短めですが
昨日の『鎮守府食堂』の別視点をどうぞ
鎮守府正門前から伸びる道の上空に、一機の飛行機が飛んでいた。
かつての日本海軍において最速とされた、艦上偵察機『彩雲』である。
「こちらS-1、HQ応答されたし」
「こちらHQ、S-1どうぞ」
「鎮守府に向けて接近中の対象を発見。現在上空にて旋回しつつ監視中、間もなく鎮守府に到着する模様」
「HQ了解。正門にて待機中のKS-2より対象を目視に発見セリとの報あり。S-1は一時帰投し、以降別命あるまで待機。You copy?」
「Yes I copy. S-1帰投する」
彩雲はどこかと通信した後、鎮守府へと機首を向けた。地上では何も知らない秀人がスクーターを鼻歌交じりで走らせていた。
ちなみに旧日本海軍が元になっているはずの彩雲や司令部がコードネームや英語を使用しているのは『ノリ』である。
そして、そんなのんきな秀人とは打って変わって、HQ――司令部――と称された鎮守府の一角は緊張に包まれていた。
「さて諸君、いましがたS-1から報告があったように、間もなく対象が鎮守府に入る。この後の行動予定は……J-1頼む」
「はっ、対象は正門にて金剛秘書艦と合流後、本館で提督殿、長門管理艦、加賀管理艦と鎮守府祭の打ち合わせ。終わり次第鎮守府内の説明を簡単に受けながら食堂へと向かい、調理指導を行った後、艦娘たちと昼食を共にするそうです」
「よろしい、N-1配置はどうなっているか」
「はい、KS-2から6並びにN-2から6のツーマンセル五組すでに所定の位置へついております」
「よし、では各員くれぐれも慎重に行動するように。解散!」
HQ妖精の一言でそれぞれの持ち場に散っていく妖精たち。これから起きることを想像しているであろう彼らの顔には笑みが浮かんでいた。
そしてその後も……
「現在目標が金剛さんに連れられて本館から出てきました!並んで歩いている金剛さんの嬉しそうな笑顔が眩しいであります。どうぞ」
「ただいま入渠施設を金剛さんが説明中。あっ、金剛さんが入渠のお誘いをかけましたが、断られました。いくら男性に慣れてないからと言って、そのお誘いはどうかと思うであります……どうぞ」
「目標は水上訓練中の駆逐艦の皆さんを視察中。彼女たちの動きに感心しておられる様子。どうぞ……って、こら!そこ、気になるからと言って前に出すぎだ!」
等々、鎮守府内を移動する秀人の一挙手一投足を各所から見つめ、さらに作戦に参加していない妖精たちもまた、謎の技術によって作られた通信装置に映る映像を、それぞれの施設で固唾をのんで見守っていた。
そして、作戦開始から数時間後、ついにその瞬間が訪れた。
「お初にお目にかかります、田所殿」
食堂にて秀人の前に悠々と思わせぶりに登場したHQと、彼女のセリフに合わせて整列する各施設妖精たち。そんな彼らに驚き、目を丸くしている秀人の表情が通信装置を通して他の妖精の元にも届けられる。
そして、秀人が少し落ち着いてきたところを見計らって入ってきた彩雲。秀人の目の前に見事な着陸を見せ、得意げな表情で機体を消して見せる。
その後畳みかけるように、店を訪問する約束を取り付け、自分たちが甘味を好きだという情報まで伝えることができ、秀人の反応に満足した妖精たちは、すぐに撤退を開始した。
食堂から出た彼女たちは、円陣を組んでHQ妖精の言葉を待つ。
「諸君、作戦成功だ!」
その瞬間、その場にいた妖精たちだけでなく、映像で見ていた妖精たちからも「ワアッ」という声が上がる。
「やはり、我々が出ていった後、頃合いを見て彩雲がやってくるという二段構えが良かったのだろう、田所殿もたいそう驚いておられた。それに、我々が甘味を好きだという重要情報も伝えることができた……これは120%以上の出来と言える……では、これにて作戦終了とする。諸君、ご苦労だった」
そして妖精たちは、今回の作戦のことを話しながらそれぞれの業務へと戻っていった。
やはり妖精といういきものは、おしなべて人を驚かせるのが好きなようである。
というわけで、今回は妖精さん達の悪戯回でした。
割とどうでもいいことですが
文中のコードネームを一応説明しておくと
HQ(司令部)→戦績表示の艦隊司令部情報画面にいるドヤってる子
S-1→彩雲の装備妖精
J-1→情報処理担当ということで、図鑑妖精(謎虫込み)
N-1と2~6→任務妖精(迷彩メット)とその部下
KS-2~6→工廠妖精(作業員)
もちろんそのほかにも多くの妖精さんが働いています
噂では猫を抱えた妖精もいるとかいないとか……
今日はこの後十四皿目その1も投稿しておりますので
よろしければそちらもどうぞ
お読みいただきありがとうございます