これの前に箸休め5も投稿してますのでご注意ください
さて、いよいよ鎮守府祭です
今回は秀人の前日準備(屋台の仕込み)です。
それではどうぞ
さて、鎮守府祭が明日に迫った今日、俺は厨房でひたすらその準備に追われていた。
結局今回の祭りで何を出店することにしたかと言うと、ピタパンサンドだ。小麦粉・ドライイースト・塩だけで作ったシンプルな生地を袋状に焼いて、中に様々な具材を詰める。手軽に手で持って食べられて、具材を変えて色々作れる。そして大量に作り置きして冷凍ができ、屋台では鉄板で軽く温めて出来立てを提供できる。
という訳で、今はその中に詰める具材を仕込んでいるところだ。野菜類は明日の朝届くから、向こうで準備するとして、今は肉類の漬けダレを作っている。これに今夜から一晩漬けこんで、明日その場で焼いたものを具材として挟む予定だ。
まずは焼き肉サンド用のタレ。醤油をベースに、酒・みりん・ごま油を混ぜ、さらにそこにすりおろしたニンニク・しょうが・リンゴとみじん切りにしたねぎ・白ごまを指でつぶしながら加え、混ぜ合わせれば完成だ。
続いてタンドリーチキン。ヨーグルト・カレー粉・ケチャップ・オリーブオイル・すりおろしにんにくを混ぜたものに、隠し味で醤油をちょろっと垂らす。
スパイシーなのがお好みなら、ここに粗びきコショウを足したりカレー粉を増やしたりしてもいいし、マイルドがお好みならオリーブオイルの代わりにマヨネーズを加えてもいい。
そのほかにもミニハンバーグのタネを作ったり、卵フィリングやドレッシングを作ったりしていく。そして、そんな俺の隣では……
「ふんふんふーん。おっ!膨らんできたー。何度見ても面白いわよね」
「川内さん、遊んでないで真面目にお願いします。まだまだ次があるのですが」
こないだまで手伝いに来てくれていた川内と不知火が二人でピタパンを焼いていた。不知火が成型した生地を、川内がフライパンで焼くという流れだ。
「いいのいいの、料理は楽しくやらなきゃ。ね、店長」
「まあそうだな。不知火ももう少し肩の力を抜いてやろう」
「はい、了解です。店長殿」
「なんでか店長には素直なんだよなー」
俺と不知火のやり取りを見て、拗ねたように言う川内だったが、その表情は相変わらず笑顔だった。
そんな二人の様子を横目に、俺は次の作業に移る。
肉ばっかりでもアレなので、次はきのこのオイル漬けを作っていく。これは他の料理にも使えて保存もきくので、ちょっと多めに作ろう。
まずはきのこを適当な大きさに切っていく。今回はエリンギ・マッシュルーム・しめじを大量に……よし。続いて、フライパンにオリーブオイルを多目に入れて、スライスしたニンニクと鷹の爪を入れて弱火でじっくり香りを出したら、きのこを投入。フライパンから溢れそうになって、横で見ていた川内が「うわぁ」と声を上げたけど、炒めているうちに水分が抜けて嵩が減るから心配ないって。
それを中火で炒めていくと、だんだんしんなりしてくる。そのまま水分が抜けるまで炒めたら、ローリエの葉を二枚ほど加えて塩・コショウ・醤油で味付けをする。後は冷めてから密閉できる瓶に詰めて、きのこが浸るまでオリーブオイルを注いだら完成だ。
これで冷暗所に置いておけば、この季節なら二・三週間はもつ。パスタやブルスケッタ、肉・魚料理の付け合わせ等色々使える便利な保存食だ。もちろん、そのままおつまみにもできる。
そんな感じで、昼過ぎに二人が来てくれて始めた作業も、あらかた目途が立ちいつの間にか日も暮れていた。そろそろ切り上げて夕食にしようか。
「二人とも夕飯食べていくだろ?なにがいい?」
「やったぁ!ありがとう店長。じゃあさっきのたれで焼き肉とか……ダメ?」
「ありがとうございます。実は不知火も先ほどのたれは気になってました。なんというか、食欲をそそる匂いだったもので……」
あー、確かにあの匂いは作ってる俺もやばかったからな。じゃあ、ご注文通りあれで焼き肉定食作るか。
「よし、じゃあ不知火、肉焼くか」
「え?あっ、はい。了解しました」
「川内は皿の準備をお願いな」
「はーい!」
せっかくだから二人にも手伝ってもらって、手早く作ることにしよう。不知火が適当な大きさに切った肉を焼いている間、千切りにしたキャベツと櫛切りにしたトマトを皿にセッティングしておく。
次いで、「自分たち用だからこれでいいよな」と言い訳しながら顆粒だしを使って味噌汁を作っていたところで声がかかった。
「店長殿、そろそろいいでしょうか?」
どうやら肉が焼けたようなので、不知火の横から手を伸ばしてたれを回しかける。するとその瞬間、醤油の焦げるいい匂いや、ニンニクなどの香味野菜と肉汁が混じり合ったなんとも言えない香りが「ジュゥッ」という音と共に立ち昇る。
「おおぅ、これはやばいね。夜戦で痛打食らった時並の衝撃だよ」
などと川内が俺にはちょっとわからない例えをしたかと思えば……
「これは……なるほど、確かに……」
と、普段冷静な不知火でさえ、驚きの表情で共感していた……あ、今の例えって分かりやすいんだ?
そうして焼きあがった肉にタレを絡めたら、焦げないうちに皿に盛る。さ、二人とも食べようか。
「前にお店を手伝ってた時もそうだったけど、なんかこうして厨房で食べるのっていいよね。普段と違う感じがドキドキするっていうか、裏方感っていうか……」
「わかります。作戦前に艦隊の皆と食べる戦闘糧食のようなものでしょうか?一体感と言いますか……不知火はまだ訓練でしか経験がありませんが」
不知火の例えに川内も「あーそうかもね」なんて言ってるけど、その例えも俺にはちょっと難しいかなー。
そんな艦娘あるあるに、俺だけ首を傾げながら作業台の前に三人並んで座ると、手を合わせて食べ始める。
「いただきます……はぁ、やはり店長殿の料理は美味しいですね」
焼き肉を口にした不知火がそんな感想を言ってきたが、ぶっちゃけ俺がやったのはタレの材料を計って混ぜただけだ。肉を焼いた不知火の腕が上がったんだろう。焼き上がりのタイミングも、不知火に声を掛けられるまでお任せだったからね。
「そんなことは……いえ、ありがとうございます」
俺が褒めると、俯き加減でそう答えて黙り込んでしまった。その横で川内がニヤニヤしながら、からかいたそうにしていたので、こちらから話題を振る。
「そういや、大丈夫とは聞いたけど、前日なのに準備とかいいのか?」
「うん、準備そのものは午前中で終わらせてあるし、訓練も昨日までびっちりやってきたからね。後は明日の本番前に軽く確認ってことで、今日は英気を養うために休みなの。だから不知火と相談して、店長を手伝おうって。短い間だったけど、私達だってこの店の一員だからね」
いやはや、嬉しいことを言ってくれる。照れくさくてありがとうとしか返せなかった俺を許してほしい。明日屋台に来てくれたらサービスするからな。
夕食後は片付けだけだったけど、川内は明るく、不知火はぽつりぽつりと、言葉を交わしながら作業を続けていった。
秀人のお祭りの屋台メニューはピタパンサンドです
先日ドネルケバブのキッチンカーを見たときに決めました
美味しかったです
次回はいよいよ本番です
お読みいただきありがとうございました