鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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今回から本編に戻って、第二章『Menu-2:本格営業開始』の始まりです。

時間もカレーパーティーの翌日から。
二章では鎮守府祭での式典で、鎮守府が本格始動して
艦娘を増やしていきますが
それまでに二皿ほど艦娘との交流を挟みます

初回の今日は、昨日と打って変わって少し短めですが
切りどころ的にここだったので、ご了承ください


それではどうぞ


Menu-2:本格営業開始
十二皿目:ドーナツホールズ1


 さて、今日から一週間は店を閉めて鎮守府祭に向けての準備だ。とはいっても、一週間丸々準備というわけでもないし、せっかくだから空いた時間で島を回ってみようかと思う。

 

 さっそく今日から動こうかどうしようかと考えながら、昨日のパーティーの片付けを終わらせて、店の前を掃除しているとジャージを着た響ちゃんがきれいな薄い空色の髪をなびかせて走ってきた

 

「おはよう、響ちゃん。ランニングかい?」

 

「ドーブラエウートラ、マスター。今日は休みをもらったのでね、家にいても暇だったから軽く走ろうかと思ってさ。帰ったら雷が作ってくれた朝食が待ってるんだ。もうほとんどお昼だけれどね」

 

 なるほど、この一週間頑張った分、艦娘たちも今日は休みという訳か。雷ちゃんがご飯を作って……で、ほかの二人は?

 

「あぁ、暁と電なら、私が出てくるときはまだ布団の中だったかな。そろそろ雷にたたき起こされてるんじゃないかな?ちなみにうちは天龍さんと龍田さんも一緒に住んでるんだけど、あの二人は庭で素振りをしていたよ。マスターは今日から休みだったよね、なにするの?」

 

 あれ?と訊ねた俺に、少し肩を竦めながらそう答えてくれた。へー、シェアハウスに住んでるって言ってたけど、天龍さんと龍田さんが保護者替わりって事かな。それにしても他のみんなは想像通りというかなんというか……

 

「俺はちょっと島を回ろうかなと……さしあたって今日は、昼過ぎくらいに山の方の農場を見てこようかなと思ってるよ。いつも野菜を届けてもらってて、挨拶もしておきたいしね」

 

 さっき、掃除をしながら考えていたことを話す。農場の人たちとは店に来た時に少し話したくらいで、きちんと挨拶したことなかったからね。

 

「ほう、それはいいね……もし迷惑でなければ一緒に行きたいのだけれど、いいかな?」

 

「あっちの人と話してる間暇になっちゃうと思うけど、それでも良ければ」

 

「かまわないさ、その施設に興味もあるし、マスターと出かけるのは楽しそうだ」

 

 それは光栄なことだ。せっかくだから、なにかおやつでも持って行って向こうで食べようか。牧場も併設されているらしいから、ピクニック的な感じでちょうどいいだろう。と、我ながらなかなかいい案が浮かんだと思い提案してみる。

 

「ハラショー、それはいいね」

 

「よかったら他のみんなも誘ってみたら?二・三人だったら車にも乗れるよ」

 

「そうだね、声を掛けてみるよ……まぁ、来るかどうかはわからないけど」

 

 とりあえず、帰って朝ご飯を食べたらまた来るということで、響ちゃんは走っていった。さて、それじゃあなにかおやつになるようなものを作ろうかね。

 

 厨房に戻った俺はさっそく材料を準備する。ふるいにかけた薄力粉・ベーキングパウダー・砂糖をさっくりと混ぜ合わせて、別のボウルで作った溶かしバター・卵・牛乳を混ぜた物と合わせる。

 

 だまにならないようにしっかりと混ぜた生地をビニール袋に入れて、袋の端を切ったらそこから絞り出しながらスプーンを使って丸く成型する。それを熱した油に落として茶色く色づいたら、簡単ボールドーナツの完成だ。あとはしっかり油を切って、砂糖を振ったものとココアパウダーを振ったものの二つを今回は用意することにした。

 

 ちょっと甘めに入れたミルクティーと一緒にバッグに入れて準備オーケーだ。まだちょっと早いけど、軽く昼飯を食べて店の前に車を回しておこう。

 

 実は車をこの島に来る時に買って、直接こっちに送ってもらったので乗るのは初めてだったりする。今となっては珍しくもない小型の電気自動車で、欧州車みたいな丸っこいボディとスイッチ一つで開閉するハードトップが気に入って決めた。そのおかげで荷物はあまり載せられないが、とりあえず何かあったら後部座席に投げとけばいいだろう。

 

 立ち上がりのスムーズさや、電気自動車特有の音の小ささに驚きながら車を回す。これはこれでいいものだけれど、昔親父が載ってたガソリンエンジン車みたいに、足元に響いてくるあの感じが無いのは少し物足りなくもあるかな……

 

 とは言えいったん降りて、新しい自分の足を眺めていると思わずニヤニヤしてしまう。彼女たちが来るまで時間があったので、そうやって店の前で準備万端待っていると、響ちゃんが二人の艦娘を連れてやってきた。

 

 あれは雷ちゃんと、夕立ちゃんか。他の姉妹二人は来られなかったのかな

 

「やあ、マスター。待たせちゃったかな」

 

「いやいや、大丈夫だよ響ちゃん。雷ちゃんと夕立ちゃんもいらっしゃい」

 

「こんにちはマスター、今日はお誘いありがとう。あっ、ちなみにうちの姉妹たちは龍田さんにつかまってお勉強中なの。こないだの講習がいまいちだったからって……困っちゃうわ」

 

 俺が気にしている様子を察したのか、雷ちゃんが説明してくれた。なんというか、二人とも……がんばれ。

 

「こんにちは、マスターさん!おうちの前で響に会って話を聞いたっぽい!時雨も誘ったけど、やることがあるんだって。よろしく言ってたっぽい!」

 

 なるほどね、時雨ちゃんも相手できなくて夕立ちゃんも暇してたってわけだ。ある種暇人たちの集まりみたいだけど、こういうのもたまにはいいよね。

 

 じゃあさっそく車に乗り込んで出発しよう。天気もいいことだし、せっかくだから上を開けて行こうか。

 




開店後初めての店外での交流です

主人公の車はプジョーあたりを想像していただければ……

タイトルの『ドーナツホールズ』は
作中で秀人が作ったボール型のドーナツのことで
元々はドーナツ型で生地をリング状に型抜きした時に出る
『穴』の部分を揚げたことからそう呼ぶらしいです。

ただ、現在市販されているドーナツは
生地を直接ドーナツ型に成型する
ドーナツメーカーで作られることが多いので
『穴』はできませんが……

お読みいただきありがとうございます

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