鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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特別編その2
艦娘たちのクリスマスパーティーです

書き始めたら、あの子もこの子も書きたくなって
普段よりもかなり長い(6500字over)となってしまいましたが
特別編と言うことで一気に行きます

読みにくいかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです

そして今回は新たにクリスマスコスのあの子達が登場です

それではどうぞ



??皿目:素敵なパーティーしましょ2

「ヘーイ、ヒデトサーン!Merry Christmasだヨー!」

 

「金剛お姉さま、落ち着いてください。あぁもう、店長さん、こんばんは。なんかお姉さまがすみません、今日のパーティーをすごく楽しみにしていたので」

 

 ハイテンションで真っ先に店に入ってきたのは金剛さんだった。衣装は普通だったけれど頭にサンタ帽子をかぶっていて、満面の笑みを向けてくれている。全力でクリスマスを楽しもうとしている様子がなんともかわいい。

 

 その後ろからは、少し困った顔で霧島さんが追いかけてきた。ただ、金剛さんを本気で止めようとはしていないあたり、彼女も楽しみにしていたのだろう。

 

「霧島―、これつけるデース!」

 

 ただ、流石に金剛さんが渡そうとしている『鼻メガネ』は勘弁してほしいみたいだけど……よくそんなの持ってたな。さくらあたりの悪ふざけか?

 

 二人に続いて他の艦娘たちも続々と店内に入ってくる。中には金剛さんの様にサンタ帽をかぶった子や、翔鶴さん達の様にサンタコスの子もいてみんなそれぞれにクリスマスを楽しんでいるようだ。

 

「めりくりめりくり、マスター、めりくりだよー!」

 

「メリークリスマスですわ、店長様」

 

 そして今回のパーティーのメニューをどうするか、案を出してくれた二人も来た。鈴谷さんと熊野さんだ。初めて会ったときは確か重巡洋艦って言ってたかな?そのうち航空巡洋艦になって、いずれは軽空母にもなれるとかって嬉しそうに自己紹介してくれたけど、ごめん俺には正直よくわかんなかったよ。というかそんな簡単に種類変わるもんなの?

 

「やあ、二人ともいらっしゃい。その衣装良く似合ってるね」

 

 そう、この二人もまた、サンタコスだ。熊野さんは正統派?っぽい感じだけれど、鈴谷さんは肩を出したなかなかに大胆なタイプだ……ちょっと目のやり場に困る。そして、そんな俺の様子を察したのか、鈴谷さんは軽く腰をかがめて下からのぞき込むようにしながら「ほれほれ、どうよー」なんて言ってくる。非常に眼福でもあり、恥ずかしくもあるのだけれど、やってる自分がそんなに顔赤くしてて、逆にダメージ受けていないかい?

 

 結局鈴谷さんだけでなく、ほかの艦娘たちとも似たようなやり取りをしたあと、そろそろパーティー開始と言うことで俺はカウンターで待機することにする。今回はある程度仕込んであるものを、カウンター内で仕上げ調理して提供する形だ。このメニューにするのに結構悩んだけれど、さっき言ったようにあの二人が相談に乗ってくれた。

 

……クリスマスまであと何日かといった所で、パーティーをやること自体はさくらと相談して決まっていたが、メニューを何にするかで俺は悩んでいた。

 

 準備や仕入れの都合もあるから、早めに決めたいんだけど……カレーはこないだやったし、チキンは用意するとしても、ターキーは無理か。他の料理も一人で回すことを考えると、ビュッフェ形式は無理。量が量だから、全部作り置きっていうのも逆にちょっとねぇ。んー、どうしたものかな……

 

「マスター、どしたの?悩み事?」

 

 客足も落ち着いたアイドルタイム。カウンターで洗い終わったコーヒーカップを拭きながら、どうしたものかと考えていたら、遅めのランチに来ていた鈴谷さんに声を掛けられた。

 

「えぇ、店長様がそんなお顔をするのは初めて見ましたわ。どうなされたのですか?」

 

 お気に入りのサンドウィッチを頬張りながら、熊野さんも聞いてきた。しまった、顔に出ていたかと後悔したが、この際だからこの二人にも相談してみることにしようか……それにしても、彼女の『店長様』という呼び方はなかなか慣れない。もっともはじめは『おじさま』と言われていたのを、まだそんな齢じゃないと変えてもらってのコレなので少しはマシになったのだが。

 

 話がそれてしまった。さっそく二人に聞いてみよう。

 

「実はさ、今度のクリスマスにパーティーをするってのは聞いてると思うけど、そのメニューを何にするか悩んでいてね。何かいいアイデアないかね?」

 

「あー、そんな話してたわー。こないだはカレーだったんでしょ。バリィから聞いたよ、鈴谷も食べたかったなー」

 

「なるほど、パーティーですか……サンドウィッチ!はメインにはならなそうですわね。なにが良いのでしょうか……」

 

 バリィっていうのは夕張さんのことか?そういやあの子カレー蕎麦は無いのか聞いてきたけど、北海道の夕張の方じゃ有名らしいね。艦娘って由来になった土地のことまで影響うけるのかな?

 

 それと、熊野さん、流石にサンドウィッチをメインにするのはちと厳しいかな。お昼に色々用意してっていうのも面白いかもしれないけどね。

 

「またカレーにするというのもいいのでは?しばらく間も空いてますし、正直カレーなら何度続いても皆さん大歓迎ですよ?」

 

 空いたテーブル席を片付けていた翔鶴さんもそう言ってくれたけど、それはそれでありがたいが、作る方としては続けて同じメニューというのはどうもね……と、四人して考え込んでしまった時だった。

 

「そうですわ!パスタはいかがでしょう?麺はあらかじめ茹でて、ソースも作れるものは前もって作っておけば時間もかかりませんし、カウンターのコンロでも作れるのではなくって?クリスマスにお洒落なパスタを殿方に作ってもらうなんて、なかなかのシチュエーションだと思いますわ……あ、でも麺が伸びてしまうかしら……」

 

 おー、なるほど、パスタね。クリスマスディナーで男がパスタを作って女性に振舞うってのも、ありきたりではあるけれど恋愛ものにありそうなシーンではあるね。ただそれがカップルでもなければ、喫茶店の店長っていうところで成立するかどうか疑問だけれど……

 

「熊野さん、それ良いよ。ナイスアイデアだ。それに麺をあらかじめ茹でておくってのは、いろんな喫茶店やレストランでもやる手法だし、伸びにくくする方法だってあるからね。よし、それでいこう」

 

 うんうん、ちょっと楽しくなってきた。何作ろうかな……とりあえずおつまみ系の揚げ物とローストチキン、サラダ類は前回同様カウンターに山盛りにして自由に取ってもらうとして、パスタソースで作り置けるのはなんだろう。後で考えておかないとな。

 

「ふふふ、店長さん楽しそうですね」

 

 メニューについて色々考えていたら、翔鶴さんに突っ込まれてしまった。

 

「鈴谷はねー、何がいいかな。やっぱカルボかなー、あ、でもボンゴレとかもよくない?二種類あるんだっけ?」

 

「わたくしはやはりトマトソースは外せませんわね。上にバジルを散らして……そうですわ、バジルと言えば『じぇのべーぜ』とかいうのも聞いたことがありますわ」

 

 ただ、楽しくなっているのは俺だけではないようで、二人も気になるパスタを挙げていく。もちろんそのあたりは押さえていきますよ。と、そんな会話をしていると、佐渡ちゃんがお昼寝休憩から戻ってきて、眠そうに目をくしくししながら「なんのはなしー?」と聞いてきた。とりあえず佐渡ちゃんは顔を洗ってこようか。後で彼女にもどんなパスタが良いか聞いて参考にしよう。

 

 とまぁ、こんな感じの会話が先日あって、今日のパーティーがパスタパーティーに決まったという訳だ。そして今、店に入ってきた艦娘たちの目は、各テーブルて圧倒的な存在感を放っている丸鶏ローストチキンに注がれている。とりあえず大きめの奴で三羽ほど用意したけれど足りるだろうか?

 

 普通のパーティーなら問題ないが、彼女たちの食べる量はかなりのものがあるからね、パスタもあるし多分大丈夫だと思いたい。

 

 今回のこのローストチキン、せっかくのパーティーなのでそれなりに手間をかけて作っている。まず詰め物として中に入れてあるピラフ。オリーブオイルにバター・生姜・ニンニクのみじん切りを入れて熱し、香りを出したら同じくみじん切りにした玉ねぎ・マッシュルーム・エリンギを入れて炒める。ある程度火が通ったところで米を入れて透き通るまで炒めたら、塩コショウ・ブイヨンを入れて炊いていく。少し芯が残るくらいの固めに炊き上げたら、一旦ボウルなどにあけて冷ましておく。

 

 鶏肉の方は表面に塩・コショウ・ニンニクを刷り込んで、腹の中に先ほどのピラフを詰めたら楊枝やタコ糸で処理をして網を乗せた天板にセッティング。鶏の周りに皮つきのまま大きめの櫛切りにしたジャガイモ・玉ねぎ・カブとローズマリーを乗せて、全体にオリーブオイルを垂らしたら予熱してあるオーブンに入れて、温度を調節しながら90分ほどかけて焼いていく。

 

 焼きあがったら、天板に溜まっている脂を小鍋に取り除いておく。この油は後で赤ワイン・醤油等と合わせてソースに使う。で、鶏の方は後で出す前に、軽く焼きなおして温めるとしてこのまま置いておこう。余熱で火も通るしね。

 

 ということで完成したお鶏様が彼女たちの前にあるという訳だ。一部艦娘はすでに狩人の眼差しになっているが、一旦さくらがその場をまとめる。

 

 正直聞いているのか聞いていないのかわからないような挨拶と乾杯を済ませると、それぞれのテーブルで歓声が上がる。一応不公平にならないように一人が代表して切り分けながら配っているようで、喧嘩にはならなそうだ。鶏が置いてないテーブルもあるしね。

 

 中でも意外だったのは、長門さんが駆逐艦の集まるテーブルに行ってそれぞれに配っていたことだ。どちらかと言うとドーンと構えて持ってきてもらう側かと思ったのだけれど、その気配りに驚いた。

 

「にゃにゃっ!この鶏おいしいにゃ!」

 

「球磨はこのピラフが良いクマ、鶏肉は入ってないのに鶏の旨味がしみ込んでて、なんとも言えん味わいだクマ」

 

 うん、みんな気に入ってくれたみたいでよかった。手間をかけた甲斐があったってもんだ。それにしても、あの二人の語尾はいつ聞いても不思議だ。特に球磨ちゃん、熊は「クマ」とは鳴かないんだけど、いいのかな?

 

 そんな感じで他のみんながまずはチキンに舌鼓を打つ中で、さっそくパスタを注文に来た子達がいた。

 

「マスター、さっそくお願いね。鈴谷はカルボナーラで!」

 

「わたくしはこのタコとトマトのぺペロンチーノというのが気になりますわ。トマトでぺペロンチーノというのはどういうことなのでしょう」

 

「そりゃくまのん、ピリ辛トマトソースでニンニクマシマシじゃない?」

 

 まずやってきた二人、鈴谷さんはこないだ話していたようにカルボナーラ、熊野さんはタコとトマトのペペロンチーノをご注文だ。

 

 熊野さんがタコを選んだっていうのは、やっぱり神戸生まれだからかな?瀬戸内のタコ美味しいもんね。残念ながらうちのタコは、島からもそんなに遠くない横須賀のヤツだけど。そして、鈴谷さん、その表現はどうかと思う。どこのラーメン屋だ……そしてトマトソースってわけでもない。

 

 気を取り直してまずはカルボナーラから。卵・生クリーム・塩・コショウ・粉チーズを混ぜ合わせた卵液を用意しておいて、フライパンでは拍子木切りにしたベーコンをしっかり炒める。普通の薄切りのベーコンをカリカリにしてもいいが、個人的にはこっちの切り方の方が好きだ。

 

 表面はカリカリで、ある程度弾力を残したベーコンに卵液を加えて軽く混ぜてなじませる。そこにあらかじめ茹でておいたパスタを加えて混ぜ、卵液がとろりとしたらお皿に盛って粗びきコショウをかけて完成だ。

 

 続いて熊野さんのペペロンチーノ、トマトとついているがソースではなく具として使う。作り方も簡単で、普通にペペロンチーノを作る要領でオリーブオイル・ニンニク・鷹の爪を熱したところに、半分に切ったミニトマトを加えて炒める。トマトに火が通り、水気がなくなったら茹蛸を加えてさらに炒めて、最後にパスタとゆで汁を加え軽く混ぜてなじませたら完成だ。

 

 このレシピ、パスタを入れなくてもおつまみとして美味しいし、生のトマトの代わりにドライトマトを使ってもおいしい。ともあれ、ソース以外にもトマトの美味しさが楽しめる一品だ。

 

「おー、これこれ。なんか女子っぽくない?ありがとね」

 

「ありがとうございますわ。なるほど、トマトをこう使うのですか。おいしそうですわね」

 

 パスタを受け取った二人は席に戻ると、嬉しそうにフォークを回して口に運ぶ。すると……

 

「うわっ!ウマッ!」

 

「はむっ、んー!なかなかいけますわ!」

 

 という声が聞こえてきた。そしてその声に触発されたのか次々と艦娘たちがこちらにやってきて、怒涛の注文が始まった。

 

 金剛さんと霧島さんは以前食べたナポリタンで、あの時以来のお気に入りだそうだ。他にもミートソースやマリナーラ、バター醤油の和風パスタ等様々な注文が飛び交う。

 

 合間に店内を見渡せば、ローストチキンに入っていたピラフとナポリタン、サイドメニューの一口豚カツを一皿に盛り合わせて『なんちゃってトルコライス』を作る川内のような子も居れば、何かにとりつかれたようにチキンと格闘を続けている夕立ちゃんのような子もいて、なかなかにカオスだ。

 

 そんな中、今日までお手伝いしてくれている佐渡ちゃんが、俺の隣で一生懸命ある作業をしている。それは、スプーンを使ってたらこを皮からほぐしているのだ。前にどんなパスタが良いか聞いた時に、ぜひ自分で作りたいということで作り方を教えた。基本的には材料を混ぜるだけなので佐渡ちゃんでも簡単に作れるからね。

 

 その作り方は、溶かしたバターにほんの少し醤油を落としたところにたらこを入れて混ぜ、そこにパスタを加えて和えるだけ。フライパンでバターを熱して香ばしさを出してもいいんだけど、小さい子が作るときはボウル一つでできるこっちの方が安心できる。

 

 出来上がったパスタをお皿に盛って刻んだ大葉と海苔を散らせば、十分お客さんにも出せるレベルだと思う。それを「いひひっ」といつもの笑い方で嬉しそうに席まで持って行けば、鎮守府のお姉さんたちが「すごいね」「よくできたね」とほめてくれる。それを「おう!」と返す佐渡ちゃんの笑顔を見れただけで、今日のパーティーは大成功と言えるだろう。

 

 その後もいろんな注文を捌きながら、パーティーの夜は更けていく……いや、龍田さん、残念ながら抹茶小倉パスタは無いんだ、ごめんよ。というかよく知ってたね……って、天龍さんに食べさせたかったって、流石にちょっとかわいそうだと思うよ?意外と美味しいらしいけど。

 

 あれほどあったチキンやそのほかのサイドメニューも綺麗になくなり、良い頃合いになったところで、例のミルクレープを切り分けて配っていく。すると「待ってました!」とあちこちから声が上がった。

 

 きれいにデコレーションされたものに比べるといささか地味ではあるけれど、二人が一生懸命作ったのを聞いてみんな嬉しそうに、そしておいしそうに食べている。と、ここで翔鶴さんと目配せをして、最後のイベントを開始する。俺からのサプライズプレゼント……といっても内容はうちの店の割引券なんだけどね。

 

 というわけで、翔鶴さんお願いします。

 

「皆さま、ここで店長さんからクリスマスプレゼントです。ちゃんとうけとってくださいね……それでは!全航空隊、発艦始め!」

 

 翔鶴さんのその掛け声とともに、カウンター内で待機していた妖精さん達が一斉に艦載機を出現させて、飛び立っていく。その機体の下には、割引券をカプセルに入れて装着させているのだが、それをそれぞれの頭上で正確に投下していく。

 

 駆逐艦の子達は嬉しそうにキャッチしては中身を見て喜んでくれているが、一部の艦娘……特に空母の皆さんの様子はちょっと違っていた。真剣な眼差しで投下されたカプセルを避けていたのだ。それを見た翔鶴さんが思わず「避けなくて大丈夫ですよ」と声を掛けると加賀さんと赤城さんが恥ずかしそうに謝っていた。

 

「すみません、思わず……飛行甲板が……」

 

「ごめんなさい、避けなさいと頭の中で……なにかが……」

 

 その反応に、周りのみんなは声を上げて笑っていた。

 

 避けてしまったのは軍艦時代のトラウマ的なものかもしれないが、それに囚われずに笑えるっていうのは、良いことなのかな。一瞬ちょっとマズったかと気にしてしまった俺なんかより、よっぽど彼女たちの方が『強い』んだろう。

 

 早くも話題が『割引券をどう使うか』に移って、笑い合っている彼女たちを見ながら、そんなことを考えたクリスマスの夜だった。

 




昨日の分が今一つクリスマスっぽくなかったので
冒頭で金剛お姉さまに元気よくテーマ回収していただきました

そして鈴熊コンビを出した理由は、かわいいから。以上

イラストを見て、艦載機でプレゼントネタがやりたかくなった事も
翔鶴さんを選んだ理由だったりします

という訳で今回の特別編は以上で終了
明日からは第二章『Menu-2:本格営業開始』が始まります

軽い予告としては
今回の特別編で出てきた子達が出てくるのと
今まで店から出なかった秀人が外に出ます。(脱引きこもり)

お読みいただきありがとうございました


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