鎮守府島の喫茶店   作:ある介

42 / 121
今年最後の投稿になります
これの前に十四皿目その3を投稿してますので、ご注意ください

前回のラストに出てきた男性の正体が明らかに……






箸休め6:防衛軍のウラ事情

 秀人の屋台に顔を出した後、大和に呼ばれた男性がやってきたのは鎮守府本館にある応接室だった。黒革の上等なソファに大和と並んで腰を下ろした彼の向かいにはさくらが座り、その後ろに金剛・長門・加賀がビジネスチェアを並べた。

 

「さて、大橋三佐、時間を取ってもらってすまんな」

 

「いえ、こちらこそお待たせしてすみませんでした、大将殿。それで、お話というのは先日メールで頂いた例の南方泊地の件でしょうか?」

 

「左様。一年前に前任者を処分して以来、新たに信用のおけるものを派遣しておったのだが……やはりあそこは閉鎖することにしたよ。やはり周辺住民の協力を得られんことには立ちいかんということだ」

 

 さくらに『大将』と言われたこの男性、実は自衛軍の対深海棲艦におけるトップ、各鎮守府をまとめる元締めの立場にいる人物である。

 

 そして、その大将の言葉を聞いて、さくらは一年前の事件を思いだしていた。

 

 数年前に深海棲艦に対する反撃の橋頭保として、東南アジアのとある島に作られた南方泊地。その戦略的価値から当時の海上自衛軍の中でも優秀な人材が司令官として、大きな権限を与えられて派遣された……はずだった。

 

 鳴り物入りで運用が開始された泊地だったが、長いこと目立った戦果を挙げられずにいた。それでも輸送護衛任務などは積極的にこなしていたし、深海棲艦との闘いの最前線と言うこともあって、やはり攻略は難しいのかという声が本部では多かったため、それほど問題視はされなかった。

 

 しかしある日、定期視察を行った時に匿名のタレコミがあり、横領・違法薬物売買・密輸等の泊地司令が行っていた悪事が芋づる式に発覚したという訳だ。本人は実際に優秀であったために自身の身の回りの証拠は巧妙に隠されていたが、それでばれないだろうと安心していたところで、タレコミを受けて周辺の金や物資の動きを追った調査部が証拠を握り、お縄になったらしい。

 

 その後、新たな提督が派遣されたが、周辺住民はほとんどが前任者に協力していた連中だったので、逃げ出したり十分な協力が得られなかったということで、かなり厳しい運営状況だったらしい。もっともその前から極端な節約によって、あまり充実した鎮守府運営とは言い難いようだったが。

 

 と、ここまでがさくらの知っている内容だった。

 

 実はこの時視察に行ったのが、当時中将だったこの大将であり、タレコミを行ったのが彼の隣に座っている大和だったりする。そしてこの件での行動力と判断力、悪事に対する毅然とした態度が評価され、大将に任じられたというのが裏話だ。

 

「そこでだ、三佐。これまでその泊地に所属していた艦娘たちを既存の鎮守府に振り分けることにしたのだが、一艦隊六名こちらで引き受けてはくれんか」

 

「はっ!了解いたしました」

 

 大将の提案を受けてさくらは立ち上がって敬礼を返す。

 

「いや、そんなに畏まらないでもらいたい。幸か不幸か、例の男は自身の金もうけにしか興味がなかったようでな、艦娘たちは心身ともに健康だ。後釜に据えられた奴とも仲良くやっていたしな。事件に関しても今となっては『バカな男がいたものだ』と笑い話にする艦娘すらおるくらいだ。だから君も、単純に戦力が増えるくらいの気持ちでかまわんよ」

 

 そう話す大将の横では大和が笑いながら頷いてており、それを見たさくらもなるほどと頷いていた。

 

「では正式な書類は後で送るが、時間もかかるだろうから、前もって詳細をメールで送っておこう。ま、書類も形式的なものだ、あまり急がんでもいいぞ。それに、艦隊は明日到着させるからな、よろしく頼むぞ」

 

「あ、明日ですか?また急な……いえ、かしこまりました。それではそのように」

 

「うむ、よろしい。ではこの話は終わりだ。ところで、今日から改めて鎮守府運営が始まるわけだが、何かあるかね?」

 

「はっ、でしたら……」

 

 そこからは、鎮守府や島の現状、今後の活動に向けての要望などを秘書官達も交えつつ話していく。

 

「そういえば、田所君といったかな?例の彼に会ってきたよ。まぁ、自己紹介する前に大和にここまで連れてこられてしまったがね」

 

 ある程度話が煮詰まったところで、話を変えるようにに大将がそう言った。からかうように言われた大和は頬を膨らませているが、話を振られたさくらは嬉しそうに返事をした。

 

「そうでしたか。どうでした?彼は。屋台をしていたはずですが、なにか召し上がりました?」

 

「あぁ、ピタパンというのだったかな?初めて食べたがなかなかの味だったよ。いい腕をしているようだ」

 

「まったく、提督は勝手に一人で行ってしまわれて……一緒に連れて行ってくだされば私も食べる時間があったかもしれないのに……」

 

 大将の言葉を受けて、先ほどのお返しとばかりに大和が恨めしそうな声を上げる。その声と表情に室内は笑いに包まれた。とそこで、大将がさくらに鋭く突っ込んできた。

 

「ところで三佐、いつ彼と式を挙げるのかね?さすがにこの島でやるとなると出席するのは難しいかもしれんが、祝電くらいは打たせてもらうが?」

 

 まったく想像していなかった大将の言葉に、さくらが言葉を返せずにいると、彼女の後ろから「テートク!どういう事デース!」「提督よ、詳しく聞かせてもらおうか」「……少々お話が必要なようですね」とそれぞれ声がかけられる。

 

「いやいやいや、あいつとはそんなんじゃありませんから!ただの幼馴染ですから!」

 

「そうなのか。てっきりそのつもりで島に呼んだのかと思っておったわ。ならば金剛君、君はどうだね?先ほど話を聞いた限りでは、君もなかなかに気に入っているようではないか。」

 

 顔を真っ赤にして反論するさくらに対して、大将は事も無げに金剛へ矛先を変える。すると今度は金剛が顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 騒然となる室内で、その引き金となった大将は、軽く笑いながら話を続ける。

 

「まぁ、三佐の話は冗談にしても、金剛君以外でも長門君や加賀君、ほかの艦娘でもいいのだが、もしその気があるのならぜひ教えて欲しい。利用するようで悪いが、例の制度が適応できるかもしれんからな」

 

「……絆システムですか」

 

 何とか再起動したさくらがそう返す。

 

 彼女が言った絆システム、正式名称を『艦娘練度限界突破に関する諸制度』という何かと堅苦しい制度があるのだが、自身の限界まで成長した艦娘が提督との確かな絆を感じるようになった時、それを象徴するアイテムとして提督から贈られた『指輪』を装備することで、さらなる能力を発揮できるようになる現象と、その指輪を購入するための申請をする制度のことだ。

 

「そうだ、君たち女性提督はそう呼ぶようだな。男連中は申請書を婚姻届け、指輪を結婚指輪として、制度そのものを結婚と呼んでいる……まぁ、一応後ろに『カッコカリ』などとつけてはいる様ではあるがな」

 

「そのあたりの呼称については置いておいて、制度として利用するのは賛成ですが、機能として、一般人である彼と艦娘たちの間に成立するのでしょうか?」

 

 大将の言葉にさくらが疑問を投げた。民間と艦娘との交流を進めるなかで、お互いの絆を確認できるこの制度は確かにいいことかもしれないが、さらなる能力の発揮を目的としていて名称にも含まれている以上、効果が見込まれなければ難しいだろうというのがさくらの意見だ。そして、それこそ一般的な結婚制度のようなものを作った方がいいのではないかとも思っていた。

 

「三佐の指摘はもっともであるが、元々明確な指針となるような数値があるわけではないのでな。現状でも戦果が向上し、能力が上がっているように見えるというだけだし、限界突破というのも自己申告というだけで、実際には誰にも分らんよ。ま、実際何らかの変化はあるのだろうがね。そして、その絆は提督でなくとも結べると儂は考えておる。何かを守るということは、時として大きな力を生む。それが絆を結んだ相手や、その対象が住む町であるならばなおのことだ」

 

 ゆっくりと語られるその言葉を、静かに、頷きながら聞く一同。するとその静けさの中で、さくらが口を開いた。

 

「なるほど、それを聞くと一考の価値はありそうですね。しかし、大将。意外とロマンチストなんですね」

 

「ふん、言うではないか。だがな、ただの理想や夢物語のつもりはないぞ?艦娘たちが我々と同じ姿、同じ感情を持つ以上そう言うことは十分に起こりうることだ。感情の持つ力は、思いもよらぬ現象を起こすことがある……良くも悪くもな。なにより……例の元泊地司令官と絆を結ぶよりも、はるかに期待できるとは思わんかね?」

 

 かつての英霊たちの『守りたい』という感情から生まれた艦娘と、『恨み』という感情から生まれたとされている深海棲艦。その場にいた彼女らが大将の話を聞いて、そのことを思い浮かべたかどうかはわからないが、少なくともなにか思うところはあったようだ。

 

 もしかしたら、秀人と自分のことを考えている人物もいたかもしれないが……

 




という訳で、本年最後の投稿でした。

文中のカッコカリ関連や練度・ステータスに関しての設定は
一応考えてありますが、ここでは長くなるので割愛させていただきます

そして、最期の投稿が説明回チックになってしまったので
明日の元日にはお正月特別編をお届けする予定です

時間はいつも通りですので、よろしくお願いします


お読みいただきありがとうございました
来年もまたよろしくお願いいたします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。