鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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本日は十六皿目その1です

とくにひねりのないタイトルで、出てくる艦娘も書いてある通りですが
なんかリズムが気に入ったのでご勘弁を




十六皿目:二匹の龍と熊と猫1

 翔鶴さん達が来てから数週間、ここまでの間にもクリスマスパーティーをやったり、この島での初めての年越しでみんなで初日の出を見たり、金剛さんの様子がなんとなーく変わったような気がしたりしなかったりと、いろいろあった。

 

 まぁ、その辺の話は別の機会にするとして、店の方は通常営業に移っており今週はイマドキの女の子の鈴谷さんと、神戸生まれのお嬢様の熊野さんが手伝いに来てくれている。

 

「店長!店長!てんちょー!開けて欲しーにゃー!」

 

 その手伝いの二人と一緒にランチ営業後のお昼休憩を取っていると、厨房の勝手口の外で叫んでいる子がいた。まぁ、あの語尾からして明らかなんだけど……

 

「どうしたの多摩ちゃん」

 

 そう言いながら勝手口を開けると、大きな発泡スチロールを抱えた多摩ちゃんが立っていた。あぁ、両手がふさがってて開けられなかったのね。

 

 とりあえず彼女を中に入れて、話を聞くことにする。

 

「それで?この発泡どうしたの?」

 

「実は、今日休みで朝から漁港のほうに行っていたにゃ……」

 

 多摩ちゃんの話によると、暇だったので朝から漁港に行って水揚げを眺めたり、漁師連中と一緒に魚の仕分けをしてみたり、終わってから漁師飯をごちそうになったりして、さっきこっちに来たのだが、その時にバイト代だと言って発泡に魚を詰めたのを渡されたらしい。

 

「……それで、多摩は料理できにゃいから、店長に何か作ってもらおうと思って持ってきたにゃ」

 

 なるほどねー、と多摩ちゃんの話を聞きながら発泡のふたを開けてみれば、メジナを中心にアジやカサゴ等の中小サイズが結構な数で入っていた。

 

「どうかにゃ?お願いできるかにゃ?」

 

「ああ、大丈夫だよ。さっきお昼食べたんじゃ、夜でいいかい?」

 

「もちろんにゃ!あっ、球磨姉ぇと天龍型も連れてくるからよろしくにゃ」

 

 もちろん了解だ。というかあの二人と仲がいいのか。意外だったな。

 

「まぁ、あの二人も多摩たちも軽巡の中では旧型だからにゃ。いろいろとあるのにゃ」

 

 なるほど、そんなもんか。

 

 その後は手伝いに来ている二人と軽く話した後「楽しみにしてるにゃー」と言って出ていった。たくさんあるから、この二人にも食べさせてあげて欲しいという事なので、多摩ちゃん達に出す料理の参考にもしようと、何が食べたいか聞いてみた。すると熊野さんが少し考えた後、安直かもしれませんが……と口を開いた。

 

「先日は和風のお魚料理をいただいたので、今度は洋風ではいかがですか?フレンチとまでは申しませんが、ちょっとお洒落なものをと。おそらく、彼女たちもあまり食べたことはないと思うので、楽しんで頂けると思いますわ」

 

 ふむふむ、洋風のお洒落な魚料理ね……うん、いけそうだな。

 

 多摩ちゃんが来たのが、お昼休憩中だったこともあって、二人にはゆっくり食べててもらって、下ごしらえだけでもしちゃおうかな。と、さっそくシンクに氷ごと中身を空けて、鱗を取り始める。

 

 ほどなくして、背後に人の気配を感じたと思ったら、鈴谷さんが近づいて作業をのぞき込んでいた。って、ちょっと近い近い。

 

「わっと、ごめん。ちょっと魚料理に興味があってさ。もしよかったら捌き方教えて欲しいなーなんて」

 

 へぇ、今どきの女の子っぽいから丸の魚なんて嫌がると思ってたんだけど、これは意外だったな。じゃぁせっかくだから、鱗を取ってもらおうと、腕まくりをしてやる気満々の彼女にコケ引きを渡す。

 

「うひー、なんかヌメヌメするー」

 

 言葉はアレだけど、嫌っていうわけではないようで、彼女は作業を続けていく。その後も時々わーきゃー言いながら、なんとか一通りの鱗を取り終えたので、続いてはワタを抜いていく。さすがに一人で全部やらせるわけにはいかないので、俺も隣で説明しながらワタを取っていく。

 

 と、そろそろ休憩時間も終わるので、一旦これは片付けておこう。さぁ、二人とも、午後の部開店だ。

 

「ありがとうございましたー。またいらしてくださいね……あら?皆さまいらっしゃいませ。お待ちしておりましたわ」

 

 あれから日もすっかり暮れて、夕食を済ませに来るお客さんもひと段落したところで、熊野さんが見送ったお客さんと入れ違いになるように、多摩ちゃん達がやってきた。

 

「店長来たにゃー」

 

「鈴熊コンビも、お疲れ様クマ―」

 

「おーっす大将、久しぶりだな」

 

「おひさしぶりー」

 

 それぞれ挨拶を交わしながら、席へと案内する。他の子達もすでに多摩ちゃんから話は聞いていたようで「少々おまちください」とだけ伝えて、厨房へ下がりさっそく調理を始めることにした。

 

 まずは旬のメジナを何匹か使って、カルパッチョを作る。せっかく新鮮で脂ののったメジナがあるんだし、やっぱり生で食べてもらいたいよね。

 

 メジナを三枚におろして、小骨を丁寧に取ったら皮をひいて薄くそぎ切りにしてお皿に並べる。その上にベビーリーフ・ざく切りにした水菜をこんもり乗せたら、オリーブオイル・わさび・醤油・米酢で作った自家製のわさびドレッシングを回しかけて完成。洋風と言っておきながら、思いっきり和の調味料を使っているのはご愛敬。

 

 そしてもう一品。メジナのアクアパッツァだ。

 

 フライパンにオリーブオイル、みじん切りにしたニンニク、櫛切りにした玉ねぎを入れて炒める。火が通ったところで、鱗とワタを取って塩を振ったメジナを入れて、両面を焼いていく。ある程度焼き色が付いたところで、あさりと半分に切ったミニトマト、四つ切にしたマッシュルームを加える。崩れないように気をつけながら軽く混ぜたら、白ワインを入れてアルコール分を飛ばし、バジルを入れて蓋をして蒸し焼きにしていく。

 

 あさりの口が開いたら、仕上げにオリーブオイルをひと回しして、ちょっと味見……うん、旨い。お皿に盛り付けて出来上がりだ。

 

「おまたせしました。メジナのカルパッチョと、アクアパッツァです。このスライスしてあるバゲットにのせたり、スープを吸わせても美味しいよ」

 

 鈴谷さんと熊野さんにも手伝ってもらいながら、料理と取り皿を置いていく。多摩ちゃん達は目の前にそれらが置かれるたびに「おー」と歓声を上げているけれど、取り皿にまで言ってくるのはどういう事なんだい?

 

 それぞれの前に取り皿が出そろったところで一斉に、いただきますと手を伸ばした。さてと、みんなの反応はどうかな?

 

「うわ、このアクア何とかってすげえな。あさりと魚の旨味がなんつーか……すげえな」

 

「天龍ちゃん。気持ちはわかるけど、『すげえな』しか言ってないわー」

 

 いやいやそれで十分ですよ、龍田さん。美味しいと思ってくれたのは十分その表情で伝わってきてるからね。

 

「不思議クマ……醤油と、わさびと、多分お酢も米酢を使ってて、思いっきり和なのにきちんと洋食クマ……」

 

「球磨姉にはこの言葉を贈るにゃ……『美味しいは正義』そして『生魚には醤油』……にゃ」

 

 米酢を使っているのを見破るとか、球磨ちゃんはなかなか鋭い味覚を持っているようだ。そして多摩ちゃん、『美味しいは正義』というのは至言だと思うけど、醤油以外で食べても美味しい生魚はあるんだよ。今度食べさせてあげよう……まぁ、醤油は間違いなく美味しいと思うけど。

 

 掴みは上々のようなので、厨房に戻って次の作業を始めよう。

 




本文冒頭で書いたように、このお話は前回からしばらくたって
クリスマス編とお正月編の後まで時間が飛んでます。

これで現実の時間とある程度リンクさせられたので
歳時記物なんかも書きやすくなりましたかね


そして、前回に引き続き魚メインですみません。
魚好きなんでついつい……


およみいただきありがとうございました

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