腹にこれは一種の暴力ね」
カランカランと軽快なドアベルの音と共に、さくらは入ってくるなりそんなことを言ってくる。確かにカレーの匂いってのは、とてつもない力があるよな。
そしてその後ろからは艦娘たちがそれぞれ入って来ては、店内をみて口々にいろんなことを言っていた。
「この匂い、流石に気分が高揚します」
「はっやっくっ!かっれっぇ!」
「トッピングもよりどりみどりっぽい!」
「今日はお招きありがとございマース!」
「こいつぁたまんねーなぁ、おい」
みんな待ちきれないようで、わいわいがやがやと収拾がつかなくなり始めたところで、さくらが手を叩いて静かにさせる。あれだけ騒がしかったのに、一瞬で静かになるあたりは流石だ。
「さて、今日はこの一週間の打ち上げってことで、みんなお疲れ様。結果としてなにもなかったのは予想通りではあったけれど、最後まで気を抜かずに任務にあたってくれてありがとう……」
さくらの話は続いているが、俺と不知火で飲み物を配って回る。今日はアルコール抜きなので、とりあえず軽巡以上の年長組にはウーロン茶、駆逐艦たち年少組にはオレンジジュースだ。二杯目からは好きなものを飲んでもらおう。
「……というわけで、飲み物は渡ったかしら?それじゃ、お疲れ様!かんぱーい!」
さくらの掛け声で、あちこちからグラスを合わせる音が響いた……のもつかの間、さっそくご飯の前に行列ができた。島風ちゃんを先頭に、どうやら小さな子からということらしい。
それぞれ好きなものをご飯の上に乗せてるのを見ると、性格が表れているようで面白い。
駆逐艦の子達に人気なのは、やはりというかなんというか、ミニハンバーグやウィンナー、唐揚げだったし、加賀さんと赤城さんは豚と鶏のカツ二種盛りだった……牛肉もカレーに入ってるし、皿の中が肉でえらいことになっている。
玉子が好きと言っていた龍田さんはゆで卵を乗せて。中には、その場で作る半熟のスクランブルエッグを注文してきて、オムカレー風にする艦娘もいる。白身魚フライを乗せた金剛さんは、やはりイギリスの血が騒いだのだろうか。
最後にさくらが何も乗せないプレーンを持って行って、一通り行き渡ったところで、不知火に声をかけた。
「不知火は何にする?」
「いえ、不知火は……」
「こっちは大丈夫だから、一緒に食べておいで……ほら、愛宕さんも呼んでるよ」
遠慮する不知火をみんなのところに送り出す。途中で声が聞こえたのだろう、愛宕さんもこちらを見ていたので、アイコンタクトを交わして協力してもらった。
愛宕さんが手招きをしているのを見て、不知火はひとつお辞儀をするとしゃもじを手に取ってご飯をよそい始める。彼女はプレーンにするようで、その上からカレーをかけると一言「いってきます」と告げて、みんなのいるテーブルへと向かっていった。
不知火はうちで働いていたので無理もないが、まだ囲まれるのに慣れていないようで、ちょっと遠慮がちにしている。それでも、明日からは艦隊に加わり訓練を始めるということで、同じ駆逐艦の子達と色々話をしているようだ。
その間にも、続々とカレーのお替りをしていく艦娘たち。トッピングは更にバラエティ豊かになり、中には隣に並べていたポテトサラダをトッピングする子も現れた。意外と美味しいんだよね、それ。でも、まさか君がそんな冒険するとは思わなかったよ、時雨ちゃん。
みんなだいぶお腹の方も満ちてきたようで、だんだんとデザートのフルーツヨーグルトに移行する子が増えてきた。一部のお姉さま方は、まだまだカレーに舌鼓を打っている。おかげでご飯もカレーも綺麗になくなりそうだ。
すると、全体的にまったりとした雰囲気が漂い始めたところで、カウンターにさくらがやってきた。
「今日はありがとうね、秀人」
「いやいや、こちらこそ。おいしそうに食べてくれて嬉しいよ」
いつもとは違う穏やかな口調でそう言ってくるもんだから、なんか調子が狂ってしまう。
「どうした?珍しくしおらしいじゃないか」
「うん、ちょっと不安になっちゃったっていうか……今回は何にもなかったけど、もしこれが島のみんなが帰ってきた後で、ほんとに敵が攻めてきてたらって思うと……ね」
「何言ってんだ。これからそういう事が起きたときに、今からそんなんじゃ身が持たないだろうが。そうなる可能性があるってのは分かってたんだろ?」
俯き加減で不安を漏らすさくらに、俺もゆっくりと語りかける。こいつ意外と繊細なとこあるんだよな。
「……でも、その心配は杞憂ってやつだ。覚えてるか?島から避難するって決まった時の商店街のおじさんたちの様子……島に残るって最後の最後までゴネてただろ?八百屋のオヤジなんて『自給自足でやっていける』とか言って山の方を耕そうとしてたし、漁師連中は『島民魂なめんな!いざとなったら銛で突いてやる』なんて言ってたな」
ちょっとおどけた感じでそう言うと、さくらもその時の様子を思い出したのか、笑顔を浮かべた。
「結局最後はおばちゃんたちに怒られて避難することになったけどさ、そんな人たちが戻ってくるんだ、なんも心配ねぇよ。むしろ、艦娘たちを応援するとか言って港に押しかけるかもしれないぞ?そっちの方が心配だろ」
「あはは、そうかもね。ありがと、なんか元気出たわ。それに今はあの時とは違う、頼りになる子達がいるもんね」
顔を上げて、さっきまでと違うしっかりした口調でそう言ったさくらは、わいわいと楽しそうに話している艦娘たちを見つめた。
「そういうこった。だから、これから戻ってくるみんなを含めて俺たちは、あの子達が陸にいるときは楽しく生活できるようにやっていくし、おまえはあの子達の戦いが少しでも楽になるように頑張ればいい……頼むぞ、司令官殿」
俺の言葉に、敬礼しながら「かしこまりました」なんて返してくるさくらと二人で、ひとしきり笑い合ったあと、さくらに連れられて艦娘たちの輪に加わる。それからしばらく楽しい時間が過ぎていった。
これにて十一皿目終了です。
また、とりあえずここで一区切り
一章 Menu-1:プレオープンが終了となります。
結構長くなっちゃったので、一章というより
シーズン1というか一期という感じになってしまいましたが
何とかなりました
二章の予定について、活動報告の方に少し書いてありますので
気になる方はご確認頂ければと思います
お読みいただきありがとうございました